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020 ピリピリ


 最近の私はダンジョン内で生活している時間の方が多かったりする。

 それもそのはず、なんとついに関東第二ダンジョンの五階層にあるセーフティゾーンには宿泊施設が設置されることになったのだ。

 でも未だに配置される職員が決まらず、一先ずは実験として一室設置され、私が使っているという感じ。

 ネットカフェの個室や探索者用のテントにベッドなどを持ち込んでダンジョンに泊まっていたりしていたので、今回実験用に用意された宿泊施設は、かなり快適でとても満足していたりする。

 ただ、もちろん掃除や備品の管理は自分でやらなければいけないので、その辺がちょっと面倒な程度。とはいえ、別に散らかすだけ散らかしてそのままにしておくような私でもないので問題はないのさ。

 私には万能な収納空間があるからね。ゴミも日用品もさくっと仕舞っておけば万事解決。

 それでもたまに掃除機をかけたりするけれどね。


 入浴施設には、後付で色々と施設を追加するための大型の魔石式バッテリーが完備してあるので、基本的に電気はここからひっぱっている。

 宿泊施設にはエアコンや冷蔵庫なんかもあり、普通にコンセントも設置されているけれど、基本的には節電をしなければいけないし、そのための制限なんかも後々行われる。逆に言えば、今は実験用のこの一室だけなので節電なんか気にしなくてもいいんだよね。

 実際にシブオジからも使用感の報告だけの契約で、ほとんど私の機嫌取りのためのようなものみたい。


 というか、いい加減配置される職員が決まらないと雑貨屋含め、色々とセーフティゾーン内の施設を充実させられないので、探索者達から苦情が出かねないと思うんだけれどねえ。

 関東第二ダンジョンのセーフティゾーンは片道一泊二日という他のダンジョンのセーフティゾーンと比べて短い道のりなんだけれど、それでもたどり着ける探索者の数は少ない。

 支部に勤める職員は全員が探索者ではあるけれど、そもそも探索者になるのはDカードを発行するだけなので、条件さえ満たしていれば学生でもなれちゃう簡単なもの。上澄みでなければセーフティゾーンまでたどり着けないとはいえ、護衛はちゃんとつくし危険手当とかもつくだろうけれど、なり手は皆無なんだって。

 一番の問題はボスオークの存在だそうで、戦闘には参加しないといっても掠っただけで一般人なら大怪我、最悪即死するような攻撃力は尻込みさせるには十分すぎるものだそうで。

 関東第二ダンジョン支部の職員なら、このボスオークに挑んで帰ってこなかった探索者の数はよくわかっているというのもあるんだろうね。結構な数の探索者が戻らぬ人になっているんだって。私も倒すの大変だったしね。それはちょっと違うか。


 そんなわけで、予算の都合もあって手当の上限が決まっている現状ではセーフティゾーンでの施設管理の担当を希望する職員は皆無という。さすがにここまでこられる探索者に管理を完全に任せるわけにもいかず、北国工業のおっさん達が暫定的に施設の簡単な管理をしているのが精一杯。普通に探索して資源を回収した方が圧倒的に稼げるんだから仕方ないね。

 さすがに支部の管理施設でぼったくり価格はよろしくないし、備品や商品は私が引き寄せで補充するのでせいぜいがお祭り価格程度の上乗せしか認められないそうな。入浴施設の使用料はまあ、みんな納得してるしぼったくり価格ではないみたいだね。一般的なスーパー銭湯の十倍くらいなのに。


 支部の職員ではなり手がまったくいないので、ある程度信用がおける探索者に委託するかもしれないってはいう話も出ているみたい。でも雑貨屋で扱う商品に高額なポーションなどもあるので、できれば契約でガッチガチに縛れる職員の方が都合がいいのはまあ、当たり前の話だよね。探索者優遇政策の一環で、支部の職員という探索者を相手にする立場の人間の方が厳しい契約を結べるのだから。

 最前線というわけでもないけれど、関東第二ダンジョンでもトップ層がいる場所なので、緊急時のためのポーションは完備しておきたいけれど、盗まれたりしたら大損害だし、あくまで支部の雑貨屋だからね。メンツとかもあるんでしょう。しらんけど。




 私がセーフティゾーンで生活するようになったことで、常時ネット環境が維持されているし、水や商品の補充も途切れることがない。

 ただ、引き寄せは私のいるところに物体を移動させるだけなので、逆のことはできない。回収した資源を地上に持って帰る必要があるので探索者達は今まで通りに数日滞在して資源回収をしたら戻っていくのを繰り返している。

 でももし、地上に荷物を送ることができても地上に戻らない人はいないんじゃないかな。私と違って彼らは命を賭けて探索しているわけだしね。

 少しの時間で商品を販売して、大半の時間をサブカルチャーの消費に費やしている私としては地上にいようがダンジョンにいようがネットさえ繋がっていれば大して変わらないからねえ。


 あと、最近は支部の抑えが効いていないのか、勧誘やスカウト、依頼をしてくる人が滞在しているネットカフェまで押しかけてくるようになったんだよね。

 この辺のことはシブオジが抑えていたはずなんだけれど、過去にダンジョン内で行商をしたことのある探索者も長期的な話ではなく、短期的なもので終わっていたので世間では同じように続かないだろうと思われていたらしいそうな。

