表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/21

012 チャリ


 前回の行商では、セーフティゾーンについたその日のうちに帰ることになったけれど、今回は大量に仕入れたこともあって、まだまだ売り物は残っている。

 なので、一泊して明日も販売してから帰ることにした。


 一応、このセーフティゾーンにいる探索者達の民度はそれなりにいいのは確認済みだけれど、だからといって無警戒で寝るなんてことはしない。

 パーティごとに散らばって固まっている探索者達だって、寝るときには防犯用の道具をしっかりと展開しているみたいだしね。

 まあそれでも交代で見張りを置いたりはしない程度には、他の探索者のことも信頼はしているご様子。

 みんな顔見知りって感じだしね。私は知らんが。


 翌日には、今日帰ることを伝えていたのもあって、みんな昨日以上にお弁当と飲料水を購入していく。

 昨日盛大にやらかしていた風の知らせの藤堂舞さんも、甘めの飲料水をたくさん買っていってくれた。さすがにこれ以上私用のデザートを買うのは心苦しいらしい。

 五十倍の値段なら売ってもいいんだよ? 買おう? ね?




 結局のところ、あれだけ大量に仕入れをしたお弁当はほとんど売り切れになってしまった。

 セーフティゾーンの室温は暑くもなく寒くもない適温と呼べるものだし、湿度も一定で過ごしやすい。それでもお弁当を長時間放置しておけるような環境ではない。

 でも、みんな大量にお弁当を買っていくのは、探索者はみんな大食いだからかな。

 戦闘や資源回収でカロリーをバカみたいに消費するおかげで、大食いチャンピオンかフードファイターかと思うくらいに食べるのだ。

 私? 私はほら、美少女だから。ね?


 そんなわけで、大量に購入したお弁当ももって今日の夕飯までだろうという話だった。飲料水はもうちょっともつだろうしね。

 なお、食中毒が出ても私は関知しないので、ご了承ください。


「またなー」

「次も頼むぜー」

「ばいばーい」

「皆さんも探索頑張ってください」


 朝の販売でお弁当が大体売れたから、私はそのまま帰還することにしたので、他の探索者達が探索の準備をしている間に出発する。

 まだ二回目の行商なのに、ずいぶんと盛況だったなあ。

 次の行商がいつになるかは神のみぞ知るって感じだけれど、なしになるってことはないだろう。


 私もこの行商を割と楽しんでいるからね。




 帰り道は前回と同じようにさくさくとまっすぐ戻ったので、あっという間にいつものネットカフェまで帰ってこれた。

 でも今回はすぐさまアニメの続きを見るのではなく、仕入れのためにお弁当屋さん各所に予約を入れておく。前回頼んだところなので、特に問題もなく予約をいれることができた。

 むしろ、二回目ということもあり、少しサービスしてくれるところもあった。なので、そういうところからは追加で味噌汁類やサラダなんかの単品系を注文しておいたよ。

 問題は、味噌汁はインスタントなのでお湯がいることくらいかな。次はポットにお湯入れて持っていこうかな。


 お弁当系の仕入れ準備は終えたので、あとはスーパーで飲料水を各種を箱買いしておけばとりあえずの用意は終わりかな。

 準備が終わればアニメを見つつ、続きの漫画をダウンロードしておかないとね。ダンジョン内に、ネットが繋がらないのがこれほど辛いと思ったことはなかったよ。ちゃんと全巻買っておけばよかった。古い作品とかは大体は全巻一括で購入してるのに、最新のやつとかは単品で売ってるのばっかりだからね。仕方ないよね。


