33.　【伐採】

　

　　　　　[5]

　ロズティアから西南西に向かって40分ほど歩くと、ようやく『竜の揺籃地(ようらんち)』の森が見えてきた。

　ここから更に20分ほど歩けば、昨日ナギを背に乗せたレビンが着陸した、森の中を流れる小川へ辿り着く筈だ。そこまで歩いたなら、あとは竜に姿を変えたレビンの背に乗せて貰い、古代樹の下までひとっ飛びだ。

「レビン。ここからは手を繋いでいても構いませんか？」

「えっ!?　も、もちろん大歓迎ですが。どうされたのですか、お姉さま」

「この先はオークといつ遭遇するか判りませんから」

　オーク相手に交渉したいと考えているのだから、間違ってもオークと戦闘状態になるような事態は避けなければならない。

　その為にはナギだけでなく、一緒にいるレビンにも〈非戦〉スキルの効果を適用しておくほうが賢明だろう。

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　〈非戦〉Rank.2　- 採取家スキル

　　　左右の手に武器を持っていない場合、絶対に攻撃されない。

　　　周囲1m以内にいる武器を持たない仲間にも効果が適用される。

　　　スキルランクが上がると仲間への効果範囲が拡大される。

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　〈非戦〉はスキルランクが『2』に上がった際に、『周囲1m』以内にいる『武器を持たない仲間』にも効果が適用されるようになっている。

　この二つの条件を守りさえすれば、レビンがオークに襲われることは無い筈だ。

「判りました。ではわたくし、決してお姉さまの手を離したり致しません！」

「ごめんね。ちょっと不自由かもしれないけれど」

「こんな不自由なら大歓迎ですわ！」

　満面の笑みを浮かべながら、レビンがそう快諾してくれた。

　レビンみたいに可愛らしい女の子が。手を繋ぐのを嫌がるどころか、逆にとても喜んでくれるというのは。男であるナギからすると、正直かなり嬉しい。

　……まあ、単に身体がレビンと同性のものになっているお陰で、抵抗感を覚えないでいてくれるだけのような気もするけれど。

「手を繋いでのお散歩というのも、良いものですね」

　林冠を抜ける木洩れ日を浴びながら、上機嫌のレビンがそう口にする。

　のんびりと歩く森林浴の散歩は、実際かなり心地良い。

　とはいえ、ひとつだけ問題もあって。手を繋いでいると片手が使えないので、どうしても採取は少しやりづらくなってしまう。

　今日〈収納ボックス〉のスキルランクが上がって、収納枠に余裕ができたこともあって。果物などを少し採取しておきたい気持ちもあるのだけれど。……なかなか難しい。

「そういえば、お姉さま。【伐採】を試してみてはいかがですか？」

「あっ。そうでした、すっかり忘れてました」

　【伐採】の魔法を使うだけなら片手でもできる。

　まさに今試してみるのが、ちょうど良さそうだ。

「―――【伐採(アンペル)】」

　伐採したい樹木の幹に空いている左手の手のひらを宛がい、心の中で強く意志を定めながら、魔法を行使するための魔力語(ネシエント)をつぶやく。

　すると、ナギが触れていた何かの樹木は、淡い紫色の光を放ちながら簡単に消滅してしまう。そして樹木があった場所の根本に、切り株だけがぽつんと残された。

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　->　ナギは『アルバーグの木材』を『1個』採取。

　->　ナギは『アルバーグの樹皮』を『1個』採取。

　->　ナギは『アルバーグの樹脂』を『60個』採取。

　->　ナギの〈採取生活〉スキルが『Rank.3』にアップ！

　->　ナギは経験値『186』を獲得。

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　視界の端に表示させている行動記録(アクションログ)を示すウィンドウに、【伐採】の結果が一気に表示される。

　真っ先に驚かされたのは【伐採】でも経験値が手に入るということだ。手作業で植物から素材を得た時にだけしか経験値は得られないと思っていたので、これは嬉しい誤算だ。

　しかも、その『採取で経験値を得る』効果のスキルである〈採取生活〉が『3』へ成長したため、素材ひとつにつき『3点』の経験値が手に入っている。

　【伐採】1回で『186点』もの経験値が一度に手に入るというのは、かなり美味しいのではないだろうか。

　現在のナギの経験値は『303/3200』なので、次の『5』レベルへ成長するには、あと『2897点』もの経験値が必要となるのだが。1回の【伐採】でこんなに経験値が入るのであれば、あと16回も【伐採】すればレベルが上がりそうだ。

