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第142話 四歳の誕生日

 そんなこんなで、陶芸に明け暮れている間に季節は移っていく。

 徐々に緩み始めていた気温は緩やかに上昇し、春も本番となっていく。

 馬達も次々と出産し、皆笑顔でてんやわんや世話を焼いている。

 勿論村の周辺の変化も如実で、シカやイノシシはわらわらと子連れで現れ、テキサスゲートを賑わしている。

 春撒きの小麦の作付けも終わり、秋撒きの小麦の世話で皆が忙しくなる時期だ。


 そんな中、私達は重大イベントを迎える。

 四歳の誕生日だ。

 一歳の時と同じく、四歳は社会に初めて迎えられる大切なイベント。

 先達のウェルシが機織りのお手伝いに組み込まれたように、少しずつ大人の世界への階段へと進む、大事な節目だ。


「おてつだいするの!!」


「もう、おとな!!」


 幼馴染ーズがきりっとした表情で何事かを言っているが、まだまだ子供だなと微笑みを誘ってしまう。

 誕生日を迎えた二人には毎回の通り、プレゼントを渡している。


 フェリルにはファニュを模した陶器の像をプレゼントしてみた。

 ちょっと毛足の長い狛犬って感じのデザインにしてみたが、ご機嫌な様子は肩の噛み跡で容易に想像出来る。

 そろそろフェリルのお母さんは矯正しても良いと思うのよ、この癖。

 何気に顎も強くなって、赤みが引くまで結構な時間がかかった。


 ジェシには羊を模した、これも同じく陶器の像。

 ちょっと白っぽい色を出すにはかなり苦労したが、高温を維持出来れば可能なのでふいごを踏むのを頑張った。

 羊は財運や子供の守護のシンボルなので、結婚して子供が出来た後でも飾っていられる。

 女性向けには重宝するモチーフだ。

 結果、感極まったジェシにガン泣きされてちょっと困った。

 ジェシのお母さんのいつ嫁に貰ってくれるのかという視線が怖かったのは言うまでもない。


 で、その二人なのだが。


 フェリルは引き続き庭に訪れながら、家畜のお世話の手伝いを始めたそうだ。

 何日か置きに、山羊や羊達の放牧の監視のお手伝いに行っているらしい。

 狼など野獣が出る危険な仕事だが、生き物好きなため楽しんで手伝っているらしい。


 ジェシは同じく庭には頻繁に訪れているが、木工細工の手伝いと言うちょっと変わった仕事に就いた。

 昔あげた簪の細工を気に入ったジェシはずっと愛用していた。

 私が色々と開発したりしているのを子供ながらに感じていたのか、創造的な仕事をしたいみたいだ。

 熊おっさんのところに、これも同じく何日か置きには訪れ、刃物の取り扱いを学んでいるらしい。

 と言っても、彫刻刀程度ではあるが、指先に傷をつけている訳でもないところを見ると、案外器用なのだろう。


 それぞれが新しい人生の門出を迎えたと同時に、竈番の手伝いも解禁となった。

 台所で包丁や火を取り扱っても良くなったのだ。

 と言っても、まだまだ初心者なので管理監督者が付いている時だけに限られる。

 娘親としては娘の手料理を期待していたのは分かるのだが、妙に焦げた得体のしれない何かをいの一番にそれぞれ持ってこられた私と変わって欲しいと切実に思ったのは内緒だ。

 頑張って食べたけど、それでいてそれぞれの父親からは嫉妬されるのだから、たまったもんじゃない。


 そんな感じで忙しくしていると、遂に私の番が来た。

 今回は父が初めにプレゼントをくれる。


「もう村を主導して率いているティーダに四歳と言っても、なんだか不思議な感じだ。それでも、節目は節目。おめでとう」


 にこやかな表情で手渡されるのは、(リリギーン)だ。

 刃渡りは五十センチ程のショートソードだが、リリギーンは別途意味を持つ。

 普通は四歳で短剣程度の刃物。

 十五歳でリリギーンと呼ばれる、人生初めての剣を贈られる。

 これは、人生を自分で切り開けると親に信頼された証になる。


「まだ満足には振れないだろうから、飾っていなさい」


 父も自分のリリギーンは基本的に飾っている。

 公的な立場で動く時に挿すのが通常だ。

 鞘には珍しく群れる狼の刺繍が施されている。


「皆で手分けして刺繍したの」


 ヴェーチィーがアリゼシアと一緒に誇らしげに告げる。

 鞘と剣帯自体は母が革を細工してくれたらしい。

 狼は統率と打破を司る象徴となる。

 今までは子供の守護や未来への展望を司る刺繍だったのが、今回は実利的な刺繍になったのは同じく信頼されているからなのだろう。


 感極まった私は、そっと目の端に浮かんだ涙を拭い、そっと僅かに鞘走らせる。

 刀身はまだ打たれたばかりの金色の色を浮かべ、滑るような表面には、ちょっと情けない顔をした私が浮かんでいる。


「ふぉ!! がんばるの!!」


 心機一転頑張るぞっと、鞘を装着した私だったが、まだまだ成長期も訪れていない幼児の身。

 ずるずると床を擦りながら歩く姿を眺めて、家族全員で笑ってしまったのは四歳の誕生日の良い思い出となった。


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