第5話(累計 第27話) 解剖、彼を殺したモノは。
「これよりウィエンネンシス子爵、当主セザール様の解剖を行います。ではクロエくん」
「はい、先生。今回、神殿側代表としまして解剖に立ち会います神官巫女クロエでございます。若輩者ですが、宜しくお願いします。それでは、参加者の皆様。解剖の前に、悲しい最期をお迎えになられましたセザール様のご冥福をお祈りくださいませ」
フィンの宣言にて、神殿内に設置された解剖室において事件解明のための司法解剖が開始された。
今回も警察、学院、そして神殿側から。
更に依頼者としてマリーも付き添いの老執事共々、白衣やマスクに手袋、防護眼鏡を装備して参加している。
モルグ担当になったミアの幼馴染な神官クロエ。
彼女が神殿からの解剖立ち合い人になってくれている。
クロエは、参加者全員に黙とうを促した。
「クロエちゃん、今回もありがとー。クロエちゃんが一緒ならボクも最後まで解剖に立ち会えそうなの。マルグレット様も大丈夫ですか?」
「ア、アタクシは、今回少し遠くから見させていただきますわ。本来であれば、アタクシのような身分の女性が立ち会う必要もないのでしょうが、これも公務ですし……」
今回も記録係のミア。
クロエやマリーに話しかけるが、マリーの様子がおかしい。
マリー、いつもより弱気な印象で人々の後ろからフィンらに話しかける。
……マリーお姉さま、無理してないなら良いけど。ボクだって、この間の解剖で吐いちゃったし。
「ミアちゃん。これは仕事なんだから公私混同はしないようにね。宮中伯様、ご無理は禁物ですので、苦しい場合は、お早めに退散を進言致します。では先生。これ以降は宜しくお願い致します」
クロエは自分に抱きつこうとするミアを苦笑をしながら押しのけ、またマリーに無理をするなと告げる。
「ありがとう、クロエくん。私からも再度言っておきます。気分が悪い人は、無理せずに退場なさってくださいませ。今回の解剖助手も、私の研究室の者が行います。では、解剖前の検視から始めよう。ミアくん、ご遺体を覆う布を取り払ってくれるかい」
「はーい、よいしょ!」
見学人が見守る中、ミアは元気にご遺体を覆う白布を剥いだ。
「今回の解剖該当者、ウィエンネンシス子爵セザール様。年齢三十一歳。領主となってまだ二年目。六年程前に隣領の伯爵令嬢を妻に娶り、長男が五年前に生まれる。なお、先代ピエール様は六十歳にして、いまだ健在。今回も外遊、政治活動にて家を離れていたためにピエール様は事件の被害から免れている」
フィンは、ご遺体に語り掛ける様に経歴を話す。
「ご遺体であるが、元は良い体格であっただろうが、死ぬ前はやせ細っており不健康。更に肌は乾き気味で強い黄疸が見受けられる。食中毒様な症状から、死の前には十分な水分・栄養摂取が出来ていなかったと推定。では、助手くん。念のために後頭部から穿刺にて髄液の採取。更に心臓血の採取を」
ご遺体を横向けにさせ、助手に後頭部に注射器を刺し「せき髄液」を採取させるフィン。
また心臓付近から採取した血液の色も見た。
「ふむ、せき髄液に出血は見られないから、脳出血などが死因ではないな。心臓回りの血液はやや固まりつつある。では、実際の解剖に入ろう。Y字切開にて腹部を開く。ここから先は臭気も発生するので、我慢できないと思った人は早く退場なさってください。では、術式を開始します。セザール様、貴方さまのご無念は必ず晴らします」
フィンは遺体を切開し始めた。
「肺、心臓はうっ血気味ではあるが、死亡するほどの病変は見られない。肝臓は、壊死が至る所で発生しスポンジ状で血まみれだ。黄疸の原因はこれだろう。また腎臓も肝臓同様に壊死が進んでいる。尿毒症や肝臓の機能障害が死因であろう。同時に肝臓と腎臓においてこのような病変を起こす病気は私は知らないが、私が知る『あの毒』に症状が類似する。残念ながら、毒物の化学分析は『この世界』では不可能なのだが。宮中伯様、彼が倒れる前に食したものに、キノコは……」
