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底辺採取家の異世界暮らし  作者: 旅籠文楽


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06. 採取家のナギ - 6

 


     [6]




「それでエコー、あなたは一体……何者なのですか?」


 異世界に転移(ワープ)してきた後に迎えた、初めての夜。

 気の良い女将さんの宿に取った自室で、ナギはそう思念で問いかけた。


 本来であれば心細い筈の、望まぬ異邦人という立場にありながら。それでもナギが不安や孤独を感じずにいられたのは、(ひとえ)にいつでも会話や疑問に応えてくれるエコーが居てくれたからに他ならない。

 だからナギは、エコーが常に自分の心の内に寄り添っていてくれることに、深く感謝している。


 けれども―――ナギには未だに判らない。

 まるで自分の脳内に棲み着いているかのように、思念による会話でのみコミュニケーションを取ることが可能な、不可視の存在。

 『エコー』とは一体何者なのかが。


《私は、ナギ様をこの世界に召喚した『アルティオ』の欠片(エコー)です》


(アルティオ……。そのアルティオというのは何でしょう?)


《ナギ様の持つ知識から近いものを挙げますなら―――『神様』という例えが最も適切と思われます。この世界には私の母体を信仰対象とする宗教が広く存在していますし、私の母体が信徒に対して奇蹟という形で力を貸すこともあります》


(なるほど……神様、ですか)


 神様、だなんて。ともすれば突拍子もない単語である筈なのに。

 けれども却ってナギの心には、ストンと納得できるような感覚があった。


 道中でも幾度となく思ってきたことだが―――エコーがナギに与えてくれる情報は、この世界に生きる個人が持つレベルの知識ではない。

 エコーはナギの持つスキルについて完全に把握していることはもちろん、集落の存在する方向や距離だって正確に把握していた。

 更には、日本語しか判らないナギの為に、会話や文字をリアルタイムに翻訳してくれているのもエコーの力によるものだという。

 ナギが元居た世界で楽しんでいたVR-MMOに関する知識や記憶もエコーは何故か持っているし、それを模してナギの視界に判りやすく、ゲーム感のあるウィンドウ形式で情報を表示してくれていることもまたエコーの補助によるものだ。


 エコーがしてくれている行いや、話してくれる知識の全て。何もかもが―――常軌を逸し過ぎている。

 これでは、いっそ『神』だと名乗られる方が納得できようというものだ。


(ああ、そういえば―――)


 エコーは以前に、現在のナギの身体が『神界の保管庫』なる場所で1662年間も放置されていたものだとも語っていた。

 『神界』と言うからには、それは神様の住む世界なのだろう。ならば、その事実を把握しているエコーが『神様』の一柱であるのは自然なことだ。

 なんだ―――初めから答えそのままを、教えてくれていたようなものではないかと。ナギは今更ながらに納得した。


(僕をこの世界に召喚したのは、エコーなのですね)


《……その解は、間違いではありませんが正しくもありません。私はあくまでも、ナギ様をこの世界に招いた『アルティオ』の欠片(エコー)、つまり、僅かな一部に過ぎません。現在は本体から完全に切り離されており、私の支配権はナギ様ただひとりだけが有しています》


(僕が……? えっと、よく判りませんが……つまり、その『アルティオ』という神様本体とは、エコーはもう別の存在ということですか?)


《そのように考えて頂いてよろしいと思います。既に接続(リンク)も切れておりますので、私と本体との間で干渉し合うこともありません。

 完全な独立存在となっている現在の私の(あるじ)は、ナギ様おひとりだけです。もし仮に今後本体側から何かしらの指示を受ける場合があったとしても、今の私にはそれを問題無く拒否することが可能です》


(ふむふむ……)


 正直を言って、判ったような判らないような―――という感じだが。

 要はその『アルティオ』という神様から切り離された一部が、完全に独立個体としてナギの中に存在しているとだけ理解しておけば良さそうだ。


 部屋に設置されたベッドにナギが身体を預けると、木製の寝台が小さくぎしりと軋む音を立てた。

 この世界のベッドは硬くて、寝心地はあまり良くない。けれど、こうして身体を横たえていると、今更ながらに丸一日歩き通したことの疲労がじわじわと感じられてくる。


(エコー、続けて別の質問もさせて下さい。僕はあなたの本体である『アルティオ』という神様に召喚されたとの話でしたが。そもそも、なぜ僕が召喚されたのでしょう? 身体能力面でも知性の面でも、おそらく日本にはもっと僕よりも優れた候補が幾らでもいたと思うのですが)


《それは、ナギ様が『採取家(ピッカー)』の天職(アムル)を持っておられたからです》


天職(アムル)?)


天職(アムル)とは即ち、才能の種子のことです。人は『レベル』を上げることで種子を育み、己の天職(アムル)に関連するスキルを修得することができます》


(……僕は転移するよりも前、日本に住んでいた頃から、その『採取家(ピッカー)』という天職(アムル)を持っていたのですか?)


《はい。とはいえ、種子は己が育つ土壌や環境を選ぶものです。地球で暮らしている分には、ナギ様の天職(アムル)がその才能を開花させることは無かったでしょう》


 確かに、日本で暮らしていた頃の自分が、山林に入って植物素材を感知したり、採った植物を〈鑑定〉している姿は想像しにくい。

 〈収納ボックス〉のスキルなどは、日本でも使えたら便利そうだとは思うけれど。


この世界(アースガルド)に於いて、天職(アムル)とは血を以て継がれるものです。子は必ず半々の確率で、父親か母親が持つどちらかの天職(アムル)を持って生まれます。

 多くの者が天職(アムル)を活かせる生業を持つことを考えれば、親が子に同系統の才能を継承できるこのシステムは大変合理的です。しかし、一方で変革の余地が無いことが問題でもありました》


(変革の余地?)


