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底辺採取家の異世界暮らし  作者: 旅籠文楽


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52/78

52. 終わりゆく秋

 


     [1]



 『秋月』も残すところあと2日となった。

 明後日には『冬月』に入り、世界は『冬』の気候へと一変する。そうなれば野外での活動がしづらくなるのが判りきっているため、『採取』が取り柄のナギとしては、この2日間にできるだけのことを済ませておかねばならない。


 なのでナギは朝のうちから結界の外に出て、森の中を探索する。

 目的はアルバーグの【伐採】と、それから食材や薬草類の採取などだ。


 エコーズの氷室には、大量のポニカの実が保管されている。なので冬を越すのに必要な食料だけなら、既に充分量を確保できている。

 だけどエルフの人達が安全に冬を越すためには、食料だけでなく沢山の『薪』も必要となる。一応、精霊魔法を使えば暖を取ることはできるらしいけれど。部屋を暖めるためにずっと魔法を使い続けるのは、流石に魔力的に無理があるのだ。


 アルバーグの木材は火付きが良く、薪炭材として優れている。

 ナギが【伐採】を行使すれば、木材が薪として扱うのに適切なサイズで、しかも乾燥済の状態で手に入れることができるため、準備がかなり楽で済むのだ。

 来年以降は自前で用意して貰うほうが良いかもしれないけれど。少なくとも今年の冬に必要な分の薪ぐらいは、ナギの方で準備してしまおうと思う。


「―――【伐採(アンペル)】」


 同じ場所から何本もの樹木を伐採するのは良くない気がするので、森の中を歩き回りながら、1本ずつアルバーグの樹木に【伐採】の魔法を行使していく。




+--------------------------------------------------------------------------------+

 -> ナギは『アルバーグの木材』を『510個』採取。

 -> ナギは『アルバーグの樹皮』を『1個』採取。

 -> ナギは『アルバーグの樹脂』を『69個』採取。

 -> ナギの〈植物採取〉スキルが『Rank.8』にアップ!

 -> ナギの〈複製採取/植物〉スキルが『Rank.2』にアップ!

 -> ナギは経験値『3480』を獲得。

+--------------------------------------------------------------------------------+




 相変わらず、1本の樹木を【伐採】するだけでも大量の経験値が手に入った。

 レベルが上がる度に、次回のレベルアップに必要となる経験値量は確実に増えているのだが。一方で採取を行えば行うほど〈採取生活〉のスキルランクが成長して経験値の獲得効率も向上することもあり、レベルが上がるペースが遅くなったようには全く感じられない。

 むしろ、最近になって〈複製採取/植物〉のスキルを修得し、採取の効率が更に上がったことも相俟って。レベル上げがより容易になっているような気さえする。


 この調子なら、レベルが『14』に上がるのも、すぐだろう。

 もしナギが本気で経験値稼ぎに精を出したなら―――1日で10レベルぐらいであれば、一気に上げられそうな気もするから怖い。


「何から何まで、世話になって済まない」


 ナギが何本目かのアルバーグの樹木を【伐採】したあと。同行しているイヴが、申し訳なさそうに眉尻を下げながらそう告げた。


「今年の分は、今から準備するのでは間に合いませんから。仕方ないですよ」

「そう言って貰えると、有難い」


 薪は乾燥させるのに時間が掛かると、昔祖父から聞いたことがある。

 具体的に、乾燥にどの程度の期間を要するのかまでは知らないが。わざわざ言及するぐらいなのだから、おそらく数ヶ月以上は掛かるのだろう。

 となれば、今年の冬に必要な分を、直前の今になってエルフの人達の手で準備して貰うというのは、あまりにも酷な話だ。


 それに―――そもそもエルフの人達は、物をあまり持たない。

 長年に渡り隠遁生活を続けていたこともあり、彼女達は荷物を最小限しか持っていないからだ。服の替えも持たず、着の身着のままの人も居るぐらいらしいから、伐採用の斧を持つ人など数える程しか居ないだろう


 斧が無ければ、灌木の枝を手折って薪を集めるしかないが。さすがにその方法で必要充分量の薪を集めるのは過酷すぎる。

 やはりここは彼女達に代わり、ナギが集めるべきだろう。


「ロズティアへ買い物へ行く人達は、もう出発したのですか?」

「一昨日のうちに人選を済ませ、今朝出発した。ナギのお陰で充分な額を持たせることができたので、色々と買い込んでくることだろう。斧も購入予定品に含まれていた筈なので、来年はナギに頼らないようにさせる」


 一昨日、ナギはイヴに、手持ちのお金のほぼ全額である『500万gita』分の金貨を手渡した。

 言うまでも無く、これは『イヴを購入する』代金としてだ。


 イヴとしては『自分を売る』対価として、5万から10万gitaも貰えれば充分と考えていたらしいけれど。イヴを購うとなれば、ほぼ全財産を出すべきだと思ったので、切りの良いところで『500万gita』をナギは支払っていた。

