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底辺採取家の異世界暮らし  作者: 旅籠文楽


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69. 霊薬調合・座学

(昨日から体調を崩しておりますので、いつもより文章が変だったり誤字が多いかもしれません。次話の投稿時に修正しようと思います……)

 


     [5]



「外を歩くのは、久しぶりなんだよ」


 嬉しそうにそう告げるアリスと一緒に、二人で『錬金術師ギルド』へと向かう。

 時刻はもう午後3時を回ってしまっている。可能であれば今日から『錬金術』をじっくり学び始めたかったが、もう時間的にあまり長くは滞在できなさそうだ。


「急ぐ必要は無いから、ゆっくり歩いて行こうね」

「はい!」


 気持ちよく返事をしてくれたアリスの左手を取り、しっかりと手を繋ぎながら。ナギは普段よりもずっと遅いペースで歩くことを心懸ける。

 2年以上も病に伏せっていただけあって、アリスの歩き方は辿々しく、見ていて危なっかしいものがあるからだ。

 レベルが上がって能力値が増えたお陰なのか、現在のナギは日本で暮らしていた時よりも、ずっと機敏に身体を動かすことができる。もしアリスが急に転んでも、手を繋いでいればすぐに身体を支えてあげることができる筈だ。


「やっぱりナギお姉ちゃんの手は、ちょっと冷たいね」


 アリスがはにかみながら、笑顔でそう告げる。

 やや肌寒い冬の街並みを歩きながら。言葉とは裏腹に、アリスからもしっかりと繋いだ手を握り返してきてくれていることが、ナギには嬉しかった。


 ほどなく到着した『錬金術師ギルド』の建物に入り、1階の販売店で会計窓口に立っていた店員の人に、ギルドマスターへ面会したい旨を伝える。

 店員の人が許可を得てきてくれたので、アリスと一緒に建物の3階へと上がり、一番奥にある『マスタールーム』を訪ねた。


「お久しぶりですね、ナギさん。本日は素材の持ち込みですか?」


 再会するや否や、真っ先にそう訊ねてきたギルドマスターのジゼルに、思わずナギは苦笑してしまう。


「いえ、今日は改めて『錬金術』を学ばせて頂こうと思いまして」

「あら! それは嬉しいですね。ちょうど最近は手も空いておりますから、私が直接お教えすることもできると思いますよ?」


 相好を崩したジゼルに、ナギは一通の手紙を差し出す。

 今日ナッシュ邸を出る前に、領主のアモンドがジゼル宛に認めた手紙だ。


 事前に読ませて貰ったから知っているのだが、手紙の中には『ナギが神席の所持者である』ことと『ナギの同行者がアモンドの娘のアリスであること』、それから『二人に錬金術を教えて上げて欲しい』旨が記されている。

 また、文末では『娘が完治した経緯』について、あまり詮索しないで欲しい旨についても触れられていた筈だ。


「ナギさんはいつの間にか、領主様とも懇意になられたのですね」

「色々ありましたので」


 ジゼルの言葉に、ナギは淡泊な笑顔を浮かべながらそう答える。

 アリスの身体を治したのが、他ならぬナギであると。わざわざ自分から話す理由など無いからだ。


「色々、ですか……。まあ、よろしいでしょう。領主様からも『詮索無用』と書かれてしまっていますからね」

「よろしく指導の方をお願い致します」

「ええ、承りました。霊薬の材料を沢山持ち込んで下さった恩人と、領主様の娘御に指導させて頂くとなれば、教える私のほうも気合が入るというものです」


 室内に設置されている、応接テーブルのほうをジゼルが片手で促してきたので。その片側のソファに、アリスと二人並んで腰を下ろした。

 もう片方のソファにジゼルが座り、まずはジゼルが『錬金術』そのものについて解説してくれる座学授業が始まった。


「『錬金術』には、大きく分けて三つの生産分野があります―――」


 最初は錬金術の生産に『酒造』と『製錬』、そして『霊薬調合』の3種類があることの説明から始まり、それぞれの生産分野の良い所と大変な所についてなども、順に説明してくれた。

 それらの内容は全て、以前にジゼルから貰った『錬金術の初歩』の中に書かれていたことなので、ナギとしては既に把握していることだったが。ナギの隣で一緒に教わっているアリスには初耳のことも多いようで、頻りに感心したり驚いたりしている様子が窺えた。


