私、川守めぐる(0)は10度目の人生を歩んでいる
私、川守めぐる(0)は10度目の人生を歩んでいる。
とうとう二桁に突入しちゃったよ。にも関わらず、中学すら卒業できていないとは、なんとしたことだ!
まったく。前回はしてやられたとしか云いようがないよ。
つか、完全に私を狙っての殺人だよね、あれ。普通に暗殺っぽかったし。
背後から静かに心臓をグサリ。哀れ時永めぐるは一巻の終わり、ってね。
確か、昔の刑事ドラマで似たようなシーンをみたことがあるぞ。殉職シーン集みたいなので。あれは胸に差したバラの花の中央に、打ちあがった花火の音に合わせて直接銃を当てて撃ってたかな? 撃ち抜かれた白いバラが、中央から赤く染まっていくという演出のものだった。
実際にやったら薔薇が銃撃の衝撃でバラバラになるんじゃないかな?
……駄洒落じゃないよ。
思わず私はため息をついた。
ため息をつく赤ん坊なんてレアもいいところだろうけれど、例の看護士さんはもう既に、頭を抱えヒステリックに嘆く私を見ることでノルマは達成している。
うん。某俳優さんの如く「なぁんでだよぉぉぉぉっ!」ってやってたのさ。
いや、本当にね。くそぅ。
そして珠ちゃんは、この状況にうろたえている鈴ちゃんと空ちゃんを落ち着かせつつ、状況の説明をしているところだ。
そういえば、今更ながらに知らなかったことがひとつ氷解した。いや、これまで気にもしていなかったんだけれど。
コアが打ち上げていたブラックナイト衛星。いつの間にそんなものを打ち上げていたのか不思議であったんだけれど、この産婦人科医院に入院している間にやっていたらしい。
コアが端末としているオートマタ(肩甲骨骨折をした時、夏休みの宿題の筆記をしたアレ)を使い、一時的に屋上を飛び地的にダンジョン化し、そこから衛星を打ち上げたそうだ。衛星作成の資源に関しては、普段から周囲にあるゴミやらなんやらから回収していたようだ。もちろん異世界で滞在していた際に、いわゆる魔法金属な代物も大量に取集していたみたいだ。
そんなこんなで新しい人生を始める上での下準備が終わり、私はコアに確認をした。
コア、この世界はどっちになってるの? 以前のまま? それとも私が改変した世界のまま? 前回の死亡時には現実改変をしていないんだけれど。
《改変後の世界となっています》
あ、そうなんだね。となると、基本の世界線が完全に移動した感じかな? というか、【ふりだしにもどる】が私の誕生時に戻るだけだから、それ以前のところには干渉しないってことだろうね。そういった意味では、【現実改変】の方がとんでもないってことかな。
まぁ、狙った形で細かな過去改変はできないけど。考えてみたらそうだよね。改変の波及効果も考えてあれこれやろうとして、これ無理だ! ってなったから、玉藻の前を『そうだ、神様に仕立てよう』なんてやらかしたんだからね、私。
さてと、それじゃ――
《マスター、質問があります》
ん? なにかな?
