37. 建築
最近帰りが遅くて、日付変更前に投稿が間に合いませんでした。すみません。
昨日はなんとかギリギリ間に合ったのですが……。
[2]
最初はレビンに、大きく地面を掘り返して貰う。
もちろん少女のままではなく、竜の姿になって貰った上でた。
竜に姿を変えている時のレビンの大きさは他の竜に較べると小柄らしいけれど、それでもナギ一人を背に乗せて大空を飛べるだけの大きさはある。
身体が大きくなれば、相応の力もまた付帯する。元々レビンは、少女姿の時にも大きい酒樽を軽々と担ぎ上げられる程度の力を持っているけれど。竜に姿を変えれば、その力は更に何倍にもなる。
また、竜になっている時には鋭い鉤爪も持っている。これを使って地面を掘り返して貰えば、あっという間に地面にちょっとした大きさの穴が地面に空く。
掘り返された地面は、ナギが〈収納ボックス〉の中へと片付ける。
地面を直接〈収納ボックス〉に入れることは不可能なのだけれど、地面は一度掘り返して貰うことで『土砂』の素材アイテムへと変わる。
アイテムとして扱われさえすれば、どれだけ大量にあっても、ナギが触れるだけで簡単に〈収納ボックス〉へと回収できるのだ。
土砂を移動させるのは結構な重労働である筈なのに。それを丸ごと省略できるのだから、これはかなりの時間短縮になる。
続いてエコーが、土砂を全て取り除いた後に残された硬い土面の穴を確かめて、ここに設置する『氷室』のサイズを決める。
掘るのにだいぶ慣れてきたこともあってか、今回はレビンが綺麗な円形状に穴を開けてくれたので。この穴を深さが『4m』、広さが『6m×6m』の空間へ拡大した上で、その内側を『氷室』とすることにエコーは決めたようだ。
エコーが設計した氷室の完成イメージ線図が、ナギの視界に投影される。
投影情報を参考に、ナギが地面に実際のラインを引く。そのラインに沿うようにレビンに地面を掘って貰い、『氷室』となる地下室の形を整えていく。
『氷室』のサイズが決まれば、それを建てるのに必要な骨組の数も決まる。
骨組は木骨で作る。地下に埋める形で『氷室』を建てるとはいえ、上から屋根を被せることを考えれば、壁を組む骨組にその荷重を余裕を持って支えられるだけの強度を持たせなければならない。
充分な強度となるために必要な、柱や梁の太さはエコーが設計する。骨組を組むために必要な木材パーツの数とサイズをエコーが指示してくれるので、これをパーツ同士で釘などを使わずともそのまま木組みできるように、仕口を加えた形にナギの頭の中で精細にイメージする。
具体的なパーツの形状が決まったなら、それを【伐採】で切り出す。
【伐採】の魔法は樹木を、ナギがイメージする形状と寸分違わないサイズの木材へと変換してくれる。何本も【伐採】したせいで、またレベルが上がったけれど、今は気にしないことにした。
柱も横臥材も、どの木材パーツも結構大きくて重たいものなのに、今のナギには簡単に持ち上げることができてしまう。きっと[筋力]が増えたお陰だと思うので、レベルが簡単に上がるのも素直に有難いことだと思おう。
骨組が出来上がったなら、その骨組みを覆うように壁体を被せる。
形状としては、いわゆる木骨造に近いけれど。壁体には石材やレンガではなく、レビンが作り出せる特殊な氷―――『不融氷晶』を用いる。
この『不融氷晶』とは、簡単に言えば『溶けない氷』だ。
見た目だけなら『曇り硝子』のそれに似ているだろうか。普通の氷に較べると、触れてもあまり冷たくない特殊な氷で、そして文字通り絶対に溶けない。
レビンの話によれば、『不融氷晶』で作った氷板の上で焚き火をしても『全く溶けない』らしい。もし日本に存在していたなら、物理法則に全力で喧嘩を売ること間違いなしの特殊な素材だ。
古代種の氷竜を親を持つレビンは、この特殊な氷を簡単に、そして無尽蔵に作り出すことができる。なので骨組を包み込むように製氷して貰い、これをそのまま壁体として利用する。
