第17話(累計 61話) 誰が彼を殺したのか。検視へ。
「くそぉ。後、もう少し救命が早ければ……。どうして私は間に合わなかったんだ! こんな思いをしたくないから、こっちでは臨床をしなくなったのは間違いだったのか!」
神殿の応接間。
豪華そうな机に頭を打ち付けるフィン。
目の前で倒れた患者に対し、救命できなかった事を悔やみ吠える。
「せんせー、ボクが悪かったの。もっと早く救命を開始していたら。そして、先に魂固定魔法を使っていたら、魂が離れずに蘇生魔法もお願いできたのに……」
「お兄様。それにミアちゃん。過去を反省するのは良いですが、悔やんで後悔してもしょうがありませんですの。冷たい言い方になりますが、ルフェーヴル2級教授さまは、う、運が悪かった、更に警戒が足らなかったのですから……」
マリーは口元を扇で隠しながら、二人を慰める。
しかし、彼女の顔も普段の笑みが無く、悔しそうな表情をしていた。
「2級教授は本当に運が悪かったのか? あまりにピンポイントで彼は倒れたんだぞ。それに彼の研究成果は学院に奪われてしまった。まるで学院から殺された……」
フィンは亡くなった彼が最後に話そうとしていた事。
ティエレ村での研究結果が学長によってもみ消されていたことから、学長ら学院が口封じをしたのではと思う。
若い彼が突然死する病を起こす可能性は低い。
毒や魔法、なんらかの方法で暗殺されたのではと思い込んだ。
「せんせー。せんせーは、ボクみたいに早とちりしちゃダメだよぉ」
だが、暗い顔のフィンに寄り添うミアは、フィンの思い込みに意見を言った。
いつも自分がフィンに苦笑しながら言われている言葉を。
「そうですわ、お兄様。幸いと言っては何ですが、ご遺族の意向とアタクシの権限を最大限に使い、ジュール・ルフェーヴル2級教授のご遺体はこちらで確保できましたの。お兄様とミアちゃんは二人の戦い方で彼の無念を晴らすのです。アタクシもアタクシの戦いをします!」
そしてマリーも大事な二人を励まし、戦う道を指し示す。
自分も戦うと宣言して。
「……私もまだまだだなぁ。教え子や妹に教えられたよ。ああ、私は私の戦い方。医学の面から彼の死の謎を解く!」
「ボクも頑張るよ。事件の時、何回か変な感じがしたんだ。それが何なのか、学院の中で聞き込みとかするね」
「アタクシもですが、お互い安全には気をつけましょう。もう、学院は敵地と思いましょう」
「では、皆様。食事もまだでしょう。私が準備いたしますので、ご一緒に食事をしましょうね」
三人は自分の行動を決定し、それを暖かく見守る老執事は若者たちに食事の準備をすべく行動を開始した。
「セバスさん、きょーの晩御飯は何なの? ボク、気が付いたらお腹ぺっこぺこなの!」
「はぁ。ミアくんは元気だなぁ。私は食欲があまり湧かんぞ」
「そこがアタクシの可愛い義姉、ミアちゃんなのよ。うふふ」
ミアはわざとらしく元気にふるまう。
これ以上命が奪われる事が無いよう、そして悪に立ち向かうために。
……ジュールお兄さん。ボク、貴方の無念を晴らしますね。
◆ ◇ ◆ ◇
「では、検視を始める。今回は司法解剖、更に秘匿すべき情報も多いので、ごく一部の人員のみで行う。クロエくん、ミアくん。今日は私が施術を行うので、補佐を頼む。マリーは記録を。セバスさんは皆さんの補助と緊急時の対応をお願い致します」
神殿内の解剖室。
各自、白衣やマスク、防護眼鏡をかけて揃う。
普段であればフィンの研究室の学生が補助、学院や警察から観察者たちが解剖見学に参加する。
だが、学生を危険に巻き込みたくないフィンの思い。
更に学院上層部は敵の可能性が高い事もあり、今回学院からの参加者は無い。
警察関係者もおらず、更に神殿からも小数の参加になっている。
「フィンくん、ここの警備は俺に任せておけ。後、荷物持ちくらいなら手伝えるぜ」
神聖騎士団長もミアとフィンを守る為に、態々解剖室まで来てくれていた。
「ふぅ。では、まず衣服を剥ぎます。セバスさん、お手伝い頼みます」
「はい、坊ちゃま」
解剖被験者が男性の為、フィンは老執事に衣服を脱がせる手伝いを頼んだ。
「これは! 坊ちゃま」
「ああ、死因がほぼ分かったよ」
金属製の解剖台の上、布に隠された局部以外の肌を晒されたジュール。
その遺体の肌には、特徴的な傷跡が残っていた。
「せんせー。これ、痣なの?」
「いや、これは死因となった原因の証拠。感電した際に起きる『リヒテンベルク図形』。おそらく2級教授は感電死をした可能性が高い」
痩躯の青年の遺体。
彼の脚から胴体、そして両腕まで、木の枝が細かく分かれたような赤い跡が広がる。
よく観察すると、足の裏と両掌に文様が集中している。
「お兄様、その文様とはどういうものですの? 感電とは?」
「そうだね。ここにいる人は全員私の『秘密』もご存じ。なら、手加減無く解説しよう。科学文明がまだ未発達のこの世界では電気は魔法による雷撃、もしくは雷しか見たことがないだろう。この傷跡は、高電圧の雷撃を受けた際に起きるものだ」
初めて見る事象なのでマリーはフィンに尋ねる。
フィンは周囲を見回し、全て自分の秘密を知っていても普通に接してくれる人ばかりなので、前世知識を語りだした。
「あれ、せんせー。クロエちゃんにも『秘密』の事を話したの?」
「お話しなくてごめんね、ミアちゃん。アタシ、霊暗室担当になって先生から医学的な事をもう一度習う時に『秘密』を聞いていたの」
「あー! もしかして、ボクより先にせんせーの秘密をしってたの! せんせー、説明してくれるぅ!?」
ミアはクロエが自分よりも先にフィンの秘密、前世の記憶を持っている事を知った事に怒りを覚え、フィンに迫る。
「え、えっとぉぉぉ。ミ、ミアくん。先に解剖をしてから話すから、それで良いかな? ジュールさまをこのままにしておくのは流石に可哀そうだし……。ダメかな?」
「ダメなのぉぉ! ボク、せんせーの事が信じられなくなるのぉぉ!」
解剖室に乙女の叫びがとどろいた。
……ぷんぷん! 話次第じゃ、ボク。せんせーを許せないもん!」




