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第125話 戦後処理の終了

 ダーダーが指揮を始めてからの作業の速度は目を見張るものがあった。

 人の死体と馬の死体を丁寧に分け、掘った穴に投入していく。人間も馬も、血と肉は土を荒らす。旧来の墓地とは分け、別に森の近くに墓地を設けそこに埋葬していった。


「死なば、神と言ったか……」


 村で作った鍬を片手に、ダーダーが呟く。


「はい。しんでしまえば、てきもみかたもありません。びょうどうにまいそうしてあげたくおもいます」


 集中し裂帛の気合で鍬を振るう父の横で、私はダーダーの呟きに応える。

 というのも、当初は労力がかかるという事で馬だけを収容し、人の死体は森に捨てるという話が持ち上がったのだ。それをやられると、森の浅い場所に肉食獣が出てくるのと、土壌が汚染される。それに、病気の温床になりかねない。という訳で、一芝居を打った。


「ふふ。ほんに優しいな。あの猛々しいディーから生まれたのが、このような子とは」


 ぐりぐりと土臭い、剣だこが盛り上がった手で頭を撫でられる。


「慰問はどうされますか?」


 穴掘りが一段落着いたのか、父も混じってくる。

 大部分の敵兵は殲滅したが、もしかしたら経路にまだ残余の兵が残っているかもしれない。それに、荒らされた村々への慰撫も必要だ。その分の糧食も今回の部隊は積載してきている。荷車のお陰だろう。


「うむ。この村が思った以上に影響を受けておらぬからな。拠点として、一気に分配しようと考える」


 セーファも近づいてきたという事で、今後の方針決めの打ち合わせみたいになった。

 要は現状の部隊をある程度細切れにして、北進する。最終的にはベベレジアの国境付近で圧力を加え、並行して外交にて決着をつける算段のようだ。


「補填は約する。頼むぞ?」


 ダーダーの言葉に父が頷く。王都から物資を運ぶより、この村から運んだ方が早い。バケツリレー形式でこの村を拠点に輜重を動かすそうだ。最終的に王都から使った物資が補充されるなら問題無い。そもそも今年も豊作だったので、余裕はある。それに。


「これがまた美味くてな。出来れば多めに頼む」


 もにゅもにゅと懐から取り出した茶色い塊をダーダーが噛み千切って、咀嚼し始める。

 大量の馬の死骸。そのまま置いておいては傷んでしまうので、村では食べきれない馬肉に関しては急ピッチで燻製にしている。ソミュール液の材料として酒には事欠かないが、塩は有限なので出来ればさっさと王都から補充したいなとは考えている。


「士気にも関わりますし、分かりました」


 どうせ補充出来ないものなので、交易には使えない。糧食として差し出した方が見返りも多いので、そちらに充てる事にした。


 十日程で埋葬も終わり、拠点としての天幕の整備も終わったのでダーダー達の進軍が開始される。


「では、王城からの使者の接待は頼むな」


 外交の使者が後程訪れるという事で、ダーダーからも良しなにと伝えられる。

 村人総出で隊列を見送り、ほっと一息というところだろうか。


「終わったな」


 万感の思いで溜息を吐いた父が零す。襲撃の前段階からひたすら張っていた気が緩んだのか、こきりこきりと首を曲げながら、ふわぁと欠伸を一つ。


「ゆっくりして下さい」


 母の言葉に、ひらひらと手を振り、家に戻る父。母と顔を見合わせ、くすりと微笑む。

 やっと戦後処理も終わった。後は国に任せれば良い。


 日常に戻ろう。ふと顔を上げると、フェリルとジェシが駆けてくるのが見えた。子供らしい日々も久しく送って無かったなと、両手を広げて歓迎した。


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