『不融氷晶』はそれ自体が熱を全く通さないので、これを『氷室』を覆う壁材として用いれば、それだけで断熱は完璧と言っていい。
けれども『不融氷晶』は、あくまでも『溶けない』というだけであり、素材強度自体は普通の氷と同程度しかない。また普通の氷と同じで、体積の割にかなりの重量があるため、この素材単体で建造物を組むというのは難しい。
古代樹の下にあるレビンの家が、まるで『小屋』のように小さな建物であるのはそのためだ。あの家は『不融氷晶』だけで作っているので、あれ以上建物のサイズを大きくすると、自重に耐えきれず家屋が自壊してしまうのだ。
今回はその脆さを、頑丈なポニカの木材で作った骨組で支える。
『不融氷晶』は溶けないので、それ自体から水分が出ることがない。木材は水分を吸えば容易く腐食するが、それを上手く回避できれば、経年には強い。
『不融氷晶』で包み込む形で保護されるポニカの木材は、【伐採】直後の乾燥状態が完璧に維持され、長い期間に渡って充分な強度を発揮し続けるだろう。
床面もまた『不融氷晶』で覆う。
これで床一面と壁四面が、完全に断熱された空間となった。
あとは天井を被せれば『氷室』の出来上がりとなるが―――その前に木材を組み上げて作成した、即席の階段梯子を室内空間の一角に設置する。
建物の半分以上が地下に埋まる構造なので、必然的に出入り口は天井部となる。建物の外に階段を設けても良いのだけれど、その場合は雨天時に雨水などが階段に溜まってしまうので、やはり階段梯子を室内に設けるほうがスマートだろう。
建物天井の小屋組は、空間上部を横に通した何本かの敷桁を平面トラスに組んで強度を持たせる、海外の木造建物によく見られる構造にした。
棟木から垂木を渡し、建物の出入り口とする部分を除いた全体に、木板を並べて貼り付けていく。
木板に厚さ1cm程度の『不融氷晶』を貼り付けて、更にその上から薄い木板を重ねる。間に『不融氷晶』を挟むのは、もちろん断熱の為だ。
最後にアルバーグの樹皮で屋根全体を葺いたら出来上がりだ。
「凄イナ……。マサカ本当ニ、コノ短時間デ作ッテシマウトハ」
僅かに灰がかった色味の肌をしたオークが、完成した『氷室』を眺めながらそう感嘆の言葉を漏らした。
いまナギ達がいるのは『竜の揺籃地』の中に三箇所あるらしい、オークの人達が住んでいる集落のひとつだ。
感嘆の声を漏らした、ちょっと変わった容貌をしたオークは『エルギス』という名前で、〈鑑定〉の情報によると『オーク・リーダー』であるらしい。
三箇所あるオークの集落には、それぞれ一人ずつ『オーク・リーダー』がいる。いまナギ達がいる集落の長が、このエルギスなのだ。
「気に入って頂けたら嬉しいです。他の二つの集落にも既に作っていますので、便利に使ってやって下さい」
「アア、ソレニツイテハ『ボードン』ト『ゲッダ』カラ聞イテイル。マサカ俺達ノ家ヨリモ立派ナ建物ヲ、タッタ一日デ三軒モ建テルトハ……。大シタ奴ダ」
エルギスが名前を挙げた『ボードン』と『ゲッダ』は、もう二つあるオークの集落の代表を務める『オーク・リーダー』の名前だ。
ナギ達は午前中のうちに『ボードン』の集落に、午後には『ゲッダ』の集落に、それぞれ『氷室』を建てている。ナギ達がいま完成させたのは三軒目の『氷室』であり、空はもう夕焼けの模様になっていた。
できれば今日の内に、エルフの廃村後も巡ってみたいと思っていたのだけれど。流石にスケジュールに無理があったようだ。
「お姉さま。氷を入れ終わりましたわ」
「ありがとうございます、レビン」
ひょこっと氷室の出入り口から顔を出したレビンの言葉に、ナギは頷く。
内部は狭くて断熱された空間なので、氷を入れさえすればそれほど時間を置かずに、充分な冷蔵効果を発揮することだろう。
