39. 見せられないよ
「それで、スキルは3つ増えたとのお話でしたが。最後の1つは、一体どのようなものなのでしょう? そちらも生産に関するものでしょうか?」
「いえ、あと1つは全く関係ない別のものでした」
じゃあ採取関連のスキルなのかというと、それはそれで違うような気もするが。
ともかく、ナギは残りの1つのスキルについてもレビンに説明する。
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【解体】Rank.1 - 採取家スキル
〔魔法〕魔力消費:10
魔物や動物などの亡骸を完全に消滅させることができる。
また、その際に一定以上の価値を持つ素材を全て回収する。
スキルランクが上がると回収素材の品質値が高くなる。
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最後の1つは【解体】という魔法。
魔物や動物を倒した後に残る死体に用いる魔法で、行使することで死体を消滅させることができ、更にそこから取れる素材を纏めて回収するというものだ。
微妙に『採取』とは関連性が無い気もするので、なぜ自分の天職でこんな魔法が修得できたのか、正直ナギ自身にもよく判らないのだけれど。何にしても、便利そうな魔法であることは間違いない。
「それは……素晴らしいですね。わたくしも自分で狩った鹿や猪などを、ナイフで解体したことがありますが。とにかく血が沢山出て、服が汚れますから」
「な、なるほど……」
正直ナギはグロテスクなものが苦手なので、そういう意味でもこの魔法は有難いかもしれない。
とはいえ積極的に魔物を狩るつもりが無いので、あまり使う機会も無いだろう。
ナギがそう思うことを告げると、
「魔物も会話が通じる相手ばかりではありませんから、そうでも無いのでは?」
けれど、即座にレビンから否定されてしまった。
確かに、この世界に来たばかりの頃に、ゴブリンに話しかけてみても全く会話が通じなかったことは、まだ記憶に新しい。
会話が通じる相手とはあまり戦いたくないし、なるべく仲良くなりたいけれど。話が通じない相手ならば、その限りではない。
ゴブリンは流石に食べたくないけれど……牛や豚などの動物に似た魔物を見かけたなら、むしろ積極的に肉を得るために狩ってみたいとさえ思えた。
《この魔法は【伐採】と同じように、解体時に素材をどのように加工するのかを、ある程度ナギ様の意志で指定することが可能なようです》
スキルの説明文からは読み取れない情報を、エコーが付け足してくれた。
「僕の意志で指定……ですか。例えば、解体時に肉のサイズを指定したりとか?」
《可能と思われます》
例えば『豚』を【解体】して肉を得る際には、叉焼用の『ブロック肉』として手に入れることもできるし、しゃぶしゃぶ用の『薄切り肉』として手に入れることもできるということだろうか。
地味な効果だけれど、何気にかなり便利な気もする。
《【解体】で得た素材は〈収納ボックス〉に直接回収されますが、これはナギ様の意志で回収先を〈氷室ボックス〉に変更することも可能です。ちなみに【解体】の魔法にも〈採取生活〉のスキルは適用されるようです》
「うわあ、マジですか……」
《マジです》
淡々とした声でそう肯定するエコーが、ちょっと面白い。
〈採取生活〉のスキルが適用されるということは、つまり【解体】でも経験値が得られるということだ。
樹木を【伐採】するのは、まだ自然物を回収するという意味で『採取』と言えなくも無い気がするけれど。死体から肉を回収したりする行為は、普通『採取』とは言わないような気もするが。
……自分にとって都合が良いことなのだから、あまり深く考えなくても良いだろうか。
「ロズティアへ向かう道中では、お肉が美味しい魔物とも遭遇することがありますから。もし見かけたら、狩ってお肉を冷蔵しておきたいですね」
「それは良いですね」
〈氷室ボックス〉に入れておけば、生魚でさえ5日は持つ。
生肉は多分それ以上に持つだろうから、もし狩れれば一週間ぐらいは、肉を沢山使った贅沢な食事が楽しめそうだ。
別にロズティアの都市で肉を買っても良いのだけれど。どうせなら狩った直後の魔物の肉をすぐに〈氷室ボックス〉へ放り込むほうが、より長く日持ちさせることができるだろう。
「狩るのはなるべく、会話が通じない魔物だけにして下さいね」
「それは承知しております。お姉さまが人族と魔物の間を仲立ちなさるのを、邪魔するつもりはありませんわ」
「仲立ちって……」
単にナギ自身が、色々な魔物と仲良くなってみたいだけであって。対立している関係に割って入り、調停しようというつもりは全く無いのだけれど。
(そういえば『調停』といえば―――)
何かの折に、そんな単語を見かけたような気がする。
ああ―――そうだ。確か今朝オークの人達に最初の6樽分の酒樽を渡した後に、そんな表示を行動記録のウィンドウに見たような気がする。
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-> ナギは『調停者』の神席を獲得。
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行動記録のウィンドウを意識して操作し、履歴を確認すると。果たして、ナギが覚えていた通りの文章が現れた。
(……『神席』?)
