34. お徳用詰め合わせ
[6]
レビンと手を繋いで歩きながら、ナギはもう一種類の樹木を【伐採】する。
『ポニカ』という木で、レビンの話によるとこの樹木は、小さな甘い果実を通年実らせるらしい。甘い物を口にしたくなったときはよく探して実を食べるのだと、レビンは嬉しそうに語ってくれた。
「なかなか美味しいのですが。枝ごとに小粒な実がまばらに生りますから、お腹に溜まるぐらい摘み取ろうとすると、ちょっと大変なのですけれどね」
森に長く住んでいたレビンは、そんな情報も語り聞かせてくれる。
となれば、やはり【伐採】するのがお手軽で良いだろう。ナギの【伐採】は木材だけでなく、その樹木から得られる有価値な素材は全て手に入れることができる。
この魔法なら摘み取るのが大変な果実も、纏めて収穫できるはずだ。
「―――【伐採】」
歩いている最中に見かけた、さくらんぼに似た小さな赤い果実を幾つも実らせている樹木に。早速ナギは【伐採】を試みる。
+--------------------------------------------------------------------------------+
-> ナギは『ポニカの木材』を『1個』採取。
-> ナギは『ポニカの実』を『224個』採取。
-> ナギは『ポニカの樹脂』を『110個』採取。
-> ナギの〈収納ボックス〉スキルが『Rank.4』にアップ!
-> ナギの【伐採】スキルが『Rank.2』にアップ!
-> ナギは経験値『1,005』を獲得。
+--------------------------------------------------------------------------------+
すると思惑通り『224個』もの大量の果実を収穫することができた。
エコーがナギの視界に表示してくれている行動記録のウィンドウによると、アルバーグを【伐採】した時とは違い、今回は『樹皮』は得られなかったようだ。
【伐採】は樹木の中で『素材として価値がある部分』だけを纏めて採取する魔法なので、ポニカの樹皮には有意な価値が認められなかったということだろう。
+--------------------------------------------------------------------------------+
□ポニカの木材/品質[80]
【カテゴリ】:木材
【流通相場】:7,900 gita
【品質劣化】:なし
針葉樹ポニカを伐採して製材したもの。
適度な硬さと粘りを持ち、経年にも強く建材や家具材に適する。
特にエルフがよく用いる木材で、彼らはポニカを好んで植栽する。
-
□ポニカの実(224個)/品質[90]
【カテゴリ】:食材
【流通相場】:16 gita
【品質劣化】:-0.6/日
針葉樹ポニカから季節を問わず収穫できる小さな果実。
樹木全体でまばらに結実するため収穫にはなかなか苦労するが
口にしたときの清涼な甘さはその疲れを癒してくれるという。
錬金術師が加工することで低級の生命霊薬となる。
-
□ポニカの樹脂(110個)/品質[91]
【カテゴリ】:樹脂
【流通相場】:0 gita
【品質劣化】:なし
針葉樹ポニカから採取した樹脂。
仄かな甘味を持つ透明な液体で、そのまま飲むことができる。
煮詰めると甘味が濃縮され、琥珀色の風味豊かなシロップとなる。
+--------------------------------------------------------------------------------+
〈鑑定〉が教えてくれる情報によると、ポニカの木材は建築や家具の材料として利用するのに適しているらしい。
ホームセンターでDIY用として売られている類の木材ということだろうか。生憎とそちらの方面の知識をナギは持ち合わせていないけれど……針葉樹で建築に利用しやすい木材というと、なんとなくヒノキのイメージがある。
「どうぞ」
「ありがとうございます、お姉さま」
【伐採】で得た果実のうち10粒ぐらいを手渡すと、レビンが嬉しそうににこりと微笑んで受け取った。
どんな味なのか気になるので、ナギも1粒取り出して口に放り込んでみる。
「ああ―――これは甘い。想像していたよりも、だいぶ甘いです」
さくらんぼのように、甘味と酸味が混じり合った味わいをナギは想像していたのだけれど。ポニカの実はストレートに『甘味』を詰め込んだような、混じり気のない味わいをしていた。
お店で売られているケーキの上には、よくドレンチェリーという砂糖漬けにしたさくらんぼが乗っていたりするけれど。あの味にもちょっと近い気がする。
それぐらい、なんというか『果物』というよりも『デザート』だと意識させられるような、そんな甘さの果実だった。
「わたくしはこれが好物なのですが、わざわざ木登りして一粒ずつ摘み取るのはなかなか大変でしたので……。ふふ、お姉さまが一緒に居て下さると簡単に沢山手に入るのですから、お得ですわね」
「じゃあ沢山収穫しておかないとですね。レビンが食べたくなった時に、いつでも出せるように」
「嬉しいですが、ちょっと困ってしまいますね。お姉さまはポニカの実のように、わたくしをちょっと甘やかせすぎだと思いますわ」
「そんなことはないと思いますけれど……」
ナギはそう抗議するが、レビンはくすくすと嬉しそうに微笑むばかりだ。
ちなみにアルバーグを【伐採】した時と同じように、ポニカの時にも『樹脂』が素材として手に入っているようだ。
説明文によると『そのまま飲める液体』とのことらしいので、『樹脂』というよりは『樹液』といった方がイメージに近いだろうか。試しに味わってみたい気もするけれど、何か容器を用意してからの方が良さそうにも思う。
『煮詰めると琥珀色のシロップができる』という説明文からは、なんとなく頭の中に『メープルシロップ』のようなものが想像された。
メープルシロップはカエデの樹液を煮詰めた物だけれど。あれも、採取した時点のカエデの樹液は『無色透明』な色をしていると、何かの本で読んだことがある。
