第7話(累計 51話) 対ショゴス戦、意外な物が勝利をもたらす。
「お待たせをしました、騎士団長!」
「おう、助かる。剣で切っても死なんバケモノ相手で困っていたよ」
「せんせー。石鹸とか変な粉を持ってきてどうするの?」
フィンはミアと一緒に臨時指揮所に置いてあった荷物を、戦っている騎士団長らの元に運んでいく。
屋敷の地下室から飛び出した、ショゴスと命名された巨大なスライム。
それは四メートル四方ほどの黒くて虹色に輝く身体を持ち、沢山の目で睨みながら多くの口から意味不明な「テケリ・リ」と聞こえる咆哮を上げる。
それは、ブツブツと泡立ちながら触手を。
いや粘液の腕や脚を伸ばして周囲を攻撃する。
だが、調査隊の面々は距離を取り戦うために、スライムの攻撃はほとんど通らない。
例え攻撃を受けても、粘液の海に引き込まれないように周囲の仲間が助け、酸で焼けた傷を治癒魔法で癒す。
「といいつつ善戦しているじゃないですか、ニコルくん」
「まあな。今回は魔術師も多いし、俺だって。<聖なる投げやり>!」
学園から来た魔術師、そして冒険者たちから魔法攻撃を受けるスライム「ショゴス」。
騎士団長も、神聖魔法の攻撃魔法なエネルギーの投げ槍で攻撃をしている。
物理攻撃には強いショゴスだが、それでも魔法の攻撃。
マナを帯びたエネルギー相手に徐々に削られていく。
「ミアくん。今から私が合図をしたら、ショゴスの回りに魔法の壁を張って。出来るよね」
「うん、せんせー。ボク、頑張るよ」
フィンはミアに指示を出しながら、荷物の中からガラス瓶を出す。
「もしやと思った錬金術科に頼んでおいた秘策。これが役に立つとはな」
フィンは、にやりと白色の個体が詰まった瓶の中を見る。
「せんせー、いつでもいけるよぉ」
「じゃあ、今からお願い。ニコルくん、一旦攻撃を止めて後退を」
「了解だ。皆、一旦背後に!」
ニコルの指示で距離を皿に取った調査隊。
それを好機とショゴスは触手を広げようとした。
「いっくよー! 神の御力にて悪しきモノを壁の中に閉じ込めよ、<聖なる障壁>!」
ミアは全力で祝詞を詠唱し、白く輝く魔力の壁を作る。
そして、その壁で完全にショゴスを取り囲んだ。
「テケり・リィィ!」
ショゴスは、粘液の腕を全てミアの作った壁に弾かれて、大きく叫ぶ。
「ミアくん、これはミアくんが『悪しきモノ』と認識した物や人以外は全部通すのだよね」
「そーだよ。せんせー」
「なら、上まで完全に覆ってドーム状にしてくれ」
「はい!」
フィンの提案通り、ミアは魔法を展開。
ショゴスを完全に魔力のドームの中に閉じ込めた。
「ミアくん。魔法をどのくらいの時間維持できそうかな?」
「そ、そーだね。大体、千を数えるくらいかな」
ミアは魔法を維持するのが苦しいのか、珍しく息を切らしだした。
……きっついなぁ、これ。でも、せんせーがいるからボク、頑張るよ!
「ありがとう、ミアくん。じゃあ、さっさと攻撃をしよう。よいしょ!」
フィンはミアの頭を撫でた後、持っていたガラス瓶を壁の中。
ショゴス目がけて投げ込んだ。
「テ! テケ・テヶリィィィ!」
ショゴスは簡単に投げ込まれたガラス瓶を飲み込み、体内で割る。
だが、その瞬間から急に苦しみだす。
そしてガラス瓶が割れたあたりから激しい煙を出し始めた。
「やはり! 私の仮説は正しかったんだ。前から思っていたんだよな。ショゴスは無敵で人間じゃ勝てないって『TRPG』でマスターから滾々と言われていたのが癪に触っていたんだ。生物である以上、更に粘膜状の身体をもつものが強アルカリに勝てるかって!」
一気にはしゃぎだすフィン。
意味不明な事を話すのに、魔法維持に忙しいミアも首を傾げた。
「せんせー? どうしたの。急に嬉しそうなの?」
「あ、大変な時にごめん、ミアくん。ミアくんにもう隠し事をしなくて済むと思ったら気が楽になったのさ。それとね、昔から考えていた事実。ショゴスに『水酸化ナトリウム』をぶち込んだら弱るんじゃないかって思っていたのが正解だったのが、嬉しかったんだ」
フィンはミアに微笑んで、ため込んでいたものを吐き出す。
そして更に大きな布袋も持ち出して、
「えっと、ニコルくん。これをショゴスに投げ込んでくれないかい? 私の細腕じゃ無理だから」
「あ、ああ。フィンくん、すっかり吹っ切れたな。良い顔だ」
ニコルは苦笑しつつも幼馴染の屈託のない笑顔を久しぶりに見て、喜ぶ。
そして、
「おらよ! ショゴスとやら。フィンくんの智謀の前にやられちゃいな!」
強い匂いのする粉が入った大きな布袋をショゴスに投げ込んだ。
「テ、てけてけてけりぃぃ!」
もはや悲鳴にしか聞こえない奇声を上げて苦しむ様子を見せるショゴス。
今度は飲み込んだ布袋から、激しい勢いで黄色く見えるガスが噴き出してきた。
「ミアくん。やってしまった後からだが、これ、有毒なガスは通さないよね」
「う、うん。だ、大丈夫ぅ。あれ、この匂い。確か、せんせーが飲み水に少し入れてた粉だよね?」
ミアは少し苦しそうな顔でフィンに答える。
そしてバリアーを越えて匂ってくるガスに覚えがあると言った。
「あ。ミアくん。大丈夫かい。もう少し頑張れ。ああ、あれは『さらし粉』。水を消毒する為と、もしかするとショゴスに効くかと思って持ってきたものだよ」
フィンはミアに寄り添う。
そして震え、息が荒くなりながらも魔法を維持するミアを労う。
「せんせー。ボクを、後ろから抱きしめてくれないかな。そして、応援してくれたら、ボク。もーっと頑張れるよ」
「ああ、お安い御用だ。ミアくん、愛してる。頑張れ!」
フィンは瘦身の自分よりも更に一回り小さいミアの身体を背後からそっと抱きしめる。
そして耳元で愛の言葉を呟いた。
「ボク、元気百倍なのぉぉ! このまま壁で押しつぶしちゃうよー」
ミアは急に元気を取り戻し、今度は魔法の壁をどんどん小さくしていく。
するとガスやアルカリに焼かれ苦しんでいたショゴスが、どんどんと壁に押しつぶされていった。
「ニコルくん。ダメ押しに私が持ってきた粉せっけんをショゴスに投げ込むんだ。『界面活性剤』も粘液を溶かす。このまま溶かしながら押しつぶすぞ!」
「お、おう。皆、石鹸を投げ込め―」
「はい」
「御意」
調査隊は全員、何故石鹸がバケモノに効果があるのか疑問に思いながらも投げ込む。
押しつぶされていくショゴス。
石鹸の泡、塩素ガス、そして強アルカリによって自慢の酸も粘膜も侵され、どんどん溶けていく。
「テ、テ、てぇけけけけけk!」
最後まで意味不明な言葉を叫びながら、強敵ショゴスは消滅していった。




