私、川守めぐる(10)は10度目の人生を歩んでいる
私、川守めぐる(10)は10度目の人生を歩んでいる。
人生10度目のやり直しとなるとさすがに慣れたもの。前回の私のやらかしで、歴史がアレなことになっているけれど、私の人生におけるイベントは変わりがないからね。
さて、今回の異世界行では、前回の時のメンバーに加えて橋姫様が追加されている。これはダンジョンコアへのエネルギーチャージをするためだ。
地縛を解いてしまったのだけれど、にも関わらざう橋姫様はダンジョンマスターと成ることを了承して貰えた。
……試しとはいえ、考えなしにやらかすもんじゃないね。橋姫様に心変わりをされていたら、代わりのダンジョンマスターと成る妖怪を探すのに手間取るところだったよ。
まさか、表に出る訳にはぜったいに行かない、緑目の怪物さんにお願いするわけにもいかないしね。
そんなわけで、今回の異世界召喚イベントはかなり大人数になってしまった。
先ず玉様は前回同様私の身代わりでバス内。そしてバス屋上組の面子は前回の5人、私、酒呑童子、太郎坊、三吉鬼、名無しの天狗に加え、鈴ちゃんと空ちゃん、そして橋姫の計8人だ。
総勢9人か。なんだか大変なことになりそう。
そうそう。今回の異世界行で、私はあることを試すつもりだ。今回は特に欲しい能力とか思いつかなかったからね。なのでひとつ実験をして見るよ。
それはなにかというと、【理核】、即ちダンジョンコアを自作しようということだ。その素体として、オートマタの中枢部に利用しているエーテル素子とやらを球体にしたものをコアに作ってもらった。一応、基礎能力となるような加工はしていあるらしい。
例えるなら、球体の形をしたCPUというようなモノだ。本来のダンジョンコアと違い、その色は綺麗な空色をしている。ビリヤードの玉サイズのパライバ・トルマリンみたいだ。
こいつをふたつ手に持って『理核になぁれ』とお祈りしてみるつもりだ。
念じることで自身に特殊能力が身につくなら、念じることで自身にではなく、他者……この場合は物品だけど、能力をもたらすことも出来るんじゃないか、と思ったんだよね。だから試してみるよ。
失敗しても、浴びたエネルギーは身体能力強化に回されるんだから損はないしね。
うまくすれば、理核がふたつ手に入る。天然モノとの違いはでるだろうけど、あって困るものじゃないしね。
……いやさ、今後、毎回1個消費されることが確定(橋姫様用)したようなものだからさ、その代わりになるようなものができないかなと思ってね。
なぁに、試すだけならタダってもの。
そんなわけで、現在、私はバスの上で座っている。両手には空色の玉。そして背中には橋姫様がくっついている。
「めぐるちゃん、その玉はなぁに?」
橋姫様が私の肩に顎を載せるようにして訊いてきた。ちなみに彼女の恰好は、いかにもらしい和装ではなく、ちょっとコンビニ行ってくる、といわんばかりの軽装だ。
「これは……SFでいうところの、アンドロイドの頭の中身、をオカルト技術で作ったもの、かな?」
「えっと、以前に見せてもらった自動人形だっけ? あれの脳味噌?」
「そう、それ。もっともこれはその素体だけれどねー」
見た目はまさに宝石。もしこれを売ろうなどとすれば、どういう値段がつくだろう? いや、それ以前に宝石と認められるか怪しいか。
「橋姫様はどんな能力を得るが決めたの? おっちゃんは熱を操つる能力にしたみたいだけど」
酒呑童子はどこまでも酒造りに有用な能力を求めているみたいだ。醸造の際の温度管理を徹底したいといっていたからね。
「私は偏在能力を得ようと思うよ。そうすればきちんと私自身で外に遊びにいけるからね」
「あー、確かにそっちのが楽だねぇ。丁度お手本な伊吹童子もいるし」
三吉さんは私と同じ【異空門】を得ると云っていた。営業で飛び回っているから、時間短縮には丁度いいとのこと。ワーカホリック過ぎないかな?