　とはいえ【伐採】の魔法は、行使するのに魔力を『100』も消費する。

　ナギの現在の魔力は『1070/1170』なので、【伐採】をあと10回も行使したなら、魔力が自然回復するのを待たなければならないが。

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　□アルバーグの木材／品質[74]

　　　【カテゴリ】：木材

　　　【流通相場】：4,000 gita

　　　【品質劣化】：なし

　　　針葉樹アルバーグを伐採して製材したもの。

　　　柔らかい木材であるため建材や家具材としては不向きだが、

　　　火付きに優れており薪炭材として利用するのに適している。

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　□アルバーグの樹皮／品質[90]

　　　【カテゴリ】：木材|（樹皮）

　　　【流通相場】：710 gita

　　　【品質劣化】：-0.2/日

　　　針葉樹アルバーグの樹皮を剥ぎ取ったもの。

　　　経年で崩れやすくなるため利用価値は低いが、水をよくはじく。

　　　組成を壊さず丁寧に剥いだ樹皮を屋根を葺く目的で利用したり、

　　　粉砕したのちに圧縮成形すればコルクとして利用できなくもない。

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　□アルバーグの樹脂(60個)／品質[91]

　　　【カテゴリ】：樹脂

　　　【流通相場】：180 gita

　　　【品質劣化】：なし

　　　針葉樹アルバーグから採取した樹脂。

　　　錬金術師が精製することでランプの燃料に適した油になる。

　　　また、塗料に粘性を加える目的で顔料と混ぜ合わせることもある。

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　【伐採】で獲得した素材はアルバーグの木材と樹皮、そして樹脂の３つ。

　樹皮や樹脂なんて一体何に使うのだ、と行動記録(アクションログ)を眺めながら思ってしまったりもしたけれど。それぞれの素材を〈鑑定〉で覗いてみると、その利用法についても書かれていた。

　樹皮はともかく、樹脂のほうは照明用の油になるのであれば、それなりに需要もありそうに思える。植物樹脂が油になるというのは、正直いまいちピンと来ないけれど……松脂(まつやに)で蝋燭を作るようなものだろうか。

　あと『コルク』って、日本に住んでいた頃には何から作られているのかなんて、考えたことも無かったけれど。もしかして樹皮から作るものなのだろうか。

（インターネット百科事典にアクセスできるスキルとか欲しい……）

　今となっては調べる手段もないだけに、そう思いながらナギは嘆息を漏らす。

　残念ながら〈採取家(ピッカー)〉の天職(アムル)とは全く関連性が無さそうなので、そういうスキルが得られる機会など永遠に無いだろうけれど。

《魔法行使時に木材のサイズの指定を行わなかったため、樹木を枝払いして表皮を削った木材が、そのまま１本分丸ごと回収されたようです》

　回収された素材を確認してくれたらしく、エコーがそう教えてくれた。

　【伐採】の魔法は行使する際に、木材の『サイズ』と『乾燥状態』を指定することができる。樹木のサイズから造材可能な範囲内であれば、薄い板材を作るのも、細長い柱材を作るのも簡単にできるようだ。

　今回の『アルバーグの木材』であれば薪炭材……つまり『薪(たきぎ)』としての利用に適しているようなので、サイズは長さ30cmぐらいの薪割り形状に、乾燥状態はやや強めにしておくのが良さそうだ。

　本来であれば薪として用いるためには、木を充分寝かせなければならないのだろうけれど。魔法で一気に乾燥までやってくれるというのが有難い。

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　->　ナギは『アルバーグの木材』を『415個』採取。

　->　ナギは『アルバーグの樹脂』を『58個』採取。

　->　ナギの〈植物採取〉スキルが『Rank.4』にアップ！

　->　ナギは経験値『1,419』を獲得。

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　試しにすぐ隣の同じ木を【伐採】してみると、今度は〈植物採取〉のスキルランクが『4』にアップした。

　【伐採】は一気に大量の素材が〈収納ボックス〉に獲得されるせいか、採取系のスキルが面白いぐらいに上がるようだ。

　今回は『木材』と『樹脂』だけで、『樹皮』の素材が手に入らなかったようだけれど。これはおそらく伐採時に『薪割り形状』を指定したせいで、樹皮の部分も薪のほうに含まれてしまったのだろう。

（……け、経験値が凄いことに）

　木材を小さめの『薪サイズ』に指定したせいで、素材の獲得個数が大幅に増えて。その結果、獲得される経験値の量が激増してしまっている。

　上げようと思えば、レベルなんて簡単に上がりそうな気がしてきた。