50. 物欲センサー
[3]
古代樹の結界の北側に出たナギは、そこで【伐採】を行う。
普段はポニカの樹木だけを【伐採】することが多いけれど、今日はアルバーグの樹木にも【伐採】の魔法を行使していく。
『竜の揺籃地』にある樹木は、川沿いなどに多く生えている灌木を除けば、ほぼ全てがポニカかアルバーグのどちらかになる。なので、探し回る必要も無くそこかしこに生えているし、どれだけ採っても減る気がしないのが有難い。
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◆レベルが『13』にアップしました!◆
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ナギ/古代吸血種
〈採取家〉- Lv.12 → 13 (EXP: 90 / 33800)
生命力: 923→980
魔力: 2051→2177
[筋力] 239→254 [強靱] 342→363 [敏捷] 307→326
[知恵] 1094→1161 [魅力] 957→1016 [加護] 71225
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新規修得スキル → 〈生体採取〉Rank.1 - 採取家スキル
人族以外の生きている動物や魔物などに触れると
対象ごとに1日1度だけ、1個のアイテムを採取することができる。
この採取によって触れた対象から何かを奪うことはない。
スキルランクが上がると採取個数が増加する。
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何本かの樹木を【伐採】していると、すぐにレベルが『13』へ上がった。
レベルが上がる度に、次のレベルアップに必要な経験値は確実に増えている筈なのだけれど。相変わらずナギのレベルは速いペースで成長を続けていた。
やはり、先のレベルアップで修得した〈複製採取/植物〉のスキルで、経験値の獲得効率が更に向上したことなども大きいのだろう。
「お姉さま、おめでとうございます!」
「ありがとうございます、レビン」
レベルアップ時には身体が光り輝くので、そのことは周囲には丸わかりだ。
すぐに祝福してくれたレビンの言葉に、ナギも感謝を述べて応えた。
「今回はどのようなスキルを新しく修得なさったのですか?」
「えっと……今回は〈生体採取〉という名前のスキルだそうです。動物や魔物から採取ができるようになるスキルとのことですが」
「………? つまり、どういうことですの?」
ナギの言葉に、レビンは可愛らしく首を傾げる。
確かに今の説明では、レビンの理解が伴わないのも無理はない。
というか、当のナギ自身にも。説明文を簡単に読むだけでは、いまいちスキルの効果がよく判らなかった。
《スキル名に『採取』と付いてはいますが、どちらかといえば素材を『生成』する効果だと捉えるほうが良さそうに思えます》
困惑するナギとレビンの様子を見て、エコーが解説してくれた。
《例えば、『猪』を狩猟してその亡骸を【解体】すれば、猪の『肉』や『毛皮』を得ることができますが。このスキルがあると、ナギ様は生きた猪の身体に触れるだけで、そういった素材を手に入れることが可能となるようです》
「……それはつまり、生きている猪から『肉』や『毛皮』を剥ぎ取るということでしょうか? 何だか……随分と大胆で、残酷なスキルのように思えるのですが」
そう告げたエコーの言葉に、思わずナギは頭の中で想像してしまう。
生きた生物から剥ぎ取るというのは、確かに残酷以外の何物でもない。
《いえ、このスキルを用いても触れた相手から何かを奪うことは無いようです。
触れた『猪』の身体を一切傷つけることなく『肉』か『毛皮』のどちらかの素材を得ることができる。つまり『奪う』のではなく、相手の持つ素材を『生成』して獲得するスキルだと考えた方が良さそうですね》
「な、なるほど……」