空ちゃんと鈴ちゃんは完全な実体化ができるようになりたいと云っていたし、伊吹童子は物品のコピー能力を得ると云っていた。もちろんコピーをするには相応の材料が必要になるだろうことは説明済みだ。
さすがに無から有を生み出す能力は得られない。いや、得られたとしても、多分発動できないと思う。使用するエネルギーが膨大過ぎて。
と、そろそろかな。
「それじゃ、みんなが落っこちないようにバスの上に固定するから。転移が終わるまでちょっと不自由かもしれないけど我慢してね」
転移中に狭間に振り落とされないよに現実改変を行う。本当、外はまさに暴風の中にいるみたいな有様になるからね。
サービスエリアの駐車場、バスを中心に魔法陣が浮かぶ。
そして景色が一変した。
「うわ、なんかすごい! 酷い!」
背中にひっついている橋姫様の声が聞こえる。
「ちゃんと願わないと能力を得られないよ!」
私はそう云いながらも、手にあるふたつの珠に向かって、【理核】になーれ! と、なんだか子供のおまじないじみた調子で願い続けた。
時間にして1分にも満たない間であろうに、私たちは召喚が完了する頃には、まるでひとっ走りして来た後のような疲労感に包まれた。
とはいえここで一息ついているわけにはいかない。
これまで通りに行動をする。バスから飛び降り、祭壇っぽいところへと現実改変で行った隠密状態で進み、コアが魔改造したダンジョンコア改を設置する。
これで1時間と掛からずにこの建物はもちろん、敷地全体をダンジョンとして掌握できるだろう。
そんなこんなで、私たち10人はダンジョンの最下層にいる。表層が私の設置したダンジョンコアに掌握され、あのクズ共を捉えるまでの間、いつも通りここで遊ぼうということだ。
……頭を齧られて死んだことは云わないでおこう。前回、そのせいでみんなやたらと張り切りだしたからね。
って思っていたら――
「今回こそは主様の仇を討つのです!」
「おー!」
鈴ちゃんと空ちゃんが張り切りだした。そして珠ちゃんが目を覆い隠しつつ天を仰いでいる。
かくしてドラゴンを獲物とした大狩猟大会開催である。
「おっちゃん、なんか張り切ってドラゴン狩りしてるけど、これ、食べられないよ。いや、一応は毒抜きする方法はあるんだけれどさ、その手間に見合う味かと云うと微妙なんだよね」
実際、ちゃんと食用に適したドラゴンもそれなりに狩ったあったりする。そっちは美味しいは美味しいが、命を賭けてまで狩るほどか? という感じだ。徹底管理の元、肉牛として育てられた牛と比べたりするとねぇ。
「だが魔法的な特殊な効果はあるのだろう?」
「いや、まぁ、そうなんだけどさぁ。うーん……ジャーキーとかにすれば、酒のつまみとして優秀かなぁ」
こっちで暮らしてた時はそんなことしてたし。でも初回に作ったのだけで、追加で作ったりはしなかったんだよねぇ。毒抜きが面倒臭くて。
ついうっかり酒のつまみなんて云ってしまったからか、鬼さんたちが増々白熱しだした。
いや、あの、金熊さん、なんでそんなにドラゴンを食べることに執着してるの?
いや、どうしようね、これ。
「ねぇねぇ、めぐるちゃん。学友たちはどうするの? この分だと、大半が生き残るよ」
橋姫様が訊いてきた。
「これまでと同じように、ドラゴンに焼かれてもらうつもりだけど」
「絶対的に【縁切り】して放り出さない?」
は?
「え、もしそうしたらどうなるの?」
「生涯完璧に天涯孤独。誰にも好かれないし嫌われもしない。誰からも無関心な有様になる。まぁ、犯罪とかを犯せば、相応に処されるかな?」
うわぁ。完全にどうでもいい人間になるのか。かなりキッツいな。生きる意味も意義もなくなりそう。
というか、就職とかできないんじゃない? 誰にも求められないだろうから。
「地球……日本だったらそれなりに面白そうだけれど、こっちの世界で【縁切り】して放り出したら、すぐに野垂れ死んじゃうと思うなぁ」
「あー、そっか。それじゃ面白くないね」
なんか、妙に橋姫様の声が淡々としていて怖いんだけれど。……もしかしてキレてる?
「うーん……私のいじめを率先してた5人以外は、実のところどうでもいいんだよね。とはいえ赦すって選択肢もないんだよ。そもそも被害を受けているのは、私の代わりに学校に通ってた玉様だからね。玉様がなにかするでしょ」
「あー、九尾か。九尾に任せたら古典的な嫌がらせとかしそう」
古典的?
「例えば?」
「カエルに変化させるとか」
なるほど。それはちょっと面白そう。意識はどうなるんだろう? 虫とか獲らないと飢え死に一直線かな? ま、手間を考えると、これまで通りでいいよね。
そんな雑談をしながら、無双しまくるみんなの後ろをついていく。
玉様が「妾、荷物持ちしかしとらんぞ。妾にも何頭か殴らせろ!」と、ドラゴンを運ぶだけになっていることに憤っていた。尚、ドラゴンは玉様のアイテムボックス的なものに放り込まれているようだ。
玉様、多分だけど誰もやらせてはくれないと思うよ。前に珠ちゃんが無双してたときは、ドラゴンを消し炭してたからね。そのことは珠ちゃんが話していたから、多分みんな、玉様には戦闘をさせないと思う。
そんなこんなで討伐も終わり、問題なくダンジョンを掌握することもできた。
ただ、前回と違うのは、今回はラスボス枠のドラゴンとも戦闘を行った。ただし、ブレスだけは私が【現実改変】で封じさせてもらった。あれを吐かれると問題しかないからね。
折角だからボスも食材にしようってことになっちゃったんだよ。
そこでは玉様もちゃんと戦えたから、多少は機嫌も治っただろう。
ということで1層へ戻り、前回同様、担任を煽り、これまで同様、胸糞王様を煽ってから日本へと帰還した。
「では、妾はバスのところへ戻るとするかの」
サービスエリアの駐車場。向こうの人だかりを眺めながら玉様が肩を竦めた。
すでに警察車両も到着しているようだ。1号車は……そのままだね。生徒も乗ったままだ。
「玉様、お願いね。それと、マイクには気を付けてね」
「む? マイク? マイクに気を付けるも何もないと思うが……」
「前回は大丈夫だったみたいだったんだけどね……」
私はいまでも、私の顔に押し付けられたマイクに関しては恨みに思っている。
ちょっぴり擦りむいたりしたんだ。【現実改変】で傷はなかったことにしたけれど。
微かに首を傾げながら歩く玉様を見送り、私たちは車へと戻った。
後はご飯を食べて帰るだけだ。
前回はお蕎麦だったけれど……よし、今回もお蕎麦にしよう。今回は天ざるを頼むんだ!
シートに腰を落ち着け、私は三吉さんが食事の提案をしてくるのを待った。