《あの銃弾をどうやって無力化したのでしょう?》
銃弾? ……あぁ、私の頭を撃ち抜こうとした奴ね。あれ、【エネルギー変換吸収】の副次効果だよ。
《は?》
【エネルギー変換吸収】はどんなエネルギーでも吸収できるんだよね。で、今は熱エネルギーと運動エネルギーに限定してる。ほかのもやると大変なことになりそうだからね。
私に向かってくる一定速度以上の物体の運動エネルギーを吸収するんだよ。だからあの銃弾は私の手前で、どれだけの速度だったのかは知らないけど、強制的に時速1キロにまで減速させられたんだよ。だからその境界で速度が変えられたもんだから銃弾がへしゃげて、さらには威力も軽く放られた石ころ程度になっちゃったわけだね。
《無茶苦茶ですね……》
当初はただエネルギーを得ることを考えてたんだけどね。で、熱以外になにか吸収できないかなって考えたところで、運動エネルギー吸収を思いついた。完全に吸収なんてことをすると、私の手前で、ボトッ! っと落っこちて不自然極まりないから、とりあえず時速1キロにまで減らすことにしたんだよ。
《では、背中から刺されたのは》
普通に刺されたんじゃないの? 勢いを付けずに、刃物を当ててグサリ、って。遠距離攻撃をほぼ無効化しただけだから、密接状態からの攻撃はどうにもできないんだよね。刃物じゃなくて、銃でも押し当てられて撃たれたら死ぬね。
《なるほど。……とはいえ、銃を使うのであれば、わざわざ押し当てて撃つことはないでしょうね。消音器をつけようと銃撃音しますから。となると、これを回避するためには、防刃布を用いた衣類の着用でしょうか。プロテクターの類は目立つでしょうし》
……左の肩甲骨を骨折してみようか? あのプロテクターみたいなギブスを付けていれば、多少のごまかしは利くと思うよ。
《やめてください。わざわざ怪我をしてどうするのですか。そもそもそんな状態であれば、修学旅行の参加は取りやめとなるでしょう。学校で自習ですよ》
それはやだな。ぼっち学習は散々小学校でやるんだ。わざわざ中学校でもやることじゃない。
防刃布……アラミド繊維でつくった服だっけ? コアに頼めばすぐに準備してもらえるだろうけど。でも布だからなぁ。刃が通らないだけで、思いっきり突かれるようなものだからかなり痛いよねぇ。切り払いとかには強いだろうけど、刺突だから、直接ではなくとも刺さるんじゃないかな。所詮は服なんだし。破けないだけで。
とりあえずそうコアに云ってみた。
《打つ手がありませんね。もう、密接距離からの攻撃を凌げる能力でも求めますか? ……いえ、うまい具合に小さな【異空門】を開いて刃をやり過ごしますか?》
【異空門】か。うん。それができれば完璧なんだけれど、アレ、完全に設置型なんだよね。私の動きに合わせて動くとかできないんだよ。
《となると、やはり何かしらの金属板を仕込んだ服を着用するしかありませんね》
うむぅ……。その上で【現実改変】を使ってうまいこと制圧するしかないか。でもあの混雑状態で……あ、そうか。混雑事態をどうにかしてやればいいのか。
《確かにそうですが。あの混雑の原因はなんだったんでしょう?》
予定外の便が降りたのと、そこにマスコミと警察関係者と救急とが大挙したからじゃないかなぁ。単純に人が溢れたってのもあるだろうけど、突発的なことに対して、空港側もまともに対処できなかったんじゃないの? プロとしてどうなの? って気もするけど。
とりあえず、今世では、単純に対刃装備を身に着けた上で、空港での混雑を【現実改変】で解消、ってことで対処しよう。
《了解です。こちらも情報収集にこれまで以上に力を入れましょう。場合によってはスナッチイミテーターを使ってもいいですね》
……誰かと入れ替えるとかしないでよ。
《あくまで、存在しないはずの第三者として使いますからご安心を。殺されたところで、さしたる問題もありませんしね。むしろ問題となるのは殺した側でしょう。完全に正体不明の人間ですから。頭を抱えるはずです》
完全に人間と同じ構造、生体組織のドローンとか、現代の国家からしたら脅威でしかない存在だねぇ。完全に生物な生物ではないなにかだしね。アレ。
あ、珠ちゃんたち戻ってきた。
「主様。ひとまずふたりを落ち着かせたぞ。事前に説明しておいたのじゃがな。やはり生まれて間もないふたりは、突発的な事象に於いては混乱するようじゃな」
「面目次第もない」
「ごめんなさい」
あははは。まぁ、私が急に赤ん坊になっちゃったからねぇ。そういえば、みんなは新しい世界線だとどこに出現したの? 珠ちゃんもそうだけど、ふたりもいなかったよね?
