表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
底辺採取家の異世界暮らし  作者: 旅籠文楽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/78

08. 対話と取引 - 2

 


     [2]



 エコーが示してくれる案内(ナビ)に従って進むと、村を発ってから三十分ほど歩いた辺りで森の中へと踏み入ることになった。

 例によって森の中は〈素材感知/植物〉スキルに反応する対象が溢れ過ぎていて眩い程に光が溢れている。ナギは意識して感知の(しきい)値を、試しに『300gita』以上の価値を持つ『木材以外の素材』に設定してみた。

 さすがに単価で『300gita』以上の価値ともなると、素材の宝庫である森の中とはいえ、光を帯びる素材は見当たらなくなる。

 けれど、試しにその設定のまま森の中を暫く移動していると。大体数分に1箇所ぐらいのペースで、光を帯びる素材が現れ始めた。




+--------------------------------------------------------------------------------+

 □ステギ/品質[65]


   【カテゴリ】:食材

   【流通相場】:330 gita

   【品質劣化】:-1/日


   密度が低く、風通しの良い森林で採れる根菜。

   味が濃厚で甘味も強く、市場では高級食材として取引される。

   調理師か錬金術師が加工することで砂糖を精製できる。


+--------------------------------------------------------------------------------+




 最初に感知に引っかかったのは『ステギ』という素材だ。

 昨日は全く見かけることが無かった素材だが。今日ナギが歩いているのは、昨日歩いた所とはまた別の森なので、採れる素材もまた違ってくるようだ。


 ステギは根菜で、形状はダイコンに似ているが、大きさはカブのそれに近い。

 加工すれば砂糖にできるそうなので、甜菜(テンサイ)に近い野菜なのだろうか。

 とはいえ森の中は割合暖かいので、寒冷地作物として有名な甜菜(テンサイ)とは、あまり頭の中で印象が結びつかない気もするが。


 ちなみに、どうやらこの森は、昨日ナギが歩いた森よりも魔物の生息数が多いらしく、歩いていると結構な頻度でゴブリンの集団と遭遇(エンカウント)する。


「こんにちはー!」

「キキ!? ギキーギ!」


 どうせ襲われることは無いのだからと、なんとなくナギの側から気さくに挨拶してみると。話しかけられたゴブリンは狼狽したかのように奇声を上げて、そそくさと足早にナギから離れて行ってしまった。


《ゴブリンは言語を扱えるだけの知能を有さないため、言語翻訳が不可能です》


「なるほど……」


 おそらくゴブリン達は『他人から話しかけられる』という初めての体験に驚き、逃げてしまったのだろう。

 遭遇するゴブリン達は必ず3体以上の群れで行動している。言語を話せないのに集団行動しているというのも、なんだかナギには不思議に思えたが。よくよく考えてみれば、地球でもそういう鳥や魚などは珍しくもない。


 何だか悪いことをしてしまった気になったので、以降はゴブリン達に遭遇しても特に話しかけたりはせず、ナギは黙々と移動と採取だけをこなしていく。

 森の中に入ってから1時間も経つ頃には、〈収納ボックス〉に20個ほどのステギを採取することができていた。

 昨日採取したトモロベリーやカムンハーブとは違い、ステギは発見できる頻度が低い代わりに、1つ発見すると近くにもう2~3個ぐらい生えていることが多い。なので意外に数が手に入るのが嬉しい。

 これで単価も高いというのだから、本当に有難い。もし〈鑑定〉が教えてくれる相場額の通りで売れるならば、この1時間で採取した20個だけでも『6,600gita』分の収入になる。

 この調子ならロズティアに着く頃には、生活費に不安を覚える必要は無さそうだ。

 もちろん風呂を気軽に利用できるように、収入は多ければ多いほど良いが。


 更に20分ばかり森を歩いていると、ステギの他に『ツキヨゴケ』という素材が〈素材感知/植物〉スキルに反応するようになった。

 ツキヨゴケは古木の(うろ)にだけ生える苔で、感知に引っかかる頻度はステギと同じぐらいだろうか。こちらは1つ発見すれば、同じ古木の(うろ)の中に、大体4~8個ぐらいが群生しているようだ。




+--------------------------------------------------------------------------------+

 □ツキヨゴケ/品質[64-70]×5個


   【カテゴリ】:染料

   【流通相場】:520 gita

   【品質劣化】:なし


   適度に月光が届く森の中で育つ苔。

   染料として有名で、煮出すことで布帛を鮮やかな黄色に染められる。

   金色の染料を作成するための素材のひとつでもある。


+--------------------------------------------------------------------------------+




 〈鑑定〉で確認してみると、その単価は520gitaと非常に高い。

 全て採取できれば、一気に数千gitaもの収入になる―――とナギは期待したのだが。しかし実際には上手くいかなかった。


 古木に薄く生えている苔を採取する作業が、素手のまま行うにはあまりに難しかったからだ。そのせいでナギが採取したツキヨゴケは、その品質を本来の値から大きく損なうことになってしまった。

 やはり苔を採取するとなれば、先端が平たい、ヘラのような道具が欲しい。

 もしくはナイフのようなものでもいい。道具を使えば素手のままよりもずっと採りやすくなることだろう。

 採取だけが取り柄のナギにとって、採取道具は何より重要となり得るものだ。無事にロズティアの都市へと着けたなら、忘れず買い揃えるようにしたい。




+--------------------------------------------------------------------------------+

 -> ナギは『ツキヨゴケ』を『1個』採取。

 -> ナギは〈植物採取〉スキルを新たに修得した!

