第26話(累計 70話) まだまだ脱線するミア。
「えっと、せんせー。学長さんに憑いてたのってレイスじゃなかったんだね」
「そうだね、ミアくん。レイスは失われた古代魔法、幽体離脱したまま元に戻れなかった存在。だが、学長ら星振の精らは科学技術で『量子化』、幽体化したものだったのさ。長い間、実体を持たなかったために変質して、魂を喰らう存在になったのは同じなんだけどね」
フィンは学長らに宿っていた存在について語る。
彼らは滅亡する故郷の星から離れる際、自らの身体を量子化。
電子の集合体に変換した。
物理の身体では光速を越える事は難しく、宇宙放射線問題もあったからだ。
「身体を失った魂は、存在が不安定になる。これは、私の前世世界にて仮説が既に言われていたよ。魂はそれが宿るモノと一体でなければならないってね」
「お兄様の話は難しくて半分くらいしか分かりませんでしたが、可哀そうな存在であったのは理解しましたわ。それが流れ着いて『結社』の配下になり下がったのが今回の事件でしたのですわね」
「そういう事だ。侯爵はどうなったのかい、マリー」
「アタクシが会談を申し込む前に、自分の領地に帰られてしまいましたわ。流石に物的証拠がない段階では、無理やり捜査や逮捕という訳にもいかずですの。陛下には一言告げましたけれど」
「ボクなら直接乗り込んで、直談判して逮捕しちゃうのに?」
ミアは単純に悪い奴らは捕まえるんだと言うが、物事はそんなに簡単ではない。
証言、それも異世界から来た異物が最後に語った戯言が何処まで信用なるのか、となる。
「ミアちゃん、それは無理な話よ。残念ながら平民を捕まえて拷問して証言を得るみたいな時代錯誤は置いといて。貴族、それも侯爵さまクラスになると、確実な証拠がないと任意同行どころか、話を聞きにお伺いするのもムリですわ」
「むぅぅ。面倒なのぉ」
マリーは、むくれて文句をいうミアの頭を撫でながら侯爵に迫れない理由を話す。
いかな、宮中伯であろうとも貴族をいきなり犯人扱いは出来ないのだから。
「この世界は既に人治主義から法治主義に移行しかけている。いつまでも王族や貴族が幅を利かせる訳でもないし、彼らとて法律に縛られる。ミアくんのカンで犯人を追い詰めるのも根拠なしでは、逆に法律違反になるよ」
「せんせー。どうやったら侯爵を捕まえられるの? 絶対、あやしいんだもん!」
だが、ミアは侯爵を捕まえる事をあきらめない。
「そうはいってもなぁ、ミアくん。証拠がないと……」
「あ! せんせー。証拠ならあるの! 司書さんとかの遺体は残っているんでしょ? 学長さんは完全にご遺体まで浄化しちゃったけど、残っているご遺体に証拠があるんじゃ!? ご遺体に『語って』もらっちゃお」
証拠がないとフィンが言うと、ミアは遺体が残っていると言い出した。
そして遺体を解剖して、証拠を見つけるんだと言い出した。
「残念だが、既に遺体は解剖済みだよ。ミアくんやマリーが忙しくしている間に、先に処置しておいたんだ。ご遺体を長期間保管するのも問題があるし」
「あー。またボクを仲間外れにしてクロエちゃんと一緒に仕事したんだ―。もー、せんせーのばかぁぁ!」
忙しいミアらの手間を取らせる必要は無いと、フィンはクロエに頼んで先に解剖を終えていた。
だが、これが焼きもち焼きのミアの逆鱗に触れてしまい、ソファーの上に置いてあったクッションをフィンに投げつけだした。
「ちょ、や、やめてくれ。わ、悪かった。こ、今度からは必ず声を掛けるから」
「ミアちゃん、今回は許してあげましょうね。アタクシが貴方を使ってましたし」
「むぅぅ。しょうがないから許してあげるの! お姉さまも、お忙しかったし。でも、知った時びっくりしましたぁ。お姉さまが警察機構のトップだったんですもの」
マリーが暴れるミアの肩をポンと叩き、落ち着くように話しかける。
実際、ミアはマリーの仕事の補佐をしていたため、フィンの判断は間逢っていなかったのも事実。
怒ってもしょうがないと、ミアは納得した。
「警察機構を作るのはお兄様のアイデアなの。お兄様が家を出る少し前でしたかしら? 新たに宮中伯直属の公安組織が欲しいとアタクシは思っていまして、お父様とお話していましたの」
「そこで、聞かれた私は前世世界での警察を紹介したのさ。軍とも騎士団とも違う形の公安。王国の民衆を守り、更に王国内に潜むテロリストを洗いだす組織をね」
「そーだったんですね。あ、もうその時にお姉さまが宮中伯をお継ぎになるのが決まっていたのですか?」
マリーとフィンは警察組織設立時の事を話し出す。
王国内には軍、そして王直属の親衛騎士団。
更に神殿の神聖騎士団が存在し、それぞれが別の指揮系統の元、王国内の平和を維持していた。
「そうなの、ミアちゃん。お兄様は学院へ就職が決まってましたわ。警察を作る際に軍から一部兵士お借りしましたが、最初は勝手が違うので困りましたの。組織がきちんと動き出したのがミアちゃんが就職する少し前。王都下町が平和になったのはミアちゃんのおかげね」
「えへへ。ボク、皆の笑顔が大好きなの。だからね、今は警官をしているのが楽しいの」
「うんうん。実に良い話だな」
また話が脱線し始めたので、フィンはこのまま解剖については話さないですみそうだと思った。
「で、お兄様。解剖結果はどうなりましたの? 逃がしはしませんですわ」
「そーだった。何かはぐらされそうになってた! せんせー。もう逃がさないもん」
だが、それはフィンの甘い夢だった。
「ふぅ。では、話すぞ。だが、あまり面白い話では先に言っておくぞ」
フィンは老執事から茶を貰い、喉を潤して解剖結果を話しだした。