 アニメや漫画の区切りがいいところでちょいちょい調べていると、デザート系でも大量購入を受け付けているところはやっぱり卸業者が多い印象だね。

 完成品ではなく、材料での販売が多いが、中にはちゃんと完成品を売っているところもあるので、そういうところに色々と注文してみた。

 残念ながら関東第二ダンジョンの近くには店舗がないので、配送してもらうことになるので少し時間がかかる。

 でも時間はあるから全然平気だね。特に今回は早めに動いてるし。




 仕入れたものが順調に配達されて、収納空間に仕舞う毎日を送っていると、とても久しぶりの感覚を味わうことが出来た。

 これは、魔法のレベルがあがったときに感じるやつだ。神域魔法を極めたとき以来だよ。

 私はどうにも神域魔法以外の魔法もスキルも習得することはなかったからね。実に数十年ぶりの感覚。


 レベルが上がったのは当然、空間魔法。

 Lv2になって習得したのは、引き寄せ。

 目視できる範囲にある物体を手元に引き寄せる魔法だね。


 しょぼいと思うことなかれ、実際これはとても便利な魔法なのだよ。何せ、寝っ転がったままジュースやお菓子を手元にもってこれるのだ。

 ……収納空間に入れておけばいつでも取り出せるだろって? うるせー! 便利なんだよ! あとはほら! あれだ! 薬草とか採取するときにしゃがまなくていい! ほら、便利! 高いところに成ってる果物とか結界で階段作らなくていい! ほら、すごく便利でしょ!?


 ……伝説クラスの魔法のはずなんだけれどなー。




 いや、思った以上に引き寄せ便利だわ。

 確かに収納空間に入れておけば取り出すだけだよ? でも全部が全部収納空間に入ってるわけじゃない。

 特に今いるネットカフェにある備品なんかは収納空間に入れるのは躊躇われるのだ。ここはお店であって、防犯対策に至るところに防犯カメラが設置されているのだ。

 ちゃんと店内ルールにも備品のアイテムボックスへの収納の禁止が明記されているし、私の場合は収納空間がそれにあたるよね。

 正確には違うとはいえ、収納空間をアイテムボックスではないと説明する気もない。それに、すでにお店の外でお弁当とか大量に収納してるから店員さんも気づいてるだろう。

 ますますルールを破るわけにはいかない。他にもネットカフェは何店舗かあるとはいえ、ここが一番ダンジョンに近くて快適なんだよね。

 そもそもとして、お店に迷惑をかけるのは違うから。


 あ、ちなみに、私の収納空間目当てに探索者や企業のスカウトが押しかけてくるようなことはない。

 ここは関東第二ダンジョン周辺にあるダンジョン街にあるネットカフェであって、多くの探索者が利用している場所。

 そんなところに勧誘やスカウトのために押しかけてくるようなことをすれば、それは明らかな迷惑行為に該当する。

 すぐ近くに支部もあるわけで、すぐさま通報されて様々なペナルティが発生することになる。


 探索者は政策の一環でとても優遇されている。

 だからこそ、勧誘やスカウトなんかは慎重を期さなければいけないのだ。過去に壮絶なスカウト合戦が大きな事件に発展したりして、厳しく取り締まるきっかけになっていたりもする。

 そんなことが面白おかしくネットニュースになって残っているからね。簡単に調べられるネットはとてもありがたいよ。

 あちらだったら書物を引っくり返して探し出して、さらには知りたい部分を探すためにとにかく読まないといけないからねえ。

 しかも手書きの上に決まった書き方もない、タイトルさえも独創性を見せている非常に探しづらく読みづらい本も多かったからね。あれは苦行だよ、苦行。




 三回目の行商に出発するまでにかかった時間は、前回よりは短かったと思う。

 まあ前回の準備の時間なんて覚えてないから適当だけれどね!

 それでも前回よりは割と意欲的に動いていたと思うからきっと早かったろうね。うん、たぶん。めいびー?


 全然売れなくて閑古鳥が鳴いていたなら話は別だけれど、セーフティゾーンにいた探索者が首を長くして待っていて、さらにはたくさん仕入れたほとんどが売り切れるほど大盛況だったのだ。

 次回の行商も望まれているし、これでやる気がでないのならそもそも行商に向いてないと思う。

 私は神域の聖女だからね。庶民や下層民の笑顔や感謝はやる気の素なのだよ。

 なお、悪徳貴族を始めとした敵の苦痛に歪む表情もやる気の素だよ!