「ナギさんとアリスさんは、どの分野の生産から教わりたいですか?」

「まずは『霊薬調合』からお願いします。その為の材料は集めて来ましたので」


 『カママ』と『セイズダケ』の二つの材料を、とりあえず50個ずつほど机の上に積み上げながらナギがそう答えると。

 二つの小さな山を形成する素材を目の当たりにして、ジゼルが「まあ!」と驚きを露わにしてみせた。


「霊薬の材料は、最下級のものでもそれなりに貴重なのですが。……よくこれ程の量を集められましたね?」

「……じ、自力で集めましたので」

「なるほど。ナギさんの天職(アムル)は『採取家(ピッカー)』でしたね。『カママ』も『セイズダケ』も、群生している薬草や茸だと聞いていますので、自力で集められるなら数も揃えやすいのでしょうか」


 ナギの〈収納ボックス〉の中には、どちらの素材もあと2000個ずつぐらい入っているのだけれど。50個程度でも驚かれるとなると……これを全部積み上げてみせたなら、ジゼルは一体どんな反応をするのだろうか。

 ちょっと見てみたい気もするけれど。とはいえ大量に素材を保有していると知られれば、ギルドへの売却を促されるのは目に見えている。

 いま溜め込んでいる分の素材は、自分で『霊薬』を作る為に集めたものなので、できれば売るよりも自分の手で消費したい。


「霊薬とは、素材から『錬金要素』と呼ばれる純粋な『効能』だけを抽出し、それを水などに溶かすことで安定させた飲み薬のことです。

 霊薬の材料に利用する素材は、もともと『薬効』を備えているとは限りません。錬金術師が『錬金要素』を抽出することで、初めて人間に対して『利』となる効能が生ずる素材も多く―――」


 そこからは『霊薬調合』に限定した座学が行われた。

 まず霊薬の材料となる素材についての解説が行われ、続いて霊薬を調合する際にどういう道具を用いるのか、どのような手順で調合を行うのかなどが、順序立ててジゼルの口から説明されていく。

 やはりナギは本から知識を得ているので、大体のことは既に把握していた。


「うん、ナギさんは充分に予習しておられるようですね。アリスさんは今日初めて学ぶことも多いと思いますが、ここまではよろしいですか?」

「えっと……だ、大丈夫だと思います」

「結構。では階下(した)に移動して、早速実際に作ってみましょうか」


 そう告げるジゼルに先導され、ナギとアリスはギルドの二階にある『工房』へと場所を移す。

 工房の中には既に5人ほどの先客が居て、それぞれ何らかの生産作業に従事している様子が窺えた。


 ジゼルから促され、その工房の隅にあるテーブルの席に座って、アリスと二人で待機していると。やがてジゼルが、工房の中から二つの『台』を抱えて持ってきてくれた。


「もしかして、これが『錬金台』ですか?」

「ええ、そうです。実物を見るのは初めてですか?」


 ジゼルの言葉に、ナギは頷くことで答える。

 ナギが読んだ『錬金術の初歩』の本の中では、簡単な挿絵付きで紹介されていたので、おおよその外見は把握していたけれど。こうして実際に見るのは初めてだ。




+--------------------------------------------------------------------------------+

 □錬金台/品質[71]


   【カテゴリ】:生産道具(錬金術)

   【流通相場】:6,000 gita


   錬金術の『霊薬調合』に必要な生産道具。

   この道具を使えば、誰でも素材から『錬金要素』を発現できる。

   また発現した要素を抽出して、台に乗せた別の液体に溶解できる。


+--------------------------------------------------------------------------------+




 霊薬の調合には、この『錬金台』という道具を必ず用いる。

 『錬金台』は、言うなれば錬金術専用の『作業台』のようなものだ。


 1.錬金台を利用して、素材から『錬金要素を抽出』する。

 2.錬金台の上に用意した溶媒に『錬金要素を溶かす』ことで安定させる。


 霊薬を調合するための、主な手順はこの2つ。

 ランクが高い霊薬を作る場合には、それだけ作成手順も増えてしまうらしいが。今回は最下級霊薬の調合なので、最低限の手順だけを抑えておけばいい筈だ。





 

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お読み下さりありがとうございました。

誤字報告機能での指摘も、いつもありがとうございます。


[memo]------------------------------------------------------

 ナギ - Lv.14 /掃討者[F]

  〔アルティオの使徒〕〔オキアスの使徒〕〔調停者〕


  〈採取生活〉7、〈素材感知/植物〉4、〈繁茂〉3

  〈収納ボックス〉7、〈氷室ボックス〉4、〈保存ボックス〉1

  〈鑑定〉4、〈非戦〉5、〈生体採取〉2

  〈自採自消〉1、〈採取後援者〉1

  〈複製採取/植物〉2、〈複製採取/解体〉1

  【浄化】4、【伐採】6、【解体】1、【素材探知/植物】1


  〈植物採取〉8、〈健脚〉4、〈気配察知〉3、〈魔力察知〉1

  〈錬金術〉1、〈調理〉3


  〈神癒〉3


  227,812 gita

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