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底辺採取家の異世界暮らし  作者: 旅籠文楽


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71. 聴覚

未だに回復しておりませんが、だいぶ楽にはなりました。

(肺炎ではないです。念のため)


投稿に支障が出まして申し訳ありません。

あと今回分はスマホで書きましたもので、誤字(誤変換)が多いやもしれません。

 


     [1]



「そうですか、ではアリスも『霊薬調合』を学ぶことができたのですね」

「はい。ギルドマスターのジゼルさんが、丁寧に教えて下さいました」


 その日の夜、アモンド邸にて。

 振る舞われた豪華な夕食に皆で舌鼓を打った後に。イザベラが淹れてくれた温かいお茶を頂いて居間のソファでくつろぎながら、ナギはナッシュ夫妻から訊ねられて、今日『錬金術師ギルド』であったことを話していた。

 やはり親としては娘のことが気になるのだろう。アモンドもイザベラも興味津々といった表情で、ナギの言葉に耳を傾けている。


 アリスは〈錬金術師〉の天職(アムル)を持ってはいても、身体を悪くしていたために、今までそれを学ぶ機会を得ることができなかった。

 だから今回ギルドマスターのジゼルから受けた『錬金術』の手解きが、アリスにとっては初めて己の天職(アムル)と向き合う機会でもあったのだ。


「1本も失敗しなかったナギお姉ちゃんと違って、あんまり上手く出来なくって。私が最初に作ろうとした5本の霊薬は全部失敗して、折角ナギお姉ちゃんが用意してくれた素材を駄目にしちゃったんだよ……」


 ナギの隣に座っているアリスが、僅かに頬を赤らめながら、己の恥を告白するかのようにそう口にしてみせるけれど。

 その言葉を、ナギはすぐに頭を左右に振ることで否定した。


「ジゼルさんが言っていたのですが、初めて『霊薬調合』に初めて挑戦する人は、ほぼ間違いなく最初の10本分ぐらいは失敗するそうです。なので5本しか失敗せずに済んだアリスちゃんは、充分凄いと思いますよ」

「ふむ……。だが、アリスの口振りから察するに、ナギ君は最初の1本目から上手く調合してみせたのではないかね?」

「僕はずる(・・)をしましたので」


 アモンドとイザベラは既に、ナギが主神アルティオと主神オキアスの『使徒』であることも、異世界から来た『稀人(ミレジア)』であることも知っている。

 既に大抵のことを知られている二人に、今更隠し立てるようなことも無いので。ナギは自身が〈鑑定〉のスキルを持っていることを話して、それを活用することで霊薬調合を安定して行えたことも報告した。


「ふむ。〈鑑定〉が『錬金術』に役立つというのは興味深いね。とはいえ所持者が非常に少ないスキルだから、あまりそれを活かせる人は居ないだろうけれど」

「所持者が少ない……。そうなのですか?」

「〈鑑定〉や〈収納ボックス〉は、商人系の天職(アムル)を持つ人が、レベルを50以上にまで上げて覚えられるかどうか、というぐらいのスキルだからね。

 エルフのような長寿の種族であれば、頑張れば覚えられるかもしれないけれど。人間を初めとした短命種族だと、そもそも老いる前にそこまでレベルを上げられる人自体が稀じゃないかな」

「な、なるほど」


 言われてみると、人物や物品の詳細を視る〈鑑定〉や、多くの物を一気に運搬できる〈収納ボックス〉は、商人でこそより活用できそうなスキルだとも思えた。


 この世界では、商人系の天職(アムル)はレベルを上げにくいらしい。

 戦闘系の天職(アムル)を持つ人なら魔物を討伐して経験値を稼げるし、生産系の天職(アムル)を持つ人なら生産行為によっても経験値を得られるのだが。けれども一方で、商人系の天職(アムル)を持っていても『商売』で経験値を得ることはできないそうだ。

 なので商人の場合は、神殿を訪ねて『神像に祈る』ことで経験値を得ることが肝要となるらしいが。『祈り』で得られる経験値はあまり多くないので、どうしても他系統の天職(アムル)に較べるとレベルがすぐ頭打ちになってしまうらしい。


「私はロズティアの領主である以前に、このカラート王国でも有数の商人だと自負しているけれどね。そんな私でさえ、まだレベルが『14』しか無いのだと聞けば、この苦労がナギ君にも伝わるかな?」

