014 企業系探索者
「こちらが精算額と買取詳細になります。領収書の名前は如何なさいますか?」
「上様でー」
「では領収書になります。ご利用ありがとうございました」
四階層での採取を終えて、戻ってきた探索者達に販売を行ったあとは就寝して、翌日にはさくっと撤退。
次回の行商も楽しみにしている、と惜しまれつつもセーフティゾーンを出て、階段を登ったらチャリでさくさく戻っていく。
帰りは階段が登りになるのが面倒な程度で、特に問題もなく支部まで戻ってきたところで買取カウンターで薬草類を精算したのが今。
いつも買取をしていたのは同じ職員だったけれど、今回は違うようで余計な話もなく、簡潔でとてもよかった。あと少しだけ買取金額も高かったし。
毎回こうだといいんだけれどね。
いつものネットカフェに帰ってきたら商品の仕入れのために、お弁当屋さん各所に連絡を入れていく。
前回サービスしてくれたお店は今回もサービスしてくれたので、おまけでお味噌汁やサラダなどの単品類を多めに追加しておいた。
味噌汁やサラダなんかの単品類も結構需要があって、ひとりで複数買っていく人も珍しくなかったからね。まあ、ダンジョン内でサラダはなかなか食べられないだろうし、栄養なんかも考えると、ね。サプリなんかも持ち込んでるみたいだけれど、サラダの方が嬉しいそうな。
ついでに、要望にもあったのでオードブル系もいくつか試しに購入してみた。基本的に探索者はパーティで行動しているので、大人数で食べられるオードブルなんかはおかずの種類も増えて嬉しいんだって。
ちなみに、サービスしてくれないところはお弁当だけの注文になっている。一応店によってお弁当の特色もあるから、一店舗だけの仕入れにはしてないけれど、サービスしてくれてる店を贔屓するのは当たり前だよなあ!
お弁当の他にも、普通にお店の料理も購入できないか、って要望もあったけれど、テイクアウトに対応しているような店じゃないと無理だろう。
大量購入に関しては常識的な量ならいけるだろうから、何店舗かに連絡してみたところ、割と多くても対応してくれるそうな。ただ、近くの別店舗から別に配達するみたいなことを言っていた。
なるほどね。店舗が近くにあれば分担して作れるか。数の多いチェーン店ならではの対応方法かな。
なので、近くに別店舗がなかったり、テイクアウトや配達はやっていても個人経営とかだと量を稼げない。
それでも、数店から仕入れられそうなので十分かな。
ピザとかお寿司とか、デリバリーしてるお店なんかからも一通り仕入れてみたので、お品書きを作るのがちょっと大変なことになりそうだけれど、まあお試しだしね。面倒になってきたら私が食べるか収納空間の肥やしにすればいいさ。メニュー表ももらったからそれでもいいしね。
ちなみに、使い捨ての容器じゃなくて回収するタイプのデリバリーとかもあったけれど、使い捨て容器に変更できないところは仕入れていない。容器の入れ替え面倒すぎるし。
しかし、私の収納空間の食料の量がとんでもないことになってきてるなあ。全部商品だからいいんだけれど。
ひとりで食堂を開けるレベルだよね。食堂開いてるようなもんか。全部ただの転売なんだけれどね! さーいてー!
料理や飲料の仕入れは問題ないのだけれど、たくさんの要望があったお風呂やトイレ関係はどうしたものか。
一応トイレに関しては仮設トイレのレンタルがあるし、値段も思ったより高くなかった。数は少なかったけれど、ダンジョンに設置する用の仮設トイレなんかもあって、水を生成する魔道具と、汚物を乾燥圧縮する専用に開発された魔道具なんかもついてるみたい。
燃料になる魔石は別途用意する必要があるみたいだけれど、ダンジョン内に設置するなら問題ないでしょ。
魔道具で生成する水は一定時間で消えるので、汚物タンクの容量節約になるし、乾燥圧縮する方法と相性もいい。よく考えられてるね。臭いも抑えられるだろうし。
ただ、当然ながらこっちは高いね。それに設置場所がダンジョンになるから、色々と複雑な手続きが必要になるみたい。
それだったらお試しで設置するなら普通の仮設トイレでいい気もする。どうせどこに設置するかなんて調べないだろうし。バレなきゃ犯罪じゃないのよ。おーっほっほっほ!