フィンは解剖を続けながら、背後にいるだろうマリーに声を掛けた。
だが、マリーは答える事は出来ない。
彼女は口を押えながら、蒼白な顔色をしていた。
「う、うぅぅぅ!」
「マリーお姉さま! せんせー。ボクがお姉さまを連れて出ますので、話は後で。クロエちゃん、記録係お願いね」
ミアは、フィンやマリーの従者の返答も待たずに顔が真っ青になって苦しむマリーを解剖室からお姫様抱っこをして連れ出した。
「ふぅ。では、解剖を続けます。消化器官の内容物は事件とは関係ないとは思いますが、調べましょう。クロエくん、ミアくんの代わりに記録係を頼む」
「はい、先生」
フィンは、ため息ひとつついて解剖を続けた。
◆ ◇ ◆ ◇
「はぁはぁ。アタクシともあろうものが。くぅ……」
「しょうがないですよ、マリーお姉さま。ボクも最初は酷く吐いちゃったし。知っている人の解剖を見るのはキツイかったです。お姉さまもご存じの人だったのですか?」
控室に籠り、洗面器を抱えたままのマリー。
ミアがずっと背中をさすってくるが、時折襲ってくる吐き気と今も戦っている。
「か、顔くらいしか知らない人でしたわ。でも、人間がああバラバラにされれていくのはショックでした。ただ、あの様に解剖を行えば病変部が誰の目にも分かります。必要な処置であったのは、納得しましたわ。うぅぅ」
「少し水を飲みましょう。お口をゆすぐのもいいですよ? はい、どうぞ」
ミアは自分が水魔法で作った水入りのコップをマリーに差し出す。
マリーもミアが作ったものだからと安心して、毒味もせずに水を口に含んだ。
「ありがとう、ミアちゃん。すごいのね、水の魔法まで使えるだなんて。貴方にはすっかりお世話になりましたわ」
「いえいえ。生活に役立つような簡単な魔術師魔法は、ぜーんぶ先生から教わったんですよ。えっへん」
ミアは、ワザとマリーを笑わせるように子供っぽい受け答えをする。
「ボク、お姉さまのお役に立ててとってもうれしいです。だって、マリーお姉さまは、ボクなんかとは本来お話が出来ないくらい偉くてきれいなお嬢さまですから。それにお子ちゃまなボクと違って、せ、先生ともお似合いですし。これからも機会があれば、普通のお話もお姉さまとしてみたいです」
ミアは、慈愛の表情でマリーを慰める。
そして、これからも一緒にガールズトークしたいと話題を変えた。
「きっと、この先も貴方とはお話を沢山すると思いますわ。ミアちゃんは今の優しいミアちゃんのまま、大人になってくださいませ。捻くれてしまったアタクシの様になってはダメよ? そして教授を守ってあげてください。あの方はとっても不器用なんですもの」
「え? お姉さまは立派な淑女さまですよ。ただ、かなり無理なさっているかなとは、不敬ながら今日思ってしまいました。だって、お貴族様のお嬢様が解剖現場なんかにこなくても、報告をうけるだけで十分お仕事をなさってますから。あと、ボクは先生のお嫁さんになっていいのかなって思う時があります。貴族出身同士……。マリーお姉さまの方が先生のパートナーに相応しいんじゃないかって……」
ミアはマリーの変な言い方に首を傾げながらも、彼女が無理をして公務当たっているのではないかと助言してみた。
また自分よりもマリーの方がフィンの妻として相応しいのではないかと、心が痛みながらも話した。
……ホントはボク、先生のお嫁さんになるのは、他の誰にも譲りたくないもん! でもね、ボクなんかよりはマリーお姉さまの方が先生にお似合いなんだ………。




