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第36話 エドの正体

 エドに手を繋がれたまま、教室へ入ると中にいた全員がギョッとした顔つきになった。


そして、ヒソヒソとこちらを見て話し始めた。


「お、おい……どういうことだよ……」


「ステラ・アボットが一緒にいる人物って……」


「留学生のエドワード王子じゃないか」


その言葉に、私は衝撃を受けた。


えええっ!? お、王子!? エドが!?


驚いて声も出ない私にエド……いや、エドワード王子が声をかけてきた。


「どうしたんだ? ステラ。顔色が悪いぞ? あ、あそこの席に座ろう」


エドワード王子はますます私の手を強く握ると、スタスタと窓際の最後尾の席に座り、尋ねてきた。


「俺は視力がいいから最後尾でも見えるが、ステラはどうだ?」


「はい、私も問題ないですが……」


いや、問題ないどころか大アリだ。教室にいる学生たちは未だにこちらを見てヒソヒソ話しているし、女性たちに至っては私に敵意の目を向けている。


それなのに、当の本人は呑気に窓の外を眺めている。


「今日も良い天気だな〜」


「エ、エド。いえ、エドワード様」


小声でエドに話しかけると、途端に彼は眉を顰める。


「ステラ、エドワードじゃない。エドって呼ぶように言っただろう? 他人行儀な呼び方はやめてくれよ。俺たち、恋人同士だろう?」


そしてウィンクしてくる。


「キャア! ウ、ウィンクしたわ!」


「あの悪女に!」


女子学生達の敵意の視線は益々強まる。うぅ……目立ちたくないのに!


「どうしたんだ? そんな恨めしそうな目を向けて?」


「恨めしいに決まってるじゃないですか……あ、いいえ! まさか! 恨めしくなんかありませんよ?」


大変だ! 相手が王族なら変なことは口走れない。そんなことをすれば……不敬罪に問われてしまうかも!


「アハハハハハッ! ステラは面白いなぁ。一緒にいると飽きないよ」


そして頭を撫でてきた。


ギャ〜ッ! な、何てことをしてくれるのよ!


「エド、それよりもどういうことですか!? あ、あなたは……王子様だったのですか!?」


「あれ? 今更何を言ってるんだ? この大学に通う者は誰でも知っていると思っていたけどなぁ?」


エドは首を傾げる。


知らない! そんなこと知るはず無い! だって、私はこの身体の人物……ステラのことだって知らないのだから!

ましてや、エドが王子だなんて知るはず無い!


「もう忘れたんですか? 私、記憶喪失だって説明しましたよねぇ?」


「……あ、いや。覚えている、忘れてなんかいるものか」


「何ですか? 今の間は。忘れていたのでしょう? とぼけても無駄ですよ……いえ! 今の言葉は無かったことにしてください!」


慌てて首をぶんぶん振る。


いけない! またしてもやってしまった! 不敬罪に問われかねない……失礼な態度を!


「それにしてもさっきから妙な言動を繰り返しているよな〜」


頬杖をつきながらエドが尋ねる。


「ええ、そうなりますよ。だってエドは王子様なんですよね?」


「あぁ、そのことか……それがどうしたんだ? 大体王子と言っても俺は6番目だから、王位継承権も無いし権力争いに巻き込まれることもない。気楽な身分さ」


そしてニコニコ笑う。


「はぁ……そうなんですね」


お気楽な王子だ。普通、小説や漫画の世界では王位継承権を狙って血みどろ? の戦いが繰り広げられるのでは? いや、実際の歴史でもありえる。


その時――


「えっ! ど、どういうことなの!?」


私達のすぐ近くで大きな声が聞こえてきた――

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