私、時永めぐる(14)は10度目の人生を歩んでいる
私、時永めぐる(14)は10度目の人生を歩んでいる。
ここまではすべてが順調だ。
……いや、順調かなぁ。
前回よりも妖怪さんたちとの交流が深くなったせいか、なんというか、やらかしまくっている気がする。
マナの木とドラゴンジャーキーが、完全に危ないお薬じみたものになっている気がするよ。
個人的に、【中毒】という状態は、身体的、精神的に問題を引き起こすもの、と私は認識している。それを絶ったら手が震えて来るとか、幻覚が見えてくるとそういった感じのもの。
だから酒とジャーキーは、精々が“ドはまりした食べ物”程度と思っていたんだけれど、その範疇に治まらない感じになってしまった。
いや、体にも精神にも悪影響はないから問題ないのかもしれないけどさ。
両方ともおっちゃんたちが独占販売している状態だし、保健所……食品衛生なんちゃらとかいう組織だっけ? そこがきちんと調べて問題ないと判断されているんだから、大丈夫だろう。
……なんか、一部のアスリートがジャーキーの方を定期購入しているらしいんだけれど、最近、やたらと国際大会で優勝しまくっている彼じゃないよね?
とりあえず私は与り知らない。知らないってことにしよう。
さて、私の事だ。
ステータスを確認したところ、またしてもおかしなことになってしまった。いや、私がおかしなことを試した結果ではあるんだけど、まさか能力として備わるだなんて想定していないよ。
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■時永めぐる
年齢:14(132)歳 種族:人間(モンゴロイド[大和民族])
称号:【理核管理者】【格上殺し】【精霊憑き】【妖憑き】【理核作成者】
状態:良好
技能:
【農耕(中級)】【調理(中級)】【算術(中級)】【語学(初級)】
【射撃(中級)】【隠形(中級)】【徒手格闘術(上級)】【拳法術(中級)】【短剣術(中級)】【護身術(初級)】
【土魔法(上級)】【水魔法(上級)】【火魔法(中級)】【風魔法(初級)】【光魔法(中級)】【幻術(初級)】【肉体付与(中級)】
能力:
【ふりだしにもどる】【現実改変】【鑑識眼】【異空門】【地図】【生体探知】【魔力増槽】【条件発動】【エネルギー変換吸収】【理核生成】
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……いや、ね。【理核】、作れちゃったんだよね。
それもオリジナルものとは微妙に違う感じの代物で。
【理核】は最初から意思疎通がしっかりできるだけの……理性? 精神性? なんていえばいいんだ? 大人? うまく説明できないけれど、きちんと意思疎通ができる代物だ。冷静な大人、といってもいいかも知れない。
やたらと人間味のある対話型コンピュータと云うのが一番近いかな。
で、私が拵えちゃったヤツなんだけれど、まるっきり赤ちゃんみたいな感じなんだよね。もしくは仔犬とか仔猫みたいな感じ。ただし、知識は膨大。
それだけにきちんと理性を育てなくてはいけないというね。
尚、この【理核】に関し、コアが狂喜し、私におねだししてくる始末。まぁ、面白半分で作ったものだからね。コアにあげちゃったよ。とはいえ物理的に手で持てるわけではないから、私のアイテムボックスからコアのストレージに移し替えただけだけどね。
で、どうやったのかは知れないけど、自身とリンクしたみたいだ。
私の作った方の【理核】の意思? を飲み込み統合して、その能力全般を身に着けたらしい。
いや、なんでそんなことしたの?
《これで、多くの問題が解決できます!》
問題ってなによ。
《地球のアカシックレコードにアクセスできるようになりました。これで、地球上で問題なく【ダンジョンコア】としての機能を十全に発揮できます》
は?
