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底辺採取家の異世界暮らし  作者: 旅籠文楽


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05. 採取家のナギ - 5

 


     [5]



「いらっしゃい! 個室が空いてるよ、泊まっていくかい?」


 雑貨屋に続いて宿屋のほうを訪ねると、こちらでは店に入るとすぐに気の良さそうな女将さんが応対してくれた。

 事前にロウネから、宿屋が集落内で最も大きい建物だと聞いていたので、探すのには苦労しなかった。

 二階の無い平屋だが、建物の広さ自体はなかなかのものだ。とはいえ食事処と飲み屋を兼ねている飲食スペースが面積の半分以上を占めているようなので、宿泊施設として見るならば小さめな部類に入るだろう。

 宿泊できる部屋は、せいぜい店の奥に二つか三つある程度。小さな宿だけれど、それほど来訪する旅人の多い集落でもないだろうから、これで充分なのかもしれなかった。


「すみません、泊まるつもりはありますがお金がないので……。先にこちらにある食材や薬草の『素材収集依頼』というものを拝見させて頂きたいのですが」

「掃討者ギルドの依頼だね? それじゃ、あっちの壁に貼ってある依頼票を見て、達成できそうなのがあれば用紙を剥がしてアタシに持ってきておくれ」


 女将さんはそう告げると、宿屋の壁の一角をくいっと指差してみせる。

 そちらへ行ってみると、30枚程の『依頼票』と題打たれた用紙が貼り出されていた。


 依頼票に用いられている文字は明らかに日本語ではない。にも関わらず、用紙に記されている内容は問題無く読み取ることができた。

 ナギがこの世界の文字で書かれている内容を理解できるのは、エコーが何らかの補助をしてくれているお陰なのだろう。有難いことだと、ナギは心の内でより一層エコーに対する感謝を厚くする。


(エコー。『掃討者ギルド』というものについて教えて頂けますか)


 先程の女将さんの台詞の中で意味が判らなかった単語について、ナギは頭の中で問いかけてみる。

 もちろんエコーは、その質問にも即座に答えてくれた。


《―――この世界(アースガルド)では魔物との戦いを生業とする人を『掃討者』と呼ぶのですが、この掃討者の人達が利用する為の施設が『掃討者ギルド』です。ギルド施設は主に中規模以上の都市に設けられていますが、小さな村落などでも宿屋や居酒屋などがギルドの支部として機能していることがあります。

 都市や集落から一歩外に出ればそこは魔物の領域ですから、都市の外でしか手に入らない素材の収集依頼は、原則として魔物と戦う能力を持つ『掃討者』頼みとなります。ナギ様が既にお持ちの素材の採取依頼が宿に貼り出されている場合は、この場で素材を納品して依頼を達成し、報酬をすぐに受け取ることが可能です》


(なるほど……。ありがとうございます、エコー)


《不明な点がありましたら、何でも遠慮無くお訊ね下さいませ》


 壁に貼り出されている依頼票を、ナギは早速ひとつずつチェックしていく。

 この村まで歩いてきた道中だけでも結構な量の素材を拾ってはいるが……。とはいえナギの〈収納ボックス〉にある素材はトモロベリーとカムンハーブの二種だけなので、取り揃えはお世辞にも豊富とは言えない。

 手持ちの素材だけでは、せいぜい1つか2つ達成できる依頼があれば良い方だろう。

 そう思い、ナギは大して期待もせずに依頼票を眺めていたのだが。


(同じ素材に対して、幾つも採取依頼が出てたりするんだな)


 壁には『トモロベリーの採取』と記されたものだけで、実に4枚もの依頼票が貼り出されていた。

 依頼票の末尾にある『依頼者』の欄は、4枚それぞれに異なる名前が記されている。

 つまり、どうやら依頼主が異なれば、依頼票は個別に貼り出されるものらしい。依頼者は村長を筆頭に、4枚全てがこの村の住人によるものだった。

 『カムンハーブの採取』の依頼はそれよりも数が多く、全部で7枚もの依頼票が貼り出されている。生薬需要が高いと推測していたエコーの言葉が正しかったことが、ここに来て証明されたように思えた。

