第14話(累計 58話) 迫る危機、乙女は何を思う。
神殿内でフィンに貸し出された狭い個室。
その中で、フィン達は事件について尚も話し合う。
「じゃあ、せんせーは絶対にボクと一緒なの?」
「ああ、私はミアくんの側から離れたりはしないよ。この世界が私の生まれ故郷だからね」
事件の背後にフィンの前世世界との繋がりが見えた時、ミアは不安になった。
フィンが自分から離れて元の世界に帰ってしまうかもと思ってしまったからだ。
「はいはい。そこのバカップルのイチャコラは、そのくらいにして下さいませ。アタクシからの報告ですが、事件の黒幕を調査しましたの。先に結論を言いますが、今回も逃げられてますわ」
恋人二人が良い雰囲気を出し始めたので、突っ込みながら話題を戻すマリー。
「黒幕というと、別荘での研究を学院に依頼してきた者かな、マリー?」
「ええ、お兄様。それがですね、ミアちゃんの事件、旧帝国民の内乱の黒幕と同じ方だったのです。とある男爵の四男坊でしたが、アタクシが内乱のほう助をしていたと捜査を開始する直前に行方不明になってます。それが三カ月ほど前ですわ」
「三カ月前といえば、ボクが扇動者さんを倒したくらいだよね。あ、お姉さま、扇動者さんは無事ですか? まさか口封じなんて怖い事にはなっていないですよね?」
「ええ。大丈夫よ、ミアちゃん。残念だけど、警察や留置所も信用ならないから、アタクシが権力を駆使してアタクシ以外は誰も知らない場所で監禁、もとい保護してますわ」
今回のショゴス騒ぎ、そして三カ月前の旧帝国民の内乱。
どちらにも繋がる人物がいて、現在行方不明。
誰が考えても怪しいと思える案件だ。
「逃亡したのか、更に上によって生物学的に『口止め』されたのか。男爵家ということは家族には聴取をしているんだよな、マリー」
「ええ。これまた全員シロ。四男坊さんは勝手に家から印章、璽を借りて命令書を偽造したそうなのです。元々、貴族の家に残れないからと冒険者くずれをやってなさっていたそうです」
「貴族の家も大変だね。家が絶えたら大変だと奥さんを沢山貰って跡継ぎとして男の子を沢山生むけど、全員育ったら今度は家を継ぐ者以外は貴族じゃなくなるんだし。騎士団や神殿のおにーさん達にボク色々聞いたよ」
神殿や騎士団の先輩方に貴族の次男坊などが多く、ミアは彼らから色々と家のしがらみなどを聞いている。
家を継げなかったものは自分の力で騎士や神官となり、出生して再び貴族に近づこうとする。
生まれは公爵家と高貴ながら、育ったのが庶民のパン屋なミア。
そんな彼女からすれば、一見華やかな貴族の家の裏側を知り、自らが庶民な両親に大事に育ててもらった事に感謝している。
「ミアくんのいう通り、貴族の家も楽じゃない。それで私は逃げてしまい、マリーに迷惑をかけているのだが……」
「まあ、今更お兄様に家を継げとは申しませんですわ。そうしましたらミアちゃんが可愛そうですもの。貴族の厄介事はアタクシが全部、この小さな背に負いますから、お兄様はミアちゃんを大事にしてくださいね」
「ぐ……。は、はあ。セバスさん、男は分かって女性の尻に敷かれた方がお互いに良いと言いますが、これもそうでしょうか?」
「夫婦生活の先達としましては、それが一番の家庭安定方法と思います。なんのかんの言いながら夫婦はお互いに依存しますし、よく分かっている妻なら対外的には夫を立ててくれますので」
妹に尻に敷かれて、すっかり弄ばれるフィン。
貴族、宮中伯の役目を妹に全部押し付ける形になっているため、妹には強く出られない。
老執事に愚痴って尋ねてみるが、彼も苦笑しながら自らの経験談を語る。
賢い妻は夫を尻に敷きつつも、夫に依存し、そして対外的には立ててくれるだろうと。
「?? ボク、せんせーをどうしたらいいの? せんせーは立っているでしょ?」
「はぁ。マリー、ミアくんへの淑女教育は全面的にキミに任す。男性の私では教えきれないよ」
しかし、まだまだ幼く夫婦というものを庶民の両親しか知らないミアでは、理解できないことが多い。
このままでは大変なことになるだろうと、フィンは全部マリーにミアの教育を投げる。
「えー! ボク、せんせーに何でも教わりたいんだけど?」
「ミアちゃん、無理を言ってはダメよ。だって、お兄様からこんなことを教わるのはミアちゃんも恥ずかしいでしょ? こしょこしょ」
だが、ミアはフィンからじゃなきゃと嫌がるので、マリーはミアの耳元で何かを呟いた。
「!!!!! そ、そんな事を夫婦になったらするの!?」
「そうよ。そして、こしょこしょ」
「きゃー!! ボク、恥ずかしいよぉぉ!」
何を呟かれたのか、耳まで真っ赤にしたミアは神殿の一室で大きく叫んだ。
「はぁ。先が思いやられるよ。敵以上にミアくんが手ごわそうだ」
フィンは大きくため息をついた。
◆ ◇ ◆ ◇
「今日は発表会にお招きいただき、ありがとうございます、ルフェーヴル2級教授どの」
「いえいえ、シンダール1級教授どの。今日も可愛い護衛騎士ちゃんと妹君が同席ですか?」
「ええ。お兄様を守るのには近くにいますのが一番ですから。オホホ」
学院の大講堂な階段教室。
そこには学院関係者だけでなく、王国魔術師、そして冒険者の魔法使いなどの多くの貴族子息らが集う。
今日、現代魔法についての新たなる発表が行われるという話が大々的に発表され、誰もが興味を持ったからだ。
フィンは、ルフェーヴル2級教授より案内状。
それもメモ書きが更に一枚追加されたものを送ってもらい、久方ぶりに学院に顔を出した。
そして講堂入り口でジュールに挨拶されたのだ。
「せんせー。なんか、妙にピリピリした視線を感じるよぉ」
「ただでさえ、ハーフエルフで教授、かつ最近講義を休んでいる私は目立つし、そこに姫騎士様とレディ宮中伯さまが一か所にいたら、注目されるよ。さて、入り口に立っていては後から来る人の邪魔になる。中段少し前くらいに座ろうか」
「はーい、せんせー。ボクが先に行って罠感知しておくね」
「では、アタクシは背後からお兄様を守りますの。セバス、ミアちゃんのサポートを」
「御意、お嬢様」
既に学院は敵地。
フィンらは注意しながら階段教室の通路を進み、中段付近の座席に奥からミア、フィン、マリー、セバスの順で四人掛けの机に並んで座った。
「学長も顔を出しているな。さて、どう動くか?」
「せんせー。何かへんなのを今日は沢山感じるの。油断しないでね」
不安そうなミアの顔。
それに対し、フィンは笑顔で答えた。
「ありがとう、ミアくん」
そうこうしている間に定刻となり、教壇に立ったジュール。
周囲を見回し、一礼をした。
「今日は沢山の皆々様にお集まりいただき、ありがとうございました。ワタクシ、ジュール・ルフェーヴル2級教授。この度、発見しましたことにつきまして、皆様にご報告いたします」
そして、研究発表会が開始された。




