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底辺採取家の異世界暮らし  作者: 旅籠文楽


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66. 豪勢な食事

 


     [3]



 目を覚ました時には、知らない部屋だった。

 先程まで居たアリスの部屋よりも、一回り大きな部屋だ。ベッドは天蓋付きの豪華なもので、室内の内装や調度品にも凝っている様子が窺えた。


 おそらくは同じ邸宅内にある、客人を泊めるための部屋だろうか。

 ナギが気を失ったことで、アリスが人を呼び、誰かがこの部屋まで運んでくれたのだろう。面倒を掛けてしまったことを、ナギは内心で申し訳なく思った。


《ナギ様は2時間ほど気を失っておられました》


 念話でそう告げてきたエコーの声には、ほんの少しだけ『苛立ち』のような感情が混ざっているように聞こえた。

 折角エコーが忠告してくれたのに、それを無視して、倒れるまで『神力』を行使してしまったのだから。エコーが怒るのも当然だろう。


(ごめんね、エコー)


《『不死種族(イモータル)』とはいえ、あまり無茶をなさらないで下さいね。私もそうですが、レビン様もイヴ様も、とても心配していらっしゃいましたから。

 それと―――あの『アリス』という少女は、ナギ様の力で無事に回復しました。両目とも、ある程度は見えるようになったようです》


(それは良かった)


 目の治療をしている最中に気を失ってしまったので、そこがちゃんと回復できているかは自信が無かったのだけれど。どうやら大丈夫だったらしい。


《但し、視力はかなり低くなっているようですね。また、寝たきりの生活のせいで筋肉などに衰えも出ている様子ですので、完全な治療をなさるおつもりでしたら、もう何度かは『神力』を用いた治療を継続する方が良いかもしれません》


(なるほど)


 確かに、アリスの身体を治す際に、筋肉についてまでは考慮していなかった。

 治療の際にエコーは『想像力(イメージ)』が必要だと教えてくれていた。

 ナギの想像が及んでいなかった部分は、治せていないのも当然だろう。


《肌もそうですね。ナギ様は衣服の上から治療しておられましたが、それだけでは不十分です。やはり実際に肌状態を目視確認しながら治療を行うべきでしょう》


(う、そうですか……)


 ナギは男なのだ。―――少なくとも、精神的には。

 なので、どうしてもアリスの身体を直接見ることには抵抗があった。

 医療行為と考えれば、避けられないことなのかもしれないが。ナギは別に医療をちゃんと学んだわけではないので、その覚悟の持ち合わせも無いのだ。


(……覚悟を決めておかないと、かなあ)


