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底辺採取家の異世界暮らし  作者: 旅籠文楽


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49. 報酬の使い途

 


     [2]



「あっ。ではエコーさんのために、願い事を使うのはどうでしょう?」


 『竜の揺籃地(ようらんち)』の中央にある古代樹の、根本部に広がる小さな湖。

 その(ほとり)で、焼いた川魚を昼食として食べたあと。レビンと一緒に過ごしていた、食後のまったりした時間の最中に。ぽん、と何かを思いついたように、両手の手のひらを打ち合わせてレビンがそう提案した。


《私のために―――ですか?》


 突然自分の名前が出たことが予想外だったらしく、僅かに驚きが入り交じった声でエコーがそう問いかける。


「はい。わたくしは前々から、エコーさんと話すだけでなく、実際に会ってみたいとも思っているのですが。それは、難しいのですよね?」


《そうですね……。神格は有しておりますので、集落に住むエルフの人達が熱心に信仰して下されば、それは私の力となります。ですので、いずれは可能になるかもしれませんが―――少なくとも現時点では不可能です。

 現在の私が有しているのは、アルティオから分割された力のみ。私はアルティオの欠片から生まれましたから、持ち合わせている力もまた欠片のように僅かです。ナギ様の身体の中に留まり、こうしてナギ様やレビン様とお話しすることはできても。レビン様にも視認可能な身体で顕現(けんげん)するには、全く力が足りません》


「では『使命(クエスト)』の報酬として、エコーさんが自由に顕現できるように、主神アルティオ様と主神オキアス様に少しずつ力をお分け頂く、というのはどうでしょう?

 そうすればわたくしも、エコーさんといつでも直接お会いすることが出来るようになりますから、とても嬉しいのですが」

「なるほど……」


 そのレビンの提案は、とても魅力的なものにナギには思えた。

 エコーは常にナギと一緒に居てくれるけれど。でも、ナギがこの世界で感動する何もかもを共有できるわけではない。

 例えば、美味しい物を食べた時にその喜びを共有することはできないし、温泉の中に身を浸からせた時の心地よさを一緒に感じることもできないのだ。


 もしエコーが自由に身体を顕現できたなら。この世界で体感する沢山のことを、本当の意味でエコーと一緒に共有することができる。

 それはナギ自身の望みとも、大きく合致するものに思えた。


《ですが……私のために、折角の『報酬』を使って頂くというのは……》


「お姉さまもエコーさんのために使うのでしたら、構いませんよね?」

「もちろん異存は全くありません」


 レビンの言葉にナギは即答する。

 エコーは恐縮している様子だけれど、ナギとしては異存などあろう筈もない。


 この世界に来てからというもの、ナギは沢山のことでエコーから助けられながら日々を生きているのに。けれどもエコーは実体を持たないので、率直にお礼を口にすること以外では全く、彼女から受けた恩に報いる方法が無いのだ。

 今回の『報酬』でエコーに少しでも恩返しができるなら、是非ともそうしたい。


「エコー、どうでしょう。貴女のために『報酬』を使わせて頂けませんか。それが僕やレビンにとっても、嬉しいことになると思いますので」


《う……。駄目、では、ありませんが……》


 姿は見えなくとも、その声色からは強い困惑が伝わってくる。

 とはいえ、ナギとしてもこの提案を引っ込めるつもりはないのだ。


《……判りました。他に『報酬』の使い途が無ければ、お受けします》


 暫しの沈黙が続いたあと、最後には根負けしたようにエコーがそう応えた。

 この場にはナギとレビンとエコーの3人しか居ないのだから。過半数の二人に強く求められれば、少数側であるエコーは分が悪いのだ。


《―――但し、条件があります》


 数の暴力に折れながらも、エコーはそう付け加える。


「条件、ですか……?」


《はい。もし私が自由に顕現できるようになりました暁には、ナギ様には私の血を吸って頂き、私を眷属にして頂きます。それでもよろしければ、お受け致します》


「えっ」


 そのエコーの提案が、あまりに予想外のものだっただけに。

 思わずナギの頭は一瞬、その思考を停止してしまう。


《確かレビン様も過去に、ナギ様の眷属になりたいと仰っておられましたよね》


 その僅かな間隙(かんげき)を突くかのように、エコーがそうレビンに口にする。

 マズい、とナギが慌てて思考力を取り戻した時には、もう手遅れだった。

 レビンの双眸が、キラキラと期待に満ちた輝きを帯びていたからだ。


「なりたい! なりたいですわ! わたくしを是非お姉さまの眷属に!」


《その時にはレビン様も私と一緒に、ナギ様の眷属になりましょうね》


「わっかりました! その時が今から待ち遠しいですわ!」


 その場で飛び上がって狂喜乱舞するレビンに、ナギは何も口に出来ない。

 この場にはナギとレビンとエコーの3人しか居ないのだから。過半数の二人だけで話を進められてしまうと、少数側であるナギには制止さえできはしないのだ。


《ふふ。人を呪わば何とやら……ですね、ナギ様》


 僅かに嬉しさが籠められた声色で、そう告げたエコーの言葉は。多分ナギにだけ送られた念話なのだろう。

 もしも今、エコーの姿が見えていたなら、彼女の貴重なドヤ顔が拝めていたかもしれない。そう思うと、ちょっと惜しいことをしたような気にもなった。


(エコー)


《はい、ナギ様。何でしょう?》


(僕はエルフの人達から、集落の名前を付けるように頼まれていましたよね)