「じ、14、ですか……?」


 現時点でのナギのレベルが、既に『14』だったりもする。

 この世界に来て一ヶ月しか経っていないナギと、レベルが同じというのは……。なるほど、確かに『商人』のレベル上げの大変さが判るような気がした。


「もっとレベルを上げたいという気持ちはあるのだけれどね。街の外に出て魔物を狩るような危険な行為は、もう立場的にもなかなか許されないんだよねえ」

「……それは、そうでしょうね」


 商人系の天職(アムル)の持ち主は、レベルが上がっても商売に関するスキルを修得するだけで、戦闘で有利になるわけではない。だから戦闘系の天職(アムル)の持ち主に較べると、どうしても魔物と戦うリスクは高いものとなる。

 商家の主がもし命を失えば、雇用されている人達や取引相手の人達が大いに困ることになるだろうし。領主が命を落とせば、領民が苦労する事になるだろう。

 立場的に危険を冒す事が許されないのは、当然のことだと思えた。


「どこかに、安全に魔物と戦える場所があればいいんだけれどねえ」

「そんな都合の良い話があろう筈もありませんよ。どうか危険なことはどうかなさらないで下さいませ。夫に先立たれて泣くのは、私は嫌ですよ」

「……と、まあこんな具合に、愛する妻も許してくれないわけだ」


 肩を竦めてみせながらそう告げるアモンドは、同時に相好を崩してもいる。

 何だかんだ言いつつも、妻に心配して貰えること自体は嬉しいのだろう。


「すまない、話が逸れてしまったね。娘の話をもっと聞かせてくれないか」

「あ、はい。アリスちゃんは最初の5本目までは連続で失敗していたようなので、6本目以降は僕が横から〈鑑定〉で状態を確認して、素材から錬金要素をどこまで『抽出』するかと、小瓶の中の水にどこまで錬金要素を『注入』するかの見極めを代行してみたんです」

「なるほど。それならば上手くいきそうだね」


 結局の所、最下級の霊薬を作る上で難しいのは『抽出』と『注入』をどこまで行い、どこで止めるかという見極めだけなのだ。

 なので〈鑑定〉で素材や錬金台の状態を確認しながら、ナギが横から停止のタイミングを指示さえすれば、まず失敗するようなことにはならない。


「うん! ナギお姉ちゃんのお陰で、そこから全然失敗しなくなったんだよ!」

「……いえ。僕が手伝ったのは、そこから3本分だけなのですが。アリスちゃんはその3本を製作する間に、どうやら霊薬調合のコツを完璧に掴んだようでして」

「ほほう、成功率が多少は上がりましたかな?」

「多少どころではなく、成功率で言うなら一気に『100%』まで上がりました。

 アリスちゃんはその後も10本以上の霊薬を作成したのですが、9本目以降は自力だけで、素材を1個も無駄にすることなく完璧に作り上げていましたよ」

「なんと―――」


 ナギの言葉に、アモンドが目を瞠って驚く。


「霊薬の調合は錬金術の中でも難易度が高く、手慣れた職人でも数本に1本程度は製作に失敗すると聞いておりますが。……最下級の霊薬の製作とはいえ、アリスが本当に、それ以降は1本も失敗もせずに作ってみせたのですか?」

「ええ、誓って本当です」


 イザベラの言葉に、ナギは力強く頷く。

 実際、ナギが隣から『適切なタイミング』を教えるのを止めても。アリスは自力だけで、9本目以降の霊薬を〈鑑定〉で状態を確認しながら製作するナギと同様の正確さでもって、『抽出』と『注入』の行程を完璧に行っていた。


「どうやらアリスちゃんは『耳』が優れているようなのです」

「耳が、ですか……?」

「はい。僕には全く聞こえない音が、アリスちゃんには聞こえるみたいでして」


 ナギが「そうだよね?」と問いかけると。

 アリスが「うん!」と嬉しそうに頷いて応えた。


「えっとね。素材から錬金要素を『抽出』している最中だと、窓を開けている時に聞こえる『雨音』みたいなのが聞こえるんだよ。

 でもね、素材からもうこれ以上は『抽出』できないよー、って感じになるとね。窓を閉めている時の『雨音』みたいに、少し遠くなって、ぼんやりと曇ったような音が聞こえるんだよ」