《これで地球上の情報をすべて掌握することも可能です。もっとも、その情報量は膨大ですので、それを行うのはあまり現実的ではありませんが。
ですが、目的とする情報の収集には非常に役立ちます。ロストテクノロジーも再現可能です》
お、おぉ。って、ロステクの情報まで得られるのか。
それはそうか。人類が残してある記録じゃなくて、地球が持ってる記憶だからね。
ってことはだ、どこぞの学者さんが開発したっていう、完璧な遺体保存術とかも再現できるんだ。悍ましいとか使い道がないとか云われて、さんざんこき下ろされた結果、ブチ切れて研究成果を全部破棄したために、ロステクになってしまったその方法も!
《……なんでそんなニッチな情報を持ち出してくるのですか、マスター》
いや、私の知ってるロステクとかそれくらいだもの。あとはラムネの瓶を作る機械とか、ド級戦艦の主砲の砲身の製造方法とかくらいしかロステクの話は知らないよ。
《マスター……。いえ、そもそも一般的な方は、ロストテクノロジーについてアレコレ興味を持つことはありませんね》
そりゃ、学者でもなければ興味はないと思うよ。
てな有様になった。
そして能力として【理核生成】なんてものまで生えてきた。多分、素体とできるモノがあれば、作れるってことだと思うんだ。とはいえ素体によってその性能が変化すると思うけど。
まっさらなハードディスクにCPUを雑に溶接したものを素体にしても、きっとダンジョンコアになると思う。しかもそんな雑な代物なのに、世界最高峰のスパコンと勝負できる代物になるような気がする。
怖いから絶対にやらないけど。
さて、【理核】はふたつ作ったわけだけれど、もうひとつは妖怪さんたちにあげた。赤ちゃんみたいなものだから、うまく育ててねと云って。
これに目を輝かせたのが鈴鹿御前だったんだけれど、すでに鬼の一派には橋姫が【理核】を得ているということで泣く泣く辞退。
ということで、残るのは他の妖怪さんたちなんだけれど、立候補してきたのは天狗と九尾、そして意外なことに河童。なんというか、ある程度の勢力を持っている妖怪さんたちだ。あ、化狸系の妖怪さんも手を挙げたけれど、彼らは九尾とひとまとめにされた。
話し合いとか絶対に決着がつかないから、じゃんけんで決めちゃいなよ。私が不正不可にするから、完全に運任せみたいなものになるよ。じゃんけんの駆け引きなんてたかが知れてるし。
ってことを云ったところ、何故か3陣営から絶望じみた視線を向けられた。
妖怪さんたちとしては、運任せにするのは嫌なのかな?
そしてやたらと鬼気迫るじゃんけんの結果、勝利したのは九尾陣営。
【理核】の主となったのは妲己。
……なんだか一番渡っちゃいけなさそうな所に行ったなぁ。九尾さん……というか、狐と狸さんたちは謀略方面で動いているからなぁ。天狗さんたちとは役割が若干被ってはいるんだけど、狐さんたちは対人特化での謀略だからね。
天狗さんたちは、電子機器関係での各種工作とか暗殺とか、そっち系だ。
妲己さん、スナッチイミテーターとか新造するの? 完全に人間と同じイミテーターとか、作ろうと思えば作れるけど。
私? 私はあえて人外とバレる程度のスナッチイミテーターしか拵えてないよ。妲己さんはどうするのかな?
「もちろん、バレないレベルのモノを造り上げて放ちますよ。とはいえ、誰かと入れ替えることはせず、対象国で新しく戸籍を取らせて生活させます。同じ民族であれば、余所者であってもそこまで警戒されませんからね。信頼を勝ち取るのは容易です」
……あんまり無茶なことはしないでね。国際問題とかに発展したら、さすがにもみ消すのにクラっとしそうだから。
《その程度の現実改変では、少しばかり気疲れする程度では?》
それでもだよ。
「大丈夫。珠ちゃんから聞いています。せいぜい人身売買組織に関して調べる程度ですよ。まぁ、どの程度根を張ってるかで、面倒の数が変わって来るでしょうけど」
あー。あの大陸の犯罪組織か。潜水艦までもってるとか、おかしな連中だったんだよね。船ならともかく、潜水艦だよ。
考えたらロケランとかも持ってたっけな。それを考えれば然もありなん?
