第21話(累計 第43話) ミアの誰も殺さない戦い。
「じゃあ、今度はこっちから攻めるよ。おにーさん、いつまで耐えられるかな?」
「この、クソガキがぁ!」
ミアは自分の間合いまで踏み込み、真紅のロッドを振るう。
先手として突き。
後は扇動者が振るう剣を躱し、または攻撃の発生時点を狙って持ち手を攻撃する。
「くぅ。うっとおしい! どうして切れない!?」
「おにーさん、性根は腐ってるけど剣の動きは教本通りなんだ。だから、動きを読みやすいよ」
あえて手の内を晒しながら扇動者の攻撃を全て躱し、または受け流しながら扇動者の手足を狙って攻撃を繰り返すミア。
あきらかに捕縛目的の戦い方だ。
「騎士団長さま、もう勝負ありでしょうか?」
「そうですねぇ、宮中伯様。あの扇動者とやら、剣術は基本レベルは十分ですが、剣での戦いには慣れていないです。言葉による『魔術師』というのが本職なので、ミア嬢ちゃんと策なしに戦うのは難しいでしょう。ですが……」
「『窮鼠、猫を噛む』、油断が一番怖いです。ミアくん、ここで間違うなよ」
観客、いや集められた群衆と一緒になってハラハラしながらミアの動きを見る保護者の三人。
群衆を取り囲む兵士、そして扇動者を守るはずだったテロリストたちもミアの戦いから眼を離せない。
「くそぉ。くそぉ。こんなに強いのに、どうして俺の時は、助けてくれなかったんだ! 俺だって、もっと力があれば母ちゃんが死ななかったはずなのにぃ」
「ん? おにーさん、無茶言わないでよぉ。戦争時には、ボクは三歳だよぉ。でもね、今なら助けてあげる。だから、もうこんな事を辞めよう。自分に起きた悲劇を他人に押し付けるのは、悲しいよ」
息も切れ、身体強化も切れた扇動者。
無茶苦茶に剣を振るだけだが、それではミアを切る事は不可能。
泣きながら剣を振るう扇動者に対し、ミアはロッドで剣を軽く弾きながら優しい言葉をぶつける。
「い、今更辞められるかぁぁ! オマエは俺と一緒に死ねぇぇ!」
剣を投げ捨てた扇動者が、懐から怪しげな懐中時計を取り出した。
「やだぁぁ! 貴方も死んじゃいやぁぁぁ!」
ミアは、渾身の力で扇動者が何かをしようとしていた懐中時計を弾き飛ばす。
「いっけぇぇぇ。ホウライ杖術、奥義! <飛雨>」
ミアは空中に浮かんだ懐中時計に向かってロッドを渾身の力で振り回してぶつけた。
「ミアくん、特大『ホームラン』だぁぁ! っていうかバット・フルスイングが奥義? そりゃ、腰や腕の動かし方は特殊だけど」
フィンが思わずボヤいてしまうが、問題の懐中時計は半分ひしゃげながら闘技場の城外まで飛んでいく。
その飛翔する形は、まるで地上から天に昇る流星の様。
どんどん小さくなっていったあと。
「うわぁぁ」
空中で何かが巨大な爆発を起こした。
◆ ◇ ◆ ◇
「……オマエは、俺から名誉や死すら奪うのか?」
「そーだよ。おにーさんは生きて罪を償うんだ。名誉なんて、生きて無いと無意味だよ。それに死んだら、おにーさんに操られて死んだ人がもっと可哀そう。全部のことを話して、これ以上の悲劇を止めなきゃね」
腰を抜かし、すっかり戦意を失った扇動者。
ミアは足元におちていた父の剣を拾い、扇動者に向けて厳しい言葉をぶつけながらも笑顔で話しかける。
「ということで、貴方を逮捕します。あ、そういえばお名前聞いて無かったよね、おにーさん。まずは立とうよ」
そして、ミアは手を扇動者に差し伸べた。
「あ、ありが……」
扇動者が顔を上にあげ、ミアに手を伸ばした瞬間。
何かが砕ける音、そしてミアの周囲に赤い血の花が咲いた。
◆ ◇ ◆ ◇
「きゃー」
「今、撃ったのは誰だ? せっかく誰も死なずに終わりそうだったのに?」
「お、俺は違うぞ。もう銃は王国の兵に渡していた」
「姫殿下はご無事か!?」
血を見た群衆から悲鳴が上がる。
そして銃声がその後に、闘技場へ響いてきた。
騒然となる中、ミアは銃声の方角を睨む。
「うぅ……。残念だったね、卑怯者。貴方たちの思い通りには、ボクが絶対にさせないよ」
そこには扇動者を守る為に銃弾を受けて、赤い鮮血を小手が砕けた腕から流すミアが居た。
「ど、どうして俺を庇って……」
「さっき、言ったでしょ。生きて償えって。だから助けたの。ボクの目の前で、もー命は落とさせないよ、あ、痛たた」
「ミアくん!」
「ミアちゃん」
ミアの元にフィンとマリーが駆け寄る。
そして周囲に魔道具によるバリアーを張った。
「なんて無茶をするんだ! 音速で飛んでくる銃弾をロッドで弾くなんて神業だぞ。はやく治癒魔法を使いなさい」
「そうよ! 犯人を庇って怪我しちゃうなんて、馬鹿なミアちゃん」
「心配させてごめんね、先生、おねーちゃん。ボク、つい動いちゃうんだ。誰かが目の前で傷つくのは、絶対に嫌だもん」
ミアは痛みをこらえながらも、銃弾が放たれた方向からは眼を離さない。
……用済みになったら口封じ。ぜーったいに許さないの!
「ミアくんが見ている方角。観客席には誰もいなかったし、銃声の時間差より城外からともなれば視界外からの放物線になる遠距離狙撃。魔法の助けが無いとまず不可能だ」
フィンもミアの見ている方角を見るが、闘技場観客席には誰もいないし、兵士らが今確認をしているが、おそらく発見できないだろう。
また群衆の中で銃を持っていた者も、大半は武装解除時に手放しているので、これもあり得ない。
「見えない場所からの狙撃ですか? これは、今後も油断できないですわね。ですが、おそらく卑怯な敵は既に逃亡している事でしょう。普通、想定外の狙撃は誰も防げません。ですが、アタクシの可愛い義姉、ミアちゃんは斜め上の方法で防いでしまいましたわ、おほほ。これはミアちゃんの大勝利です!」
ミアが敵の思惑を全て想定外の方法で防いだことで、ワクワクが止まらないマリー。
思わず怪我をしているミアに抱きついてしまった。
「おねーちゃん、まだ戦闘警戒中だから危ないよ。それに、ボク。とっても痛いんだけど? ドレス、血で汚れちゃったら、もったいないよー」
尚も警戒を解かないが、治癒魔法で怪我を治しているミア。
抱きつきに来るマリーに対し、苦笑いだ。
「……俺は何をしていたんだ」
「そーだね、おにーさん。初めからやり直そう。まずは仲直りの握手。王国と帝国、みーんな仲良し」
組織からも切られた扇動者は呆然として、うずくまったまま。
周囲に殺気がもう無い事を感じたミアは、彼に対しもう一度手を。
救いの手を伸ばした。




