第10話(累計 第17話) 殺害方法を推理する三人。
「では、兄は父をどうやって殺したのですか? 外観では異常は見られませんでしたし。確かに肌の血色が良すぎるのは、少し気になってましたが?」
「おそらくだが、『一酸化炭素』。炭などが不完全燃焼。綺麗に燃えない時に出るガスを吸って亡くなっていたのだと思う。気管支、息が流れるところに微かながら煤があったからね。お兄さんは鍛冶場の事も知っていただろうし」
「せんせー。ボク、全然わからないんですぅ! 煤が喉奥にあったから、煙を吸ったのは、ボクも前の事件で知ったけど」
フィン、ミア。クロエの三人は事件の核心、殺害方法について語りだす。
血色のいい遺体を作る方法があると。
「ま、まあ用語や細かいところは、前回の解剖所見と合わせて論文にするから、それを読んでもらおうか。クロエくん、キミも鍛冶屋の娘なら知っているだろう。石炭や炭を燃やすときに換気を気を付けるのは」
「はい、先生。父から口が酸っぱくなるほど言われました、特に炎が赤黒い時が怖いって。逆に青いときは完全に燃えているそうです」
「青い炎? 炎って赤じゃないの?」
「不完全燃焼、『酸素』が足らないときの石炭は『一酸化炭素』と大量の煤を出しながら燃えるんだ。ただ、その一酸化炭素が鉱石から鉄を作る際、『還元』には大事なんだけどね。逆に完全に燃えれば、煤も出ずに高温の青い炎になるんだよ」
ミアとクロエに丁寧に科学的な説明をし始めるフィン。
ただ、その用語はミアには聞き覚えが無いものなので、ミアはちんぷんかんぷんだ。
「『酸素』? ますます、ボク。分かんないよー」
「アタシも初めて聞くことばかりです、先生」
「ミアくん。それに、クロエくん。今は流れで聞いておいてくれ。後でゆーっくり説明するから」
「約束だよ、せんせー。わーい、今日は先生のところでお泊りして勉強会だぁ」
すっかり漫才モードに突入するミア。
毎度のことながら、取調室で被疑者を巻き込んで行うモノではない。
「そんな『ふしだら』な事、私は絶対に許しません! ご両親に挨拶する前に男の家に泊まりに行く馬鹿娘が何処に居ますか!? まったく、年頃の娘がはしたない事を言うもんじゃないです! あ、ごめんね、クロエくん。すっかりキミを放置して馬鹿話ばかりして」
「いえいえ。ミアちゃんがあまりにおかしくて笑っちゃうの。先生、アタシ笑ってても良いのかなぁ。アタシは犯罪を犯したんだけど?」
「良いんだよ、クロエちゃん。誰でも自由に笑う権利はあるの。特に罪を自分で感じてて反省しているなら猶更ね」
ミアはクロエの手を上から両手でそっと覆い、とびっきりの笑みを浮かべる。
なお聴取室に記録係と監視役を兼ねていた男性職員も、うっすら涙をこぼしてウンウンとミアの言葉に頷いていた。
……あ、オジサンも泣いてるの。そういえば、オジサンは小さな娘さんが居るって言ってたよね。
「ミアくんの笑みは、まるで慈母神のようだね。クロエくん、罪は罪。人は誰しも多かれ少なかれ罪人。己の犯した罪を償うのが人生でもあるのだよ」
「せんせー、とってもいいこというの! あ、それにね、クロエちゃん。クロエちゃんは、まだ神聖魔法を使えるよね。それって、神様はクロエちゃんの事を許してくれているんだ。だって、神様が本当に怒ったら神罰で魔法を奪うってこともあるんだし」
「……そうなのかな。神様はアタシを許してくれているのかな? 神様の力を悪い事に使ったのに。でも、確かに今も力は使えるわ」
フィンがミアの事を褒めると、ミアはとんでもない事を言い出す。
まだ、クロエが神聖魔法が使える。
神から見放されてはいないと。
クロエは、手に治癒魔法の緑色をしたオーラを纏わせた。
「え! そうなのか、クロエくん? あ、そういえば、お父様が亡くなって三カ月以上なるが、その間も治療院で治癒魔法を使っていたぞ。ん? 普通、警察では被疑者が逃げない様に魔法使いには魔法封じの手錠をするが、クロエくんには何もしていないが、どうなっている!?」
「あ、確かに普通はそうだよね。でも、クロエちゃんは魔法を使って逃げたりしないもん。監視のおじちゃん、署長はどう言ってたの?」
「わ、私は署長からは、悪事を犯した光神の信徒は神聖魔法を使えなくなるから、手錠は幼い娘には必要あるまいって命令されました。ミアちゃん、本当にクロエちゃんは魔法が?」
「うん、今も使えるよ。だって、クロエちゃんの回りに今も神様からの光が舞っているの、ボクには見えるし。それに治癒魔法をちゃんと使ってるよ? 親を殺した人に、神様は力を貸し与えたりしないもん」
監視の男性職員すら巻き込んで大騒ぎになる取調室。
クロエが神の力。
神聖魔法を今でも使える事から、クロエが父親の殺害には一切関与していないことがほぼ明らかになった。
「ボクが最初からクロエちゃんの事を信じたとーりだもん! 偉いでしょ、せんせー」
「はいはい、ミアくん。分かったから、一々抱きつきに来ない。さて、残るはモイーズさんの殺害方法だ。私には思いつく方法があるのだが、クロエくん。こんなモノをお兄さんが準備していたのを家で見なかったかい?」
抱きつきにくるミアを押しどけ、フィンはクロエに尋ねた。
「とある」物を見かけなかったかと。
「あ。そういえば、昔ボール遊びをするのに使ってたものが家にあります。そして、何故か父が倒れていた部屋の隅に落ちてた気がします」
「そうか。じゃあ、間違いない。では、これからは捕り物についての相談になる。署長も交えて相談をしよう。クロエくん、お兄さんにこれ以上罪を重ねさせない様に協力してくれるかな?」
「はーい。ボク、早速署長に聞いてくるね。クロエちゃん、良いよね」
「ええ、先生、ミアちゃん。宜しくお願いします、兄を止めてください」
こうして大捕り物の準備が開始された。




