第20話(累計 第42話) ミア、全ての策を力業で押しつぶす。
「小娘、お前はとことん運が無いな。男の戦場に首を突っ込まなけれは死ぬことも無かっただろうし、父親の愛刀で切られる事も無かった」
「一体何をいうんだか、このお兄さんは? ん? その剣は? ボク、見覚えがあるぞ!」
闘技場の真ん中。
お互いに三歩ほどの間合いで立ち合い、睨み合う二人。
ミアは、目の前の扇動者が構える曲剣に見覚えがあった。
「ほう、知っていたか。そう、この宝剣はアレクサンドル・ルカショフ閣下が最後にお使いになりし物。我らの手の者が王国から奪還したものよ。この剣が娘を切る事になるとは残酷なものよ」
「お父様の剣を! よっくもぉぉ! ボク、もう許さない。お前なんかギッタギタに殴り倒して逮捕する! そして剣を返してもらうんだ―」
二人はお互いに時計回りに歩きながら、じりじりと間合いを詰める。
共に身体強化のオーラを纏わせ、相手の一足一挙動全てを見逃さない。
二人とも初手で大ダメージを狙うには、まだ間合いは遠い。
かといって、魔術師の攻撃魔法を詠唱するには近すぎる間合い。
……<気力砲>なら無詠唱で撃てるけど、撃った後の硬直が怖いんだよねー。外したら、それまでだから。
ミアは、頭の中で戦いを組み立てる。
相手の剣が自分の父の愛剣、将軍格が使う魔法剣であるなら組み合ったり、鍔ぜり合いになるのは不味い。
いくらこちらも魔法で構造強化された杖とはいえ、切断される危険性があるからだ。
なので、体術を組み合わせた連撃で武器を持つ手を狙うのが定石だ。
……このロッドの秘密技は、まだ温存したいからね。ん、さっきから妙な感じがするの。このおにーさん、何か策を講じてる?
「……猪突猛進な猪娘かと思えば、少しは考えるか。腐っても皇帝陛下の血族よのぉ」
「褒めてくれて、ありがと。でもね、何もお土産は無いし、手加減もしてあげないよ」
扇動者は、言葉と魔力でミアの行動を誘導しようとする。
ミアも薄々、扇動者の戦い方を理解していた。
……このおにーさん、扇動するために精神制御系の魔法を使っていたんだね。話術と合わせて行動を誘導しにくる。今は、急ぎ攻めてきて欲しくないから、ゆっくりの勝負を望んでいるのかな? でも、逆かもしれないの。だけど、さっきの感覚は?
「まあ、いいさ。お前は父の剣で切られるのを怖がっているに違いあるまい」
「そうやって、言葉と精神魔法で相手の動きをコントロールするんだね。イヤらしいけど、まあ他人を使わない策なら卑怯でも無いよ」
ミアは、扇動者の精神制御や言葉の誘いには乗らないと宣言する。
その言葉自体、誘導されている事を理解しながら。
……こうやって言葉攻めで隙を作るつもりだね。あれ、何か落としてる?? あ、そういう事か! 分かったの。じゃー、この手でいこーっと。力押し、バンザイ!
「……油断ならぬ娘よ。では、我が秘剣を見て死ねぇ!」
扇動者は、大きく曲剣を振りかぶり、間合いを詰めてきた。
……これ、剣の攻撃が囮だ! 本命は……、コイツ!
ミアは、大きく二歩ほどバックダッシュする。
そして視界を周囲に向け、自分に迫る数個の「殺気」を見抜いた。
「ふん。ホウライ杖術、奥義! <鉄砲雨>」
ミアのロッドの先端が大きく弧を描きながら、幾本もの突きが繰り出される。
「ちぃぃ。どうして分かったぁ!?」
ミアの連打範囲は広範囲で、さしもの扇動者も踏み込みを止める。
だが、それだけに終わらない。
空中に浮遊していてミアを襲おうとしていた浮遊物体が数個、ミアの打撃でパキンと砕かれた。
「なんとなくね。ほい、ほいとな。おにーさんが、さっきからくるくる舞台を回るときに、何かを落としていたのに気が付いたんだ。あ、一応褒めておくよ。見事な作戦だったし、卑怯でも何でもない。戦うのに策を弄するのは当たり前だし、他人を利用しないのならね」
答え合わせをしながらも、浮いている何かを撃墜していくミア。
夜間で照明も少ない中、ミアは何も苦にせず背後から襲って来る物すら撃墜していった。
「ば、化け物か? 見えないはずの浮遊機雷を全部破壊しただと?」
「ボク、なんとなく分かるんだー。よいしょ! まだ二個くらいあるね。うんうん、言葉での誘導しての隙誘い。実に良いよ。なんでも仕掛けてきてご覧。ボクは全部、真正面から叩き潰してあげるよ」
ミアはお得意のドヤ顔をしつつ、脚を止めない。
そして自分に襲い掛かってくる機雷を続々と撃破していった。
「はぁ……、あの馬鹿娘はぁ。何処に相手の技を全部出させたうえで受け流して叩き潰すアホがいますかぁ。『プロレス』じゃないんだぞ。すっかり相手の催眠魔法に乗せられてるな。バカだからこそ、余計にバカになってる」
「実にミアちゃんらしいですわね。相手は精神制御、催眠魔法と話術による誘導を得意としているご様子ですが、ミアちゃんとは相性が良いやら悪いやら。逆にパワーアップしてませんか?」
「俺も見抜くのが難しい浮遊機雷をああも簡単に払い落すか? いつのまにここまで腕を上げたのか、ミア嬢ちゃん。お、また打ち落としたぞ」
観客をしているフィン、マリー、ニコルはミアの行動に飽きれている。
奇策を得意とするであろう敵の罠や策を、斜め上にも力業で押しつぶす。
非常識な戦闘センス、そして舞い踊るように戦う姿に観客の群衆らも、つい先程まで敵だと思っていたミアを応援し始めた。
「姫殿下。スゴイ!」
「我らが指導者は卑怯な手を使うが、姫には一向に効果が無いぞ?」
「姫様、がんばれー!」
「ハーイ、ありがとー。ボク、今日もぜっこーちょー」
「そ、そんな馬鹿な!? 我が催眠魔法が逆効果になっているのか!?? ど、どうしてぇ?」
普段よりも動きが良いミア。
群衆からの声援を受けて、更に動きが良くなる。
自分が築き上げてきたテロの芽がどんどん崩れていくのを感じ、扇動者は焦りだした。
「じゃあ、今度はこっちから攻めるよ。おにーさん、いつまで耐えられるかな?」
ミアは、一気に間合いを詰めた。