お風呂についても同様で、調べてみると意外と仮設のお風呂は結構種類があるし、普通にレンタルもしてる。
こちらもダンジョン内設置用のものも研究されていて、一応あるにはある。でもトイレと違って、一定時間で消えてしまう魔道具で生成する水ではゆっくりお風呂には入れない。シャワーなら別だとしても、お風呂には水の問題が付き纏うようだね。
まあ、私なら収納空間にたっぷりお湯を入れておけばいいだけだし問題はないんだけれど、トイレと違って管理が面倒そう。仮設シャワーにした方がよさそうかなあ。
ちなみに、他のダンジョンのセーフティゾーンには試験的にダンジョン用のトイレやシャワーなんかが設置されるプロジェクトがあったみたい。
分解して運搬したり、アイテムボックス持ちが運んだりしてみたそうだけれど、掃除や管理、メンテナンスの問題でセーフティゾーンがある全てのダンジョンに導入できているわけではないのは、関東第二ダンジョンの五階層のセーフティゾーンをみればわかるね。
他のもっと価値の高い資源が回収できるダンジョンのセーフティゾーンには設置されているっていうのが、なんとも世知辛い。
運搬は私がやるから管理やメンテは支部から人員だしてくれるように、関東第二ダンジョンの職員に交渉してもらうのも手かもしれない。でも、そんなことしたら他にも依頼されそうだし、面倒事が舞い込んでくるのは避けられないんじゃないかな。
さすがにそこまでして設置する必要はないでしょ。
あくまでただの要望なんだしね。やるかどうかは私次第よ。
いつもどおりに仕入れや諸々の準備が終わったら、楽しい楽しいサブカルチャータイム。ネットカフェに引きこもること数日。
ある程度満足したところで次の行商に向かおうと、関東第二ダンジョン支部に足を運ぶと、ちょうどセーフティゾーンでも常連になっているおっさん探索者達がいるのを発見。
確か北国工業の企業系探索者だったかな? あのおっさん達は結構目立つ外見してるからすぐにわかったよ。
装備が薄汚れているし、くたびれている様子から探索帰りなのがわかるから、今回の行商では会わないのは確定かな。
私は一日かからずセーフティゾーンに行けるけれど、彼らは最低でも二日はかかるだろうし、これからトンボ返りするということはないだろうからね。
「北国のおじさん、探索帰りですか?」
「うおっ! 神域屋か。全然気配しないからびっくりしたぞ」
「気のせいです。セーフティゾーンにはどのくらい人いました?」
「いや気のせいって……。まあいいけどよ。いつもと同じくらいだな。俺らとは別パーティの同僚が交代で入ってるからな」
「あ、そうなんですね。じゃあ私は行きますね。お疲れさまでした」
さすがは企業系探索者だね。当然のようにおっさん達だけじゃなくて交代要員もいるみたい。まあ人の手で資源を回収しているから、大量に確保するには結局の所人海戦術が一番なんだろうね。
「あ、まってくれ。トイレとかどうなった? いけそうか? みんな期待してるからよ」
「あー……。検討してみたんですけど、無理そうです」
「まじかあ……。やっぱり管理面での問題か?」
「そうですね。人員確保が難しいですし」
「んー……。やっぱりそうなるか。よかったらなんだけどよ。うちの上司に話し通してもいいか? うちなら交代要員含めて誰かしらあそこにいるからよ。十年以上そうやってるしな。管理しやすいと思うんだよ」
「んー……。私はそちらの企業の依頼は受けられないですよ?」
「それはわかってる。ただ、設置の際に現物を運搬するくらいはやってくれるか? それができなくてここでは設置できてないわけだしな」
「まあ、それくらいなら」
「ありがたい。絶対通してみせるぜ!」
企業に管理を任せるなら利用料はとれなくなるだろうけれど、トイレやシャワーは私も使いたいからありかなあ。
今までは神域魔法で結界張って、隠蔽施してさらに目隠しの布を張ってやってたからね。あちらでも同じようにやってたから特に思うこともなかったけれど、ちゃんとした施設があるならそれを使うよ。
あとトイレットペーパーやシャンプーリンスとか、商品として成立しそうだしね。
のんびりチャリを走らせて特に何事もなくセーフティゾーンにやってくると、お店の準備を整えて探索者達が戻ってくるまでは四階層で採取を行う。
今回もセーフティゾーンに探索者達が戻ってくる前についたからね。アニメを見ててもよかったんだけれど、採取の方を済ませてしまうことにしたよ。
引き寄せを習得したおかげで採取のはかどり具合が尋常じゃない。短時間でさくさくと集めることができるから、採取しててちょっと楽しいのもあるんだよね。あと熟練度稼ぎにもなるし。
薬師や錬金術師の知識かスキルがあれば、採取してきた植物なんかを使ってポーションとか作って販売してもいいんだけれど、ないものは仕方ない。
特にあちらでは買取対象だった植物とかがもったいないんだよねえ。こっちでも買取対象だったらよかったのに。
……それを考えると何かしらの手段で研究させるっていうのも手かな? いや、研究だけならしてるのかな。結果が伴っていないだけで。
一応、採取だけはしておこうかな。集めるだけなら簡単だし。
今回の行商も特に問題らしい問題もなく、増やしたメニューにみんな喜んでいた。特にお弁当以外のメニューが大好評だった。
もちろんお弁当の売れ行きもいつもどおりよかったけれど。みんな基本的にいっぱい食べるから、他の人の迷惑にならない範囲でならたくさん買うんだよね。
要望が一番多かったトイレとお風呂に関しては検討中とだけ伝えて、北国工業の件については特に伝えることはしない。あくまでおっさんが上司に話を通すって言ってるだけだからね。
だめだったときにおっさんが責められるのはまた違うし。
そんな感じで順調に行商をしていたら、また空間魔法のレベルが上がって新しい魔法を習得することができた。
採取で引き寄せもかなり使ってるし、なんならネットカフェでもちょいちょい使ってるからね。
収納空間は言うに及ばず、最近の使用率はびっくりするくらい多いし。
そりゃあ、レベルも上がるってもんだよ。
普通はもっと魔力の問題とかでこんなに早くレベルは上がらないんだけれどね。
それは結界魔法と神域魔法のときでも同じだった。ありあまる魔力でゴリ押しすればさくさくレベルは上がっちゃうのだよ!




