第29話(累計 100話) エピローグ2:みーんな、だーいすき!!
砂塵吹き荒れる戦場。
多数の兵らが倒れ伏している中、ただ一人。
金色の少女だけが立っている。
いや、倒れている者達は、痙攣をしていたり痛みに身を振るわせており、全員かろうじてだが生きていた。
「ねぇ、もうやめようよぉ。戦っても何も良いことないよ?」
「そんなことあるかぁ! ワレらの背後には多くの民が待っている。なんとしても、この豊かな土地をワレらの元に……」
立ち上がってきた上等そうな鎧をまとう戦士。
彼は大剣を杖代わりにして、なんとか立ち上がる。
そして、金色のオーラーを纏う少女に鋭い視線を向けた。
「はぁぁ……どうして戦って奪う事しか頭にないの、おにーさん? 国同士でも仲良くしていたら、食べ物も分けてくれるかもしれないし、少なくとも売ってくれるでしょ?」
「ワレら、高貴たる騎馬国家が土地にしがみ付く様な者に頭を下げよというのか!? そのような恥辱溢れることなど出来ん!」
真紅のロッドを構える軽戦士。
金属裏地の皮鎧と金属製の籠手に足鎧。
そして綺麗な栗毛髪を抑える兜代わりのサークレットのみを装備した少女。
彼女は、大きくため息をつき、攻め込んできた騎馬国家の将軍格らしき戦士に戦う必要が無い事を説明する。
しかし、頭が硬く中世初期の略奪思考から抜け出せない将軍は、国同士の付き合いを恥辱と吐き捨てる。
「そんなんだから、ダメなんだよ。……ほい! そんな旧式銃の狙撃なら怖くないよ」
「……ば、馬鹿なぁ! 銃弾すら当たらないのか!? この魔女め。たった一人で我らを壊滅させるかぁ!?」
少女の隙を狙っていたのか、倒れたふりをしていた銃兵からマスケット銃が撃たれる。
しかし、硝煙臭から既に把握済みの彼女に弾丸が当たる事は決してない。
ひらりと回避して、ダメ押しに足元の小石を狙撃手に蹴り当てる。
「だって、他の人が来たら死人が沢山出ちゃうもん。ボクとせんせーだけなら、殺さずに無力化できるからね」
狙撃手が気絶した事を確認し、更に将軍らしき男に話しかけるミア。
笑みを浮かべながらも、警戒を一切切らず隙が全く無い様子に将軍も動くことが出来ない。
「う、噂に聞いたことがあるが、まさか本当だったのか。ティルムガット帝国皇帝の血を継ぐ姫が生き残っていて、今や王国最強の剣だというのは……。こ、この魔女、バケモノめぇ」
自分の活躍を簡単げに話すミアに、将軍は声を震わす。
少人数で宿営地に殴り込み、魔法の支援があるとはいえ屈強な戦士たちを一人の少女が薙ぎ払う様は、やられる側からすれば悪夢でしかない。
更には全員「生きて」無力化されている事。
殺すよりも何倍も難しい偉業を、まだ幼さの残る少女が簡単げにこなす。
その様に将軍は、恐怖を覚えた。
「ぷんぷん! ボク、魔女でもバケモノでもないもん! せんせーが大好きなだけの女の子なの! もー、怒った。おにーさんも、もう一度殴って反省してもらうんだもん」
「ちょ、ちょっと待て。女の子にバケモノ扱いしたのは悪かった! え、えっと確かミハエラ様……」
「ボクはミア! ミア・フォンブリューヌだよ。はんせいしなさーい!」
ミアが操る真紅のロッドが一閃。
最後まで残っていた将軍格は気絶し、騎馬国家の遠征軍。
その主力部隊は得意の騎馬に持ち込むこと出来ず、ミアとフィンにより壊滅した。
◆ ◇ ◆ ◇
「マリーおねーさま、ただいまー!」
「マリー、今帰ったよ。敵兵らの扱い、くれぐれも丁重にな」
「ミアちゃん、お疲れさまですの。誰も殺さずの無力化、実にお見事ですわ。お兄様もフォロー、お疲れさまですわ」
