第10話(累計 第32話) アジト強襲。
王都のスラム街。
夜の帳を告げるころ、とある壊れかけた屋敷。
元豪商の屋敷であった建物に多くの者達が集う。
「月が赤く染まる時」
「隠された扉が開く」
屋敷の入り口では、符号を使って答えられた者達だけが中に入っていく。
屋敷には居た者は、全員地下の隠し倉を目指す。
屋敷の元所有者が、秘蔵していたワインを隠し保存していたワイン蔵。
そこは改造され、窓もない地下講堂となっていた。
「王都や近隣より集まってくれた同志よ。我らティルムガットの民が王国なぞに敗れて早十三年。よくぞ今まで屈辱の中、辛抱してくれた。皆の協力で陛下や皇族らを無残に殺した奴らの粛清が進みつつある。だが、敵も甘くはない。昨今では、返り討ちに合う事例も増えている」
多くの者達、ほぼ全員が金色の瞳を暗闇の中で輝かせ、前に準備された演台にて演説をする男に視線を集めている。
「よって、これからは敵を確実に討ち亡ぼし、我らが帝国を蘇らせる為の策を皆で考えたいと思う。意見がある者は手を上げて発言してくれ」
演説を行う男は目深に灰色フードを被り、暗闇の中から金色の光を放つ目で群衆を見回す。
ここに集まりしは王都内や近隣の街にて潜伏、王国民の中に紛れてティルムガット帝国の再興を願う者達である。
「はい、暗殺実働部隊です。先日は神聖騎士団長を五人で狙いましたが、監視員以外すべて討ち取られ、三人は生け捕りされてしまいました。団長はルカショフ公爵アレクサンドル将軍様を卑怯な手にて討ち取った者でしたので、油断せずに囲み込んで毒剣にて殺す予定でしたが、失敗しました」
「暗殺部隊の方、五人がかりで討ち取れぬ。それどころか三人も生け捕りに合うとはどういう状況だったのですか?」
顔が見えないように黒頭巾を室内でも被る暗殺部隊隊長。
騎士団長暗殺について演者に対し報告をするが、演者から感じる妖気に冬近い今も脂汗を流している。
「は、はい、指導者様。その場にいた団長の従者。これが十代前半に見える少女だったのですが予想外に強く、彼女により二名が瞬時に昏倒。更に団長によって無力化された者達が証拠隠滅と舌を噛み自殺を図ったのですが、これまた少女により一名が救命されてしまってます。なお、監視者及び情報部の協力によって少女の身元について確認しています」
「……そうですか。監視者を使い潰さずに、情報を持ち帰れたのは不幸中の幸いです。では、その少女の方が騎士団長よりもツワモノだった訳ですね。なら、今後はその少女を先に排除する方向で参りましょう。幼い身で我らがティルムガットの滅亡には関与していないでしょうが、我らに対し邪魔者は必ず排除せねばなりません!」
「ぎょ、御意。早速、少女。ミア・フォンブリューヌの実家へ、今宵中に暗殺部隊を送ります」
「お願いしますね。さて、情報部の諜報部隊はどうでしょうか?」
指導者、マスターと呼ばれる青年。
暗い部屋の中でも一人、妖気を放ちながら輝く金色の瞳で周囲を圧倒する。
報告する者達も全員、彼に圧倒されて緊張しながら報告をしていく。
「は、はいです。帝国臣民をジェミラにて虐殺しましたウィエンネンシス子爵一家を毒キノコで暗殺に成功しました。ですがそれ以降、貴族家に雇われる前の身元調査が厳しくなり、ティルムガットの民が採用されることが減っております。帝国との融和を果たすと口だけで言いながらも、我がティルムガットの者を差別する所業、実にゆるせません。ですので、現在は市井に隠れた者達からの情報を元に、ターゲットの所在・身元を調査しています」
「報告ありがとうございました。我らが仲間も捕まり、このアジトも危険になりつつあります。今後は、各自のネットワークにて情報伝達を致しますので、宜しくお願いします。差し当って、今宵の少女暗殺。決して、しくじらぬように。生贄の子ヤギ、少女の死によって我らが本気でティルムガット再興を願う者であると、愚かな王国民に示すのです!」
「おー!」
