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底辺採取家の異世界暮らし  作者: 旅籠文楽


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53. 探知魔法

 


     [2]



 エルフの人達に提供する薪も大事だが、今回の探索の目的は別にもある。

 それは、なるべく沢山の『カママ』と『セイズダケ』を採取すること。

 この2つが錬金術の初歩を学ぶために必要な素材なのだ。


 一口に錬金術と言っても、その中には3つの生産分野がある。

 1つ目が『酒造』。穀物や果物などの素材を加工して、お酒を醸成する。

 2つ目が『製錬』。鉱石から金属成分を抽出して、鋳塊(インゴット)を製造する。

 そして3つ目が錬金術に於いて最も花形とされる『霊薬調合』だ。


 『霊薬(ポーション)』とは、簡単に言えば『即効性』の『強力』な薬のことだ。

 一般的な薬は『薬師』と呼ばれる人が調合するのだけれど、そちらは効き始めるのが遅かったり、効果自体があまり強くないという欠点がある。

 それに較べると『錬金術師』が作成する『霊薬』は、服薬すると即座に効き始める上に、安定して高い効果を見込むことができる優れものだ。


 もちろん良いことばかりというわけではない。

 『霊薬』は材料として都市外でしか手に入らない貴重な薬草を必要とするため、とにかく作成するのにコストがかかる。

 市場で購えば材料代だけでも莫大な出費となるため、〈錬金術師〉の天職(アムル)を有してはいても、『酒造』か『精錬』、またはその両方の技術を修めるだけで、『霊薬調合』に関しては全く手を出さない人も多いそうだ。


 とはいえ、ナギの場合は『自力で集める』という選択肢がある。

 市場では非常に高額な素材も、自分の手で拾い集めればコストは『0』だ。

 調合に失敗して素材を無駄にしてしまっても、無料(ロハ)で集めた素材であれば、精神的なダメージも小さなもので済みそうだ。




+--------------------------------------------------------------------------------+

 -> ナギは『セイズダケ』を『2個』採取。

 -> ナギは経験値『14』を獲得。

+--------------------------------------------------------------------------------+




 いまナギが集めている2つの素材は、『カママ』が最下級の生命霊薬(ライフポーション)の材料となり、『セイズダケ』が最下級の魔力霊薬(マナポーション)の材料となる。

 どうせ『錬金術』を学ぶのであれば、花形であるらしい『霊薬調合』に挑戦してみたい。そう思ったナギは、この2つを率先して集めることにしたのだ。


 ロズティアの『錬金術師ギルド』でギルドマスターを務める、ジゼルから貰った入門書『錬金術の初歩』によると、最下級の生命霊薬(ライフポーション)魔力霊薬(マナポーション)を大体100個ほど製作すると、次の段階へ進めるそうだ。


 それぞれの霊薬を作成するためには、材料に素材が1個あれば良い。

 但し、初心者は3~4回に1度ぐらいしか霊薬調合に成功できないとも書かれていたので、〈錬金術師〉の天職(アムル)を持たないナギ達が挑戦するのだから、余裕を持って5倍ぐらいの材料を準備したいところだ。

 なのでナギとレビンだけが挑戦する場合は、『カママ』と『セイズダケ』がそれぞれ『1000個』ほど。イヴやエコーも一緒に挑戦するなら、更に倍の『2000個』ずつぐらいは材料が欲しいことになる。