「むむ……? ちょっと良く判りませんな……」

「それでね、それでね。瓶の中のお水に錬金要素を『注入』している時には、その瓶がちょっと震えて、ガラスのコップをフォークで叩いた時みたいな音がするの。

 でね、もう錬金台が身体から『注入』できなくなると、その音が止まるんだよ」

「ううん……?」


 娘の言葉に、首を傾げてみせるアモンド。

 その隣ではイザベラもまた理解できず、どこか困ったような表情をしていた。


「ここで重要なのは、アリスちゃんが霊薬を作る行程で一番難しい『タイミングの見極め』を、聴覚で完璧に判断できているということです。

 少なくとも最下級の霊薬に限って言えば、アリスちゃんは〈鑑定〉で素材や錬金台の状態を把握できる僕と、全く同様の正確さで製作を行うことができます」

「……それは、結構凄いのでは無いかね?」

「実際、とても凄いことだと思います。なので本人の許可を得た上で、〈鑑定〉のスキルを使ってアリスちゃんのことを()させて頂いたのですが。

 すると、アリスちゃんが特別なスキルを二つも修得していることが判りました。それは〈聴覚強化〉と〈聴覚集中〉というスキルでして―――」


 そう前置きした上で、ナギは〈鑑定〉で確認した二つのスキルの情報について、アモンドとイザベラの二人に詳しく報告する。




+--------------------------------------------------------------------------------+

 〈強化聴覚〉Rank.1 - コモンスキル


   聴力が『10%』強化され、音をより精緻に聞くことが可能となる。

   また一度聞いたことがある物音、人の声質などを記憶して、

   音や声を聞くだけで発生源をより正確に推察できるようになる。

   スキルランクが上がると聴力の強化割合が向上する。


-

 〈聴覚集中〉Rank.1 - コモンスキル


   聴覚に意識を集中させると、聴力を一時的に『100%』強化できる。

   但しスキル実行中に大きな音が聞こえると、集中状態を乱される。

   スキルランクが上がるとスキル実行中の聴力がより向上する。


+--------------------------------------------------------------------------------+




 〈強化聴覚〉と〈聴覚集中〉の二つは、どちらも名前の通り『聴覚』に作用するもので、前者は常時発動(パッシブ)スキル、後者は能動的(アクティブ)に発動させるスキルだ。

 先程エコーに教わったのだけれど。この二つのスキルはどちらも、天職(アムル)に関係無く誰でも会得可能な『コモンスキル』である割に、修得している人はかなり少ないらしい。

 というのも、これらのスキルは『聴覚』を鍛えることを意識しながら日々の生活を送っていなければ、まず会得できないらしいのだ。


 もちろんアリスの場合は、別に意図して『聴覚』を鍛えたわけではない。

 アリスは『黒腐病』を患ったせいで視力を失い、視力よりも『聴覚』に依存した生活を1年以上に渡って続けていたというだけだ。

 盲目の日々が、結果としてアリスに貴重なスキルを齎したのだろう。


「……そうか。こんな風に言ってしまって良いのかは判らないが……。病に娘が苦しみ続けた日々も、全く無駄ではなかったということだろうか」

「そう思って良いと思いますよ。錬金術師ギルドの長であるジゼルさんも、アリスちゃんのことを『才能がある!』って手放しに褒めていましたから」


 霊薬は貴重品なので、最下級のものでも需要は充分にあり、相応の額も付く。

 最下級の霊薬を完璧に作れる時点で、アリスは〈錬金術師〉として、既に充分に価値のある職人だと言うことができるのだ。





 

-

お読み下さりありがとうございました。

誤字報告機能での指摘も、いつもありがとうございます。


[memo]------------------------------------------------------

 ナギ - Lv.14 /掃討者[F]

  〔現人神〕〔アルティオの使徒〕〔オキアスの使徒〕〔調停者〕


  〈採取生活〉7、〈素材感知/植物〉4、〈繁茂〉3

  〈収納ボックス〉7、〈氷室ボックス〉4、〈保存ボックス〉1

  〈鑑定〉4、〈非戦〉5、〈生体採取〉2

  〈自採自消〉1、〈採取後援者〉1

  〈複製採取/植物〉2、〈複製採取/解体〉1

  【浄化】4、【伐採】6、【解体】1、【素材探知/植物】1


  〈植物採取〉8、〈健脚〉4、〈気配察知〉3、〈魔力察知〉1

  〈錬金術〉2、〈調理〉3


  〈神癒〉3


  227,812 gita

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