第91話 炬燵
篠突く雨が降り注ぐ中、私達は部屋の中で元気に暴れまわっている。秋も終わりを告げて、冬の気配は深まり、一雨ごとに寒さは厳しさを増し始めた。ふぅっと窓から息を吐くと湿度が高いにも関わらずほのかに空気が白む。
「かゆー」
「いちゃいの」
大人しくおままごとを楽しんでいた幼馴染ーズが足先を掻こうとして母親に止められている。そろそろ末端が冷えてしもやけになっているようだ。
そっと足を取って、温めながらふにゅふにゅと揉んであげると、ほわわみたいな悦楽顔を浮かべる。
「きもちいー」
「じゅるい!! ジェシもー!!」
掻き毟ったりしないように温めて血行を良くしてあげると、初めはこそばがゆいようだけどそのまま寝入ってしまうほどの快楽らしい。子供の高い体温で足先を温めてあげると、面白いように子供達が撃沈していく。気付くと、皆、眠りこけていた。それでも無意識に暖を欲しがっているのか、それぞれが寄り添ってぴとっとくっつき合おうとしているのが微笑ましい。お母さん方も可愛いものを見るように笑っている。
「夜寒いから、中々寝付けないようね」
その夜食事が終わって、布団に入ってから母に話を聞いてみるとお母さん方も困っているらしい。
「ぜんたいにくばれるほど、まだりょうさんできてないの……」
炭も少しずつ生産しているのだが、まだまだ十分量には足りていない。このまま配ると不公平になってしまう。炭焼き小屋も設計が完了して窯の建築が始まったばかりだ。
「すくなくても、こうかてきなことをかんがえるの!!」
私がおーっという感じで気合を入れると、母が優しい表情で頬を当ててくれたので、うりうりとし返す。ヴェーチィーは幸せそうな寝顔を見せていた。
「ふぉ、じゃるなの!!」
「おてつだい?」
今日も雨と言う事で部屋の中で遊んでいる中、私は母に教わりながら目の粗いザルを一生懸命作っている。しなりの良い木々を組み合わせて、籠目を作っていくのは楽しい。手指の繊細な動きのリハビリにもなるので量が作りたいなと思う。
「だんぼうきぐだよ」
私が答えると、幼馴染ーズがきらきらした瞳でぴょんぴょん飛び跳ね始める。
「ふぉーだんぼーきぐ!!」
「ぬくいの!!」
出来上がったザルの真ん中をくりぬいて、木で挟み込んで崩れないようにしたら完成だ。この辺りは紅葉のような手では無理なので、母に頼んだ。まだ鋸を使うのは怖い。
大きな穴の開いたザルという使い道の無さそうなアイテム。母も首を傾げている。
「これをどうするの?」
「こたつなの!!」
ヴェーチィーの問いに誇らしい顔をして答える。
皆が帰った後に、私は母に頼んで布団をテーブルにかけてもらう。その上には木板をおいて天板にする。
「ひ、つけてほしいの」
火皿の上の炭を差し出して、母に頼むと調理の火で炭を点してくれる。私はそれを持ってごそごそと布団の中に潜り込む。火皿の周りを守るようにザルを置いたら炬燵の完成だ。
「ざるはけらないでね」
火が燃え移らないか見守っていた私は、調理が済んでテーブルに料理を持ってきた二人に言う。きょとんとしている二人が布団の中に足を入れた瞬間、ほわんと幸せそうな表情に変わる。
「暖かい……」
「足先、冷たかったから気持ち良い……」
女性は冷え性気味だし、冷たい土間で料理をしていたので足先は冷えているだろう。美味しそうな香りに包まれながら三人で温もりを楽しんでいると、父が不審そうな表情で部屋に入ってくる。
「布団なんて出してどうしたんだい?」
父の問いに母が入って入ってと引きずり込む。釈然としない表情をしていた父が炬燵に足を入れた瞬間、驚いた表情を浮かべる。
「温いな……」
「へやぜんたいをぬくめるわけじゃないから、すみもあまりつかわないの。りょうさんできるまではあしさきをぬくめるの!!」
私が告げると、母が事情を父に説明してくれる。
「ふむ、急に冷え込み始めたからね。今の備蓄分を少しずつでも配って耐えてもらうにはその方が良いのかな」
父も暖かさに表情を緩めながら、同意してくれる。楽しく食事を食べ終わった後に運用部分で詰めたて、解禁となった。ちなみに、ぬくぬくの布団で眠れるというおまけ付だ。
「かじにはきをつけるの!!」
炭を配るのと合わせて、火皿でやけどをしないように囲いを作る方法を教えていく。うちは四人家族なので小さなザルで問題無かったが、家族が多い家はきちんと木組みの囲いを設けた方が良い。赤ん坊がいる家は特に取り扱いには気を付けてもらわなければならない。
そんな感じで説明しながら、各家に炭を売っていく。
部屋に戻ると、子供達が集団カタツムリのようにテーブルに体半分を突っ込んでころころうとうとしている。
「ふぉぉ……ぬくー」
「あち、いちゃくないの……」
大人しい子供達にお母さん方も飽きれ半分微笑ましい半分の表情を浮かべながら見つめている。
こうして冬の間火傷の負傷者も出さずに運用してくれたのはありがたかった。
「こたつ、ぬくいの!!」
私は、懐かしい温もりに足をかざしながら、ふわっと一つ欠伸を浮かべた。