《そうですね。イヴ様からもメノア様からも、是非ともナギ様に集落の名付け親になって欲しいと。そう求められていたように把握しておりますが》


 エルフの人達が住む集落なのだから。ナギとしては、当事者である彼女達自身が名前を付けるのが筋だと思っているのだけれど。

 けれども、イヴもメノアもこの一点に於いては全く譲らず。集落の名前はナギに決めて欲しいと、強く訴え続けていた。


 最終的にはナギが二人に根負けしつつも、「そのうち良い名前が思いついたら」という形で、名前を付けるのは先延ばしにしていたのだけれど。

 唐突だけれど今、とても良い名前が浮かんだので、決めてしまおうと思う。


(集落の名前は『エコーズ』にしますね)


 何だか喫茶店とかにありそうな名前だけれど、こういうのも悪くないだろう。


《ちょっ……!? や、やめてください! 私の名前を付けるのは!》


 慌てた様子でエコーが抗議の声を上げるけれど、もちろんナギは耳を貸さない。

 ついでに神殿に設置されている神像の並び順も、今は主神アルティオが真ん中に置かれているけれど、後でエコーが中央になるように並べ直しておこうと思う。

 信仰が集まれば、力が得られるという話だったから。集落にエコーの名を冠し、神像も中央に配置して、彼女こそ集落の守り神だとエルフの人達に認知されれば。それはいつか、エコーの力になるかもしれない。


(……ところで。どうして急に、僕の眷属になるなんて言ったのですか?)


 心の中で、ナギは静かにそうエコーに問いかける。

 唐突にエコーがそんなことを求めた理由が、どうしても判らなかったからだ。


《理由は2つあります。1つは古代吸血種(アンシェ・カルミラ)が―――というよりも吸血種(カルミラ)という種族自体がですが、眷属にした相手の力を取り込む能力を有しているからです。

 先程も申しましたが、私は神格を有しております。アルティオやオキアスから力を分け与えられれば、私はそれを『神力』という形で保有できます。ナギ様が私を眷属にしてその力を取り込めば、ナギ様はほんの一端ではありますが、自らの意志で『神の力』を振るうことが可能となるでしょう》


 エコーの言葉に、思わずナギは眉を顰める。

 『神の力』だなんて。そんなものを求めるつもりは無い。


(……別に僕は、力が欲しいとは思っていないのですが)


《神力を最も活かせるのは『治療』の奇蹟です。レビン様を始めとした、ナギ様が愛しく思われている方々が怪我を負われた時に。何もできないよりは、自分の手で治せた方が良いと思いませんか?》


(う……。それは……そうかもしれませんが)


 常にナギと共に在るエコーは、ナギが欲しているものを良く知っている。

 好戦的とは程遠い嗜好を持つナギは、他者を攻撃する力には興味は無いけれど。一方で、他人の為に役立てることのできる力であれば、欲しいとも思っている。

 確かに『治療』の力には、興味が無いと言えば嘘になるだろう。


《もう1つの理由は、吸血種(カルミラ)が眷属を()べる存在だからです》


(眷属を、統べる……?)


《はい。眷属は自らの主である吸血種(カルミラ)に忠誠と力を捧げるものです。本来ナギ様が得る筈の『報酬』を私の為に費やすというのは、到底承伏しかねるものがあるのですが……。

 眷属となるなら、私の持つ力は即ち、ナギ様に捧げる為のものとなりますから。それならばナギ様が得る『報酬』で私が力を得ても、結果的にナギ様に返すことになりますから、よろしいかと思いまして》


(は、はあ……?)


 ……何だか、どういう意味なのか、あまりよく判らないけれど。

 兎も角も、エコーが自由に顕現できるようになってくれるのであれば。あとの細かいことは気にしなくても良いだろうか。


《ふふ。実は一度『食事』をしてみたいとは常々思っていたのです。顕現が自由にできるようになりましたら、私もナギ様と同じ物がいつも食べられますね》


(その時には、何か最初に食べたいものはありますか?)


 ナギが献立のリクエストを訊ねると。エコーは《そうですね……》と少し思案してから、回答してくれた。


《折角ですから、ナギ様が内心で欲しがっておられた日本のお米も、アルティオとオキアスに報酬として要求しましょう。そのお米を使って、ナギ様の故郷の料理を私にも食べさせて頂きたいです》


(いいですね。レビンも喜びそうです)


《きっと今みたいに、喜んで下さいますよ》


 ナギとエコーの目の前には、未だに欣喜雀躍といった様子で、飛び跳ね続けているレビンの姿がある。

 無垢に喜ぶレビンの姿を見ていると、自然とナギの表情は綻んだ。


 きっとエコーもまた同じように、表情を綻ばせているのだと思う。

 それが見られる日が、近いうちに来るかもしれないと思うと。ナギの心もまた、今のレビンのように、嬉しい気持ちで一杯に溢れてくるような気がした。





 

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お読み下さりありがとうございました。


[memo]------------------------------------------------------

 ナギ - Lv.12 /掃討者[F]

  〔アルティオの使徒〕〔オキアスの使徒〕〔調停者〕


  〈採取生活〉6、〈素材感知/植物〉3、〈繁茂〉2

  〈収納ボックス〉6、〈氷室ボックス〉3、〈保存ボックス〉1

  〈鑑定〉3、〈非戦〉5

  〈自採自消〉1、〈採取後援者〉1

  〈複製採取/植物〉1、〈複製採取/解体〉1

  【浄化】4、【伐採】5、【解体】1


  〈植物採取〉7、〈健脚〉3、〈気配察知〉3、〈錬金術〉1

  〈調理〉2


  5,227,812 gita

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