111、エピローグ
今回で最終話です。
いつもの2倍くらいの量になっています。
それから、二年ちょっとの時が流れた。
カシスがウィルラーク王子との婚約を知った日、執事長から、王女の専属執事の仕事を解任されたが、今もカシスは男装して、王女ファファリアの専属執事を続けている。
王女は宣言通り、他の使用人は嫌だと、執事長を前にして泣きわめいたためだ。まさに、幼女であることを武器にした名演技だった様子。
二人は昨年の秋に、王立大学校の3年生を終了している。カシスは卒業したが、王女は4年生に進級した。ただ、冬は寒いからと、進級後は一度も通っていない。王女は、一人で通う気にはなれないらしい。
「カシスっ! 私の執事の仕事も、今日までになるわね。今まで、本当にありがとう」
「ファファリア様、こちらこそ、ありがとうございました。私に多くのことを教えていただきました。それに、いつもファファリア様の明るさには、癒されていましたよ」
「そう? でも、ちょっと寂しい気もするわね。たまには、男装してもいいんじゃない?」
王女は、カシスに無茶な要求をしていることがわかっている。だが、3歳の頃からずっとカシスが側にいたから、明日から生活が変わることに、大きな不安を感じている。
そんな王女の気持ちを、カシスは理解していた。前世の記憶があるとはいえ、王女はまだ6歳。国王や王妃とは別の建物で暮らす幼き王女にとって、カシスの存在はある意味、親代わりだった。
「そうですね。男装する日を設定するのも面白いですね」
カシスがそう返答すると、王女の目はキラキラと輝く。
「じゃあ、私も男装するよっ。ふふっ、楽しみね」
コンコン!
バンッ!
王女の部屋に、スグリット王子が入ってきた。ノック直後に扉が開かれるため、カシスは扉を開けることを諦めている。
「おっ! カシスが居た。今夜が最後なんだよな? 俺は、カシスがいる夕食後の時間が楽しかったぞ」
「スグリット王子、ありがとうございます。私も、スグリット王子の元気に、いつもパワーをもらっていましたよ」
「そうか? じゃあ、たまには男装してもいいんじゃないか? ファファリアはまだ子供だからな」
(ふふっ、仲良し兄妹ね)
同じことを提案する二人。カシスはどう答えるべきか悩み、王女に任せることにした。
「お兄様! 私は子供ではありませんわ。カシスに男装させようだなんて、どの口がおっしゃっているの?」
(あらら?)
「おふっ、悪い。だよな。だけど兄上も、ファファリアの部屋で俺達と一緒に紅茶を飲む時間が楽しいと、おっしゃっていたぞ」
「まぁ、ウィルラークお兄様がそうおっしゃるなら、カシスも考えてくれるかもしれないわね」
王女は、さっきまで話していたことを、兄には隠しておくつもりらしい。
「カシスっ、明日の結婚式は、お昼からなのよね?」
「はい、王宮内での儀式の後、中庭で撮影があるそうです。ウィルラーク様には、事前にお祝いのお手紙は届いているようですが、招待客はないと聞いています」
「そうよね。二番目の妃という扱いになるからだわ。第一王子であるクラークスお兄様のときも、最初の婚姻の時には盛大な宴が行われたそうよ」
「まぁ、仕方ないよな。そうしないと身分差があるから、カシスだけとの結婚はできないもんな。でも翌日には、冒険者仲間が二次会をしてくれるんだろ? 俺も、招待状をもらったぜ」
スグリット王子は、カードを取り出して、嬉しそうにしている。
「本当に祝う気持ちのある人に、お祝いをしてもらう方が楽しいわね。鍋屋は、明後日は貸し切りになるみたいよ。私も、セイラからご招待いただいたわ」
王女もスグリット王子と同じく、カードをカシスに見せて、ニヤニヤしている。
「はい。ただ、ウィルラーク様にとっては、複雑なんだろうとは思いますけど」
第二王子が冷徹で盲目の魔導士だという噂は、彼自身が何も変えようとしないため、そのまま続いている。カシスは、彼が辛いのではないかと感じていた。
銀色の仮面は、冷徹な人間であることを印象付ける道具として利用されることが多い。第二王子は、左目の赤い光を漏らさないために、魔道具でもある銀色の仮面を使っているが。
「うおっ! ファファリア、今夜の最終更新で、変な記事が配信されたぞ。何だ、これは」
カシスが考え事をしていると、スグリット王子が、タブレットのような魔道具を操作して叫んだ。すぐに王女が覗いている。
「暴露記事だわ! 亡霊結婚をした他国の貴族が、暴露したんだわ!」
(暴露記事?)
