表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/21

013 要望箱


 六階層は上の階層と植生がだいぶ違うようで、買取対象になっている薬草類をほとんど見かけない。どうみても熱帯雨林だしね。

 でもあちらで買取対象だった植物や果物はそれなりに確認できているんだよね。まだまだ研究が足りていないこちらでは、この辺の植物や果物を持ち帰っても高くは買い取ってはもらえないのだろう。

 薬師じゃないのでどういった薬効で、どうしたら成分を抽出できるのかも知らない。納品しても研究すらしてくれない可能性も高いから採取するだけ無駄かな。

 なお、引き寄せで採取を行っているので、すごく楽なんだけれどね。


 残念ではあるけれど、お金にならないなら採取しても仕方ない。

 ある程度探索していい感じに時間も経ったのでそろそろ五階層に戻ろうかな。




「まいどありゃっしたー」

「おう、ありがとよ。助かったぜ」

「よかったら、そちらの箱にアンケートを書いていれてくださーい」

「あいよ。買えたら嬉しいもの? ここでの話だよな?」

「そうでーす。次の方どうぞー」


 私がセーフティゾーンに戻った頃には結構な人数の探索者が戻ってきており、すでにお店の前には何人も待っていた。

 そのままてくてく歩いて準備してあったパイプ椅子に座って、隠蔽を解きつつ外出中の紙を剥がしたら営業開始だ。

 待っていた人達が驚いていたけれど、まあそんなことより開店だよ?


 何か言いたそうな顔をした人達に商品を売りつけて、ついでに新しく設置した要望箱にアンケートを記載していれてもらう。

 お弁当や飲料なんかの他にも商品を増やすにしても、需要がわからなければ売れないからね。

 装備を整備する道具なんかも、様々なメーカーから色んな種類のものが販売されているので、その辺のことも知っておきたい。

 ただ、お弁当や飲料のように、単価が安いものは十倍の値段設定でいいだろうけれど、整備道具なんかはどうしても値段が高くなる傾向にある。

 安いものは安いんだろうけれど、ここまでこれて資源回収を行えるような探索者は一握りなので、安物を使っている人はあんまりいないだろう。

 装備はもちろんのこと、整備道具だって一流のものを使うのは生存率を高める当然の行為だからね。死んだら何もならないのだから。

 たまーに転生なんてしちゃう美少女もいたりするらしいけどね。


 そんなわけで、アンケートをとることにしたのだ。

 需要によっては整備道具とかよりも、利益率の高い良い商品が発見できるかもしれないし。


「販売してほしいものかー。弁当や飲み物以外ってーと……。やっぱ嗜好品? タバコとか酒?」

「全部採用するわけじゃないのでー。その辺はご了承くださーい」

「まあそうだわな。一応ってことで書いとくか」


 お酒やタバコなんかを求める人は、ここのおっさん率の高さから結構多い。

 でもここはダンジョンだし、飲酒したせいで死んだりしたら嫌だし、タバコは私が嫌いだから却下。


 相変わらず大好評のお弁当と飲料を売りさばき、新しく仕入れた味噌汁やサラダもどんどん売れていく。

 お味噌汁用のお湯が入った電気ポットも用意してあるので、魔石バッテリー式の大容量の小型バッテリーに繋いで熱々で提供されている。

 そんなポットのお湯に目をつけた人が自分たちのレトルト食品の加熱用に使わせてくれないかと頼んできたりもしたけれど、お味噌汁用に用意したものなので断っている。

 加熱するだけなら魔法で生成した水でいいしね。まあ、沸騰するまで持続させるにはそこそこ魔力使うだろうけれど。

 というか、レトルト食べてないでうちのお弁当食べなさいよ。




 販売も一段落して要望箱の中身を確認していると、割と多い意見でお風呂、シャワーがある。他にもトイレもあるね。

 私がやってるのは行商なんだけれどなあ。行商がお風呂やトイレを提供って普通しないでしょ。


 でも、これは実際にこうしてアンケートをとってみないと気づかなかった意見だね。六階層のあの環境の悪さはたしかにお風呂に入りたくなる。

 魔法で生成した水で体を拭く程度のことはしてるだろうけれど、しっかりお風呂に入るようなことはできないだろうし。シャワーくらいはできそうな気がするけれど、これだけ要望があるってことはやってる人はいないのだろう。

 今度もうちょっと水生成の魔道具を調べてみたほうがいいかな?


 トイレは言うに及ばずだね。

 探索者向けの携帯トイレはかなりの種類販売されていて、研究も日々行われているようだけれど、所詮は携帯用。ダンジョン内で使用するのは安全性の問題が一番厄介だろうし、ここのセーフティゾーンにはそれなりの人数が滞在するので問題も色々あるのだろうね。

 一応セーフティゾーンの広間の端っこの方に、ダンジョンに吸収されない特殊シートで壁を作ったゾーンがあって、基本はそこで済ませるそうな。

 ただ、所詮はシートで覆ってあるだけなので、臭いも音も筒抜けなので女性に限らず色々と恥ずかしいだろうね。探索者なんて命を賭けた職業をやっているんだから、その程度は気にしないくらい図太くても不思議はないけれど、それはそれ、これはこれだよね、やっぱり。私だってトイレの音や臭いが筒抜けなのはいやだよ。

 結界で完全に遮断できるから大変だったのは短い間だったけれど。


 でも建物を持ち込むのはできないことはないけれど、さすがに色々と準備も大変そう。

 ……いや、プレハブにバスタブ用意してお湯を大量に収納空間にいれておけばお風呂は完成かな?