 日持ちする薬草だからなのか、カムンハーブの採取についてはランデンの村人だけに留まらず、近隣にあるらしい村落の住人からも依頼が出されているようだ。


 依頼票によって素材の要求個数は異なり、また報酬の額にも多寡がある。

 本来であれば報酬が良い依頼票から順に選び取るのが賢いのだろうが。とりあえず、いま貼り出されているトモロベリーとカムンハーブの採取依頼に関しては、手持ちの素材だけで全て達成することができそうだ。


 ……ちなみに『カムンハーブの採取依頼』は、貼り出されている7枚の依頼票の全てに、単価換算で『65gita』以上の報酬額が付けられていた。

 やはり〈鑑定〉で見ることのできる相場の情報が正しいようで、雑貨屋の老爺はナギから不当に薬草を買い叩こうとしていたらしい。

 先程の雑貨屋で売らなくて正解だったな、とナギは改めて思う。


「すみません。これらの依頼を全部請けたいのですが」


 そう告げてから剥がした依頼票をナギが手渡すと。宿の女将さんはぎょっとした表情で、目を剥いたまま数秒ほど硬直してみせた。

 無理もない。一度に10枚近い量の依頼票を一気に消化しようなどという人は、そうそう居るものでもないだろう。


「荷物を持ってないようだけど……まさか、今から森に採りに行くってんじゃないだろうね? もしもそうなら、流石に初対面の人にこんなに沢山の依頼は任せられないよ?」

「ああ―――いえ、ちゃんと既に確保してあります」


 そう告げて、ナギは宿のカウンターにトモロベリーを31個、カムンハーブを45個取り出して並べていく。これで依頼の要求個数は満たせるはずだ。

 〈収納ボックス〉に入っているアイテムは、取り出そうとナギが意識するだけで簡単に必要数だけ、この場に出現させることができるから便利だ。


「こりゃあ驚いた……。アンタ〈収納ボックス〉のスキル持ちかい? 宿を始めて随分経つけど、アタシゃ初めて見たよ」

「……もしかして、珍しいスキルなのですか?」

「そりゃあ珍しいとも! 商人でも旅人でも、誰だって喉から手が出るほど欲しいスキルだろうさ! アタシだって是非とも欲しいね!」


 あっはっは、と快活に笑いながら女将さんはそう言ってみせる。

 ……そういえば、自分が持っているスキルが希少(レア)である可能性なんて、ちっとも考えていなかった。


この世界(アースガルド)に於ける〈収納ボックス〉の所有率は、全体の『0.02%』です》


 つまり、5000人に1人の割合ということか。

 日本人口に当て嵌めるなら、全国で2万5千人のスキル保有者が居ることになる。

 ……そう考えると、なんだかあまり少なくないようにも思えたが。とはいえ所有割合から言って希少(レア)なスキルであるのは疑いようもない。

 推測人口200人の村落に住む女将さんが「初めて見た」と告げるのも、なるほど納得できる話だった。


「28、29、30……うん、トモロベリーが全部で31個ちょうど、カムンハーブも45個ちょうど有るね。どれも新鮮で品質も良さそうだ。それじゃ手続きをするから、ギルドカードを一旦こっちに渡して貰えるかい?」

「……? ギルドカードとは、何ですか?」

「おや、アンタは掃討者ギルドに登録しているわけじゃないのかい?」

「あ、はい。していませんが……登録してないと依頼は請けられませんか?」

「そんなことはないけれど。そうねえ、ちょっと勿体なくはあるかねえ」


 眉尻を下げて、女将さんは少し困ったような表情をしてみせた。


 話を聞いてみると、掃討者ギルドに登録していなくとも依頼を請けること自体はできるらしいのだが。カードを持っていないと、依頼を達成してもその評価が記録されないのだそうだ。