アジトに集いし者達、マスターに当てられ狂気に酔いしれる。
己らの「正義」を推敲するがために、犠牲や社会的な悪行も全て正当化していき、テロリストとなる。
悪意の暴走は、少女ミアの身を襲おうとしていた。
「マスター! て、敵襲で……ぎゃ!」
テロリスト共の集会が終わろうとしていた時、屋敷前で警備をしていたものから悲鳴じみた叫び声が聞こえてきた。
「くぅ。王国の狗どもめぇ! さては捕縛した我らが同志から拷問で情報を聞き出したのか」
「卑劣なり!」
「マスター、どうしましょうか!」
「ここで討ち死にでは、積年の恨みが晴らせませぬ!」
室内は騒然とする。
ここは窓も逃げ場も無い地下室。
出口には、王国の手のモノが迫ってくる。
「皆様。我らティルムガットは永遠に不滅です。なにとぞ、この窮地から脱出し、市井に紛れて次の復讐の機会を待ってください。では、私はここより新天地へと旅立ちます」
焦る仲間達を前に、一人冷静なマスター。
視線が自分に集まるが気にせず、自分は逃げると宣言する。
そして部隊役者のような華麗なしぐさを見せた後。
「ティルムガット、バンザイ!」
そう叫ぶと同時に、背後に発生した黒い渦巻きにその身を投じた。
「マスター!」
「くそぉ。一人で逃げやがった!」
「卑怯者! 戦え」
群衆は逃亡したマスターに文句を言うが、既に時遅し。
地下講堂の入口で立ちはだかっていた戦士が、強烈な斬撃を受けて吹き飛ばされる。
「おうおう。こんなに沢山、帝国残党が王都に居たのかよ。俺は神聖騎士団長ニコル・ベルナデットだ! 大人しく縛に付け。さもなくば、今吹っ飛ばした奴みたいに死んでもらう」
「ひぃぃ。将軍様を討ち取った奴かぁ!」
「ああ、最早これまで」
「ティルムッドに栄光あれ。死なばもろとも!」
怯える者。
観念する者。
そして、死を覚悟に突撃する者。
地下講堂は騎士団長の後からなだれ込んできた兵士や騎士達を加えて、戦場と化した。
◆ ◇ ◆ ◇
「ふぅ。助っ人ありがとうな、フィンくん」
「いえいえ、ニコルくん。いや、騎士団長様」
戦い終わって、兵士たちによって続々と捕縛されていくテロリストたち。
「てっきり全員が自殺したり、殺し合いになるかと思ったが、フィンくんの魔法で犠牲者が減って助かったよ」
「私も人死にが増えるのは好みません。もう、十三年前の戦乱を繰り返すのは間違っていますからね」
ニコルからの支援依頼を受け、フィンは久しぶりにニコルとタッグを組み、共に戦った。
今にもニコルに襲い掛かろうとしていた者、自殺をしようとしていた者達。
彼ら全員を広域雷撃魔法<稲妻の巣>にて無力化させたフィン。
後は、安全に全員を捕縛する事に成功したのだ。
「フィンくんもミア嬢ちゃんの事があるからな。帝国の人の命も気になるかい?」」
「ええ、気にならないとは言えば嘘ですね」
ニコルとフィンは周囲を見回しながら、ミアの事を心配する。
誰もがミアと同じ金色の目を持ち、色素の薄い王国人よりもミア同様に肌が僅かだが日焼けをしている。
こと、捕縛された若い女性からミアの姿をイメージしてしまうのは、彼女を大事に思う二人にとっては容易だ。
「ミア? ふははあぁ! 残念だったなぁ。お前ら王国の狗が大事にしている小娘は、今頃家族もろとも苦しんで死んでいるだろうよ。これで、我らがティルムッドが積年の恨みは返せた!」
兵に引きずられていく男。
彼はフィンらがミアの名前を話す事に気が付き、己らの復讐が果たせると高笑いをした!
「な、なにぃ! 今、お前は何を言った!! ミアくんをどうした! いえ、早く言いやがれ! 言わないと、生きたまま脳みそに電気を流して沸騰させてやる!!」
フィンは嘲笑する男を捕縛していた兵士から奪う。
普段には決して見せない怒りの表情で男の頭を握りつぶしそうな力で抑え込み、男が何を知っているのか脅しながら聴取をした。
「ははは。これは愉快だ、王国の狗よ。小娘の処に今宵、暗殺者が送られた。もう手遅れさ」