 トイレだって工事で使うような移動式のやつをレンタルなりすればいいだけでは?


 ……おやあ? でも掃除とか汚物の処分とか色々面倒なこともありそう。一応調べてみるか。もしかしたらここ100年で色々変わっている可能性も十分あるしね。




「神域屋さーん、要望どれくらい通りそう? あとデザート買いに来ました!」

「んー……。色々調べてみないとわからないですね。お風呂やトイレはその辺次第で用意できるかもです。どれ買います?」

「おおー! それはぜひお願いします! これとこれにします! やっぱりトイレは恥ずかしくてですね……。お風呂も体は毎回しっかり拭いてるけどやっぱりそれだけじゃ色々と……。香水とか使えないし。六階層はアイアンゴーレムだけど、普通に鼻効くからー。消臭剤はちゃんと使ってるんだけどね」

「シャワーは無理なんですか? 水を生成すればいいだけでしょう?」

「そんなに簡単じゃないよお。魔道具だってたくさん水を生成すると消耗が激しいもの。飲めないけど必需品だし、結構高いんだよね」


 前回魔力欠乏で暴走していた女性が今回もデザート欲しさに寄ってきたので、販売ついでに色々と聞いてみる。


 水生成の魔道具については単純に性能が低いのと値段が高いのか。それならシャワーが求められても納得だね。

 トイレはまあ、ね。


 おっさん率の高いセーフティゾーンだけれど、女性がいないというわけじゃない。この女性探索者の他にも何人かいるし、他の男性達も色々気を遣っていたりもするのかな。


「例えばですけど。トイレやお風呂を設置したら一回どのくらいの値段だったら使います? 当たり前ですけど無料はないです」

「あー。そうだねえ。トイレなら一回五百円とかは? お釣りが面倒だからやっぱり千円かな? お風呂は銭湯の十倍くらいだったら喜んで! あ、あとトイレットペーパーとかシャンプー、リンスとかも販売するとか! 絶対買うよ! 毎回なるべく荷物を減らすようにみんな頑張ってるからお風呂とかあったとしてもなかなかねえ。贅沢言えば自分の使ってるやつ使いたいけどね」

「ふむう……」

「値段設定とか大変だろうけど、できればでいいからよろしくおねがいします! お弁当とか食べられるだけでもみんなすごく感謝してるから無理しない程度でいいから!」

「無理するつもりはないのでご安心を」

「うん。よろしくねー」


 参考になればいいかなと思って話していたのだけれど、思った以上に色々聞けたのはありがたい。

 やはりお客さんの生の声っていうのは大事だね。




 次の日も朝からたくさんの商品を売りさばいたあとは、机に外出中の紙を貼って四階層に向かう。

 帰るのは明日の朝かな。仕入れたお弁当がまだ残ってるし、採取をしておきたい。

 帰るときはチャリを使うので、採取するのはさすがに面倒すぎて無理だしね。


 四階層は深い森だけれど、六階層の熱帯雨林とは違った安定した気候なので、薬草類も果物も十分な量がある。

 ただ、採取をしている探索者はほとんど見ない。

 四階層といえどもここに来るまでが大変だし、基本が戦闘職ばかりで、やっぱり薬草類を見分けられないのだろうね。果物に関しては高い木の上の方にばかり成っているのもあって、普通に採取するのは大変だし。

 それに木に隠れて奇襲するモンスターもいるので、悠長に木を登って採取していたら、襲われて落下して大怪我を負いかねない。

 私が結界の階段で果物をとっていた頃にも、何度か木の幹に隠れて奇襲のタイミングを伺っていたモンスターを見ている。

 さらには果物は衝撃に弱いし痛みやすい。持ち帰るにしてもモンスターが襲ってくる環境ではなかなか難しいのかもね。

 今は引き寄せのおかげで散歩しながら確保できるし、収納空間に入れるから持ち運びに苦労することなんてないしね。


 一階層や二階層で採取できる薬草でも、四階層で採取したほうが品質が高いので、もしかしたら高値で買い取ってもらえたりするのかな?

 この辺はガイドブックにも載っていなかったし、確認もしてないや。

 買取カウンターでも見た目や状態なんかは軽くチェックされるだろうけれど、品質のチェックはできるんだろうか。こういうのは専門家や専用の道具がないと無理だと思うんだけれど。

 あちらでは普通に簡易鑑定の魔道具があったんだけれどね。こちらではどうなっているんだろう?

 まあダンジョンの数もそんなにあるわけじゃないんだし、支部くらいには確保されていても不思議はないか。

 そうじゃなければ深い階層で薬草とかを誰も採取してこなくなるだろうし。


 いやまって……。そもそも薬草類の採取自体があんまりされてないんだっけ……? これ、望み薄なのでは?


 まあ、一階層で採れる薬草と同じ買取額なら売らなきゃいいだけの話よね。そうなったら企業に話を持っていけばいいのかな? でもそんな伝手ないからなあ。

 だめそうなら収納空間で肥やしにしておけばいいか。


 それにしても四階層には薬草多いなー。

 低階層で採れる量の倍以上あるんじゃないかな。結構な量だよ、これ。

 こっちの探索者達も、もうちょっと薬草にも目を向けてくれれば研究も進みやすいだろうに。

 傷薬とかポーションとか、結局は自分達探索者が一番お世話になりやすいのにね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