要は猪から『肉』や『毛皮』を奪うのではなく、猪に触れることでナギが1日に1度だけ『猪の肉』か『猪の毛皮』を生成できるスキル、ということらしい。
なかなか面白いスキルだとは思うが、使いどころが難しそうにも思えた。
「もしオークの方に遭遇したら、試しに触ってみてはいかがですか?」
「う、うーん……。オークの人達を傷つけたり何かを奪うわけではないのだから、別にスキルを試しても問題は無い……のかな?」
《問題無いと思われます》
少し不安を覚えてナギが訊ねると、エコーが即答してくれた。
エコーがそう言うのなら、実際大丈夫なのだろう。
オークと遭遇したら試してみよう―――と思いながら、それから暫く【伐採】を続けていたのだけれど。そういう時に限って、何故か普段はあれだけ頻繁に出逢うオークの人達と、全く遭遇せずに時間が流れていく。
別に急いで試す必要があるわけではないけれど……何となく釈然としないものがあったりもする。こういうのも『物欲センサー』と言うのだろうか。
必要数の木材が【伐採】できたので、ナギとレビンの二人は東へと向かう。
すると程なくエルフの集落―――『エコーズ』北西部の出入口に辿り着いた。
*
『エコーズ』の集落には、北西と南東の2箇所に出入口がある。
集落の南西側は古代樹の結界に面しているため、こちらを通行することは誰にもできない。出来るとすれば、それは古代種であるナギやレビンぐらいだ。
そして集落の北側から東側に掛けては小川が流れているので、これも自然の防壁としての役割を果たしてくれている。小川と言っても水勢がそれなりに強く、水深も2メートルぐらいはあるからだ。
野性の獣やゴブリンがこの小川を超えてくることは無い。森に多数棲息しているオーク達ならば平気で超えてくるけれど、そもそもエルフの人達にとってオークは既に『敵』という認識では無くなりつつあった。
結界と小川に挟まれた場所に集落を築いているため、周囲と地続きになっている2箇所さえ防衛していれば、厄介な獣やゴブリンが集落に侵入してくるのを止めることができる。
なので当然、出入口には歩哨を立てることになっている。現在はエルフの集落に住む人達が持ち回り制で担当しているようだ。
「こんにちはー」
北西側の出入口に立っている人達に、ナギは率先して声を掛ける。
今日は全部で8人が歩哨に立っているようだ。
「ああ―――これは使徒様。とうとうこちらにも柵が出来るのですか?」
「はい、準備してきました。……あと、できれば『使徒様』ではなく『ナギ』と呼んで頂けると嬉しいのですが」
「これは失礼しました、ナギ様。ありがとうございます、柵があれば歩哨の人数を今の半分まで減らすことができますよ」
まだ名前を知らないエルフの女性が、そうナギに感謝を述べた。
現在、集落の北西側にある出入口は、幅が100メートル弱はある。
古代樹結界と小川との間に、それだけの幅があるからだ。当然この広さの出入口を防衛するとなれば、相応の人数が歩哨に立たなければならない。
来月のことを思えば、歩哨に必要な人数を減らしておくことは、集落の負担を減らす意味で必須のことでもあった。
この世界では、1年が『春月』『夏月』『秋月』『冬月』の4ヶ月しかない。
そして月が変わるというのは、季節が変わることと全く同じ意味を持つ。
例えば、春月の末日を終えて、夏月の初日に入ったなら。その日から、世界の気候が一気に『夏』へと変化するらしいのだ。
ナギの視界の隅に『時計』とセットで常に表示されている『暦』は、もう秋月が残すところあと数日しかないことを示している。
つまり、あと数日も経てば、世界は『冬』へと変わる。
気温が一気に下がり、当然歩哨の仕事は辛いものとなるだろう。だから今の内に柵を立てて歩哨の必要人数を減らし、交代で暖を取れるようにしておきたいのだ。
既に集落南東部の出入口には、3日前に木柵を設置してある。
なので北西部の出入口に今日木柵を設置すれば、取り敢えずは大丈夫な筈だ。
「すみません、レビン。力仕事のたびに頼ってしまって」
「それは言わないお約束ですわ、お姉さま。どのような形でも、お姉さまのお役に立てますなら、それはわたくしにとって喜びでしかありませんの」