 -> ナギは経験値『1』を獲得。

+--------------------------------------------------------------------------------+




「おお?」


 地面に落ちていた先端が平たくなっている石片を拾い、間に合わせの道具として利用しながら、暫らくの間ステギとツキヨゴケを採って移動していると。

 昨日から視界の端に表示させたままだった行動記録(アクションログ)を記すウィンドウに、ふとそんな文字列が表示されたことにナギは気付く。


「植物採取スキル……?」


 ナギが疑問を抱くと、即座にその情報が視界に表示された。




+--------------------------------------------------------------------------------+

 〈植物採取〉Rank.1 - コモンスキル


   自身が採取した植物系素材アイテムの品質値が『1』高くなる。

   スキルランクが上がると獲得素材の品質値がより高くなる。


+--------------------------------------------------------------------------------+




《コモンスキルはどんな天職(アムル)を持つ者でも修練を積むことで会得できるスキルです。例えば今新しく修得した〈植物採取〉のスキルであれば、実際に『植物を採取する』経験を充分に積めば、誰でも会得することができます》


(なるほど……。だからこうして、レベルアップとは関係が無いタイミングで、新しくスキルを覚えることができたわけですか)


《左様です。ちなみに『スキルを活用してランクを成長させること』と『コモンスキルを新たに会得すること』の二つは[知恵]の能力値(ステータス)が高いほど効率が良くなります。ですから優れた[知恵]を有しておられるナギ様は、スキルの成長と会得の両面で他者よりもかなり秀でています》


 ナギの能力値(ステータス)は[筋力]・[強靱]・[敏捷]といった運動能力面の数値こそ頼りないものの、一方で[知恵]や[魅力]の数値はかなり高くなっている。

 より多くのスキルを会得し、同時にそれらを成長させ高めていく。そうしたスキルを十全に活用する生き方が、今後のナギにとっては非常に重要となりそうだ。




+--------------------------------------------------------------------------------+

 〈健脚〉Rank.1 - コモンスキル


   歩行速度が向上し、歩行移動を長時間続けても疲れにくくなる。

   悪路を通行する際にも移動速度が落ちにくくなる。

   スキルランクが上がると各効果がより向上して歩行が快適になる。


+--------------------------------------------------------------------------------+




 その後も採取を続けながら森の中を移動していると、今度は〈健脚〉というスキルを会得することができた。

 長距離を移動しようとしている現状では非常に嬉しい効果のスキルだ。車社会である現代日本とは違って、この世界での生活は徒歩移動が中心になるだろうから、この手のスキルを早めに会得できたのは今後のことを考えても有難い。


《ランクが低いうちは効果も微々たるものですので、ご注意下さい》


(ん、了解です)


 エコーがくれた忠告に、ナギはひとり頷く。

 森の中を歩き、植物を採取する。ただそれだけのことで、自分の持っているスキルを少しずつでも鍛えることができるというのが嬉しい。特にナギの場合は〈鑑定〉で自身の状態を確かめて、スキルランクの成長という形で実際に確認できるのだから尚更だ。


(―――お?)


 なんだか嬉しい心地になって、鼻歌交じりに採取移動を続けていると。やがてナギはゴブリンではない、別の魔物とも遭遇した。

 その魔物は、全身の肌が緑がかった色合いをしている所だけはゴブリンと良く似ているものの。体躯が遙かに大きく、ゴブリンに較べると倍近くもある。

 人間以上の巨体というだけでも脅威なのに、更にその魔物は『筋骨隆々』という言葉がよく似合うほどに、鍛えられた鋼の肉体をしていた。

 しかも巨体に見合う、非常に大きな武器を軽々と手に携えている。その豪腕から繰り出される攻撃の威力が脅威的なものであることは想像に難くない。




+--------------------------------------------------------------------------------+

 オーク


   怪物 - Lv.25 〔1,771exp〕


   生命力: 1212 / 1212

    魔力: 222 / 222


   [筋力] 414  [強靱] 399  [敏捷] 192

   [知恵] 117  [魅力] 105  [加護] 244


+--------------------------------------------------------------------------------+




