第2話(累計 第24話) ミアに真実が語れないフィン。
「さて、落ち着いたら話を聞こうか。ニコルくん、騎士団長様が賊、暗殺者たちに襲われた事件の事だったね、ミアくん」
「うん、そーなの。せんせー」
まだ痛む鼻を抑えつつも、お茶を飲みながらフィンに話しかけるミア。
彼女は数日前の夜に起こった襲撃事件について話し出した。
なお、研究室内に居た学生たち。
ミアがフィンに飛びかかった時点で研究室から避難済み。
痴話げんかに巻き込まれる危険性を察知しての行動かなと、ミアは思った。
……ボク、そう簡単に暴走しないよぉ。失礼ね、ぷんぷん!
「……そうか。ミアくんも一緒に団長様と戦ったのか。毒使いの暗殺者たちとの戦闘とは危なかったのではなかったのか? まったく、ミアくんを危険な任務に幾度も巻き込むとは、ニコルくんもしょうがない奴だ」
「心配してくれてありがとー、先生。でもね、ボク。あのくらいの敵なら無双できるよ。もうオーガだって怖くないもん」
それほど豊かでは無い胸を張り出し、自慢げに話すミア。
彼女の様子を見て、フィンは苦笑しながらミアの頭を撫でた。
「はいはい。もう私よりは随分と強いですからね、ミアくんは。ですが自信と慢心は大きく違う事を覚えておいて下さいね」
「はーい。せんせー」
ミアは子供扱いされながらもフィンに大事にされて居るのを感じ、とても嬉しい。
だから、すっかり話すべきことを忘れていた。
「さて、ミアくん。ここまでは良いとして。一体どんな奴らだったのかい、暗殺者たちは? 捜査上、秘匿するべき情報なら聞かないが……」
「あ。そっちの相談の方が大事だったんだ。あのね、先生。もう既にご存じかと思うんですけど、これまで襲われてきた人はね、みんな。帝国との戦争で活躍した人達ばかりなんだ。そしてね、暗殺者たちなんだけど、どうも元帝国の人っぽいの」
ミアは襲ってきた賊の風体や装備を、フィンに事細かく話す。
「ん?? じゃあ、彼らの眼。瞳の色は金色じゃなかったかい?」
「そーだよ、せんせー。どうして、先生はそんなことが分かるの? ボクの眼も同じ金色だよね。同じってのは偶然だけど不思議だよね?」
「あ。え、えっとぉ、その通り。ただのぐ、偶然だよ。私もニコラくんから帝国の人の事は色々と聞いていたからね」
……せんせー。妙に慌てるけど、どーしてかな? 別にボクと眼の色が同じくらい、ただの偶然だよね。そりゃ、王都ではあまり見ない眼の色だけど?
「先生、どーしたの? 急に汗なんかかいて、今日は随分と寒くなったのにおかしいね。ボクも生脚に半袖じゃ寒くなったから、おかーさんに作ってもらったタイツと長袖シャツ着てるもん」
ミアは自慢の美脚を上げて、フィンに見せびらかす。
彼女は母に身体にきちんとフィットしたタイツ状のズボンを作ってもらっていた。
また、革製上着の下になるシャツも夏の半そでから長袖に変わっていた。
「いや、べ、別に。ミアくんは気にしなくてもいい事だ。さ、さっきの話だと暗殺者は曲刀に毒を塗っていたと聞くが、どんな毒か分かったのかい?」
ミアはフィンが何かを誤魔化すように話題を変えたように思ったが、気にしないことにした。
……変なせんせー。でも、まーいいか。ボクの大好きなせんせーは、ボクを騙して悪い事をするなんてありえないし。だったら、この前の時にボクを襲ってくれたよね。ボク、先生になら襲ってほしいもん。
フィンが知らなくてもいいというのなら、ミアが今知る必要は多分無い。
