第17話(累計 88話) 狙撃手をしばき倒したミア。
「オジサン、やっぱりお家に帰りたいの?」
ミアは犯人に対し同情し、涙をこぼしながら問い詰める。
「……帰りたいに決まってる。娘に会いたい! だから、オマエを殺す!」
追い詰められた狙撃犯。
叫びながら機械仕掛けの紅い眼をミアに向け、手に持つ短機関銃の引き金を引いた。
「あ、危ないよぉ」
ヒールで石畳を踏みしめて、向かって右斜め前に高速ダッシュをするミア。
身体強化魔法を最大限使っているので、まるで瞬間移動の様に金色の残像を残しつつ弾丸の雨から逃れる。
「ちきしょぉぉぉ!」
両腕で銃を持っていたために、ミアの動きについていけない犯人。
銃床を握っていた左手がジャマになり、無理やり右片手で短機関銃を振り回した。
「お! お! ちょい、当たっちゃうよぉ」
乱射される弾を避けるのに、ドレス姿で転げまわるミア。
徐々に前に進み、犯人まであと数歩の間合いまで踏み込んだ。
「くそぉぉ。死ねぇぇ!」
弾切れしたらしく、撃てなくなった短機関銃を投げ捨てた男は腰から拳銃を抜き、目前のミアに突きつけた。
「くぅぅ」
とっさに顔を腕で庇うミア。
流石に至近距離からの銃撃を避け切れず、豪華なドレスの腹部に銃弾を複数受けた。
だが、倒れないミア。
苦痛の声を上げつつも、犯人に接敵。
「おじちゃんのバカァァァ!」
「ぐわぁぁぁ」
バカと叫びながら、渾身の力で犯人の頬を平手打ちした。
身体強化状態なので、平手打ちでも吹っ飛ぶ犯人。
くるくると回転しながら、地面にぶつかった。
「はぁはぁ。ああ、痛いよぉ。せんせーの嘘つきぃ。」
撃たれた箇所を左手で抑えながらも、倒れずに文句を言うミア。
「ど、どうして……」
平手打ちされた頬を激しく腫らしながらも起き上がる犯人。
撃たれたミアが案外と平気そうなのを見て、不思議そうな声を出した。
「あ、これね。せんせーが銃で撃たれても大丈夫だよってドレスに仕掛けしてくれたの。確かに弾は止まったけど、痛いんだもん。せんせーのウソつきぃぃ」
ミアが抑えていた手を身体から離し、隠し持っていた魔法棍を伸ばす。
撃たれたドレスに腹部に穴は開いていたものの、鮮血は全く見られない。
穴の奥、コルセットと周辺には、沢山の絹布や膠で強化された紙が見えた。
「まさか、防弾チョッキかぁ!?」
「うん、せんせーもそう言ってたよ。らいふる銃ってのだったっけ? 大きな銃の弾は止まらないけど、拳銃とかフリントロック銃の弾なら防げるって話。痛いってのは教えてくれなかったもん、ぷんぷん!」
拳銃も吹き飛ばされ、頭をゆらゆらさせる犯人。
「く。し、視界が……。あ、頭が揺れて……」
「あとね。顎を狙って殴ったら脳震盪を起こすってのも、せんせーに教えてもらったの。さっきの攻撃、かなり効いてるよね、オジサン」
脳震盪を起こした犯人は、身体を揺らす。
立ち上がろうとするも、すぐに膝を着いてしまう。
「さあ、これでチェックメイト。大人しく捕まってね、オジサン」
その様子を見て、挑戦的な笑みのミアは犯人に近づいていく。
「く、くそぉぉ!」
男は左手を、すぐそばまで迫ったミアの顔に向けて突き出す。
左手の手首がガクンと折れ曲がり、腕の中から銃口が飛び出す。
「死ねやぁぁ!」
ミアの顔に銃弾が発射された。
「まったく油断も隙もないなぁ」
だが、当たるはずの弾丸はミアの残像を貫く。
後ろから聞こえた声に驚き振り向いた男のこめかみと顎、鳩尾に連続して強烈な打撃が当たる。
また機械仕掛けの左腕、肘関節から先が折れ吹き飛ぶ。
「ぐはぁぁ」
「いい加減倒れてよねぇ。ホウライ棒術『百雨』!!」
犯人はミアからロッドによる激しい連撃を受け、今度こそ意識を手放しバタリと倒れた。
「ふぅ。せんせーに色々教えてもらってて良かったのぉ。さいぼーぐさんなら、手から銃が出るかもって。でも、防弾しても痛いのは教えてくれても良かったのにぃ」
集まってくる兵士によって捕縛されていく犯人を見ながら、安堵し腰を抜かすミア。
銃弾を受けた腹部をさすりながら、自分に治癒魔法を使う。
……自分でサイボーグになったって自白しているんだもん。ボクを甘く見過ぎだよ、犯人のオジサン。
フィンから犯人についてプロファイリングした内容をミアは教えてもらっており、視界外からの狙撃よりサイボーグ化されている可能性を聞いていた。
実際、犯人の眼が機械仕掛けだったうえに、サイボーグだと自白していたから、腕に仕込みがあるとミアは予感していた。
「兵士のおじちゃん達、大丈夫? 撃たれた人には、もっと強い治癒魔法を使おうかな?」
ミアは周囲を見回すが、倒れていた兵士らが全員立ち上がっているので笑みを浮かべる。
「大丈夫みたいだね。でも弾丸残っていたら大変だから、撃たれた人は治療院には必ず行ってね。あー。せっかくのドレスが台無しなのぉ」
ミアは、自分の姿を見下ろす。
貴族令嬢らしさの全くない汗まみれの顔。
せっかくの化粧は、完全に剥がれている。
マリーに用意してもらったお気に入りのピンクなドレスは泥だらけ、切り裂きだらけで、トドメに腹部には穴が大きく開いている。
付け爪をしていた手は、ボロボロ。
足元のヒールは踵が折れているし、靴擦れで足が痛い。
「ボク、またやっちゃったなぁ。せんせーや皆に叱られそう」
遠くからミアの名を呼ぶ声が聞こえる。
ミアは声の方角に顔を向ける。
強化した視界に、愛する先生の顔が見えた。
「せんせー! ボク、勝ったよ!!」
ミアは手を大きく上げ、令嬢らしからぬ大声でフィンに勝利宣言をした。




