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021 ダンジョン災害


「確認できたのは八階層と七階層の混成だな? よし、予定通りに三班から遅延戦闘をメインに行くぞ」

「三班了解」

「四班、聞いてたな? 三班の退路を確保しつつ待機だ」

「四班了解よ」

「よし、五班――」


 六階層に散らばっていた斥候部隊から連絡が入り、関東第二ダンジョンでのダンジョン災害が始まったことが知らされたのが少し前。

 慌ただしくもあるけれど、パニックになるわけでもなくみんな整然と役割をこなしている感じで、なんというか慣れてるなあと思った。

 あっちではもっと生きるか死ぬかの大騒動で探索者も冒険者も騎士も兵士も大騒ぎだったのに。まるでどっかの軍隊みたい。

 それも指揮を執っているのが北国工業のおっさん達のパーティで、彼らは前回のダンジョン災害の経験者であり、きっちりと防衛した英雄なんだって。

 ちなみに自衛隊は100年経った今も健在だけれど、魔境の封じ込めと他のダンジョンの防衛に人員を割かれていて関東第二ダンジョンにいるのは入り口の方になっているんだって。


 普段のおっさん達を見てると全然そんな気がしないのはあっちでも一緒なんだよね。英雄なんて呼ばれていたりしてもひとりの人間なんだよ。私も神域の聖女なんて呼ばれているけれど、ただの美少女だからね! 美少女!


 それに、普段は防衛ラインに設定されるセーフティゾーンにはネットが繋がらないから地上との連携なんかも望めない。

 人力での連絡くらいしかできないのだからタイムラグは当然あるし、頑張っても情報を伝えるのに一日以上かかる。それを地上とリアルタイムで連携ができて、あちらからの支援も受けられる。

 そりゃあみんな冷静に行動できるよね。バックアップの速度が全然違うもの。




 ダンジョンのモンスターは基本的に階層を跨がない。なぜなら深い階層ほど魔力濃度が濃く、強いモンスターは存在を維持するために魔力を求めるから。

 魔力濃度が低い階層では、モンスターは本来の力を出せないし、徐々に存在を希薄にさせて、最終的に消滅してしまう。一応例外の存在としてイレギュラーと呼ばれる特殊個体もいるけれど、これも最終的に魔力不足で消滅する定めにある。

 ダンジョン災害は消滅の危険を無視してでもモンスターが地上を目指し、ダンジョンの領域を拡大させるための現象のことで、地上にモンスターが出るとダンジョンの魔力を地上に拡散させて領域を増やす。

 この地上の領域が魔境と呼ばれ、地上に出たモンスターは魔力消費を抑えるためにダンジョン内では行わない繁殖や捕食を行って数を増やして魔境を広げていく。


 全世界で魔境に飲まれて消滅した国はたくさんあり、日本でも二箇所のダンジョンで魔境が広がり、それでもなんとか抑え込んでいる。

 ダンジョン災害を未然に防ぐことは、探索者の義務であり、国を守る大事な役目。それでも命を賭けなければいけないことには変わりなく、普段安全マージンを十分に確保して探索しているものたちにとって、大きなリスクをとらなければいけないことには変わりない。

 それだけにバックアップはとても重要で、それでもセーフティゾーンに敷かれた防衛ラインとは物理的な距離が大きな障害となっているわけで。


 まあつまり。私の存在はとても大きいというわけだね! 私がいるからみんな元気に楽しく防衛できちゃうわけだ!


「舞さん、大活躍ですね」

「前回はヒーラーいなかったから今回は本当に助かるぜ。もちろん神域屋、あんたがいるからこそ物資に不足があってもすぐに対応できる。支部の連中ともすぐに連絡がつくのもすげえ助かってる」

「照れますね」

「……もうちょっと表情に出してもいいと思うぞ?」

「そういうのはいいんで」


 回復魔法は非常にレアな魔法なので、全部のダンジョンの防衛に回すほど日本にはいないそうな。

 でも関東第二ダンジョンには、風の知らせのヒーラーである藤堂舞さんがいる。魔力欠乏で甘味暴走を起こすあの人だね。

 おかげで支部からダンジョン災害用の支給品として用意されたポーションや傷薬なんかの消耗を抑えているし、何より防衛している探索者からの信頼も厚いからね。

 魔力欠乏で暴走するほど無理して回復魔法を使うような人だし。

 なお、支部の予算で甘味が用意されているあたり、彼女のことをよくわかっているよね。今回は特に高級店のものが用意されているし。私もご相伴に預かるつもりなので楽しみ。


「そろそろ第二防衛ラインだな。じゃあ行ってくる」

「ええ、いってらっしゃい。頑張ってくださいね」

「おうよ」


 六階層に設置されたドローンやカメラから有線で映像が送られているので、セーフティゾーンに設置された指揮所では設置された複数のディスプレイに前線の様子が流されている。

 その映像を見ながらセーフティゾーンで待機している交代要員の探索者達が移動を開始したり、戻ってきた探索者が装備の手入れや簡単な修復作業を行っている。

 映像を見る限りでは、六階層の入り口から少し離れた場所に設定された第二防衛ラインに大量のモンスターが襲いかかっているところだね。でも防衛をしている探索者達は浮足立つこともなく、冷静に淡々と処理をしていっているのがわかる。

 七階層や八階層にいるモンスターは六階層では魔力不足で力を十全に発揮できていないので、適切な対応をとることで比較的簡単に無力化できているみたいだ。

 九階層以降のモンスターはここまで上がってくることすらできなかったご様子。あっちでもそんな感じだったかな。

 特に深い階層のモンスターは強力な個体が多いので、活動するのに魔力が大量にいるから、ここまで移動するので魔力を使い果たしてしまったんだろう。

 これがもっと深い階層を防衛ラインにしていたら、そういう強力な個体と戦う必要があるだろうけれど、そんなリスクを負う必要はないしね。探索ならまだしも、これはダンジョン災害の対応だからね。


 これが地上に魔境が広がって魔力濃度を高めてしまうと、深い階層のモンスターも上がってこれるようになっちゃうから大変なんだけれど。

 こっちに広がっている魔境のダンジョンが今どうなっているのかちょっと興味あるけれど、まあどうでもいいことか。きっと一階層にドラゴンがいたりするんだろうね! ファイアドラゴンのステーキ美味しんだよなあ! ポイズン、おまえはだめだ!




