第13話(累計 57話) 異世界誘拐事件。
「せんせー。ボクに詳しく教えてくれない? まだ分からない部分が多いの」
「そうですわねー、ミアちゃん。お兄様が資料を解読した事もありますので、今日はこちらでお話をしましょうね」
神殿でのフィンの自室。
その狭い部屋に四人入っているので、かなりギュウギュウ。
こと、持ち込んだ本が床にもあるので足の踏み場もない。
「フィンエル様。もしよろしければ本を整理いたしましょうか? 置き方次第でもう少し場所を広く使えます」
「すいません、セバスさん。一応、分類しておいてますので動かして欲しくなくて。マリー、狭いからって私のベットの上でミアくんを触らない!」
「うきゃん! おねー様、そんな処さわっちゃいやー!」
「あら、お胸。少し大きくなったかしら? ミアちゃん、アタクシが使ってます下着をお勧めしますの」
老執事は見かねて整理をしようというも、フィンはフィンなりに分類分けをしているので動かして欲しくない。
また、ベットの上に並んで座るというチャンスを良しとするマリーは義姉のミアを愛撫する。
「はぁ、マリー。そのくらいにしておけ。ミアくんもマリー相手に手加減しなくてもいいぞ。華奢そうに見えても、それなりに戦う練習はしてるからな」
「えー。おにーさまぁ。アタクシは華奢なお嬢様なのよ。戦うなんて事は……よよよ。あ、ミアちゃんは戦っても良いのよ。可愛くて凛々しくて強くて良いのぉ。くんか、くんか。ああ、このままお持ち帰りしたいわぁ」
「おねえさまぁ。ご勘弁をぉぉ」
「はぁぁ……。いい加減にしなさい!」
なおも続く乙女の「くんずほぐれつ」に怒りを覚えたフィンは小さな雷撃、静電気程度の魔法を二人に見舞う。
「きゃん!」
「うきゃん、おにーさまぁ!」
「次はもっと強い雷撃をするぞ。まったく話が進まないのは困る。さて、説明をするんだっだな」
「は、はいですぅ」
「ボク、とばっちりなのぉぉ」
乙女たちが落ち着いたのを確認し、フィンは話を始めた。
「今回の事件だが、マリーから貰った資料からかなり見えてきた。始まりは異界から本が流れ着いた事に始まる様だ」
フィンは机の上から黒い皮で表紙が装丁された本を持ち出す。
「これ、この間見た『図鑑』と随分違うよね。何か嫌な感じがするの」
「ですわね。何か意思らしきものすら感じますの」
「正解だよ、二人とも。この本は普通の本じゃない。異世界の魔導書、それのコピー品、劣悪な手書きの写本かな?」
フィンは嫌そうな顔で本を開く。
「この本は『図鑑』とは違う言語にて書かれている。ただ、手書き写本なだけに写し捕った者の怨念というべきものが籠っている気がするよ」
「お兄様、もったいぶらないで教えてくださいませ。この本には何が書かれていましたの? 違う言語ということが分かるという事はお兄様は読めますよね」
「ああ、これは私の前世世界の言語、『英語』にて書かれた写本。表題には『ネクロノミコン』とあるんだ。『ショゴス』の名前はここから由来だったのだろうね」
フィンは渋い表情で本を開く。
「だが、私の世界では『ネクロノミコン』はフィクション。作り話だったのだけれども、これはそれとは少し違う気がする。悪意の固まり、どのようにして邪悪を広げるか、そんな事ばかり書かれていた。数々の殺人方法、邪悪の広げ方。そして悪を形にした邪神たちについて書かれていた」
「フィクションなのに力がありますの、お兄様? それは不思議なのでは?」
「普通の本なら念が籠って魔導書なんかにはならなかったのだろうね。これ、表紙の皮は人のモノなんだよ。おそらくだけれども、この本自身は『この世界』にて写本されたものだ。羊皮紙に書かれているし、インクもこちらで良く使われるもの。なにより、最初の方のページでは英語の文字を書きなれていない」
「きゃー! こわいの、せんせー」
「そんな本が、どうしてあんな場所に……」
ミアもマリーも本から感じる恐怖で怯える。
「それはマリーが押収品から研究ノートを魔道具で写し捕ってくれていたので、大体の事は分かったんだよ。最初は、これの原本が異世界から流れ着いた、いや召喚したことから始まった」
◆ ◇ ◆ ◇
「このノートを書いた人は、『向こう側の人間』で医者だったらしい。無理やり呼ばれてきて研究をさせられていたようだ。研究内容が半分くらい。残りは日記。向こうに残された家族と逢いたいという事ばかり。最後の言葉も『帰りたい』だったから……」
フィンはマリーが押収物から極秘に持ち出したノートについて説明をしだす。
そこには英語で、異世界から呼ばれた研究者がおぞましい人体実験をさせられた事が長々と書かれている。
そして、端々には元の世界や逢えない家族への羨望が日記形式で書かれていた。
「ノートによれば、人体実験。人の心をいかに操るかを脳科学と魔法をまぜていたみたいだ。只人族だけでなく、エルフやドワーフ。獣人やオーク、コボルトなど人類種に分類されるもの、全てに対し行われていた様だ。遺留物に只人以外のものがあったのとも一致するよ。で、失敗例がショゴスで処理されていた様だ」
「では、その研究をなさっていた方は、今どうなさっていますの? もしや……」
「日記の日付からして、これが書かれたのは五年ほど前。おそらく既に……」
「……せんせー。悲しいよね。帰りたかったんだろうなぁ」
ミアは、ノートを書いた人の不幸に大粒の涙をこぼした
「残された家族に逢いたかったろうに。この人の無念は同じ世界から来た私が必ず晴らします」
フィンが決意を話すと、ミアは心配そうな顔でフィンに問いかけた。
「せんせー。向こうから人が来れるのなら、やっぱりせんせーも向こうに帰れるんじゃない? ボク、どうしよう?」
「そこは心配しなくてもいいよ、ミアくん。この日記を書いた人は確かに『向こうの人間』。無理やり異世界転移されてきたから、帰りたいとノートに書いていた。だが、私は死んでから転生してきた存在だし、向こうには存在しないハーフエルフ。帰る気はないし、私の世界はここ。ミアくんがいる場所だよ」