 膨大な数なので(簡単には揃わないだろう)とナギは思っていたのだが。


「意外にセイズダケはすぐ揃いそうですわね」

「うん、そうみたいだね」


 レビンの言葉に、ナギは頷く。


 セイズダケの良い所は、〈素材感知/植物〉のスキルを持ったナギでなくとも、簡単に発見できるということだ。

 というのも、森の中で『倒木』を見かけたなら、その近くを念入りに探すだけで沢山のセイズダケを見つけることができるからだ。

 倒木自体から生えるのではなく、倒木の近くの地面から必ず生えている。

 どういう理由でそういう生態になっているのかは判らないけれど。感知スキルを持たないレビンやイヴでも、意図的に倒木を探すことで簡単に採取できるというのが嬉しい。


 そして、これもまた何故なのかは判らないが。『竜の揺籃地(ようらんち)』には、妙に倒木の数が多いようなのだ。

 1分も歩いていれば、大体1本は倒木を見つけることができるだろうか。

 森の深い場所に立つ樹木が風に薙ぎ倒されるとも思えないので、どういう理由で樹木が倒伏しているのかは、本当にまるで見当も付かない。


《おそらく、オークが怪力で押し倒したものと思われます》


 ナギの疑問に答えるように、エコーがそう教えてくれた。


「押し倒す……? 一体何のために木を倒すのですか?」


《オークは木に登れませんので、高い場所に生っている果実を得るためには、樹体ごと押し倒してしまうのが手っ取り早いのでしょう》


「ああ、なるほど……」


 言われてみると確かに、倒木はどれも果実を付けるポニカの樹木ばかりであり、果実を付けないアルバーグの樹木が倒されていることは無いように見える。

 オークは味の強いものを好むので、ポニカの甘い果実は魅力的なのだろう。

 巨体であり、そして筋骨隆々の怪力でもあるオークからすれば、樹木ごと倒して果実を採る方が楽というのも頷ける。


 何にしても、その結果倒木が増えて繁殖に寄与しているのであれば、セイズダケを沢山集めたいナギとしては嬉しい限りだ。

 レビンとイヴも精力的に採取してくれるお陰で、〈収納ボックス〉にあるセイズダケの数は、早くも『1000個』に達しようとしていた。

 この調子なら倍の『2000個』を集めるのも、それほど苦労はしなさそうだ。


「問題は『カママ』のほう。ナギ、見つけられない?」

「うーん、なかなか見当たらないんですよねえ……」


 イヴに問われて、ナギは困惑の表情を浮かべる。

 『錬金術の初歩』の本に書かれている内容によると、『カママ』は地下水の多い場所によく生えている薬草で、一箇所に大量に群生するのだという。

 なので、1つでも見つければ、その付近で沢山集めることができそうなのだが。肝心の1つ目がナギには全く感知できずにいた。




+--------------------------------------------------------------------------------+

 〈素材感知/植物〉Rank.4 - 採取家スキル


   周囲20メートル以内にある植物系の素材アイテムを感知できる。

   スキルランクが上がると感知範囲が拡大される。


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 つい先程、ナギの〈素材感知/植物〉スキルのランクは『4』に成長したので、現在は周囲20メートル以内に素材があれば即座に知覚することができる。

