第123話 戦場の跡
「ほーれ、そっち、きちんと支えろ!!」
戦後の陰鬱な作業と言えば、死体処理だろうか。これが精神に中々来る。
「おい、まだ息が残ってるぞ。見回り何してた、早く止めを刺してやらんと、辛かろう!!」
苦痛に呻く者を見つけては、止めを刺していく。原型を留めない四肢を掻き抱き嘆く者、刺し貫かれた腹を抱え動く事もままならない者。全て、私が作り出した惨劇だ。
「ティーダ……」
父がそっと目を手で覆ってくれるが、私はそれを拒む。
「いいの。じぶんのちからによいしれないためのいましめなの」
「そうか。だが、成した結果は等分に見なさい」
そう言って、父がくりんと首を回してくれる。そこにはやり切った笑顔で、土を掘り、死体を運ぶ村の人達の姿が見える。
「あの笑顔をつくりだしたのは、ティーダなんだ。誇りなさい」
あの戦場を走破した鬼神が笑顔で告げる。
「うん……パパ」
そっと抱き着き、ぐりぐりと顔をなすりつけた。
国軍の先触れが到着したのは、決戦の次の日の昼頃だった。
「なんと、殲滅したと……!?」
父の報告に絶句する先触れ。証拠が見たいというので、父と一緒に村を出て、広場に向かう。そこにはまだまだ残る夥しい血の跡と散乱する肉片。秋とはいえ、陽光に晒された遺体は臭いを発し始め、おぞましい世界が広がっている。
「うぼぇぇ……」
武人でも、いきなりこの状況はきつかろう。私達も変化に慣れているから、大丈夫だが、いきなりではきつい。
「レフェショー。人手が足りないっすー!!」
セーファの部下の人が、呑気に陳情に来るのに、父が手を振り返す。
「国軍が近くまで来ている!! もう少しで手が増えるぞ!!」
その言葉に、村人含めて歓声が上がる。先触れの人も、状況が分かったのか、馬首を翻し急いで連れてくると言ってくれた。
言葉通り、夕刻には騎馬隊が到着し、夜半に向けて徐々に徒歩や輜重隊も到着し始めた。
「久しいな。しかし、手柄は奪われたか」
誰が指揮官なのかなと思っていたが、王都で見た軍務卿、ダーダーが鎧姿で現れたのには驚いた。
「この子のお陰です」
ぐりぐりと頭を撫でながら、楽しそうに父が応じる。
「くくく。久々の戦、存分に楽しんだか。ほんに艶々としおって」
ダーダーが笑顔で応じる。
「しかし、大所帯で来たのに、済まぬな」
「いえ。弔いの意味もあります」
ダーダーの目礼に父が返す。村の広間では見慣れたビュッフェ台が置かれ、温かい料理を村人、兵士関わらず囲んで食べている。
「幾ら輜重を連れていると言っても、温かい料理に勝るものは無いからな」
ダーダーが目元を綻ばせながら、告げる。
輜重が持ってきている食材は穀物が中心だ。秋口という事で野菜類は野草も含めて手に入る。で、肉はというと……。
「あったかい!! うめぇなぁ」
「活力が湧いてくらぁ!!」
敵国に戦場に連れてこられた軍馬を潰して肉に変えさせてもらった。幾ら誇りと言えど、飼える頭数も限られる。それに中途半端な傷を負って、瀕死の馬も沢山いた。
そういうのを選別して、処理。料理として提供する事にした。
秋とはいえ、夕刻を越えると日が陰り寒くなる。そんな中、村のために進軍してきてくれた国軍のためと村人総出で料理に当たった。
長距離の移動で疲労困憊、汗が引いてガタガタと震えるだけの兵士達も温かな食事に涙を浮かべながら喜んでいる。
「これで、明日よりは問題無いな」
ダーダーの言葉に、父が頷く。
「どうですか。今夜くらいは?」
そう言って、父がダーダーを誘う。
「相伴に預かるか!!」
楽しそうに笑うダーダーを連れて、家に戻る事にした。




