第13話(累計 第20話) そして日常へ。
「ふぁぁ。おはよー、おとーさん、おかーさん」
「おはよう、ミア」
「おはよう。あら、ミアちゃん。今日はいつもより早いのね」
王都の市場近くの下町にある地域一番美味しいと評判のパン屋。
そこがミアの家。
親娘三人の家族である。
まだ夜着姿のミアは既に食卓に着いている両親の横に座り、朝食を食べ始めた。
「もぐもぐ。だって、今日は先生が正式に警察との協力関係になって、新しく学院で研究室を開く日なんだもん。ボクがお祝いに行かないで、どうするの?」
「はいはい。まったくミアったら、毎日毎日。先生、先生って。そんなに先生の事が好きなの?
「うん、おかーさん! ボク、先生の事が大好きなの。この間、ボクから先生にプロポーズをしたんだぁ! ボク、先生のお嫁さんになるの」
美味しそうに父が焼いたパンを頬張りながら、ミアは母に今日早く起きた理由を説明する。
そして彼女は、爆弾発言をした。
「プ、プ! プロポーズだとぉぉ!! ミア、お前はまだまだ子供だろう。結婚にはまだぁ早すぎるぅ。あのやせっぽちがぁ! 俺からミアを奪う気かぁぁ!」
ミアのプロポーズ発言に父親は憤慨し、手に持っていたカップをテーブルに叩きつけながら怒る。
「おとーさん、あんまり怒らないで。先生、言ってたよ。急に怒ると血圧あがって脳卒中になって倒れるって。ボク、おとーさんには長生きしてほしいから気を付けてね」
「ええ、そうよ、貴方。わたしたちは長生きして、ミアの子供を育てなきゃいけないんだし。ミアは結婚しても、当分は警察を辞めないんでしょ?」
だが、父が暴走するのにもう慣れているミアと母。
怒ったら身体に悪い、長生きしてほしいとミアは優しく父に声を掛ける。
また、母も孫を育てるつもりだと話した。
「うん! ボク、みんなの笑顔が大好きなんだ。だから、その笑顔を守る為に警官になったし、今も先生と一緒に頑張ってるの」
「そうなのね。最近、ミアの笑顔がどんどんステキになっていたのは、大好きな先生と一緒に仕事ができるからなのかしら?」
「くそぉ。俺の大事なミアが、あんな優男に取られるなんて。昔、お父さんと結婚するって言ってたのにぃ?」
ミアはキラキラとした笑顔をしながら、朝食を美味しそうに食べる。
母は一旦自分の食事を止めミアの背後に回り、ふわふわしてまとまりが悪い栗毛をブラシで梳かしていく。
父は酒も飲んでもいないのにも関わらず、すっかり酔いどれの様になって愚痴を呟いた。
「そうだったっけ? ボク、五歳の時に先生に会ってから、ずっと先生一押しだよ? お父さんに、そんな事言った覚えないなぁ」
「う、嘘だろ? そんなぁぁ!」
「貴方、今朝はそのくらいにしましょ。ミアの恋路を邪魔しちゃ悪いわ。さあ、編みあがったよ。今日も可愛いわね、ミアちゃん。もう全部食べ終わったかしら。あ、動かないで。仕上げに顔のうぶ毛を剃ってから、顔洗った後に唇に紅を入れて見ましょ」
ミアが自分と結婚するという幼い頃の発言を覚えていないというのを聴き、絶望した父は食卓テーブルに突っ伏した。
その間、どんどんとミアの髪を編み上げていた母。
今度は顔を綺麗にしてあげようと、ミアの顔に剃刀をあてうぶ毛を剃っていく。
あっというまにミアの顔は、明るく透明感を増す。
「うん、これで完璧! 若いと肌もぴちぴちね。さあ早く顔を洗っておいで。歯磨きをしたら、今度は唇に紅を差しましょ」
「ありがと、おかーさん」
ミアは残っていた茶を一気に飲んで、食卓から元気に立ち上がる。
その足で洗面台に向かって、顔を洗って歯磨き。
「じゃあ、おかーさん。お願い」
「はいはい」
母は、ミアの唇にそっと紅を差す。
すると、一気に華やかさが増した。
「ミア、とっても綺麗だ。お父さんはミアを誰にも渡したくないよ」
「もー、おとーさんのばかぁ。ボクは、ぜーったい先生と結婚するんだもん。わー、本当にボクじゃないみたいに綺麗だぁ。あれ?」
見惚れる父の言葉を冗談半分に流して、母から渡された手鏡で自分の顔を見るミア。
その視線は、背後にある柱時計に移る。
「あ、もうこんな時間だ! 早く着替えて、先生のところに行かなきゃ」
ミアは自室に戻り、一気にパジャマからいつもの服に着替えて、玄関から飛び出した。
「おとーさん、おかーさん。いってきまーす!」
「いってらっしゃい。今日は誰かにぶつかったりしないでね」
「馬車には気を付けろよ、ミア」
「はーい!」
元気に走っていくミアを、両親は優しく見送る。
「貴方。わたしたち、とっても幸せよね」
「ああ、そうだな。俺とお前は残念ながら自分の子供を持てなかったが、あんなに良い子を神様から授かったんだからな」
両親は寄り添い、娘が走っていった先をずっと見ていた。
◆ ◇ ◆ ◇
「せんせー! ボク、今日何処か違わない?」
「来て早々に何を言い出すのかな、ミアくん? ん、もしかして口紅を入れたのか? まだ早い気もしないでもないが……。き、綺麗だぞ」
学院の一室。
新しくフィンが代表、1級教授となって持った研究室に飛び込んで来たミア。
フィンに自分の顔を近づけ、特にぷるんとした唇を前に突き出してアピールするのをフィンは顔を赤らめながら反応する。
幸い、今回は本人のアピールもあって分かりやすかったので、彼は口紅に気が付いた。
「うわぁぁ! やっぱり先生は凄いなぁ。ボク、お母さんに化粧してもらったんだ。綺麗になったでしょ、大人になったでしょ?」
「そういう部分が大人じゃないんだぞ。はぁ、全く困ったミアくんだ。さて、今日は色々聞きたいことがある。教えてくれるな?」
「うん! 先生になら、なんでも教えるよー。ボクの秘密でも良いよ? 体重とかスリーサイズとか? なんなら、このままキスしてもいいんだよ?」
化粧した事に気づいてくれたのが嬉しいミア。
更にフィンに顔、いや唇を近づけてアピール、そのまま暴走しだす。
「ばか! キミには羞恥心は無いのか?」
「うん。先生に対しては無いよ。だって、先生。ボクの裸を何回も見たでしょ?」
「この馬鹿が! 一桁年齢の時の裸を見て、誰が喜ぶ! 私は『ロリコン』、いや『ペドフィリア』じゃないぞぉ! ミアくん、周囲が誤解するような発言をするんじゃなーい!」
フィンの大声が学院の研究室棟内に大きく響いた。