確か、煮詰める過程で琥珀色になるのだっただろうか。だとするなら、ポニカのこれも似たようなものかもしれない。
(木材はヒノキで、果実はさくらんぼより甘く、樹液はカエデ……)
得られた素材の特徴をこうして並べて考えてみると。なんだかポニカの樹木が、色んな木からいいとこ取りしすぎて、『お徳用詰め合わせ』みたいになった樹木であるようにも思えてくるが。
何にしても得られる素材の需要が高そうなのは、ナギとしては嬉しい所だ。
+--------------------------------------------------------------------------------+
◆レベルが『5』にアップしました!◆
------------------------------------------------------------------
ナギ/古代吸血種
〈採取家〉- Lv.4 → 5 (EXP: 528 / 5000)
生命力: 526→567
魔力: 1170→1260
[筋力] 136→147 [強靱] 195→210 [敏捷] 175→189
[知恵] 624→672 [魅力] 546→588 [加護] 35
-
新規修得スキル → 〈氷室ボックス〉Rank.1 - 採取家スキル
異空間にアイテムを5種類まで収納することができる。
また、本来の収納枠とは別に氷を『貯氷』しておくことができる。
貯氷している氷は時間経過により徐々に量が目減りしてしまうが、
代わりに他の収納アイテムを冷蔵し、品質の自然劣化を軽減する。
スキルランクが上がると収納枠が拡大される。
+--------------------------------------------------------------------------------+
ポニカの木をもう1本【伐採】したところで、ナギの身体が光に包まれる。
流石にレベルアップも4度目ともなると、あまり演出に驚かなくなってきた。
ナギの視界に表示されたレベルアップのウィンドウを確認してみると、能力値の成長量はこれまでと同程度であるようだ。
魔力の最大値が『1260』に増えたので、これからは1日に12本までの【伐採】することができそうだ。
ちなみにレベルアップした時点で、ナギの魔力は最大値まで全快していた。
……ポニカの木を【伐採】すると経験値が『1000点』は得られるので、追加であと5本ほど【伐採】すれば、またレベルが上がりそうな気がする。
なんというか、本当に。やろうと思えば今すぐにでも、もう何レベルか上げられるのではないだろうか。
あんまり一気にレベルを上げると、レベルアップのウィンドウを確認するときの楽しみが失われてしまいそうな気がするから。何かの必要に迫られない限り、そうするつもりは無いけれど。
新しく修得したスキルは〈氷室ボックス〉。
効果は〈収納ボックス〉とよく似ているようだけれど、特徴的なのは『氷を入れておくことで冷蔵効果を発揮』するということだろう。
要は氷を入れておけば、ボックス全体をまるまる『冷蔵庫』にできてしまうらしい。収納しているアイテムの品質値低下を抑えられるそうなので、以前採取したことがある『トモロベリー』のように、品質劣化が激しい食材などを入れておくのに最適だろう。
ただ―――問題は、冷蔵効果を得るためには『氷が必要』ということだ。
今日は露店市を見て回ったりもしたけれど、どの露店にも『氷』なんてものは売られていなかった。やはり簡単に手に入る物ではないのだろう。
魔法使いであれば、氷の魔法で『製氷』できたりするのかもしれないが、生憎とナギが行使できるのは『採取』に関わりある魔法だけだ。
纏まった量の氷を手に入れたいと思うなら、やはり冬になるのを待つしかないだろうか。本来『氷室』とはそういうものなので、それが正解なのかもしれない。
「お姉さま、今回は一体どのようなスキルを覚えられたのですか?」
レベルアップの際には身体が一瞬『光り輝く』ので、そのことは隣を歩くレビンにもすぐに伝わる。だからレビンは嬉しそうに、ナギにそう問いかけてきた。
もちろん隠すようなことではないので、ナギが〈氷室ボックス〉についてレビンに説明すると。レビンは「まあ!」と一度驚いてみせたあと、それからくすくすと可笑しそうに笑みを零してみせた。
「うふふ……。お姉さま、お忘れかもしれませんが、わたくしは水龍スターニアと氷竜リントブルムの間に生まれた、水と氷の力を併せ持つ竜人種。お姉さまがお望みでしたら、氷なんて幾らでも簡単に作ってみせますわ」
―――そういえばそうだった。
早速レビンにお願いして作って貰った氷を、片っ端から〈氷室ボックス〉の中へ格納していく。
10分ほど掛けてかなりの量の氷を詰め込むと、スキルの所持者であるナギには、いま入っている氷でボックスの中を『6年間』ほど『2℃』ぐらいの室温に保てることが、なんとなく感覚的に理解できた。
性能が高めの冷蔵庫ぐらいの室温ということだろう。ちょうど食品や飲料を凍らせずに保存できる温度なので、とても便利に活用できそうだ。
早速〈収納ボックス〉に入っている『ポニカの実』を、全部〈氷室ボックス〉へ移動させておく。
もちろん品質劣化を防ぐ目的もあるのだけれど。それ以上に、―――しっかりと冷やしたポニカの実はきっと美味しいだろなと、そう思ったから。
-
お読み下さりありがとうございました。
[memo]------------------------------------------------------
ナギ - Lv.4→5 /掃討者[F]
〈採取生活〉3、〈素材感知/植物〉2、〈繁茂〉1
〈収納ボックス〉3→4、〈氷室ボックス〉0→1
〈鑑定〉1、〈非戦〉2
【浄化】1、【伐採】1→2
〈植物採取〉4、〈健脚〉1、〈気配察知〉2、〈錬金術〉1
5,113,312 gita
------------------------------------------------------------