「イレギュラーだ! 赤い! オーガか! 重装のオークもいるぞ!」


 あっちでも数回しか食べれなかったドラゴンステーキに思いを馳せていると、第二防衛ラインの状況が変わったようで、映像に巨大な赤いオーガと重装備のオークが映っている。

 周囲にはまだまだモンスターがいる状況なので、すぐに待機していたメンバーに招集がかかり、飛び出していく。

 通常のオーガは赤くはないし、オークも重装備を着用してはいない。誰かが言ったように、あれらはイレギュラー個体だね。

 通常の個体よりも魔力が多く、強力な個体である上に魔力濃度が低い階層でも長く活動できるのがイレギュラー個体。とはいえ、六階層程度の低い階層では十全な力を発揮することはできない。

 ここのメンバーなら問題はないでしょう。ヒーラーもいるしね。


 ……とか思っていた時期が私にもありました。


 セーフティゾーンで普段お客さんとして相手をしている探索者達の戦闘風景なんて、正直なところ今回みるのが初めてだし、見ただけで相手の強さがわかるような戦闘の達人では私はないんだよね。

 圧倒的な神域魔法で何もさせないのが私のやり方だから。

 相手がどれだけ強くても関係ない。神域魔法を破れなければ私に負けはないからね。そして私の神域魔法は極まっているのだ。


 イレギュラーが出現するまで機械的に処理するように淡々とモンスターを倒していた探索者達なら、六階層のイレギュラーなら問題ないだろうと思っていたんだけれど違うみたい。

 待機組が加わっても、結構な被害を出しながらの戦闘が続いている。

 舞さんや潤沢な回復アイテムでなんとか前線を保たせているっていうのが正直な感想で、割とジリ貧な気がする。それでも死者は出ていないけれど。

 さっきまでの優勢な感じがまったくなくなってしまったので、セーフティゾーンに残っているメンバーも急いで準備を整えているくらいだ。

 本来は数日かけて防衛する形になるので、交代で休みながら戦う必要あるのに、交代要員すら動員しなければいけないなんて危機的な状況だろうね。


「うーん。まあいいか」


 なので、うん。介入することにしました。

 私はあくまでここには行商できているただの美少女聖女であって、防衛要員ではない。

 支部からも緊急の雑貨屋兼物資輸送要員として依頼を受けているだけの非戦闘員なのだ。

 確かに不思議なオブジェを作った事件で、オブジェを作れるような存在だとはバレているけれど、誰からも戦闘に参加してくれなんて言われたことはないんだよね。

 それが、今まで通り行商を続けてほしいという、シブオジや他の探索者達の配慮であったとしても。


 まあ。だから。


 これは私の意志でちょっとだけ、頑張ってるお客さん達に対するサービスだね。


「なんだ!? 止まった!?」

「あれは!? え、あのオブジェじゃね!?」

「神域屋の嬢ちゃんか!? なんで前線に!? 誰か連れてもどれ!」


 ディスプレイ越しにイレギュラー二体を同時に結界で囲んで動きを止めたことで、前線ではだいぶ混乱しているようだけれど、すぐに私がやったことだとわかったみたいだね。私は前線にはいないけれどね。

 まあ、変なオブジェ事件はみんなの記憶にひどい臭いとしてこびりついてるだろうからねえ。私はすっかり忘れてたけれど。


「イレギュラーに攻撃するな! 無駄だ! 今はとにかく他のを殲滅しろ!」

「「「「おう!」」」」


 私の結界の強度は、オブジェができた当初に色々試したこともあって、彼らではどうにもできないものだとわかっている。だから微動だにしなくなったイレギュラーを放置しても問題ないと指揮を執っている北国工業のおっさんが判断したみたい。

 うん。賢明な判断だね。


 イレギュラーさえ抑えられればあとは優勢を取り戻すのは簡単だった。

 なお、些細なことだけれど追加で倍以上のイレギュラーが出現していたが、全部オブジェとなり防衛が終わる最後まで動けずいたりしている。そして、押し寄せていたモンスターを殲滅し終わったあとに、首から上の結界を解除して頭を何度も何度も叩き潰されてあっさりと討伐されましたとさ。



これで終わり。

プロット上では残りはラストエピソードとエピローグ、他者視点での閑話と掲示板が残ってる感じ。

全部内容は決まってるけどちょうど大型アプデが来てそっちに夢中になってたら記憶から飛んでしまったのでした。残念!

なお、もうひと作品並行して書いてたけど、そっちは主人公が消極的な乙女ちゃんでこっちと温度差ひどすぎて風邪ひきそうでだめだった。


全部書けてれば大体11~12万字くらいで綺麗に収まるというやーつ。

では。

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― 新着の感想 ―
おぉ~良い切り口で面白い作品でした それだけに続き読みたいと思ってしまいました 残念です
まさかのここで終わりか…残念だけど、面白かったです!
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