 〈鑑定〉で()てみると、その魔物が『オーク』なのだと判った。

 RPGにはよく登場する魔物だが。こうして実際に目の当たりにしてみると、その存在の恐ろしさというものを、ひしひしと肌に感じる。

 絶対に襲われることがないと、予めそう判っていなければ。ナギは恐怖に震えて動けなくなっていたかもしれない。


 ちなみに遭遇(エンカウント)したオークは4体の集団だった。

 遭遇と言っても、ナギが一方的に気付いただけで、オーク達はまだナギの存在に気付いてはいないようだ。特に隠れているわけでもないのだが、オークはその巨体のせいか、矮躯(わいく)なナギの存在には気付きにくいのかもしれない。


 結局、オーク達はこちらに気付かないまま、背を向けてどこかへ行ってしまった。

 その背中を眺めながら4体全てのステータスを〈鑑定〉で確認してみると。多少の個体差はあるものの、どのオークも『25』レベル前後で、[筋力]や[強靱]の値が突出して高いようだ。

 強靱な肉体を持つ魔物が複数群れて行動しているのだから。オークと戦闘して勝利することは容易ではないだろう。

 掃討者とは魔物を狩るのを生業する職業らしいが……。こんなに強そうな魔物を倒せる人達というのは本当に凄いなと、ナギはただ静かに感嘆する。


《オークを安定して討伐できる掃討者パーティはBランクに相当しますが、Bランクの実力を有しているのは掃討者全体の1%程度しか存在しません》


「……つまり、普通の掃討者はオークと戦ったりしない?」


《殆どの掃討者はオークを1体でも見かけたら、まず全力で逃げると思われます》


 それほど人にとって脅威となる魔物に、普通に遭遇(エンカウント)するというのは……。実はこの森、かなり危険な場所なのではないだろうか。

 もしかしたら、オークの生息地として有名な場所だったりするのかもしれない。

 ナギがそう頭の中でそんな疑問を抱いていると。いつも通りに、エコーが即座に応えてくれた。


《いえ、この森には『竜の揺籃地(ようらんち)』という名が付けられており、世間ではオークが棲息している事実よりも、古代竜が棲む森としてよく知られています》


「揺籃地……」


 揺籃(ようらん)とは、確か『()りかご』を意味する言葉だ。

 直訳するなら『竜の()りかごの地』ということになるが。


《この森の中心部では、400年前に卵から孵ったばかりの幼き古代竜エンシェント・ドラゴンが、親竜が張った頑丈な結界に護られ、その中で長き眠りについています。

 子竜が眠りと共に最初の成長を重ねている場所ですので、この森はロズティアに住む竜を研究する学者から『竜の揺籃地』と名付けられているようです》


(り、竜ですか……。孵ってから400年経っているなら、それはもう『子竜』では無いのでは?)


《竜が成長の為に要する期間は個体差が非常に大きいですので、確実にとは言えませんが……。一般的には成竜となるまでに大体1000年の時間を必要としますので、400歳であれば、まだまだ子竜の可能性が高いと思われます》


「な、なるほど。にしても、竜ですか……」


 ファンタジー小説を愛読する人間であれば、『竜』と聞いて興味を掻き立てられない者など居ないだろう。

 ナギの場合は小説のみに留まらず、今までに剣と魔法の世界を舞台としたRPGを、幾つもこよなく愛してきたのだから。それを見たいという気持ちもまた、尚更強いものとなって沸き起こる。


 ドラゴンといえば大抵のRPGでは最強クラスの魔物なので、遭遇すればまず無事には済まないのだが。ナギの場合は『絶対に襲われない』と判っているだけに、もし遭遇できたとしても危険は殆ど無い。

 親竜が張った結界に護られているという話なので、その中にまでは入れないだろうけれど。結界の外から、遠目に竜の姿を見るぐらいなら可能だろうか?


《子竜を護る結界は、森の深い場所にある古代樹を中心として展開されています。結界の外からドラゴンの姿が見えるかは判りませんが……本日の移動ルートは森の中央を突っ切るものですので、古代樹の近くは通ります。運が良ければ、竜の姿を見ることもできるかもしれませんね》


(それは楽しみです。その『古代樹』の近くまで来たら教えて貰えますか?)


《承知しました》


 森の中は似たような景色ばかりなので、現時点で自分が森林全体のどの辺りまで踏破しているかなど、全く見当も付かない。

 気がつけば通り過ぎている、ということも有り得そうなので。予めエコーに教えてくれるよう頼んでおく方が賢明だろう。





 

-

お読み下さりありがとうございました。


[memo]------------------------------------------------------

 ナギ - Lv.2


  〈採取生活〉1、〈素材感知/植物〉1、〈収納ボックス〉1、

  〈鑑定〉1、〈非戦〉1、〈繁茂〉1


  〈植物採取〉0→1、〈健脚〉0→1


  10,840gita

------------------------------------------------------------

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