第10話(累計 54話) 異世界からの干渉。
「で、ミアくん。いい加減、私に抱きつくのは遠慮してくれないかい? いかな、私とて我慢の限度というものがある」
「あらあら、お兄様もオトコでしたのね。このままじゃ、キスだけですまないですわよ、ミアちゃん。そろそろ離れましょうね」
「嫌だもん! ボク、もっとせんせーと一緒なの」
泣き止みはしたが、フィンにがっしりと抱きついて離れないミア。
その場にいる者は老執事を含めて、大きくため息をついた。
「ふぅ。では、私の過去話はこのくらいにしよう。今回のティエレ村の事件について話すがいいかな、マリー」
「ええ、お兄様がそのままで我慢できるなら。うふふ」
マリーは扇で口元を隠しながら笑うが、フィンはぎゅっとしがみつくミアを見下ろして苦笑する。
このままでは話が終わらないので、ミアに抱きつかれたままフィンは事件の事について話し出した。
「おほん! まず、今回の村が誰もいなくなった事件。全ては屋敷の中にいた巨大スライム『ショゴス』が原因だった」
フィンは、ショゴスが村人を「消した」事について話し出した。
「……つまり行方不明になった人達は全部ショゴスに食われたというのですわね、お兄様」
「ああ、民家全てに下水溝が設置されていて、それは屋敷の地下へと繋がっていたんだ。私達が日中に民家探索中に出てこなかった事から、恐らく夜に襲われたのだろうね。あと、ショゴスが居たであろう場所から遺体の一部、及び酸で溶けなかった金や白金の物が発見されていた。今、身元確認をしているが、『DNA』、遺伝子鑑定も出来ないこの世界では難航する事だろうね」
フィンは苦々しい表情で元貴族別荘の地下室で見た地獄の惨状をマリーらに報告した。
「恐ろしい話ですわね」
「せんせー。ボク、また怖くなったのぉ。まだ、せんせーに抱きついてて良い?」
二人の乙女は、ショゴスによって発生した悲劇を怖がる。
そんな様子を見て、フィンも優美な顔を曇らせた。
「ミアくんは、しょうがないなぁ。気が済むまでそうしておいてくれ」
「うん、せんせー」
フィンは、ご機嫌なミアの背中をさすりながら話を続けた。
「さて、このショゴスだが、別荘を所有していた貴族が研究をしていたものでは無いらしいんだよ」
「それはおかしいですわよね、お兄様。あの建物は持ち主が亡くなった以降は王が直接管理、今は学院が研究に使っていた……。え、まさか?」
「ああ、この学院内。そして王国内に異界の知識を使って異端な研究を行っていた者が存在したのだよ」
フィンの出した答えに、マリーの顔は青ざめた。
兄が所属する学院の中に王国に害をなすものが存在している事が確定したからだ。
「あの屋敷にあった書物。大半は学院と同じものだったが、一部は異国。いや、異世界の文字で書かれたものが存在したんだよ。これは私も驚いたものさ」
「せんせー。どーして異世界の言葉だって思ったの? 異国や他の種族の言葉かもしれないでしょ?」
「そうですわね。異世界の書物など、どうやったら存在するのでしょうか?」
フィンが異世界と言い出したのを、ミアもマリーも不思議がる。
フィンが異世界の記憶を持つのは二人とも理解しているが、それでも異世界の物がこちらに来るのはまた話が違うからだ。
「実はね、この本だが私には読めるんだよ」
フィンは机の上に置いてある不思議な装丁の本、二冊のうち片方を開く。
「これ、何を書いてあるの、せんせー?」
「アタクシには記号というか模様に見えますが」
ミアは首を回して、マリーはフィンの手元を覗いて本を読もうとする。
だが、二人にはまるで読めない。
というか、文字とも見えない細かい模様が沢山書かれている。
「こちらの人から見ればそう見えるだろうね。では、この文字は手書きに見えるかい?」
「手書きにしては細かいし、同じ文字は全部筆跡が丁寧で同じなの」
「もしや、これは手書きではなく印刷? まだ活版印刷は、王国内でもそこまで広まっていないはずですわ」
フィンは本の字から、異常性を説明する。
マリーは字が同じ、活字を使っている事に気が付いた。
「次に紙質。このような上質な植物紙を王国で入手できるかな?」
「ボク。あまり紙には詳しくないけど、真っ白で綺麗だよね」
「紙を白くする錬金術の技術は、まだ学院で独占のはず。お兄様が関わっています『塩素』が無いと無理ですわ」
「そう。この紙も王国の技術からすれば、オーバーテクノロジー。そして、これがダメ押し。この絵をどう見る?」
本を構成する紙、それすらも王国では製造できない代物。
更にフィンはダメ押しをした。
「これ、絵? 妙に細かいし、まるで眼で見た通りじゃないの、せんせー」
「まさか、まさか!? お兄様と錬金術部門で研究をなさっています『写真』では!?」
「そう、マリーが正解。これは写真。見たままの映像を写しとって印刷したものだよ。これは王国の、いや、この世界の技術では作れない本というのは分かってくれたかな? そして、この本に書かれている文字。これは私の前世で生きていた国、『日本』で書かれていた文字なんだよ」
フィンが丁寧に説明した事で、二人の乙女は事態の恐ろしさに気が付き、冬でありながら冷や汗を流す。
「……せんせえ。こ、これは何を書いているの?」
ミアは本が怖くなって、何が掛かれているのかフィンに恐々聞いた。
「幸いな事に、この本の内容は普通の科学技術の説明本だよ、ミアくん。『中高校生向け』、ミア君くらいの年齢の学生が学ぶことについて書いてある図鑑だね」
「ふぅ、一安心ですの。では、この本がここにある事は問題ではありますが、この世界の技術革新に役立つものですのね、お兄様」
フィンが本の内容を説明すると、ミアとマリーは安堵する。
これまでもフィンが異界の科学技術を王国に持ち込んでいたが、それがより促進されるだけのものだったから。
「だがね、こちらの本は実に不味い。これこそ、異界の魔導書なのさ」
フィンは、もう一冊の本。
どこか不気味に見える本に視線を向けた。