「評価が記録されると、何か意味があるのですか?」

「真面目に依頼仕事に取り組む掃討者ってのは、ギルドにとっても財産だからね。良い評価記録が沢山あれば、今後アンタが何か困ったことになった場合に、ギルドが相談に乗ってくれたり助けてくれたりするのさ。

 例えば、掃討者は率先して魔物と戦うのが仕事だから、何かにつけて怪我をする機会が多いもんだろう? 軽い怪我ならいいけどね、重い怪我を負えば暫く治療に専念して休まなきゃいけない時ももちろんある。そんな時は、良い仕事を積み重ねている掃討者に対して、ギルドが手当金や生活費を支給してくれたりするのさ」

「へえ、なるほど……。そういうのは良いですね」


 危険に従事する仕事だからこそ、助け合いが重視されているということか。

 なるほど、互助組織(ギルド)を名乗るだけのことはあるのだな、とナギは感心する。


「まあ魔物を退治することに比べると、採取は大してギルドから評価して貰えないとも聞くけれどね。とはいえ、ギルドカードは作っておくほうが便利だろうね。

 掃討者ギルドへの登録は、ある程度規模の大きい都市じゃないとできないから、次にロズティアへ行った時は忘れずに登録して、カードを発行して貰っておくんだよ」


(……ロズティア?)


 判らない言葉についてナギが問うよりも早く、エコーが説明してくれた。


《ロズティアはここから東北東に約40kmの距離、街道沿いに進む場合は52kmほど移動した先にある大都市です。掃討者ギルドの本部のひとつが設置されています》


 つまり、そこまで行かないと『掃討者』としての登録はできないということか。


(40kmかあ……)


 40kmというと、距離的には東京から横浜までぐらいだろうか。

 電車でなら移動に一時間も掛からない距離だけれど。歩くとなると、それなりに覚悟を決めて臨む必要がある距離だ。

 道なりに行けば52kmなので、時速4kmで歩いても13時間掛かる計算になる。

 今日の道程を余裕で歩けたことから察するに、今の身体の体力であれば問題なく歩ける距離とは思うが。おそらく、時間はかなり掛かってしまうだろう。


「うん、急にぼんやりしてどうしたんだい? 素材はちゃんと確認したから、報酬を受け取っておくれ」

「おっと―――すみません、有難く頂戴します」


 依頼11件の達成で得た報酬の総額は、締めて『4,420gita』也。

 女将さんは報酬を楕円形の銀貨2枚と長方形の銀貨4枚、それと1枚の銅貨で支払ってくれた。

 〈鑑定〉によれば厚みのある楕円形の銀貨が『2,000gita銀貨』で、長方形の薄い銀貨が『100gita銀貨』であるらしい。銅貨も少し楕円形をしたもので、これは『20gita銅貨』なのだそうだ。


 お金を〈収納ボックス〉の中へ入れてから、現在〈収納ボックス〉に入っている中身を意識して視界に表示させると、ちゃんと『4,420gita』分のお金が収納されていることが確認できた。

 新しく3種類の硬貨を収納したので、〈収納ボックス〉の収納枠を『3種類』ぶん使ってしまうかと思ったが。確認してみると、収納枠は全く圧迫されていない。

 どうやらお金は『10枠』までの制限とは別に、収納枠を使わず〈収納ボックス〉の中へ入れておくことができるようだ。


「ところでトモロベリーもカムンハーブも、まだ〈収納ボックス〉に沢山余っているのですが、宜しければここで買い取っては頂けませんか? もちろん値段の方は安価で構いませんので」

「へえ、幾つあるんだい? 安めでも構わないなら、もちろん喜んで買い取るよ!」

「えっと……。トモロベリーが81個と、カムンハーブが120個ありますね」

「ず、随分と多いね。そうだねえ……買い叩くようで申し訳無いけれど、トモロベリーは1個20gitaでなら全部買い取れるよ。あまり日持ちしない果物だけれど、ジャムに加工すればロズティアへ向かう行商人に売れるからね。

