表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
底辺採取家の異世界暮らし  作者: 旅籠文楽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/78

45. 神像を作る

 


     [4]



 途中で昼食に果物を配ったりもしつつ、エルフ総出での建築作業は継続される。

 ナギの視界に表示されている時計が午後2時になる頃には、整地されたばかりの土面しか殆ど無かった場所に、全部で58軒もの家屋が建ち並んだ。

 これで今日の建築予定は、恙無(つつがな)く完遂されたことになる。


「ナギ。建築材料が、あと2軒分あるように見える」

「あ、はい。それは予備のつもりでした」


 58軒分の家を一気に建てるとなれば、どこかのグループでトラブルが発生して木材パーツを破損し、材料が不足するような事態もあるかもしれない。

 そのように想定していたので、2軒分を予備として用意し、全部で60軒分の材料を揃えておいたのだ。

 だから実際に58軒の家が建て終わった今でも、きっちり2軒分の材料が残っているというのは。エルフの人達にトラブルが無かった事の証左とも言える。


「予備ということは、使う予定は無い?」

「そうですね、特に予定はありませんが……。余ったのでしたら、できれば1軒分は僕が手元に保管しておきたいですね。慣れていれば1時間も掛からず建てられますから、旅先などで便利に使えそうですし」

「では、もう1軒分を譲って欲しい。可能?」


 イヴの要望を、ナギは快諾する。

 余らせても仕方が無いので、有効活用してくれるならそのほうが良い。


「構いませんよ。倉庫にでも使われますか?」

「簡易の神殿として利用したい。主神アルティオ様と主神オキアス様に祈りを捧げることができる場所が、我々には必要」

「なるほど、では早速建てるとしましょうか。場所はお決まりですか?」

「皆が積極的に利用すると思うので、やはり集落の中心が好ましい」


 レビンにも手伝って貰いながら、もう1軒を迅速に建設する。

 慣れていることもあって、30分と掛からずに建てることができたけれど。普通の家屋と同じ内装なので、正直『神殿』という感じは全く無かった。


「ん……。ちょっと、神殿に置く物を作ってきます」


 そう告げて神殿予定の建物を出たナギはそのまま村の外に出て、森に生えているポニカの木に【伐採】の魔法を行使する。


「………」


 頭の中にイメージするのは、半月前にロズティアの神殿で図らずも直接相対する機会に恵まれた、主神アルティオの御姿。

 【伐採】の魔法を利用すると、木材を『術者がイメージする通りの形状』で手に入れることができる。それならば、もしかしたら―――こういうこともできるかもしれないと、そう思ったのだ。


「本当に思い通りに出来ちゃうんだなあ……」


 思わず自画自賛するような言葉がナギの口から漏れ出てしまうほど、その木像は見るからに良い出来をしていた。


 あの日見た主神アルティオの姿を、そのまま『1/1スケール』で再現した木像。

 これならば、神殿に設置して『神像』として用いるのにも充分だろう。


 また、主神アルティオの木像だけでなく、あの日見た『エコー』の姿を模した木像も【伐採】の魔法で作ってみる。

 高さ2m程の主神アルティオの神像と、高さ120cm程のエコーの像。並べてみると親子の姿を映した像のようにも見えて、何とも可愛らしい。


《……まさか、私の像も一緒に設置されるおつもりですか?》


「いけませんか?」


《別に……駄目では無いですけど……》


「こう言っては不敬なのかもしれませんが……。僕にとっては、この世界に呼んで下さった主神アルティオ様よりも、ずっと傍に居てくれたエコーに対する気持ちのほうが大きいですから」


 もちろん主神アルティオに対する感謝も、それはそれで大きいのだけれど。この世界に来たその日から、ずっとナギを助け続けてくれているエコーに対して抱いている感謝の心は、その比ではない。


「流石ですね、お姉さま」

「―――あなたは化け物か」


 村に戻り、神殿にする建物で待っていたレビンとイヴの二人に主神アルティオの神像を見せると。レビンからはいつも通りの満面の笑顔で迎えられ、イヴには何とも呆れたような視線を向けられてしまった。


「私達が待っていた時間は正味5分程度。だというのに、この神像はどう考えてもそのような短時間で用意できる物ではない。

 これほど主神の御姿を克明に写し取った木像は、私も初めて見た……。もし市場に流れれば、即座に大商家と貴族の間で、金を詰み合う戦争が始まるレベル」

「ええ……?」


 イヴのあまりの言い草に、思わずナギは顔を引き攣らせるが。

 けれど、そう告げるイヴの表情は、至って真面目なものだった。


「ナギ。この神像に私が【固定化】の魔法を掛けても? 経年でヒビが入ったり、倒れて部分的に欠けたりしないように保護したい」

「そんな魔法があるのですね。もちろん構いませんが、ひとつお願いしても?」

「何でも。どのようなものであれ、ナギの要求を拒むつもりはない」

「こちらの像も神殿の中に一緒に並べたいので、合わせて【固定化】の魔法を掛けて頂きたいのですが」


 そう告げたナギが〈収納ボックス〉の中から、もうひとつの木像を取り出すと。

 レビンもイヴも、主神アルティオの背丈を半分にしたような小さな木像を見て、不思議そうな顔をしてみせて。―――けれど、一瞬だけ間を置いてレビンだけが。ぽん、と両手を打ち鳴らしたあと、嬉しそうな笑顔で頷いてみせた。