 でも私は今でも行商を行っているし、ネット環境の維持をし続けて、さらには新たな施設の実験配備なんかも行われている。


 短期の話ではなく、長期的な実績になってしまったというのが悪かったようで、シブオジが抑え込めない範囲まで私に興味を持ってしまったのが原因なのだそうな。

 地上にいるだけで色々と煩わしい状況が増えてきたのもあったので、宿泊施設の実験にかこつけてダンジョン内に生活拠点を移したのは正解だったね。

 さすがにここまで押しかけてくるのは少数だったよ。いなくならなかったのはそれだけ需要があるってことなんだろうけれど。

 行商もそうだけれど、ダンジョン内でのネット環境と施設の配備が魅力的なんだろうね。

 ちなみに、勧誘やスカウトに応じるつもりもないし、依頼なんかも基本的にお断りしている。

 金銭的には行商で十分儲けられているし、関東第二ダンジョンのセーフティゾーンは民度がいいから居心地もいいし、シブオジが配慮してくれているのも大きい。

 これが他のダンジョンとかになったらどうなるのかわからないしね。ここより居心地がよかったりするならまだしも、どう考えても環境は悪いでしょう。施設ないし。

 それを構築するための依頼だろうけれど、だったら別にすでに構築が進んでいる今の環境で十分なんだよね。

 前のように女神様から直接依頼があったわけでもなし、それなら私は私が快適に過ごせる環境で楽しむだけの話だよ。




「……だいぶピリピリしてきてますね」

「ああ、おそらくもうそろそろだからな」

「臨時の雑貨屋の依頼もありましたしね」

「神域屋には悪いと思うが、こっちも死にたくないからな。頼むわ」

「あくまで臨時ですしね。私の利益にはあんまりならないですけど、その分報酬額が割と美味しかったので構いませんよ」

「悪いな」


 担当職員も決まらないまま施設の拡充もなく、平和な日々を過ごしていると、突然シブオジから臨時で雑貨屋を開いてほしいと指名依頼が入ったのがついこの間のこと。

 臨時なので販売する商品の種類も少なく、基本的に装備のメンテナンス用品と予備の装備、回復アイテムなどになる。


 今は迷歴110年の二月。

 私が地球に帰ってきたのが迷歴109年の夏くらいだったので、もう半年以上経過したことになるんだね。

 迷歴元年が地球にダンジョンが発生した年であり、それから五年ごとにダンジョン災害が周期的に発生している。

 そう、迷歴110年はダンジョン災害の発生する年なんだよ。


 過去100年の研究の結果、ダンジョン災害の被害を抑えるのに一番効果的なのは日々のモンスターの間引きとわかっている。それでもどれだけ間引きを行っても災害は発生するようで、各ダンジョンのセーフティゾーンを境界線とした先が防衛ラインとされている。

 日々の間引きが十分な場合はセーフティゾーンより前の階層にはほとんど変化がないそう。

 日本のダンジョンはすべて日々の間引きが徹底して行われているので、セーフティゾーンが防衛ラインに設定されていて、ダンジョン災害の周期が近づいてくると、様々な準備が行われるようになる。

 今回の臨時の雑貨屋の依頼なんかもその一環だね。


 探索者の義務として、ダンジョン災害の周期が近づくと一定以上の実績がある者は防衛ラインに詰める必要があるのだけれど、今回の関東第二ダンジョンの防衛ラインには割と探索者が多い。

 私の影響で快適になったここに探索場所を移した探索者がそれなりにいるからだね。その代わり、他のダンジョンが手薄になっているそうで、強制的に割り振られた探索者もいて、割りを食ってるみたいだけれどそんなことは知らん。

 そもそも私は臨時の雑貨屋をやるだけで災害の対処は求められてないしね。まあ、あっちではひとりでダンジョン災害の対処をしていたこともあったけれど、こっちでは誰もそれを知らないからね。私はただの美少女看板娘よ。




 ダンジョン災害の周期が近づいてきているとはいえ、確実な日時がわかるわけではない。大体間引き状況に左右されるみたいだけれど、それでも一ヶ月程度の誤差はあるそうな。

 すでに日本のダンジョンの半数程度で災害が発生して防衛に成功しているという情報が入ってきているので、ここもいつ災害が発生してもおかしくないからみんな結構ピリピリしている。

 現在は六階層以降には偵察部隊のみが探索を行っていて、災害の発生を確認次第戻って防衛となるみたい。

 災害時などの緊急用の設備も導入されていて、普段使用するには効率が悪すぎて使えないものも用意されていたりもする。

 通信強度を大幅にあげて、広大な階層内での通信を可能にする装置なんかだね。あとはまあ、ここでは珍しいものじゃないけれど組み立て式のトイレやシャワー、冷蔵庫なんかもこの時期には設置されるそうな。

 組み立て式なので、どうしても強度不足や管理の面で長期間の設置に向かなかったりするみたいだけれど、一ヶ月程度なら採算度外視でなんとかするのが通例みたい。

 そりゃあ、防衛に失敗すれば人間の生活圏が脅かされて、最悪国が消滅する自体にまでなりかねないのがダンジョン災害だからね。国も本気出すってもんだよ。


 そんな感じで、関東第二ダンジョンの防衛ラインには他のダンジョンに配備する必要があるものがいらないので、もっと他に予算が割り振れる。

 その結果、一時的に宿泊設備が複数設置されて稼働していたりする。管理や備品の補充は各自で行う形での貸し出しみたい。まあ、今の私と同じような感じだしね。

 ただ、私はひとりで一室使っているけれど、他の人はパーティ単位での使用になるみたい。その代わり少し広いけれど、複数のベッドが展開できたりと割と窮屈みたいだね。

 それでもベッドで寝れるのは嬉しいみたいで結構好評だそうな。


 あとは防衛期間中の各種施設の使用料の無料化とかかな。私は元々無料だったけれど。


 そんな感じでピリピリはしていても、前回の災害時にも参加していた北国工業のおっさんが言うにはだいぶマシという環境の中、私はいつもどおりの生活を続けている。


 ……でも四六時中むさいおっさん連中がセーフティゾーンに屯しているのはちょっとなあ。はよ災害終わらんかね。



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