 酒が樽で300は購入できる額なので、無論安い額ではないが。とはいえ、お金は稼ごうと思えば稼げる自信があるので、ナギとしては別に困らない。


 イヴはその『500万gita』全額を、エコーズの長であるメノアに譲渡した。

 一気に大金が手に入ったことで、もともと各集落跡で代表を務めていたエルフの人達が集まり、エコーズに必要などのようなものから買い揃えていくか、夜を徹した話し合いが行われたそうだ。

 最終的には、農具や斧といった生活に必要な道具と、全員分の衣服を買い揃えることを最重要として、あとは余った金で『酒造』を再開するために必要な道具から買い揃えていくことになったらしい。

 そのロズティアへ買い物に行く部隊が、今朝のうちに出発したようだ。


「酒造の再開を優先したのは、やはり交易品としての価値が高いからですか?」

「そう。エルフが作る酒は、酒豪にとても人気がある」


 独自の製法で作られるエルフの酒は、アルコールの濃度が高いのか、まるで口の中を焼くような強い刺激を伴うものであると聞く。

 そんなエルフの酒は、特に『酒豪種族』として知られるドワーフに好まれているらしく、かつて集落が滅ぼされる前には、よくドワーフと取引して鉄器や武器と交換していたそうだ。

 『酒造』の再開を優先するのは、安定して酒が作れれば、集落に必要な他の道具は交易で手に入れられる見込みがあるからなのだろう。


「……本当に、良かった?」


 薬草を摘み取っているナギの目の前に立ち、イヴがそう問いかけた。


「何がでしょう?」


 主語が省かれた言葉なので、イヴが何を言いたいのか判らなくて。

 ナギがそう問い返すと、イヴは小さな声で「お金のこと」とつぶやいた。


「私に500万gitaなんて大金を出して、本当に良かった?

 安価な奴隷であれば3万から4万gitaも出せば買えると、昔聞いたことがある。その100倍以上もの価値が、私にあるとは思えない」


 そのイヴの言葉を聞いて。この世界に『奴隷』という制度があることを理解し、ナギは複雑な気持ちになる。

 まだ転移してきて一ヶ月も経っていないとはいえ、早くも好きになり始めている世界なだけに。できれば―――そういうのは無い方が嬉しかったな、とも思う。


「いいんです。イヴにはそれだけの価値がありますよ」


 そんな内心を包み隠しながら、ナギはそう答える。

 手早く【浄化】を掛けて綺麗にした手で、フード越しにイヴの頭を優しく撫ぜると。柔らかに目を細めながら、イヴは静かに「ん」と応えた。


「お姉さまの言う通りですわ。もしお姉さまが買わなければ、わたくしが同じ額で買っていましたよ?」


 同行しているレビンが、今しがた地面から引き抜いたばかりの『ダーチ』という根菜を、両手いっぱいに沢山抱えながらそう告げた。

 レビンの身体ごと【浄化】の魔法を掛けてから、その沢山のダーチを受け取り、ナギは〈氷室ボックス〉の中へ収納する。


「こんなに可愛らしいイヴさんですもの。もっとお高くても良いぐらいですわ」


 そう告げて、ぎゅうっとイヴの身体を抱き竦めるレビン。

 恥ずかしそうに頬を赤らめながらも、イヴの表情は嬉しそうだった。


「ん。ナギもレビンも、優しい。ありがと」

「一足先にお姉さまのものになれたイヴさんが羨ましいですわ。わたくしとエコーさんもすぐにお仲間になりますから、待っていて下さいまし」

「判ってる。皆で一緒に、ナギの眷属」

「………」


 いつの間にかエコーとレビンだけでなく、イヴのことまで『眷属』にすることが既定路線となっていることに気づき、ナギは軽く頬を引き攣らせた。


 彼女達を眷属にするためには、血を吸わなければならない。

 身体が吸血鬼であるせいなのか『血を吸う』という行為自体には、さして忌避感も覚えないが。

 とはいえ血を吸うために―――いつか、こんなに稚い女の子達の身体を傷つけ、血を流させなければならないのかと思うと。

 正直ナギは、今から憂鬱な気持ちで一杯になるのだった。





 

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お読み下さりありがとうございました。

誤字報告機能での指摘も、いつもありがとうございます。


[memo]------------------------------------------------------

 ナギ - Lv.13 /掃討者[F]

  〔アルティオの使徒〕〔オキアスの使徒〕〔調停者〕


  〈採取生活〉6、〈素材感知/植物〉3、〈繁茂〉2

  〈収納ボックス〉6、〈氷室ボックス〉3→4、〈保存ボックス〉1

  〈鑑定〉3、〈非戦〉5、〈生体採取〉1

  〈自採自消〉1、〈採取後援者〉1

  〈複製採取/植物〉1→2、〈複製採取/解体〉1

  【浄化】4、【伐採】5→6、【解体】1


  〈植物採取〉7→8、〈健脚〉3、〈気配察知〉3、〈錬金術〉1

  〈調理〉2


  5,227,812 → 227,812 gita

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