「エルギスさん。是非中に入ってみて下さい」
「判ッタ」
そう促したあと、エルギスに続いてナギもまた建物の中へと入る。
室内の壁際にはレビンが作ってくれた角柱形の氷が積み上げられていた。沢山の氷に冷却された内部空間は、既に軽く肌寒く感じる室温になっている。
「……マルデ真冬ノヨウダ。コノ中ニ入レテオケバ、生魚モ日持チスルノカ?」
「5日ぐらいまででしたら、大丈夫だと思います」
レビンが夕食に捕ってきてくれたことがあるから知っているのだけれど。川魚の品質値は大体『60~80』ぐらいで、この数値は毎日『20』ほど減少する。
氷室に入れて冷蔵保存しておくと、この品質の自然劣化を5割から7割ぐらい軽減できるので、減少量は大体『6~10』程度になる。
食品に毒が含まれる場合は流石に別だけれど。そうでない限りは原則として、品質が正の値を取っている間は、食品を安全に食べることができる。
なので5日目ぐらいまでなら、まず大丈夫と考えて間違い無いだろう。
「十分ダ。ソレダケ持ツナラ、集落ニ住ム女子供ガ、不自由ナク食ベラレル」
「果物とお酒も沢山置いていきますから、是非食べて下さいね」
そう告げてナギは〈氷室ボックス〉から大量のポニカの実を取り出し、予め作成しておいた木製ケースの中へと詰め込んで、氷室の中へ積み上げた。
同じく酒樽も50樽ほど取り出して、氷室の中に積み上げておく。
他の2箇所の集落に作った氷室にもそれぞれ50樽ずつ寄贈したので、酒樽は全部で150樽にもなる。『竜の揺籃地』に棲むオークの総数はかなり多いみたいだけれど、これだけあれば全員にそれなりの量が行き渡るのでは無いだろうか。
「何カラ何マデ世話ニナル……。何カ、俺達ニシテ欲シイコトハ無イノカ?」
「エルフの件だけは確実にお願いします。それ以外には特に無いですね」
「ソレハ判ッテイル。俺達ハ今後、エルフヲ見カケテモ絶対ニ攻撃シナイ。モシ向コウカラ攻撃サレタ場合デモ、可能ナ限リ反撃セズ逃ゲルト約束シヨウ」
「ありがとうございます、とても助かります」
ナギが頭を下げると、エルギスは憮然とした表情で「ヤメテクレ」と応えた。
「礼ヲ言ウノハ、ドウ考エテモコチラダ。何カ……何カ俺達ニ、シテ欲シイト思ウコトハ無イノカ? モシ、ナギガ望ムノナラ―――」
そこまで告げた後に、エルギスは一呼吸置いてから。
「俺達ノ手デ『ロズティア』ヲ落トシテ。ナギニ渡シテモ良イノダゾ」
静かな声で、淡々とナギに向かってそう告げた。
流石に内容が予想外すぎたものだから、その言葉にナギは度肝を抜かれる。
オークは『Bランク』の掃討者がパーティを組んでようやく狩れるような魔物なので、当然かなりの強さを持っている。
『竜の揺籃地』に棲むオークが一斉に向かえば、立派な城壁を誇るロズティアの都市だって、実際に落とせてしまいそうだから怖い。
「やめて下さい。僕はあの街が、結構気に入ってるんです」
「気ニ入ッテイルナラ、自分ノモノニスレバ良イダロウニ。欲ノナイ奴ダ」
そう口にしたエルギスの言葉に、ナギは思わず苦笑してしまった。
欲とか、そういう問題じゃないんだけれど。なかなか説明が難しい。
-
お読み下さりありがとうございました。
[memo]------------------------------------------------------
ナギ - Lv.6→9 /掃討者[F]
〔調停者〕
〈採取生活〉3→4、〈素材感知/植物〉2、〈繁茂〉1
〈収納ボックス〉4→5、〈氷室ボックス〉1→2
〈鑑定〉1→2、〈非戦〉3→4
【浄化】1→2、【伐採】2→4
〈植物採取〉4、〈健脚〉1→2、〈気配察知〉2→3、〈錬金術〉1
5,227,812 gita
------------------------------------------------------------




