パイセンは隠したい
200話!
うむ、よい出来だ。
空中に浮かべた完成品を見て、俺は自画自賛した。
シンプルに見えて、細かな装飾が散りばめられた優勝トロフィーもとい〝聖なる器〟。
いっしょに完成を見守っていたメルちゃん(子どもVer)が「おー」と歓声を上げながらぱちぱちと拍手している。
この子も参加者なんだよね。だからネタバレを見守ってちゃいかんのだが、まあデザイン担当だしいっか。
「これで運営側の準備は整ったね。次は参加者集めだけど……ま、それはおいおいかな」
「あまり悠長なことは言ってられないですよ。シャルがサポーターを決めたらすぐ始めたいですし」
でも参加者は注意して選ばないとな。シャルの教育上よくない人選は避けたい。いっそリザやフレイを送りこむか。
などと考えていたら。
「ん? 誰か来たみたいっすね」
呼び鈴も鳴らさず我が家のように建物に入ってきた男子生徒が一人。さらさらした長髪が眩しいイケメン、アレクセイ先輩だ。
さっき別れたばかりなのに、なんでまた?
まっすぐこの部屋に向かっているみたいなので、俺はすぐさまシヴァモードに変身する。
ノックの後に入ってきた先輩を見て、おや? 今、気づいた。
「そのチョーカー……」
紫色のそれは、もしかしなくても魔法少女戦争(仮)のサポーター枠用参加資格証じゃないですかね?
「ああ、先ほどシヴァ、君が説明してくれた大魔法儀式の参加者に選ばれたようだよ」
さっきの今で急なことだな。てか待って。なんでこの人に?
「ふむ、君が選んだものとばかり思っていたが……違うらしいね」
黙ってたら察せられちゃった。
仕方がない。ここはシヴァとして威厳を取り戻さねば。
「ふっ、この儀式は神代の秘法。参加者はより強く願いし者を、儀式そのもの――より正確に言えばここにある究極の願望機たる〝聖なる器〟が選ぶのだ!」
びしっとポーズを決める。ふふふ、驚いているようだな。
「順序がおかしくないか? それは今しがた完成したものだろう?」
「……それは、その、なんだ。もともと〝聖なる器〟は形がないものとして存在してて、今この器に収まったことで完璧になった、とかそういう感じ」
アレクセイ先輩はちょっと呆れたような顔してる。
ひとまず話題を変えてごまかそう。
「それより、君の相方は誰かな? 魔法少女に選ばれた者だ」
アレクセイ先輩、顎に手を添え困ったような難しい顔をしちゃった。
「君は儀式を管理・監督する立場にあったね。参加者は正確に把握したいのだと理解はしているが、できれば誰かは伏せておきたい。許可してはくれないだろうか」
いつにも増して謙虚に頭を下げてくる。
「実はここへ来たのは君がまだここにいると見込んで、それをお願いしに来たのだよ」
なるほど。一度帰ったのにまた来たのはそういう理由か。
でもなあ、シャルが参加する以上、イレギュラーはなるべく排除しておきたいのです。
どうしようか悩んでいると、ティア教授が間に入ってきた。
「まあ、いいんじゃない? シヴァ君ならたいていのイレギュラーには対処できるし。不確定要素があった方が楽しめるでしょ」
いや、俺は別に楽しまなくてもいいんだけど。
まあ、俺が知らんことは当然、シャルに伝わりようがないわけで、うっかり魔法少女パープル(仮称)の正体を明かしちゃう危険は回避できる。
ま、実物を見てから判断してもいいかな。明らかに怪しかったらそいつの正体を速攻で暴いてやるぜ。
「いいだろう。私も中立を守るべき立場だ。君の要望を取り入れよう。また魔法少女の正体は互いに知られないよう、対策しておく」
今決めたことだが、こっちのが楽しめそうなのはたしかだ。変身したら誰かはわからないようにしておこう。ブレスレットは謎時空に収納できるから、個人の管理に委ねればいい。
あとサポーターのチョーカーも相方にだけ認識できるようにしよっと。
俺は指をぱちんと鳴らした。
特に意味のない動きではあるが、カッコいいからね。
というわけでルールに以下を追加しておこう。
・魔法少女は変身後、その正体を隠匿できる。
・サポーターのチョーカーはパートナーの魔法少女にしか見えない。
実際、ティア教授とアレクセイ先輩のチョーカーもつけているのがわからなくなった。
うん、いいじゃない。儀式が始まる前に気づいてよかったな。
その意味ではアレクセイ先輩に感謝です。
まあ、シャルが参加者であるのはほぼほぼバレてるわけだが。むしろ知らん人にも自分から言っちゃいそう。
なんにせよ、これ以上のイレギュラーを防ぐ意味でも、残りの参加者をとっとと決めちゃおうそうしよう。
ここで一人の人物が頭に浮かんだ。
初期段階から儀式のことを知っていて、いろいろ融通の効く俺の数少ない『お友だち』だ。
と、いうわけで。
俺はさっそくそいつの元へ急ぐのだった――。
なんだかんだで200話まで来ました。
300話目指してがんばります。
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