「おねーさまぁ。騎馬国のひとって失礼なんだよぉ? 突然、王国内に侵略してくるんだもん。元から嫌いだったけど、ボクの事を女だの、子供がどーとか言って舐めてきたからノックアウトしたら、今度はバケモノだの魔女だの、酷い事ばかりいうんだもん」
夕刻の王国軍宿営地。
そこにミアとフィンが帰還する。
突然始まった、東方に存在する騎馬国家からの王国への侵攻。
それに対し、王国は王家直属騎士団及び兵士を多数投入。
国境地帯は戦場となり、戦況は拮抗状態。
ミアは多くの人々が死んでいくのを我慢できず、神聖騎士団に介入を依頼。
後は王やマリーらの暗躍により、今回の敵中枢部「殲滅」作戦が実行されることになった。
「そりゃ、ボク。もう敵でも味方でも。誰にも死んでほしくなかったから、いっぱい頑張ったけど」
深夜、二人だけで敵地に侵攻。
そのまま、宿営地を襲って騎馬部隊の強みを生かさせないまま、敵指揮官らを「壊滅」させたのだ。
「まあ、それが出来るのは普通の女の子には無理なのは理解しますわよね、ミアちゃん」
「だって、だってぇぇ!」
指揮系統を失った騎馬国家群が総崩れ。
すっかり覇気を失った将軍らからの停戦命令で、終戦となった。
「うふふ、それはしょうがないですわ、ミアちゃん。だって、何処の世界に女の子一人で千人規模の部隊を誰も殺さずに壊滅出来る子が居ますか? アタクシも、ミアちゃんに出会わなければ信じませんですわよ、オホホ」
「それはそうだな。近くで支援していた私にも金色の閃光にしか見えなかったからな」
「ぷんぷん! お姉さまもせんせーも、だーい嫌い! ボク、普通の女の子でいたんだもん!」
身内の兄妹にも呆れられがちのミア。
自分は普通だと言い張り、頬を膨らませて怒った。
「お兄様。ミアちゃんを揶揄うのはこのくらいにしましょうか。ミアちゃんが活躍したおかげで、敵味方とも犠牲は最小限に終わりました。戦争が小競り合いレベルで終わった事を感謝ですわ」
「そ、そうだな。ミアくん、キミは凄い。おかげで多くの人達が救われた。ありがとー」
ふくれっつらのミアを見て、マリー、フィンとも慌てて感謝の言葉を告げる。
しかし、まだ機嫌が直らないミアは、毎度の様に調子に乗った。
「せんせー。言葉に心がこもっていないのぉ。せめて、ボクを抱きしめて愛してるくらい言ってよぉ」
「あ、ああ。ミア、私の大事な女性。愛しているよ」
フィンもミアに悪いと思ったのか、素直にミアを抱きしめ愛の言葉を耳元で呟く。
「うん、ボクも愛してるよ、せんせー。ねぇキスしてぇ。あ、きゃん!」
そのまま調子に乗り過ぎ、眼を閉じて背伸び。
桜色の唇を突き出すミアに、フィンは静電気チョップを額に落とす。
「あのね、ミアくん。周囲に余人が居る時に破廉恥な事を言うんじゃないです! はぁ。まだまだミアくんは子供だなぁ」
「えー。ボク、もう大人だもん! 子供だって生めるし……ぎゃん!」
呆れるフィンへ、更にふざけるミア。
サイドの静電気チョップで涙目になる。
だが、その様子にしょうがないとフィンはミアを抱きしめて呟く。
「恥ずかしい事を言うんじゃない。この破廉恥娘め。悪い事をいう口は塞いでやる」
「あ、せんせー」
二人の唇が触れ合うのを、マリーや老執事。
そして多数の騎士達が暖かい眼で見守った。
「せんせー。ずっと一緒にいてね」
「ああ、必ずミアよりも長生きして看取ってあげるよ。だから、無茶するなよ。可愛いお嫁さん」
「はぁ。まだまま可愛いミアちゃんの冒険は続きそうだわ。巻き込まれる代わりにずっと特等席で眺めましょうかしら、おほほ」
ミアとフィン。
二人の物語は、まだまだ始まったばかり。
幸せを広げる二人は、世界に歩み始めたばかりだ。
(完結)




