第10話(累計 81話) フィンは物理学で狙撃手と戦う。
「せんせー。まだ外に出ちゃダメェ?」
「ミアくん、狙撃された翌日にこれはないだろう!? キミは銃弾が怖くないのかい?」
狙撃された翌日。
フィンやマリーらに神殿から出るなと言われたミアは、不機嫌モード。
両親の心配も他所に、外に出たがる。
「そりゃ、怖くないっていったらウソになるけど。でもね、せんせーだけ外に出す方が怖いんだ、ボク。せんせーに何かあったらと思うと……」
「私の心配をしてくれるのは嬉しいよ、ミアくん。だがね、敵は明らかにミアくんを狙っている。そりゃ、私もミアくんを苦しませる為の贄程度には思っているかもだけどね。だが、誰かが動かなくてはならん。実はね、昨日の狙撃現場を調べてくれたマリーから続報が入っているんだ。それを現地で確認してくるよ。この通り個人バリアーはいつも張っているからね」
フィンはミアに防御結界を張れる魔道具を見せ、なんとか説得。
神聖騎士団から一人護衛を借りて、マリーが待つ現地に向かった。
◆ ◇ ◆ ◇
「お兄様、ご苦労様です」
「なに、大変だったのはミアくんの説得くらいだよ。さて、何を見つけたのかい?」
昨日ミアが狙撃された現場にフィンが到着すると、日傘を差したマリーが老執事、そして小数ながら兵士を従えて待っていた。
「これですの。この穴が着弾点。そして、中からこのような『金属棒』が出てきましたわ。セバス、お願いします」
「はい、お嬢様」
マリーは閉じた扇を地面に空いた穴に向け、老執事は白い手袋の上に細長い金属物をフィンに提示した。
「これは銃弾。それも後込め、ライフリングがあるものだ。ん、大きさからして口径十ミリ以上の弾丸。対物ライフルの類か?」
フィンは老執事から弾丸らしきものを手袋越しに受け取り、詳細に観察する。
爆弾被害にて掘り返されていた柔らかい地面に着弾した弾丸は、大きく変形もせず細長い椎の実型をしている。
また、その横腹には螺旋が刻み込まれていた。
「やはり、これが銃弾でしたの。普通の丸い弾とは全然違うので、お兄様に確認してもらって良かったですわ」
「これは、私の前世世界での弾丸に類似している、とは思う。残念ながら、私の生きていた『国』では身近に銃は無く、銃弾も本やネットの写真でしか見たことが無い。なので推測に過ぎないが、間違いあるまい。球形弾丸では一キロも遠方からの狙撃は不可能であろうし」
フィンは虫眼鏡を懐から取り出し、じっと弾丸を観察。
少しでも情報を得られないかと調べる。
「ふむふむ。先端の被覆部分が剥げていないから、フルメタルジャケットかぁ。となれば軍用? 確か、兵士さんの噂話に対物ライフル用の多目的弾があったって聞いた覚えが。そんな弾だったら、いくらバリアーを張れてもミアくんが死んでしまうぞ」
「お兄様。お兄様ったらぁ! また謎のお言葉を沢山お話しになられていますが、これはお兄様がご存じな弾丸ですの?」
弾丸を前に考え事をしながら、ぶつぶつと呟くフィン。
マリーは、このままでは兄が毎度起こす過集中モードに入りそうだと思い、兄の肩に手を置き問いかけた。
「あ! すまない、マリー。すっかり集中してしまっていた。確証は持てないが、おそらく私の前世世界で使われていた物と同類のものだろう。で、何処から狙撃されたかだが……。今度は、地面に空いた穴を見せてくれないかい」
「ええ、お兄様。こちらですわ」
フィンがマリーの指さす方向の地面に視線を向けると、そこにはクレーター状に穴が開いていた。
「弾丸を取り出すのに、土を取り除いたのかい? あと、弾は素手で触った人は?」
「土は少しだけ掘りましたの。ですが、大半はそのままですわ。着弾方向から射線を見る事は鑑識を行った者にも伝えていましたし。もちろん鑑識者は全員、手袋を装備ですわ、おほほ」
フィンは、背中に背負ったバックから細い金属棒を取り出す。
そして土を崩さないように、そっと穴へ棒を差し込んだ。
「射線は、こうか。ならば……」
兵士やマリーが見守る中、フィンは再びバックから定規らしきものを取り出し、地面から出ている棒の角度を計測した。
「ふむふむ。では、こうなるか……」
フィンはバックから取り出した植物紙ノートを開き、計測した結果を書き込む。
そして、簡単な図を書いた。
「風の影響や天体自転の『コリオリ力』は……。緯度が正確に分からんから、コリオリは概算値。王国の位置は北半球だから、一キロメートルごとに右に八十センチほど逸れるくらいで計算しよう。風は確か無風に近かった。天体の大きさと重力加速度も、概算値。『地球』と同じで出すとして……。射線上に塔のような高い建物が無いし、まさか空中から発射も無いだろう。なれば、ある程度『放物線』を描く砲撃の様に計算して……」
フィンは、再び過集中モードに入る。
マリーも今度はフィンのジャマをしない。
兄がこのような状態になった時、マリーには想像もできない答えを導き出すのを幼い頃から幾度も目撃していた。
それが、フィンの前世で受けてきた高度な教育による物であるのを知ったのは、かなり後であった。
「良し! 分かった。おそらくだが、敵はここから北西西の方角。1.5キロ程離れた場所から砲撃をされたと思われる。マリー、その場所あたりに何か建物とかが無いか、確認してくれないかい?」
「分かりましたわ、お兄様。でも、ものすごいですわね。弾丸と穴から狙撃場所を計算なさるなんて!」
「まあ、昔。いや、前世の学校で習った『ニュートン物理学』を生かしただけさ」
マリーに褒められるも、フィンの顔色は優れない。
想像よりも遠距離、高度な科学技術を持つ者からミアを狙撃された意味を理解したからだ。
「『結社』は、異世界から自由に戦力すら呼べるのか……。私はミアくんを守り切れるのだろうか?」
フィンは春の晴れ渡った空を見上げ、呟いた。