 必要があるなら、それを厭っていても仕方ない。アリスの身体を治すと決めたのだから、肌についても出来る限りの治療を行うべきだろう。

 肌を見ることについてはやっぱり抵抗があるけれど。本人と両親の許可を事前に得ておけば、向き合うこともできるだろうか。


「わわっ」


 そんなことを考えながら、ベッド脇から立ち上がったナギは。思わず身体をふらつかせてしまう。

 慌てて天蓋の支柱を掴んでバランスを取り、倒れずに済んだけれど―――自分の身体が思っていた以上に『重く』感じられたのだ。

 どうやら今のナギの身体には、かなりの『疲労』が溜まっているらしい。


 まずは他人(ひと)の心配をするよりも、自分のことに気を回すべきかもしれないと。内心でそう思い、無意識のうちにナギは苦笑する。

 少なくともアリスの病は完治し、腐食も完全に取り除いたのだから。後の治療は別に急ぐ必要も無いのだ。


 ゆっくり慎重に歩きながら、部屋の外に出ると。出てすぐの廊下で待機していた若い侍女が、ナギの姿を認めた瞬間に、深々と頭を下げた。


「この度は、本当にありがとうございました」

「いえ。ちょうど手持ちの薬草で何とかできましたので」


 明らかに儀礼的なものではない、心底からの感謝が込められた侍女の礼に。恐縮のあまりに、思わずナギのほうからも頭を下げてしまう。

 まるで自身の身内を助けて貰ったかのような侍女の態度から。主のアモンドが、侍女のひとりにまでいかに慕われているかが、ナギにもよく判った。


「レビンとイヴはどちらに?」

「お連れ様のことですね。今は旦那様や奥様と一緒に、食堂室の方におられます。食事は主役が起きてからとのことで、皆様お待ちになっておられますよ」

「ああ……それは、悪いことをしてしまったかな」

「ご案内致しますね」


 微笑みながら先導する侍女に付き従い、ナギは慣れない廊下を歩く。

 程なく、レビンの朗らかな声が聞こえてくる一室へと辿り着いた。


「ナギお姉ちゃん!」


 部屋に入るや否や、ひとりの少女が駆け寄ってきて、ナギの身体にしがみつく。

 綺麗な金髪と、瑞々しく柔らかな顔肌。年齢相応の可愛らしさを取り戻した少女の姿を見て、ナギは安心したように息を零した。


「身体に不調はありませんか?」

「うん! ぜんぶ、お姉ちゃんのお陰だよ!」


 大きな声でそう答えて、ひしと力強く抱き付いてくるアリス。

 その頭を優しく撫ぜると。アリスはまるで猫のように、嬉しそうに目を細めた。


「わ、わたくしとしたことが、病み上がりの相手に出遅れるとは……」

「速さが足りない」


 嬉しそうなアリスとは対照的に、何故かレビンは肩を落としている様子だった。

 隣でイヴがぽんぽんと背中を叩いているけれど、何かあったのだろうか。


「ナギ君。ありがとう―――」

「ありがとうございました」


 アモンドとその妻であるイザベラが席を立ち、ナギに深々と頭を下げる。

 その背後には『掃討者ギルド』から徒歩で戻って来た護衛兵の人達も居て、彼らもまた、主人に劣らぬほど深く、ナギに向けて頭を下げてきた。


「や、やめて下さい。たまたま手持ちの薬で何とかなっただけですから」

「ナギ君。それが嘘であることぐらいは私にも判る。アリスの身体は完全に末期の状態だった。どう考えても薬だけで、これほど身体が良くなる筈もない」

「う……」


 一瞬で看破され、ナギは言葉に詰まる。

 アモンドの言う通り、病自体はサンクレアムで治せても、それだけでアリスの身体が本来の魅力を取り戻せたわけではない。


「君が眠っている間に、おおよその事情はレビン君とイヴ君から聞かせて貰った。主神から授かった癒しの力を、アリスのために使ってくれたのだろう?」

「……アリスを初めて使う『神力』の、実験対象にしたようなものですが」


 敬意がありありと込められたアモンドの目を直視できなくて、視線を逸らしながらナギがそう漏らすと。それを聞いたアモンドが、小さく噴き出した。


「謙遜は美徳だと思うけれど、ナギ君のそれはちょっと行きすぎだと思うがね?」

「……薬草は偶然拾っただけですし、癒しの力も偶然手に入ったものです。それが偶々役立っただけなので、褒められるようなことは何もしていないんですよ」


 それはある意味で、本心からのナギの言葉だった。

 ナギはエコーが自由に顕現できるようになって欲しくて、主神二柱に力を分けてあげて欲しいと求めただけなのだ。

 結果的にエコーが得た『神力』を自分でも使えるようになり、他人を『癒す』ことが可能になっただけなので、アリスの身体を治せたのも偶然でしかない。


「偶然でも何でも結構だとも。アリスの為に、意識を失って倒れるほど頑張ってくれたのだろう? だったら親の私としては、ただ君に感謝させて貰うだけだよ」


 そう告げて、朗らかに微笑むアモンド

 イザベルもまた、アモンドの隣で優しく微笑んでいた。


「アリス、そろそろナギさんを離してあげなさい。ご飯にしましょう?」

「はーい!」


 抱き付いていたアリスは、身体を離すとすぐにナギを手を引き、全部で6席ある大きなテーブルの1席へと引っ張ってくれた。

 案内された席にナギが腰を下ろすと、待っていましたとばかりに食堂の中へ豪華な料理の数々が運び込まれ、テーブルの上へと並べられ始める。

 映画や漫画の中でしかまず見ないような、贅を尽くした料理の数々に。思わず度肝を抜かれて、硬直したままナギは陳列される様子をただ見守っていた。


「済まないね。先程まで倒れていたのに、あまり豪勢な料理を出すのもどうかとは思ったのだが……。君のお陰でアリスが無事回復したことで、うちの調理人(コック)が大いにやる気を出してしまってね。ご覧の有様というわけさ」


 ナギの正面側に座ったアモンドが、愉快そうに笑いながらそう説明してくれた。

 護衛兵や侍女に大層慕われているアモンドは、おそらく調理人(コック)からもまた、同様に慕われているのだろう。

 どうやら調理人(コック)の人達は、謝意を豪勢な料理という形で示してくれたらしい。


「僕の話をレビンとイヴから聞いているのでしたら、『エコー』のことについても既にご存じなのでしょうか?」

「ああ、聞いているよ。なるほど、もう1席用意した方が良いのだね?」


 アモンドの言葉に、ナギは頷いて答える。話が早くて有難い。

 全部で6席しか無いテーブルだと、エコーが座る席が足りないのだ。


 すぐに侍女の人がテーブルに椅子をもう1席追加してくれたので、ナギが頭の中でエコーに出てくるように促すと。エコーは不承不承といった様子で、やがて顕現して姿を見せてくれた。


「私のことは気にしなくて構いませんのに……」

「アリスの身体を治してくれたのは、半分はエコー君のお陰なのだろう? であれば是非とも、調理人(コック)渾身の料理を君にも食べて欲しいものだね」

「さあ、アリス。治して貰ったお礼に、二人に料理を取り分けて差し上げなさい」

「はい!」


 イザベラの言葉に元気よく応えたアリスが、ナギとエコーの分の料理を手際良く小皿に取り分けてくれた。

 正直、どの料理から手を付けて良い物か判らなかったので、小皿に取り分けてくれるのはとても有難い。料理はどれも見た目からして豪勢なのに、反面味のほうは案外素朴に仕上げられているものが多く、ナギの好みにも合う物だった。


「これは……美味しいですね」


 時折、誰にともなくそう漏らしているエコーが、目を閉じながら料理を咀嚼し、ひとつひとつの料理の味に感じ入っている様子が窺えた。


 どうやらナギだけでなく、エコーの好みにも合う料理だったようだ。

 あとで調理人(コック)の人にレシピを教えて貰えないか、忘れず訊いておきたい。





 

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お読み下さりありがとうございました。

誤字報告機能での指摘も、いつもありがとうございます。


[memo]------------------------------------------------------

 ナギ - Lv.14 /掃討者[F]

  〔アルティオの使徒〕〔オキアスの使徒〕〔調停者〕


  〈採取生活〉7、〈素材感知/植物〉4、〈繁茂〉3

  〈収納ボックス〉7、〈氷室ボックス〉4、〈保存ボックス〉1

  〈鑑定〉4、〈非戦〉5、〈生体採取〉2

  〈自採自消〉1、〈採取後援者〉1

  〈複製採取/植物〉2、〈複製採取/解体〉1

  【浄化】4、【伐採】6、【解体】1、【素材探知/植物】1


  〈植物採取〉8、〈健脚〉4、〈気配察知〉3、〈魔力察知〉1

  〈錬金術〉1、〈調理〉2


  〈神癒〉3


  227,812 gita

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