74. 浮遊島
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それから二十分ほどの間、ナギ達は『新しい世界』こと『農場世界』の中を、創造した本人であるエコー直々に案内されながら見学した。
この『農場世界』は二つの円形の島によって構成された世界で、半径1km程度の大きさの『本島』と、その半分程度の大きさの『衛星島』からなる。
島とは言っても、どちらも海の上に浮かぶ島ではない。『本島』と『衛星島』の二つの島は、信じ難いことになんと空中に浮遊している。
つまり『浮き島』なのだ。当然島の端は崖になっていて、見下ろすと数kmほど下の方に、ひたすら海だけが広がっていたりする。
「……この島は一体、どういう力で宙に浮いているのでしょうか?」
「この場所がそういう世界だと定義されているだけです」
疑問に思ってナギが一度訊ねてみた所、さも当然のようにエコーにそう回答されてしまった。
「……落ちたら死にそう」
「落ちたら自動的に島の上に戻るので大丈夫です。ここはそういう世界ですので」
イヴが漏らした呟きにも、エコーは同じ表情でそう答えていた。
とりあえず―――エコーの言う通り、『この世界はそういう場所なのだ』とだけ理解して、あまり深く考えない方が良さそうだ。
『本島』を歩き回ると、島中の至る所に『光る桜』の木が生えていた。
沢山の桜が照らしてくれるので、空には確かに夜の帳が降りているというのに、この島はどこに居てもまるで昼間のように明るい。
照明を持ち歩く必要が無いのは便利だけれど。どの方向を見ても、林立している『光る桜』が視界に入ってくるせいで、少し目がちかちかするのが困りものだ。
「あ、ナギ様。その桜の木は【伐採】して頂いても大丈夫ですよ」
「いいのですか? 大切な木なのかと思っていましたが」
「はい。この世界では、その『光る桜』の木だけは、何本でもすぐに生やすことができますので」
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-> ナギは『ヒカリザクラの木材』を『1個』採取。
-> ナギは『ヒカリザクラの樹皮』を『1個』採取。
-> ナギは『ヒカリザクラの実』を『33個』採取。
-> ナギは『ヒカリザクラの花』を『210個』採取。
-> ナギの〈収納ボックス〉スキルが『Rank.8』にアップ!
-> ナギは経験値『1,834』を獲得。
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エコーの説明はよく判らなかったけれど、【伐採】して良いと言われればナギは遠慮しない。どういう素材が手に入るのか大いに興味があったからだ。
というわけで早速【伐採】してみたところ、木材・樹皮・実・花の4種類の素材を得ることができた。満開の木を【伐採】したからなのか、とりわけ花は大量に手に入ったようだ。
手に入った素材名によると、樹木の名前は『ヒカリザクラ』と言うらしい。
見た目が『光る桜』の木なので、何の捻りもないそのままの名前だ。
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□ヒカリザクラの木材/品質[100]
【カテゴリ】:木材
【流通相場】:6,500 gita
【品質劣化】:なし
広葉樹ヒカリザクラを伐採して製材したもの。
淡褐色の木材で、耐久性が高く湿気にも強いが、虫害には弱い。
薪としての利用にも適するが、燃やすと独特の香りを放つ。
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□ヒカリザクラの樹皮/品質[100]
【カテゴリ】:木材|(樹皮)
【流通相場】:2,900 gita
【品質劣化】:なし
広葉樹ヒカリザクラ樹皮を剥ぎ取ったもの。
解毒作用を持つ生薬となる他、霊薬の材料にも利用できる。
錬金術師が加工することで魔力の自然回復を高める霊薬となる。
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□ヒカリザクラの実(33個)/品質[90]
【カテゴリ】:食材
【流通相場】:1,720 gita
【品質劣化】:なし
広葉樹ヒカリザクラが開花している時に付ける小さな果実。
花弁と同じく光るので『光桜桃』と呼ばれることがある。
錬金術師が加工すると一時的に精霊魔法を強化する霊薬が作れる。