レビンに竜へ姿を変えて貰い、柵を設ける予定線上に、2メートル間隔ぐらいで杭を地面に打ち込んで貰う。
杭はポニカの樹木の丸材を、長さ4メートルぐらいで裁断したものを用いる。
【伐採】した際に丸材の片側を円錐形に尖らせてあるので、そちらを地面に向けてレビンに勢いよく打ち込んで貰うと。杭が一気に2メートル近く沈むと同時に、大地が揺れ、周囲一帯に大きな振動音が響き渡った。
ナギは厚みのある木板を〈収納ボックス〉から取り出し、レビンが埋め込んでくれた杭同士を繋ぎ合わせるように、何本もの横木を渡していく。
最後にアルバーグの樹皮を全体に被せたなら完成だ。アルバーグの樹皮は水をよく弾くので、これを被せておけば雨による腐食が少しは抑えられるだろう。
3日前にもやった作業なので、木柵の設置には1時間と掛からなかった。
どちらかといえば柵を作る作業そのものより、必要な材料を計算して【伐採】で揃えておく事前作業のほうが、幾らか大変だったようにも思う。
「ありがとう、ナギ。これで冬の労苦が大分減らせる」
〈収納ボックス〉から取り出したタオルで汗を拭っていると、不意にナギの背後から声が掛けられた。
抑揚に乏しいその声が誰のものかは、ナギにもすぐに判る。
「イヴ。来ていたのですか?」
「いま来た。流石にあれだけ大きな振動音が響けば、ここでナギとレビンが作業をしてくれていることは判る」
「なるほど」
イヴの言葉に、ナギは苦笑する。
確かに先程まで出していた騒音は、レビンが竜の身体で作業でもしない限りは、出る筈の無いものだ。
「ナギとレビンの二人には、色々と世話になっている。集落のエルフを代表して、改めて礼を言わせて欲しい。いつもありがとう」
そう告げて、深々と頭を下げるイヴ。
イヴは淡々とした口調でそう告げるけれど。その語調とは裏腹に、真摯な感謝の気持ちが籠められていることは、ナギにもレビンにもちゃんと伝わった。
「集落のエルフを代表して……ということは、イヴさんがこの集落の長に収まったということでしょうか?」
「いや、私は辞退した。集落の長はメノアが務める」
「そうなのですか? イヴなら適任かと思ったのですが……」
ナギがそう告げると。イヴはゆっくりと頭を振る。
「私は多くを求めない性分だから。エルフの皆に苦痛無く、安全に暮らして欲しいとは思うが、それ以上を求めようとはあまり考えない。他方、メノアは集落の皆の生活をより豊かにしようという気概がある。向上志向を持たざる者と持つ者なら、後者が長として適任なのは明らか。
それに―――私は少し、やりたいことがある。あまり立場に縛られて、身動きが自由に出来なくなることは、好ましくない」
「……やりたいこと、ですか?」
何だろう、とナギは疑問に思う。
同時に、何か自分に手伝いができるようなら、応援したいとも思った。
「それに関して、ナギにひとつ、取引の提案がある」
「取引?」
「そう。それなりの額で、私を買っては貰えないだろうか」
取引というには、あまりに突拍子もないその言葉に。
思わずナギは面食らってしまった。
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お読み下さりありがとうございました。
[memo]------------------------------------------------------
ナギ - Lv.12→13 /掃討者[F]
〔アルティオの使徒〕〔オキアスの使徒〕〔調停者〕
〈採取生活〉6、〈素材感知/植物〉3、〈繁茂〉2
〈収納ボックス〉6、〈氷室ボックス〉3、〈保存ボックス〉1
〈鑑定〉3、〈非戦〉5、〈生体採取〉0→1
〈自採自消〉1、〈採取後援者〉1
〈複製採取/植物〉1、〈複製採取/解体〉1
【浄化】4、【伐採】5、【解体】1
〈植物採取〉7、〈健脚〉3、〈気配察知〉3、〈錬金術〉1
〈調理〉2
5,227,812 gita
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