99、偽の功労者
カシスにも見やすいようにと、セイラが大きな魔道具を出した。感謝祭の終わりを宣言する儀式が始まっている。
「中継されているのですか?」
「ええ、大勢が見たいから、闘技場が儀式の会場になっているわ。カシスさんとしては、嫌な場所だろうけど」
セイラは、穏やかな声でそう説明しながらも、画面から目を離さない。少し雑音が混じるが、音声も聞こえている。
壇上でしゃべっているのは、映像には映らないが男性の声だ。お決まりの挨拶をしている。そして、昨日の交流試合の優勝校に、何かが授与される場面が映った。その後には、別の数名が、何かを手渡されている。
(表彰式かな)
そういえば、秋の感謝祭では、新規転生者が参加するイベントがあると聞いていた。カシスは、交流試合があったため不参加だったが、そのイベントの表彰だろうと思った。
カシスは、おでこに貼り付いた冷たいタオルに触れ、そのぷにぷに感を楽しみながら、映像をぼんやりと見ていた。
「カシスさん、いよいよだわ」
セイラが、息を飲んだ。
熱で、ボーっとしていたカシスだが、今から道化師による宣言があるのだと気づくと、しっかりと見ようと映像に集中する。
『祭を司る精霊様から、終了の宣言をしていただきます』
セイラが音を大きくした。
(あっ! 道化師だ)
壇上にいる男性の横に、付き人のように立っているのは、乙女ゲームのエンディングの衣装を身につけた道化師ボックスだ。だが、拡声器の前にいるのは別の男性だ。
『終了の宣言の前に、別の功労者を紹介しなければなりません。一部の者達が、この世界を拓こうとしました。5つの石を集め、虹の塔にある鏡に魔石をはめ込むことで、エネルギーは未来へと放たれました。ただ、最後の石をはめ込んだ者と、この世界を築いた神は、対面しておりません。ここに来ていますね。壇上へ上がってください』
(えっ? それって……)
カシスは、セイラの表情の変化を確認しようと、映像から目を離した。セイラは動かない。だが、カシスが見ていることに気づくと、しゃべるなという合図をしていた。
王女も、無言だった。
儀式のときは、映像を見ている者がしゃべってはいけないのだと思ったカシスは、映像に視線を戻した。
紫の小径にいた精霊アーシェルが、人間が名前を出すと聞こえるから迷惑だと言っていたことを思い出したカシス。映像に、道化師ボックスが映っていたことから、話を聞かれてしまうのだと察した。この世界は、道化師ボックスの本の中だ。
『遠慮していて申し出ることができないようですね。レッドボックスとブルーボックスが、最後の石の捜索をしたようですが、この国のリーダーは?』
(えっ? セイラさんはここにいるよ)
映像には、赤い髪の男性と、青い髪の男性が映し出された。赤い髪の男性は、カシス達と一緒にガッシュ領に行ったレイルだが、青い髪の男性には、カシスは見覚えがない。
『おや? ブルーボックスのリーダーは、セイラさんじゃなかったのかな』
『俺は、隣国フォムスのリーダーをしているティックです。セイラさんは、急病人の手当てで離れられないので、代理を務めさせていただきます』
『急病人の手当てなど、いくらでも治癒魔導士がいるでしょう? 儀式に出席できない理由にはならない』
(ど、どうしよう)
カシスは、セイラに声をかけそうになったが、王女が無言で、カシスの口を塞いだ。カシスは、しゃべってはいけないことを思い出す。
『王宮からの要請です。昨日の交流試合に出場していた一人が、王女の専属執事だったそうです。彼は、昨日のアスナログス国の爆炎を受けた影響で、高熱を出していて瀕死の状態だそうです。新規転生者だから、表面の火傷の治療をしても、危険な状態が続いているとのことです』
(そこまで重症じゃないよね?)
『あぁ、第二王子が止めに入った試合ですか。タイミングがギリギリだったと聞いていますよ。表面の火傷を治癒魔法で治したことが、裏目に出たのかもしれないね。かわいそうに。それなら、セイラさんが呼ばれるのも仕方ない。本題に戻すが、功労者はどこにいるのかな』
壇上の男性は、レッドボックスとブルーボックスのリーダーの方に、視線を向けた。
(中継を見てますよ……)
『私です!』
『では、壇上へどうぞ』
(えっ? ユウリさん?)
レッドボックスのレイルが、目を見開いた姿が映っていた。壇上に上がろうとする彼女を制止するような合図をしているが、彼女は気にせず、壇上へ上がった。
それを見ていた人達が、ザワザワと騒がしくなっている。ゴシップ記事が書かれていたことで、彼女が功労者だと言う声も多く聞こえる。
(違うのに……)
『貴女は、黒い石の場所をレッドボックスに教えたのでしたね。最後の石も、貴女が発見したのですか』
『私の功績です。終焉の時期に入ったことで、魔石のエネルギーが増したため、わかったのです』
(嘘っ!)
セイラ達の功績なのに、横取りされていることに、カシスは強い怒りを感じた。
『そうでしたか。念のために、簡単な質問をさせてもらいます。貴女は、虹の塔に行きましたか?』
『私には魔力がありませんから、代わりの方にお願いしました』
『では、その方は、鏡の何番目に最後の石をはめたと話されましたか?』
『えっと、3番目だと思います。空きは、3番目だと聞いていましたから』
(違う!)
虹の塔にいた半透明なロザリーは、3番目の穴が空いていると言ったが、カシスが石の入れ替えをした。新規転生者にしか石の入れ替えはできないと言われたから、カシス自身が入れ替えをしたことを覚えている。
そして最後の紫色の石は、一番上の穴に、ラークがはめたのだ。