 ただ、カムンハーブはねえ。うちで買い取るよりも、マーカスの所で売った方が良い値段になりそうな気がするんだよねえ」

「マーカス?」

「ああ、アンタは知らないよね。マーカスってのは、この村で雑貨屋をやっている爺さんのことさ。ここのところ怪我をする若者が多いせいで薬草の在庫が厳しいんだって、昨晩もここで飯を食いながら愚痴っていたからねえ。カムンハーブなら、きっと良い値段で買い取ってくれると思うよ?」

「……そのマーカスさんというのは、もしかしてこう、顎髭(あごひげ)が立派な?」

「おや、もう雑貨屋には行ってたのかい? それで合ってるよ。この村で、無駄に髭を伸ばしてるのはマーカスぐらいのもんさ」

「ああ、じゃあ合っているんですね……。ここに来る前に雑貨屋へは一度行ったのですが、カムンハーブは店主のマーカスさんから『1つ20gitaでなら引き取ってやろう』と言われてしまいまして」

「はあ?」


 ナギの言葉を受けて、女将さんは数秒ほどの間、目を丸くしてみせると。

 やがて女将さんは頭を抱えながら、深い溜息を吐き出してみせた。


「マーカスの奴め……。魔物と戦うことばかり考えて、薬草には目もくれない掃討者が多いんだから、アンタみたいに採取慣れしてる旅人さんは貴重だってのに。全く、後でとっちめてやんなきゃだねえ……」

「あ、あの。女将さん……?」

「ああ、すまないねえ。そういうことならカムンハーブはうちで買い取るよ。少し安くなっちゃうけれど、1つ50gitaぐらいでも構わないかい?」

「その値段でしたら、喜んで全てお売りします」


 流通相場に較べれば割安だけれど、纏めて引き取って貰えるなら有難い。

 手放した分のカムンハーブは、また採取して足せばいいのだ。


「ありがとうねえ、助かるよ。……代わりといっちゃあなんだけれど、明日までに良いモノを用意しておくからね。楽しみにしておくといいよ!」

「へ? 良いモノ、ですか? それは一体……?」

「ははっ、良いモノは良いモノさ! 期待してくれて構わないよ!」


 よく判らないが、女将さんは明日ナギに何かをくれるらしい。

 期待して構わないという話なので、とりあえず楽しみにしておくとしよう。


「女将さんのお陰で手持ちに余裕ができましたので、今晩はこちらの宿に泊まらせて頂きたいのですが。お幾らでしょうか?」

「うちは個室なら一晩で800gitaだね。明日の朝食は料金の中に含まれてるけど、今晩の食事も必要なら別途300から400gitaほど払っておくれ」

「では合わせて1200gitaをお支払いします」


 〈収納ボックス〉から1200gitaちょうどの金額を取り出そうと意識すると、ナギの手の中に2種類の銀貨が2枚ずつ、合計4枚の銀貨が現れた。

 〈鑑定〉で視てみると、それが『500gita銀貨』2枚と『100gita銀貨』2枚であることが判る。


(……はて?)


 先程女将さんから受け取った貨幣の中に『500gita銀貨』なんてものは無かった筈だが。この銀貨は、一体どこから出て来たのだろう。

 ナギがそう疑問に思うと、すぐにエコーが教えてくれた。


《〈収納ボックス〉に収納したお金は、入れたときの貨幣を問わず、出すときには好きな貨幣で取り出すことができます》


 なぜ好きな貨幣で取り出せるのか、理屈は全く判らないけれど。とはいえ、便利な分には有難いことだ。

 ……確か古いゲームには、主人公が『両替機』を持ち歩きながら世界を救うRPGなんてものもあった気がするし。

 ファンタジー感の強いこの世界では、スキルに両替機能が付いているぐらいならまだ可愛いものかもしれない。―――そうナギは自分を納得させることにした。





 

-

お読み下さりありがとうございました。


[memo]------------------------------------------------------

 ナギ - Lv.2


  〈採取生活〉1、〈素材感知/植物〉1、〈収納ボックス〉1、

  〈鑑定〉1、〈非戦〉1、〈繁茂〉1


  10,840gita

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