なんてことがあったのが約4年前だ。
私の死亡イベントはそれぞれ問題なく躱してきて、その犯罪組織とのドンパチもやるにはやったんだけれど、前回のような戦争じみた有様にはならなかった。
妲己さん、どれだけのスナッチイミテーターを放ったのかは知らないけど、連中が日本に上陸した時点で同士討ちしてたんだよね。正確には、スナッチイミテーターが組織の連中を半ば制圧してた。
そんなわけで、鬼さんと天狗さんたちは若干消化不良だろうけれど、波止場での攻防戦は穏便? に終わった。
……銃撃戦はあったから、穏便とはいわないか。でも今回は珠ちゃんが船を爆破したりしなかったから、穏便だよね。おかげでマスコミも静かだったし。
ということで、前回死亡回避に失敗した修学旅行だ。
今回も海外。目的地も前回同様に香港だ。
そして機上の人なっている私は、3度目となるハイジャックの真っ最中だ。
うーむ。本当、私はもうこういうのに慣れちゃったんだなぁ。怖いという感覚を、なんとかして思い出さないと不味いんじゃなかろうか。
そんな風にも思えてくるよ。
あ、あの乗客の人がまたしてもやらかした。ってことはだ。
私は右後ろを振り向くと同時に手を振った。
そこには、丁度こちらに向けて銃を構えた、やたらとハンサムな西洋人の中年男性。残念ながら私は、見た目でどのあたりの国の人かの見分けはつかない。確か、東ヨーロッパ人とかいっていたかな?
ってことは、ドイツより右のほう?
私の頭の中には、私が大改編する前の世界地図がしっかりと居座っている。
男性が驚きながらも引き金を引いた。
なかなか面白い経験、ものを見ることができた。
銃を撃つ。硝煙が吹き上がる。目の前に弾丸が現れる。
私の【エネルギー変換吸収】で運動エネルギーをごっそり奪われた弾丸が急制動を掛けられたような有様となり、目の前でへしゃげつつ私のおでこにこつんと当たった。
徒歩の速度くらいに減速された銃弾だ。せいぜい小突かれた程度でたいした痛みもない。もしかしたら少しばかり赤くなっているかもしれないが、その程度だ。
そして銃撃した男性と、その隣の女性は鈴ちゃんと空ちゃんにあっという間に制圧された。
実のところ、銃撃前に取り押さえる案はあったんだけれど、その場合、その後の流れがどう変わるのか不明であったため、あえて銃撃させた。
これまでのイベント同様、イベントそのものは起こした方がいいという考えだ。
潰した場合、突発的な別の死亡イベントが起こるかもしれないからだ。そうなったら前回の経験がまったくの無意味となる。因果と云うものは侮れない。ただの妄想かも知れないけれど、妄想であると断言できるほどの勇気なんて私は持ち合わせていない。
特に害がないのであれば、迷信の類は信じるべきだ。形だけでも。
いくら死ぬことに対する忌避感が希薄になったとはいえ、痛いのは嫌だからね。
さて、これで機内のイベントは終了した。
次は空港でのイベントだ。
……。
あ、そうか。
なんで今回はこんな立て続けなのか、なんとなく分かったぞ。
昨年の臨海学校では、死亡イベントが無かったからだ! それが今回に回って来たに違いない!
前回同様、怪気炎をあげてハイジャック犯を仕留めに歩いていく珠ちゃんを見つめながら、私はひとり勝手に納得していた。
空港までいましばらく掛かるし、となりで頭を抱えて泣いてる大崎さんを宥めるとしよう。
今回のことがトラウマにならないよう、みんなに現実改変掛けておいた方がいいかな?




