第15話(累計 59話) 血の研究発表会。
「……ということで、古代魔法、伝統魔法、現代魔法にはそれぞれの間に隔絶がありまして、現代魔法は効率的かつ世俗的ではあっても融通性、発展性に欠けています。逆に伝統魔法は融通が利いても、使いこなすことが難しい、更に古代魔法に至れば、今やだれも使えません。これは使用者の腕、というより人種的差にあるのではと私は思っております。超古代文明人と我々、現代只人族では姿は類似していても種族としては別。エルフ族に対するハイエルフという存在ではないかと、各種歴史記述や科学的見地から類推できます」
講壇の上で、朗々と語りだすジュール・ルフェーヴル2級教授。
彼が専門とする現代魔法と、これまでの魔法を比較。
そこから使い手の違いもあるのではと、歴史や科学面から解説をする。
「せんせー。難しくてお話の半分も分からないの? 現代魔法って誰でも詠唱を覚えたら簡単なものは使えるから便利だよね?」
「ミアちゃん。それは貴方みたいに才能、というか素質がある子のお話よ。神聖魔法に魔術師魔法、そして戦闘に対する才能があるミアちゃんは特別なの。こういうのを『裕福な素質』というのでしたかしら、お兄様」
ミアは、これまで聞いた経験がない学術発表に四苦八苦。
彼女の知識を越えた話をするのだが、その中でも己が現代魔法を使える事について小声でフィンに聞く。
だが、比較的簡便な現代魔法ですら、使いこなすには素養、才能が必要。
魔力の取り扱いに長けたミアは、普通ではないと魔法は使えても戦えないマリーは愚痴る。
「確かにミアくんは、才能の固まりだよ。ティルムガット帝国の初代皇帝、『英雄皇』陛下はミアくん同様に魔法と武術、双方に長けていたと伝説にある。おそらく、彼はジュール殿が語るところの超古代人の血を濃く継いでいたのだろう。なれば、彼の血族、末裔たるミアくんが才能豊富なのは遺伝的にもありうる」
「せんせー! ボクを褒めても何も出ないよ。あ、キスならしてあげるぅ」
フィンは医学者らしくミアに彼女の才能が血、遺伝によるものだろうと語る。
ただ、それを受けたミアは、毎度のように調子づく。
「ただ、英雄皇陛下と違い、我らが姫騎士さまは頭が少々残念。淑女には程遠く、我々も教育に苦労している訳だ」
「あー! せんせー。ボクをまた馬鹿にしたのぉぉ!」
そんな残念娘のミアをフィンが窘めると、ミアは講義中でありながら、座席から飛びあがって大声で叫んでしまった。
「ミアくん。今は講義中。少ししずかにしなさい」
「あ! ごめんなさぁぁい」
ミアは周囲の学生たちにも睨まれ、ペコンと頭を下げた後にしゅんと席に着いた。
議場のジュールもミアに視線を向けて、苦笑しつつウインク仕返したのは彼自身ミアには好意があったのかもしれない。
「さて、この超古代人ですが、エルフやドワーフなど古から存在する人類種が生育していたこの世界に、突然空の彼方から舞い降りてきたそうです。その後、己の写し見。労働力として只人を作られた。そう、古代神話にあります。また只人やエルフ、その他人類種とも血縁を結び、我々の中にも彼らの血が残る。といいますのが、科学分野から最近分かってきました。両親と違う種族の取り換え子が生まれるのも、先祖から受け継いできた血が発現したからです」
「それって、せんせーの事だよね?」
「ミアくんのことでもあるな」
ジュールは魔法から離れて、生物学。
遺伝の事について話し出す。
ミアもフィンも、お互い自らに流れる血によって運命づけられているので、他人事ではない。
「このような生命の神秘にかかわることは、これまで禁忌として研究が避けられていました。ですが、ある一派は極秘に血の秘密、遺伝について研究をしており秘匿していました。それが先日明らかになったティエレ村での事件です」
ジュールは懐から「ある本」を取り出し、解説をしながら観衆の前に提示した。
「あの本は!」
「せんせー! あれって事件の時に見つけた『図鑑』なのぉ!」
「あの本、翻訳途中に学長が禁断の書物だと押収したという話でしたわ!?」
フィン達は驚く。
ジュールが示した本は、異世界から流れ着いてきた日本の図鑑。
カラー写真で印刷された表紙絵に見覚えがあった。
「これは、ティエレ村の研究施設内から押収されました本。これは、異世界、もしくは天界から流れ着いた本でございます。この本があることこそ、超古代人の生まれた異界が存在する証拠。本は我ら以上の技術により作られており、中にも我らを圧倒する技術内容が書かれているのです!」
ジュールの発表で、会場内は騒然とし始める。
あまりに異端な発表だが、それを『図鑑』という証拠付きで示されれば、誰もがその価値とそれを上回る事実に気が付く。
「……これは不味いぞ。あの本の事が公になればパニックになりかねん。あの本に書かれた技術を狙って多くの者達が動くぞ!」
「おそらく学長もその危険性を鑑みて禁書扱いにしたのでしょうね、お兄様。しかし、どうやって学長から本を奪ってきたのかしら?」
「ボクには分かんないけど、この部屋の中は何か嫌な感じがするよ? 早く止めた方がいいんじゃない?」
騒然とする講堂の中、ミアは理解できないまでも演者が危険に晒されるだろう事に気が付いた。
「そうだね、ミアくん。マリー。すまないが宮中伯の立場で講演を一時止められないか? このままならルフェーヴル2級教授の身も危ない」
フィンが提案した直後、事態は急変する。
「皆様、想像以上の事に驚かれているかと思います。ですが、このような物は学長が行った様に秘匿すべきものではない。全ての人々の役にたつよう、公開すべき……」
そこまでジュールが発言したのち、彼の言葉が止まる。
「ん?」
「あ、せんせー!」
直後、ジュールの身体は激しく痙攣を起こした。