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□ヒカリザクラの花(210個)/品質[91]
【カテゴリ】:薬草
【流通相場】:340 gita
【品質劣化】:なし
広葉樹ヒカリザクラの木に魔力が満ちた時にだけ咲く光る花。
魔力が潤沢な環境ほど、長期に渡って光る花が咲き続ける。
錬金術師が加工することで魔力を蓄積する花油が精製できる。
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〈鑑定〉で視える説明文を読んでみたところ、全体的に錬金術の素材として利用できるものが多いようだ。
アリスと一緒に当面は『錬金術師ギルド』に通うつもりなので、素材の選択肢が増えてくれるのは嬉しい。
「ヒカリザクラの木は、この世界では幾らでも生やすことができます。
なので大量に【伐採】して頂いても、再成長を待つまでもなく新品の木を大量に生やせば済みますので、どうぞ遠慮無く幾らでも回収して下さいね」
「は、はあ……」
よく判らないが、遠慮が要らないというのは有難い。
ヒカリザクラの実はカテゴリが『食材』なのに品質劣化が無い。つまり幾らでも日持ちする果実ということなので、沢山確保できるのは嬉しい話ではあった。
道中で何本かのヒカリザクラの木を【伐採】しつつ、エコーに案内されるままに移動していると。やがてナギ達は『本島』の中央へと辿り着く。
そこには―――圧倒される程に巨大な、ヒカリザクラの大樹が聳え立っていた。
『竜の揺籃地』の結界内で見慣れている、古代樹よりも更に一回りか二回りは大きいだろうか。全体がとにかく巨大なので、例えば幹の部分だけを眺めていると、まるでそれ自体が『塔』のようにさえ見える。
更には、周囲に沢山あるどのヒカリザクラよりも強く、鮮やかな光を放つ花が、その大樹の上方で無数の燦めきを生み出している。
あまりに幻想的なその光景に、思わずナギは時を忘れて。暫しの間、ただ呆然と心を奪われながら、見入ってしまった。
「ふふ……インバに協力して貰ったとはいえ、この大きさの世界樹を用意するのは流石に骨が折れましたが。ナギのその表情を見ていると、苦労が報われるような気が致しますね」
「そうだねえ。やっぱり驚いて貰えると嬉しいね」
大樹に見とれていたせいで気付かなかったけれど。いつの間にかナギの前方に、二人の女性が立っていた。
背中に大きな両翼を持つ、二柱の特徴的なその姿を。どうして見間違えることがあるだろうか。
「アルティオ様、オキアス様―――」
「こんばんは、ナギ。この世界は気に入って頂けましたか?」
「綺麗な世界だろう? まずこの光景を見せたくて、夜に来て貰ったんだ」
柔和な笑みを浮かべながら、二柱の主神が穏やかな声でそう告げる。
小走りに駆け寄って―――ナギは二柱の主神の姿が、昨日『アルティオ神殿』で会った時よりも、随分と矮躯になっていることに気付いた。
「あ、あれ? アルティオ様、オキアス様、ちょっと縮みましたか……?」
「あら、やっぱりすぐに気付かれてしまいましたか」
そう告げて、くすくすと嬉しそうに微笑む主神アルティオ。
これまでに出逢った時には、二柱の主神は共に2メートル近い身長があり、また身長に見合うだけの体躯でもあったのだが。
今の二柱の背丈は―――せいぜい160cm程度しかないように見えた。
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お読み下さりありがとうございました。
誤字報告機能での指摘も、いつもありがとうございます。
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ナギ - Lv.14 /掃討者[F]
〔現人神〕〔アルティオの使徒〕〔オキアスの使徒〕〔調停者〕
〈採取生活〉7→8、〈素材感知/植物〉4、〈繁茂〉3
〈収納ボックス〉7→8、〈氷室ボックス〉4、〈保存ボックス〉1
〈鑑定〉4、〈非戦〉5、〈生体採取〉2
〈自採自消〉1、〈採取後援者〉1
〈複製採取/植物〉2、〈複製採取/解体〉1
【浄化】4、【伐採】6、【解体】1、【素材探知/植物】1
〈植物採取〉8、〈健脚〉4、〈気配察知〉3、〈魔力察知〉1
〈錬金術〉2、〈調理〉3
〈神癒〉3
227,812 gita
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