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第145話 つんつくつん

 私は家に帰ると、見つけ出したものと将来の展望について父に相談してみた。


「……というふうなみらいがそうていされるの」


 私の言葉に、父はきょとんとした表情を浮かべている。

 ふむ? 理解出来なかったのかな。

 もう少し簡単な説明の方が良いかなと思っていると、おもむろに口を開く。


「ティーダが何を懸念しているのかは分からない。そもそも古来より人は素手で獣を狩り、負ければ石で殴り殺した。その牙は木に括られ剣に、その爪は槍に変わった。石の武器は磨かれ、鋭さを増した。より硬い物と探していき、青銅に行きついた」


 諭すように真摯な表情で父が言葉を紡ぐ。


「人はそうやって先に進んできた。現在私達が青銅(アモフィス)を使っていても、既にティーダのいう鉄を使っている人間がどこかにいるかもしれない。世の中は広い。草原ですら、駆け抜けられぬ程だ」


 世界はここだけではない。

 当たり前の話だ。


「でも、ぶきをたくさんつくることができたら、たくさんひとがしぬかもしれないの」


「武器で人は死なない。そのために人は(すべ)を学ぶのだから。私だって、素手で五人や十人相手は出来る。それはそうなるように鍛えているからであり、それは私だけではない」


 父の言葉に言葉を失う。

 実際に鬼軍曹モードの父は、一騎当千に兵達を薙ぎ払う。

 それが百になり、千になっても変わりないような勢いだ。

 古参の村人達も似たようなものだ。


「それでも、その責を負えないというのであれば、それは私が負うべきものだ。父として、親の責務だから」


 そう告げられた瞬間、ほぅっと息が漏れた。

 また何でも自分で決めようとしていた。

 人を殺す物を沢山産む事も、全て自分の責任と考えていた。

 これは、文明社会から来た者の驕りなのだろう。

 すとんと胸に落ちた。


「わかったの。がんばるの!!」


「何かあれば後ろ盾はきちんとする。だから、思うさまにやりなさい」


 にこりと笑って父が言葉を継ぐ。


「でも、予算は重要だよ?」


 ぎゃふんと思いながら、追加の予算のための計画書を書くために自室に戻った。



 取りあえず、急ぎとして王家への対応用の陶器をせっせと焼きながら、登り窯の計画を進める。

 圧倒的に人員が足りないので、父に王都の知り合いをごっそり連れてきてもらう事にした。

 と、こういう場面だと防諜とかどうなるのだろうという話になるのだが。

 基本的に仕事に就く際は縁故が物を言う。

 というか、縁が無ければほぼまともそうな仕事に就くのは難しい。

 そのため、縁を大事にするし、就いた仕事には皆忠実だ。

 そうやって良縁を増やし、自分の一族の勢力を拡大していく。

 地縁や血縁と言うのはかくも重要なのだ。


 陶芸にも疲れたので、工房街の縄張りでもしようとベティアの待つ馬房に向かうと、上機嫌な声が聞こえてくる。

 そっと中に入ると、フェリルとジェシが仲良く、甲斐甲斐しくブラシがけをしている。


「きもちいい?」


「ふぉ、おとなってかんじ!!」


 こちらに耳を向けながらも、目を細め気持ち良さそうにお腹を突き出すベティア。

 リラックスしきっているなと思いながら、そっと二人の背後に近づく。


「かわいいね」


「いいこなの」


 懸命にかしゅかしゅとブラシを動かしている二人の腋をつんっと人差し指で突いてみる。


「ふぉ!?」


「うひゃ!!」


 飛び上がらんばかりの勢いで驚いた二人が、振り向くとぎゃーぎゃーと文句をつけてくる。


「あぶないの!!」


「だいじなおしごとなの!!」


 確かにベティアもちょっとびっくりしたのか、距離を取っている。

 それでも、あんまり構わないで欲しいと伝えたのに、どういう事だろう。


「おばさんがいいって」


「ティーダ、いそがしいの」


 最近バタバタと忙しい私を見て、世話を怠るくらいなら幼馴染ーズに任せた方がベティアのためになると。

 信用の無さに涙を堪えながら、我が身を顧みる。

 母の信用くらいは取り戻そうと改めて決心し、手綱を握った。


 縄張りそのものはそんなに難しい作業でもない。

 計画の通りに建ったと想定し、縄を張っていくだけだ。

 陶芸小屋と窯の管理小屋、そして在庫管理用の倉庫。

 そして、登り窯の場所を決めて、作業は完了となる。

 竣工の予定は夏くらいだろうか。

 それまでに窯の試行錯誤をしなくてはならない。

 大工仕事も増えるので熊おっさんは手一杯だろうなと、せっせと蒸留酒用の樽を作っているおっさんに思いを馳せる。


 作業が完了し、屈んでばかりだった腰をぐいっと伸ばし、空を見上げる。

 春のけぶる空は鳴りをひそめ、だんだんと抜けるような青空を見せ始めた。

 春も本番だなと思いながら、ぱんと頬を張り気合を入れ直した。

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