この二年間で、あの島の墓石のことはすっかり有名になった。身分差で結婚できない恋人達が、あの島に直接行くことも増えていた。サンサン家の別荘地だったが、今ではリゾート地になっている。
「カシスっ! 明日結婚する二人が、3年前に道化師の本を壊して世界を開放したと、書かれているわ。そして、第二王子は、その彼女と結婚するために亡霊結婚をしていると、暴露されているわよ」
「えっ……まさか、道化師が復讐に来たりしないですよね? でも、どこから漏れたのかな」
カシスの不安そうな表情を見て、仲良し兄妹は、他の記事を探し始めた。だが、他国の貴族が話していたことしか、見つからない。
「まぁ、大丈夫よ。きっと! 式には、セイラも参列するでしょ? だから大丈夫だよっ!」
「そうですね。では、そろそろ失礼しますね。ファファリア様、スグリット王子、これからもよろしくお願いしますね」
「明日からは、カシスは姉上になるんだな。なんだか、呼びにくいぞ」
「ふふっ、スグリット王子、呼び方は今まで通りで構いませんよ」
「そうねっ! カシスはカシスねっ。私のことは、明日からは、ファファリアちゃんと呼んでちょうだいっ」
「ふふっ、かしこまりました。では、おやすみなさい」
カシスは、専属執事としての最後の礼をして、王女の部屋をそっと出て行った。
◇◆◇◆◇
「カシス、白いドレスが似合っているよ」
「ありがとうございます。ラークさんも、白い礼服が素敵ですね。えっ? 銀色の仮面をどうするのですか」
儀式の直前の控え室は、執事長の計らいで、二人っきりの時間が設けられていた。左目に眼帯をつける彼を見て、カシスは首を傾げている。
「儀式の間は、銀色の仮面をつけるが、撮影は眼帯でと考えている。その方が俺達らしいだろ?」
ウィルラーク王子は、眼帯の上から、銀色の仮面をつけた。
「確かに、その方がラークさんですね。でも、仮面も見慣れましたよ?」
「そうか? だが昨夜、妙な記事が出ただろう? 撮影した画像は記事になるからな」
「道化師に復讐されないでしょうか」
「それはないだろ。今日はもう、本の神の箱庭の外だ。カシスの安全のために、この日を選べと、精霊様からの命令があったんだよ」
「あっ、女神フルンちゃん?」
「あぁ、精霊アーシェル様だ。あれ? 名を発音できたな。まさか……いや、ありえないか。気にしないでくれ」
彼が何を思い浮かべたのか、カシスにもわかった。だが、確かにあり得ないため、その考えを振り払う。
「お時間です」
「あぁ、わかった」
二人を呼びに来たのは、執事長だった。彼にとって第二王子は、最も気にかけてきた存在であり、第二王子としても、最も信頼する使用人だ。
「この日を迎えられて、爺は嬉しゅうございます」
「爺のおかげだよ」
ウィルラーク王子がそう返答すると、執事長は目に涙を浮かべていた。
◇◇◇
婚姻の儀式は、静けさの中、淡々と行われた。儀式に参列しているのは、近親者のみである。
国王と王妃そして第一王子は、最前列に並び、二人の儀式を見守っていた。カシスの両親も緊張した面持ちで参列している。また、セイラの姿もあった。記憶の引き継ぎがあるこの世界では、前世の近親者も儀式に参列する習慣がある。
婚姻の儀式の後、撮影のために、中庭に移動しようとしたとき、静けさは打ち破られた。
(ええっ!?)
中庭は、香水のような香りが満ち、紫色の花畑が広がっていた。そして、大勢の見物人が花畑に立っている。
「まさか……」
『ウィルラーク、カシス、おめでとう! 見物したい子がたくさんいたから、中庭を広くしておいたよっ』
目の前に現れた紫色の髪の少女。だが、いつもとは服装が違う。水色のふわふわなワンピースを着て、髪にも大きな水色のリボンをつけている。
「精霊アーシェル様、なぜ……」
『だって、私が最後の魔石を託したウィルラークと、私のお気に入りのカシスの結婚式でしょ。お祝いに来たに決まってるじゃない。私は、恋人達に祝福を与える精霊だもの』
「女神フルンちゃん、ありがとうございます」
『カシス、私が地上にいるときは、精霊アーシェルだよ。私の噂、まだイマイチなんだけど』
「ええっ? 申し訳ありません」
『あぁ、それから本の神のことなら、気にしなくていいよ。私の方が上位神だからね。あっ、そうだ。ここにお祝いに来た子は、よく聞きなさい。身分差に困っている恋人達は、紫の小径か、女神フルンちゃんの神殿のある墓石を探しなさい。じゃあね』
精霊アーシェルは、パッと姿を消した。どうやら、自分で宣伝に来たらしい。
「あ、殿下、撮影を……」
魔道具を持って、記録係が声をかけた。
「わかった。ちょっと待ってくれ」
ウィルラーク王子は、カシスの腰に手を回すと、集まった大勢の見物人をサーっと見回した。騒がしかった人達は、仮面王子を恐れて静かになっていく。
「王宮の中庭が、異常に広い花畑になってしまったな。先程の紫色の髪の少女が、最後の魔石を守っていた精霊様だ。そして昨夜暴露記事が出ていたが、私とカシスが、虹の塔で、鏡に最後の魔石をはめ込み、未来へエネルギーが放出された。事情があり、これまで申し出ることができなかった。申し訳ない」
ウィルラーク王子は、スッと頭を下げた。カシスも、それに合わせて頭を下げる。
「私は、彼女と結婚したかった。だが、形式だけの別の結婚をする気もなかったため、亡霊結婚を利用した。先程の精霊様が、私の願いを叶えてくださったのだ。身分差に悩む恋人達は、精霊様に相談してもらいたい。そして……」
ウィルラーク王子は、銀色の仮面を外した。大きなどよめきが起こる。冒険者ラークは、この二年間ずっと魔物のスタンピードの制圧に働いていたため、誰もが知る有名人だ。
「身体に異変の表れた者、魔物になるのではないかと恐れている者は、私がこの顔をしているときに相談に来てくれ。この顔は、プラチナカード冒険者のラークだ」
ウィルラーク王子は、魔道具を持つ者達の方をチラッと見た後、カシスの方を向いた。
「カシス、もう撮影は充分だ。逃げようか」
(逃げる?)