 ところで、魔法やスキルには空を飛ぶ系統のものが限定的に存在する。

 有名所では風魔法による飛翔かな。風を操って擬似的に空を飛ぶんだけれど、高い技術が必要な上に魔力の消費も激しいなかなかに高難易度なやつ。

 レアなところではスキルに飛行があるけれど、こっちはあまり高度をあげられない代わりにかなり自由に動けるスキルだね。


 なんでそんなことを言ってるかといえば、今私はチャリでダンジョンの天井近くを走ってるから。

 私に飛行系のスキルや魔法なんかはないけれど、擬似的に空を飛ぶ方法は様々な手段があるのだ。


 その手段のひとつとして、私ができるのはダンジョンの障害物の上に結界を敷いて足場を作ること。

 私の場合は隠蔽で結界ごと私を隠せるし、上空から襲ってくるようなモンスターがいなければ大抵の場合、上には注意は向けない。それよりも注意しなければいけない箇所がたくさんあるからね。


 採取こそできなくなってしまうけれど、チャリで一直線に楽々階段の近くまでいけてしまうこの方法は、まさにダンジョン探索における革命! 私すごい!


 あっちにも自転車があったらよかったのにね。まあ、ないものはなかったのだから仕方ない。

 そもそも私がダンジョンに行ってたのって、ストレス解消のためだからモンスターをスルーしてたら意味なかったしね。


 普通に歩けば五階層にあるセーフティゾーンまで二泊三日かかるのに、障害物のない結界による道と、チャリの移動速度で倍以上の時短ができてしまった。

 まあつまりは、朝からダンジョンに入ってその日の夕方には到着してしまったのだ。

 いやあ、チャリは強敵でしたね。ずっと乗ってるとお尻痛くなっちゃう。


 ……これってバイクとか車だったらもっと早いんだろうね。まあ免許ないから買えないと思うけれど。いや、もっとスピードの出るタイプの電動や魔石バッテリー方式のやつなら買えるのかな? このチャリも一応は電動だけれど、スピードは出ないタイプだしね。覚えてたら探してみよう。




 チャリに乗ったまま階段を降りていくのお尻が死ぬけれど、結界を敷いていけば特に問題なく下っていけるのは実証済み。ちょっとスピードが出すぎて怖いくらいかな。

 特に五階層の階段は長いからね。あとは進行方向に探索者とかいたら危ないので良い子は真似しちゃだめだよ? 聖女のお姉さんとの約束さ!


 そんなこんなでセーフティゾーンまでの移動時間が大幅に短縮されたおかげで、広間に探索者たちが戻ってくる前にはお店の準備も整えることが出来た。

 なお、チャリはセーフティゾーンの広間まで乗ってきたあと収納したので誰にも見られていない。

 いくらなんでもダンジョンにチャリは目立つどころの騒ぎじゃないだろうしね。ここはたどり着くのも難しい関東第二ダンジョンの五階層なんだし。


 まだ夕方ということもあって、セーフティゾーンには誰もいない。

 前回は探索者達が帰ってきたのはもうちょっと時間が経ってからだったはず。

 ならばアニメを見ようかなと思ったけれど、今回はチャリでまっすぐきたので採取を全くやっていないんだよね。

 六階層にもまだ行ったこともないし、覗いてみて採取できそうな階層だったら少し探してみようかな。

 引き寄せもあるし、採取するだけなら時間もそうはかからないでしょ。攻略目的の探索でもないしね


 ボス部屋への回廊とは反対側の方に六階層への階段があるので、てくてくと向かっていく。

 さすがにチャリは使わない。一応初めての階層だからね。

 まあ、神域魔法の隠蔽はしっかりかけてあるので、モンスターにも探索者にも見つかる心配はないんだけれど。

 あ、ちゃんとお店には外出中の紙を貼っておいたよ。売り物も全部私の収納空間の中だから、盗られる心配もない。


 階段自体は短いもので、六階層にすぐに到着する。

 四階層が深い森だったのと比べると、森という言葉は一緒だけれど、六階層は熱帯雨林のようなタイプの森だね。

 一瞬だけ部分的に結界の快適性を切ると、熱帯雨林の見た目通りに蒸し暑くてひどい環境だった。この中で鎧を着て動き回るのは相当汗をかくことだろう。ここで資源の回収をする場合、水がとても大切になる気がする。下手すると脱水症状でそのまま、なんてことになりかねないし。

 まあ私には関係ないので、すぐに快適な結界に戻す。やはり神域魔法はさいつよだね。


 少し探索すると、出てきたモンスターは鉄でできた魔法生命体――アイアンゴーレム。でも見た目は様々で、獣型だったり、虫型だったりと熱帯雨林にいてもおかしくないラインナップだった。

 ……全部鉄だけれど。


 魔法の武器がない私にとっては、硬いやつは特に天敵なので戦う気すら起きないよ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