大好きなフィンがミアを悪意をもって騙す事なんかあり得ないし、ミアのカンも、フィンからはミアを心配する気持ちしか感じない。
嘘も多分、自分を思っての事だろとミアは思った。
「えーっとね、確か『紫兜花』の根の毒ってみんな言ってたよ」
「それなら『トリカブト』、毒成分は『アコニチン』か。あれは少量でも効果がある毒で即効性が高い上に解毒薬が無い。拮抗薬はあるにはあるが、あの方法はあまりに危険だ。ミアくんは、くれぐれも毒攻撃を受けない様に。解毒魔法を唱える前に痙攣をおこして死んでしまうぞ」
「えー! 怖いね、先生。うん。ボク、注意しておくの」
ミアはフィンが脅す様に暗殺者の使う毒について説明するので、良く話を聞いた。
「因みに、襲ってきた奴らは全員死んだのかい?」
「ううん。五人襲ってきたけど、三人は生かして捕らえられたよ。ボクが吹き飛ばした二人は、一発で気絶したから簡単に捕まえられたの。おじちゃんが戦った三人のうち、二人は残念だけど舌を噛み切って自殺しちゃった。もう一人も舌を噛んで危なかったんだけど、ボクが救命措置をして助けたよ。えっへん」
ミアは、ドヤ顔で自分が救命措置をしたと自慢した。
「凄いぞ、ミアくん。君は重要な証拠である生き証人を三人も捕縛したんだ。救命措置とは治癒魔法かい?」
「それもあるけど、呼吸が止まらない様に気道を確保したの。先生が昔、教えてくれたよね。舌を噛み切ると自殺できるけど、息が詰まって苦しみながら死ぬからお勧めしないって」
ミアは、過去にフィンから教わった事を思い出しながら話す。
「嚙み切った舌先と舌の根っこが後ろに上がって気道が詰まるから死んじゃうって教えてもらったから。ボク、ごーいんに犯人の口に手を突っ込んで舌を掴んで空気の流れる道を作ったの。そして後は、昔せんせーに教えてもらった『そよ風』の魔法で空気を送り込んだんだ」
「凄い! 完璧な処置ではないか! ミアくん、なんて素晴らしい。完全なる救急救命を行うとは、師匠である私も嬉しいぞ」
「えっへん! そーでしょ。ボクね、おじちゃんにも警察署長にも褒めてもらったんだー」
ニヘラと幼げだが自信たっぷりの笑みを浮かべるミア。
フィンは愛する教え子が、自分が教えた事を完璧に生かして救命をした事に感動し、思わず自らミアに抱きつていた。
「へへへ。せんせー、ちょっと痛いよ。ボクね、本当は戦うよりも人助けの方が好きなんだ。だって、皆の笑顔が見れるもん。もちろん、誰かを泣かせる奴は、ふっとばすけどね」
「そうだな。私も人助けは好きだよ。だから、今回も少しでも犯罪防止になるかと思って、研究室を新設してミアくんの手伝いをしている。これからも二人、一緒に頑張ろうな」
「うん!」
二人は顔を上げ、周囲を見回す。
研究室には、二人の他の気配は無い。
二人はお互い見合った後、そっと唇を合わせた。
◆ ◇ ◆ ◇
「あら? この研究室は、お子ちゃまとオジサンがキスしあうところなのかしら?」
突然二人に声を掛ける者が居た。
「え!? この声は、まさか?」
「せんせー、だれぇ?」
フィンは顔を青くし、ミアはキスに酔いしれて上気したままの顔で唇を離して声の方向を見た。
「まったく! 所かまわずお盛んな困った人達ですこと。おほほほ!」
声を放ったのは、ゴージャスに燃え上がる様に見事な赤毛をくるくる縦ロールにした若い女性。
如何にもお貴族様風で長袖かつ上等な生地製。
首元まで覆った青緑色の豪華なドレスを身にまとった淑女が、口元を扇で隠しつつミア達を見下すような顔をして緑色な目で見下ろしていた。