「これは、エコーさんの像ですわね!」

「流石です。レビンには判って貰えると思ってました」

「………?」


 レビンの反応を見て、ひとりイヴだけが首を傾げる。

 彼女はエコーのことを何も知らないのだから、この反応は当然だろう。


 どうせナギが『稀人(ミレジア)』であることは、既にイヴには知られているのだから。今更隠すようなことは何も無い。

 この世界に来てから今日までの経緯を、掻い摘んでナギが話すと。最後まで静かに耳を傾けていたイヴは、ナギが話し終わったことに気付くと、おもむろに頷いてみせた。


「元は主神アルティオ様の一部であり、今は使徒であるナギを守護しておられる方ともなれば、当然私達にとってエコー様は信仰すべき対象。【固定化】の魔法を掛けるので、是非エコー様の神像も一緒に設置し、我々に祈らせて欲しい」


《少なくとも、私はもう『神』ではないのですが……》


 イヴの言葉を受けて、やや困惑したような声色でエコーがそう言葉を漏らす。

 とはいえ、エコーのそのつぶやきは、イヴには聞こえていないようだ。


「―――【固定化(レクタ)】」


 イヴの手により魔法を掛けられた主神アルティオとエコーの木像が、青白い光に包まれる。その光はたっぷり10秒ほど持続したあと、ふっと何事も無かったかのように消滅してしまった。


「これで大丈夫。もう神像が湿気で痛む事も、倒れて破損することも無い」

「ありがとうございます、イヴ。その【固定化】の魔法はどのぐらいの間、効果が持続するものなのでしょう?」

「私が死ぬまで持続する」


 無い胸を誇らしげに張りながら、イヴがそう告げた。


「ハイエルフのイヴがそう言うのでしたら。本当に、気が遠くなるぐらいの期間、効果が持続しそうですね」


 少し苦笑しながら、ナギがそう口にすると。

 けれど、ナギの言葉とは裏腹に、イヴは肩を落としながら言葉を零してみせた。


「……実を言えば、最近は自分の『種族』に自信が持てなくなっている」

「種族に自信……ですか?」


 イヴの言葉の意味が判らなくて、ナギがそう問いかけると。イヴはコクンと一度頷いてみせたあとに、更に言葉を続けた。


「ナギはエルフの寿命がどのぐらいか、知っている?」

「800年ぐらいだと聞いたことがあります」


 ロズティアの掃討者ギルドで、ディノークからそう教わったことがある。


「正解。では、ハイエルフの寿命はどのぐらい?」


《通常のハイエルフは、大体2000年ぐらい生きます》


「2000年ぐらいだと聞いたことがあります」


 正確には、たった今聞きました。エコーから。

 ナギが回答すると、イヴは少し驚いた様子をみせた。


「それも正解。ナギは博識。その事実を知る人は、たぶんあまり多くない」

「た、たまたま聞いたことがあっただけですから……」


 少し気まずくて、思わずナギは視線を逸らしてしまう。

 博識なのはナギ自身ではなく、常にナギと共に居てくれるエコーなのだから。


「博識なナギに、ひとつ訊ねたい。もし判るようであれば是非教えて欲しい」

「……何でしょう?」

「私は、物心付いた時には帝都の孤児院に居た。だから自分の両親の顔を知らず、親の種族が何であったのかも判らない。とはいえ、見ての通り長い耳があるから、自分の種族がエルフであるのだと子供心に理解はしていた。

 ところが私は、普通のエルフが老いを感じる歳になっても、この幼い体躯のまま変わらず。そして1000歳を数えても、まだ平然と生きていた。こうなると流石に自分が『エルフではない』という事実を認めないわけにはいかず、それ以降、私は自分の種族をハイエルフだと他人に告げるようにしている」

「なるほど……」


 その判断自体は、特におかしいものではないような気がする。


「ところで。私は今年の冬で、おそらく2400歳になる」

「……えっ?」

「エルフなら800年で死ぬ。ハイエルフなら2000年で死ぬ。

 じゃあ―――もう2400年ぐらい生きている私は、一体何なのだろう?」


 本来であれば、長生きできるのは良いことなのかもしれないけれど。

 そう告げるイヴの表情には、悲しさが混じっているようにナギには見えた。





 

-

お読み下さりありがとうございました。


[memo]------------------------------------------------------

 ナギ - Lv.12 /掃討者[F]

  〔アルティオの使徒〕〔調停者〕


  〈採取生活〉6、〈素材感知/植物〉3、〈繁茂〉2

  〈収納ボックス〉6、〈氷室ボックス〉3、〈保存ボックス〉1

  〈鑑定〉3、〈非戦〉5

  〈自採自消〉1、〈採取後援者〉1

  【浄化】4、【伐採】5、【解体】1


  〈植物採取〉7、〈健脚〉3、〈気配察知〉3、〈錬金術〉1


  5,227,812 gita

------------------------------------------------------------

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