彼は、ニヤッと少年のような笑みを浮かべていた。
「それは、いろいろと無礼というか失礼にあたるのでは……」
カシスは、常識的に返答したが、すでに転移魔法の光に包まれていた。
◇◇◇
「はぁ、疲れたよな」
「ラークさん! まずくないですか? 国王様もおられたのに、参列してくださった方々も置き去りにして……」
「いいんだよ。これで、俺のイメージは、ガラガラと崩れただろ? 冷徹で規律に厳しいとか言われてたからな」
「崩れ過ぎですよー。というか、ここはどこですか」
カシスは、窓の外を見たが、知らない森の中にポツンと立つ建物にいるのだと感じた。
「新しい隠れ家だよ。あの島は、観光地になったからな。あの島のすぐ近くの小さな島だけどね」
「ええっ? 島を買ったんですかー?」
「ここは、セイラにもバレてない。あの島も、最初は誰にもバレてなかったんだけどな」
「ラークさんは、秘密の場所が好きなんですね」
「あぁ、ロマンがあるだろ? 明日まで、ここで隠れようぜ。とはいっても、屋敷には使用人が居るけどね。だから生活に必要な物は揃っている」
彼は、部屋のクローゼットを次々と開けた。女物の服も、いろいろと揃っている。
「じゃあ、使用人に挨拶は……んっ」
真面目な話をするカシスの口を、ウィルラークは自分の口で塞いだ。
「そんなことより、さっさと着替えて、外に遊びに行こうぜ。夕方の海岸は、とても美しいんだ。まぁ、ここで、大人の遊びをしても……イタタ、引っ張るなよ」
「ラークさん、挨拶は、ちゃんとしましょう」
「嫌だね」
ふてくされたような表情で、ベッドに大の字になるウィルラーク王子。おそらく、拗ねたフリだろう。カシスが近寄ってくるのを待っている。
(ほんとに、もうっ)
この後の展開が予想できないほど、カシスは子供ではない。カシスは、彼の横に腰掛け、そっと彼の髪を撫でた。
ちっちゃな王女の執事になってから、ずっと、彼に守られていたことをカシスは思い返していた。これからは、ずっと、彼と共に生きていきたいという願いを込め、彼のおでこにキスをする。
「カシス、キスの場所を間違えてるぜ」
「今のは、これでいいの。ずっと一緒にいられますように、という願掛けだから」
「これからも、ずっと大切にするよ」
彼の腕にすっぽりと包まれたカシス。その温もりに、大きな幸せと安心感を感じていた。
皆様、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
本作は、出会いから順に書いていたため、また二人とも鈍感なタイプとして描いたため、序盤は特にイライラされた方もいらっしゃったかと存じます。それでも、最後までお付き合いいただいた皆様には、感謝しています。本当にありがとうございます♪
アリ(´・ω・)(´_ _)ガト♪
それと、付けていただいていたブクマは、枠に余裕がありましたら、そのままにしておいていただけると嬉しいです。
次作につきましては、今、プロットを作成中です。今回は、第二王子の隠しごとを伝えるために、慣れない三人称で書きました(やはり私は三人称は下手くそすぎる。すみません)が、次作は一人称で書いていきます。また乙女ゲーム世界ですが、少し変わった感じにしたいと思っています。
公開は、4月を予定しています。また活動報告でお知らせします。よかったら覗いてみてください。
後書きも最後まで読んでいただき、ありがとうございました。 また、他の作品でも、お会いできれば嬉しいです♪