 20メートルというと、大体6~7階建ての建築物の高さに相当するだろうか。

 充分に広い範囲だと思うのだけれど……。既に結構森の中を歩いてきているというのに、未だに1つも見つけられないというのが悲しい。


《生育条件は満たしていると思うのですが……》


 エコーが念話で、誰にともなくそうつぶやいた。


 森林は林床に腐葉土をもたらし、腐葉土は雨水を吸収して地下水を豊かにする。

 現代日本では、しばしば『緑のダム』という表現が用いられていたほど、森林は水源涵養機能に優れた環境なのだ。

 地下水の多い場所に生える薬草なら、この森でも採れそうなものだが。


「ナギ。感知スキルではなく、探知魔法で探して欲しい」

「探知魔法?」


 思わずイヴに対し、鸚鵡返しにそう訊ね返してしまったナギは。

 たっぷり3秒間ほど考えて―――ぽん、と閃いたように両手を打ち鳴らす。


「ああ! ありましたね、そういう魔法!」

「自分のスキルはちゃんと把握しておくべき」


 呆れたような表情でそう告げるイヴに、ナギとしては苦笑するしか無い。


 ナギはイヴを『購入』したその日の晩に、この世界に来た経緯を初めとした自分についての情報を、一通りイヴに説明してある。

 その説明した内容の中には、ナギが持つ『スキル』に関する情報も含まれる。

 イヴからすれば教わったばかりの情報であるため、まだ記憶にしっかりと残っていたのだろう。


《私も完全に失念していました……》


 そう漏らしたエコーの声色からは、肩を落としている様子がありありと窺えた。




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 【素材探知/植物】Rank.1 - 採取家スキル


   〔魔法〕魔力消費:40

   周囲1kmの範囲内で、術者から最も近い位置にある

   『指定した名前』の植物の位置を探知できる。

   スキルランクが上がると探知数と探知範囲が拡大される。


+--------------------------------------------------------------------------------+




 イヴが言う探知魔法―――【素材探知/植物】の魔法を修得したのは、確かナギのレベルが『6』になった時なので、だいぶ前の話になる。

 何しろ修得して以降、今の今まで1回も使わなかった魔法なので、忘れてしまうのも無理はないというものだ。


 【素材探知/植物】の探知範囲は『1km』と非常に広い。

 この魔法を使っても素材が見つからないようなら、もうこの森には存在しないと考えても良さそうだ。


「―――【素材探知/植物(マテラ・パラージ・ネ・グリニ)】」


 意識を研ぎ澄ませたナギは、まだ見ぬ『カママ』という素材のことを思い浮かべながら、魔法を行使するための魔力語(ネシエント)を唱える。


 身体から消費された魔力が、ナギを中心とした全ての方向へ拡散していく。

 まるで反射した超音波をソナーが拾うかのように。その魔力の波は、かなり離れた位置にあるひとつの植物の位置を、精緻に探し当てた。


「最も近い場所にある『カママ』が、800メートルほど先にあるようです」


 森の中の一方向を指差しながらナギがそう告げると。レビンとイヴが声を揃えて驚きの声を上げた。


「遠い……。道理で、探しても見つからないはず」

「セイズダケのように、森中に有り触れている素材では無いのですね」


 確かに、最も近いもので800メートルも先にあるということは、逆に言えばそれより近い範囲内には、ひとつも『カママ』が存在していないことになる。

 闇雲に歩き回ったところで〈素材感知/植物〉スキルに全然引っかかってくれないのも、道理というものだ。


《方向と距離から推察しますに、『カママ』がある位置はオークの集落のすぐ近くだと思われます》


 念話でエコーがそう教えてくれた。


 普段はあれだけ遭遇するオークの人達とは、相変わらず今日も全然遭遇することが出来ないでいる。

 どうせ近くまで行くのであれば。いっそオークの集落に足を運んで、こちらから会いに行くというのも良いかもしれない。





 

-

お読み下さりありがとうございました。

【素材探知/植物】のスキルは、書いている自分も完全に忘れていました。

そのせいで前回までの後書きにも載っていませんので、後で修正します……。


[memo]------------------------------------------------------

 ナギ - Lv.13 /掃討者[F]

  〔アルティオの使徒〕〔オキアスの使徒〕〔調停者〕


  〈採取生活〉6→7、〈素材感知/植物〉3→4、〈繁茂〉2→3

  〈収納ボックス〉6、〈氷室ボックス〉4、〈保存ボックス〉1

  〈鑑定〉3→4、〈非戦〉5、〈生体採取〉1

  〈自採自消〉1、〈採取後援者〉1

  〈複製採取/植物〉2、〈複製採取/解体〉1

  【浄化】4、【伐採】6、【解体】1、【素材探知/植物】1


  〈植物採取〉8、〈健脚〉3、〈気配察知〉3、〈錬金術〉1

  〈調理〉2


  227,812 gita

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― 新着の感想 ―
[一言] ナギ&エコー&作者様に忘れられていた【素材探知/植物】さん、レベル爆上げになりそうですね。
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