この世界(アースガルド)には、新しい才能が誕生する可能性が存在していないのです。子が必ず両親どちらかの才能を正しく継承してしまうせいで、世界に新たな才能が生じたり、既存の才能が別種のものへと変異する余地が残されていませんから。

 つい昨日までこの世界(アースガルド)の民が持つ天職(アムル)は、全部で『99種類』しかありませんでした。これは過去に数百年の時を遡ろうとも『99種類』のままです。世界に存在する天職(アムル)は、決して自然にその数を増やすことができないのです》


(なるほど……。その遺伝のシステムですと、確かにその天職(アムル)というものは、種類が減る可能性はあっても、増えることは有り得ないことになりますね)


《はい。ですが―――ナギ様が来られたことで、この世界(アースガルド)天職(アムル)は本日から『100種類』に増えました。世界を彩る才能が、より多様になったのです。

 アルティオを始めとした主神は、それぞれが独自に他世界の神々と交渉を行い、この世界(アースガルド)に適合する新しい才能の種子を持つ者が他世界に発生した場合、その者を譲り受けるという契約を交わしておりまして―――》


(それに合致した対象が僕、というわけですか)


《左様です。その……今更ではありますが、ご迷惑でしたでしょうか? ナギ様の意思確認もせず、こちらの世界へ招いてしまったわけですし》


(あはっ。それは本当に、今更ですね)


 寝台の上で、ナギは声を抑えながら静かに苦笑する。

 部屋の壁は薄いので、声に出しては隣に聞こえてしまうだろうから。


(大丈夫です。もともと両親からは育児放棄(ネグレクト)も同然の扱いをされていましたし、兄弟姉妹もいませんから。僕が突然居なくなったからといって、あまり困る人も居ないと思います。友達は少なからず心配してくれると思いますが……浅い付き合いばかりで、さして交友の深い友人が居たわけでもありませんし。

 それに―――経緯はどうあれ、僕がこの場所に望まれた上で招かれたことがよく判りました。こんな僕でも必要として頂けるのなら、協力は(やぶさ)かでありません)


《ナギ様……。ありがとうございます》


(えっと、それで……僕はこの世界で、天職(アムル)を活用しながら普通に暮らしていれば良いのでしょうか? 他に何か、僕がすべきことはありますか?)


 ナギが思念でそう問いかけると、即座に《御座います》とエコーが答えた。


《先程ナギ様も仰いましたが、天職(アムル)は自然に種類が増えることは絶対にありませんが、減ることは有り得ます。ご本人に対してこういった話をするのも恐縮ですが……もしもいまナギ様の身に何かがあれば、この世界の天職の数は即座に『99種類』へと減少し、また長い間『100種類』へ戻ることも無いでしょう》


(それは、そうでしょうね)


《ですのでナギ様には『アースガルド』の未来のためにも、希少な天職(アムル)を所持する個体数を、可能な限り増やして頂く必要ことが望ましいです》


(う……。そ、それは、そうかもしれませんね)


 話の流れ的に嫌な予感がして、ナギはやや狼狽しながらそう答える。

 けれど、こちらから訊ねたことなので、エコーの言葉を遮るわけにもいかない。


《ですから、新種の天職(アムル)の祖であるナギ様には、どうかこの世界で沢山の子を成して頂けましたらと思います。できれば少なくとも30人ぐらいは》


「―――む、無理に決まってるじゃないですか!」


《ああ、いえ―――『採取家(ピッカー)』の天職(アムル)の継ぎ手だけで30人は欲しいので、ナギ様の天職(アムル)が50%の確率でしか継承されないことを考えますと、やはりナギ様には倍の60人ほど子を残して頂きたい所でしょうか》


「無理難題に程があります!?」


《期限は定めませんので、大丈夫ではないでしょうか? 古代吸血種(アンシェ・カルミラ)であるナギ様には寿命がありませんので、ゆっくり時間を掛けて頂いても構いませんので》


「……は?」


 なんだか今、さらりと凄いことを言われたような気がする。

 ああ、いや―――そういえば『不死種族(イモータル)』がどうのという話をされた時に、一度エコーからそんな言葉を聞いたような気がしないでも無いが。


《それと、ナギ様。この宿は壁が薄いようですので、そんな風に大声で叫ばれては隣室の迷惑になる可能性が―――》


 ―――ドンッ! ドンッ!

 エコーがそこまで言いかけたのと同時に。部屋の一方の壁が、逆側からけたたましく打ち鳴らされた。

 まさか人生初の『壁ドン』を、異世界で体験することになるとは思わなかった。


《やはり迷惑となったようですね。どうぞ宿ではお静かに》


(………)


 淡々とそう告げるエコーの言葉に、どこか釈然としないものを感じながら。

 ナギはもう考えるのを諦めて、そのまま硬い寝台で眠りにつくことにした。


(あれ? 僕の身体の性別っていま、女性なんだよね?)


 エコーは60人は子供を、と要望していたけれど。

 それって、もしかして僕が産む―――


 うん。深く考えるのはよそう。

 あまり考えない方が精神衛生上良いような気がする。

 ……忘れよう、うん。





 

-

お読み下さりありがとうございました。


[memo]------------------------------------------------------

 ナギ - Lv.2


  〈採取生活〉1、〈素材感知/植物〉1、〈収納ボックス〉1、

  〈鑑定〉1、〈非戦〉1、〈繁茂〉1


  10,840gita

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