初めて聞く単語だ、とナギは思う。
調停者という単語の意味は判っても、『神席』という単語はさっぱり判らない。
「エコー、レビン。『神席』とは何なのでしょうか?」
判らないことは、素直に人から教わるに限る。
そう思ってナギが率直にそう訊ねると。レビンは驚きに目を見開いて、ざぱっと勢いよくお湯から立ち上がり、
「―――流石は、お姉さまですわ」
けれど、最後には何か得心したかのように、幾度もうんうんと頷きながら。
何故か自慢気に、レビンはそう口にしたのだった。
……濁り湯から立ち上がったせいで、色々と見てはいけない所が見えてしまっているので、とりあえず座り直して頂きたい。
《『神席』とは、人族の行いを見ていたいずれかの神が、その行動を支援するために設けた、文字通り『神の座席』です。『神席』を得た者は、人族であると同時に神の末席の一柱となり、大きな加護を得ることができます》
「か、神の座席、ですか……」
気軽に訊ねた割に、何だか随分と大袈裟な話になってきた気がする。
「お姉さま。よろしければ、ギルドカードを見せては頂けませんか?」
「あ、はい。それは構いませんが」
ナギは(カードよ出ろ!)と意識して、左手からギルドカードを取り出す。
┌――――――――――――――――――┐
│ ■ナギ
│ - 天職:採取家
│ - レベル:9
│ - 〔調停者〕
└――――――――――――――――――┘
レベルが『9』に更新されていることは予想していたけれど。それ以外にも、いつの間にか項目がひとつ増えていた。
「うふふ……。ギルドカード自体は、どう見ても黒縁の『底辺』カードですのに。これを見たなら、決して誰もお姉さまのことを馬鹿にはできないでしょうね」
そう告げて、レビンは嬉しそうにくすくすと笑む。
どういう意味なのだろう? とナギが訝しく思っていると。それを察したのか、エコーが意味を説明してくれた。
《『神席』を得ている者は、その事実がギルドカードに刻まれます。『神席』を得ているというのは、即ちその者がいずれかの神により認められていることを意味しますので、このカードを見せられた者は、ナギ様のことを『使徒』と同等の聖者として扱わなければならなくなります》
「は、はあ……?」
《そもそも、ナギ様は間違い無く主神アルティオの使徒なのですから。それと同等の事実がギルドカードに記載されるようになっただけですので、特段驚くようなことでも無いと思われます》
「ふふ、それもそうですわね」
エコーの言葉に、レビンがやはり何度も頷いて応える。
何が何だかよく判らないけれど。とりあえず、他の人に見せづらいギルドカードになったということだけは、ナギにもよく理解できた。
「僕にその……〔調停者〕という神席? を下さったのも、やはり主神アルティオなのでしょうか?」
「それは、お姉さまのギルドカードの、神席の文字に触れてみれば判りますわ」
「触れる?」
疑問に思いながらも、ナギは言われた通りギルドカードに刻まれた〔調停者〕の文字に、指先で軽く触れてみる。
すると、カード全体の記述が全く別のものへと書き換わった。
┌――――――――――――――――――――――――――――┐
│ ■ナギ - 〔調停者〕
│ 彼の者の神席はオキアスによって提起され、
│ その配席をアルティオによって認められた。
│ また、これを91柱の神々が追認した。
└――――――――――――――――――――――――――――┘
「……これは、どういう意味なのでしょう?」
書かれている意味が、純粋に判らなくて。ナギが困り果てていると、いつも通りエコーが解説してくれた。
《ナギ様に〔調停者〕の神席を与えることが主神オキアスによって発議され、それが神々の間で議られた結果、最終的にはその妥当性を主神アルティオが認めることで決議に至ったということですね。また、この二柱の主神以外にも全部で91柱の神々が、ナギ様に神席を与えることに賛成しておられるようです》
「は、はあ……」
スケールが大きすぎて、理解が追い付かない。
とりあえずもう、ギルドカードは必要な場合を除いて、可能な限り他人に見せないようにした方が良いということだけは。ナギにもはっきりと理解できた。
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お読み下さりありがとうございました。
[memo]------------------------------------------------------
ナギ - Lv.9 /掃討者[F]
〔調停者〕
〈採取生活〉4、〈素材感知/植物〉2、〈繁茂〉1
〈収納ボックス〉5、〈氷室ボックス〉2
〈鑑定〉2、〈非戦〉4
〈自採自消〉1、〈採取後援者〉1
【浄化】2、【伐採】4、【解体】1
〈植物採取〉4、〈健脚〉2、〈気配察知〉3、〈錬金術〉1
5,227,812 gita
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