「儂はあれじゃ、祠のあった場所じゃな。この世界線だとただの野っ原じゃな。本体が殺生石になっておらんから、この世界線では儂は存在すらしておらんからの。あとふたりも儂と一緒の場所に出現したぞ」
あれ? そうなの?
「うむ。さすがに天魔と鈴鹿御前のところにいきなり出現すると問題しか無かろうよ。片や神、片や神に比する者ぞ。面倒なことになりかねん。故に、予め儂との縁を強くしておいた」
……あぁ、そうだね。あのふたり、会った時に思ったけれど、生真面目すぎる感じがしたし。完全に苦労人な雰囲気がでてたねぇ。そんなところに鈴ちゃんと空ちゃんが急に出現しようものなら……まぁ、ちょっと私たちと殴り合いになるかな?
「負けはせぬが、さすがに周囲に被害なく収めるのは無理ぞ。本体ならともかく、鬼と天狗はさほど周囲の被害なぞ気にせぬからのぅ」
あっちで神聖騎士団と殴り合いをした時みたいになるかな?
《さすがにそこまで見境なしとはならないでしょう。天魔は天狗の目付け番ですし、鈴鹿御前も基本は穏やかな気質の鬼ですから》
「とはいえじゃ。儂らがこの世界に現れたことは連中も察知しているじゃろうし、これから挨拶してこよう。儂は本体、鈴は鈴鹿御前、空は――天魔を捕まえられるか不明じゃから、太郎坊か次郎坊あたりと接触するのがよかろう」
「不安しかないです」
「大丈夫かな?」
3人で順番にまわったら? というか、玉様のところに向かえば、酒呑童子と太郎坊がいるんじゃないの?
「そういえば最初に会いに行った時、本体の側におったの。ふむ、ふたりとも、そうするか? 本体のところで済まねば、移動が少しばかり手間となるが」
「問題ない」
「その方が安心」
敵と誤認されても事だからね。あ、そうだ。珠ちゃん、お願いがあるんだけど。伝言……になるのかな?
「む? なんぞ?」
いや、前倒しで橋姫様をダンマスにしちゃおうと思って。私を殺しに来るのがよくわからん組織だとしたら、耳目は多い方がいいでしょ。ダンジョンコアを渡しておけば、情報収集も捗るし。なんならブラックナイト衛星を使わせてもいいしね。
《随分と思い切りましたね》
もうね、なりふり構わずに行こうと思うのよ。今回の死因はいくらなんでもおかしいでしょ。組織だって私に殺しに来てるようにしか思えないんだもの。
あの白人カップル、しっかり私を狙って銃を向けてたし。つか、発泡したしね。
あ、空ちゃんと鈴ちゃんはそんなしゅんとしなくていいよ。跳弾に備えてたんだもの。まさか斜め後ろの席に暗殺者がいるとは思わないよ。
つか、普通、あんな銃器まともに持ち込めないよね。これ、どう考えても航空会社にも連中の仲間がいるってことだよね。そこいらも徹底して調べようか。航空会社は分かっているし、スナッチイミテーターを紛れ込ませよう。
玉様と共闘できるようになれば、国籍のひとつやふたつ用意してもらえるわよ。なんだったら、きちんと成長するタイプのスナッチイミテーターを作ってもいいしね。
無国籍児童として造れば、国籍取得も容易でしょう。
「あ、主様、落ち着いて給もれ」
《興奮し過ぎです。またしてもあの看護士が顔を青くして走っていきましたよ。マスターのロックスターの如く振り乱れる姿を見て》
あ……やべぇ。
ふたりの言葉に一気に血の気が引いた。
これは……新生児室から出た後、どうやってお母さんと顔をあわせようか。また前みたいに、変なものを見るような目でみられたら、さすがに堪える。
そんなことを思い、またしても私は頭を抱えた。




